ラリアットされたら患者に容赦ない病院がある異世界に飛ばされました。
ブラジルの人きこえますかー!
目覚ましの音と同時に目が覚めた。
6時半にセットしているから、外はまだ少し暗い。
俺は眠い目をしたままベッドから重い身を起こし、洗面台に向かった。
洗面台で顔を洗って、ひげを剃った。
ベッドのある部屋に戻ると昨日の夜に読んでいた雑誌が散らばっていた。
『釣り日和』
『バイカー』
『バイク旅』
どれもこれも、自分の趣味の雑誌だ。
これを読んで、休日に何をするか決める。
平日、寝る前に訪れる幸せなひと時だ。
俺は散らかった本を拾って本棚に片づけた。
今週の土曜日。つまり、明日。
俺は大学時代の友達とバイク旅をする予定だ。
行く場所はいつもの岬。
都会の喧騒とはかけ離れた静かなところ。
今日がんばれば、明日は天国だ。
いつもの岬の景色を想像しながら朝食にパンを焼いた。
少し焼けたらバターを塗ってもう少し焼く。
最初にお茶を一口飲んでからパンを食べる。
スーツに腕を通して、歯を磨いた。
持っていく書類を確認し、家をでた。
電車に揺られて、上司に頭を下げる夢を見た。
いやな夢に目が覚めた。
俺は電車から降りて改札口に向かった。
後ろから誰かの悲鳴が聞こえてきた。
「きゃーーーーーーーーーーーーー」
俺は咄嗟に振り向いたが、同時にラリアットされた。
頭が鈍く響き、目の前が暗くなった。
「んんん・・・」
俺は目を覚ました。
最初に視界に入ったのは知らない天井だった。
「ここは・・・病院?」
呼吸器を装着しており、とても息苦しかった。
四肢にはたくさんの管が付いていた。
「きゃーーーーーーーーーーー」
嫌な悲鳴が聞こえてきた。
看護師のようだった。
「目が覚めたんですか。死にかけみたいなのに・・・」
俺は苦しいながらも答えた。
「え。ええぇ」
死にかけって言われた。少し傷つく。
そんなに事態は軽くないみたいだ。
「喋らないでください。鼻がつぶれてるんで」
は?それはやばい。やばいって。こわいって。
「ご自分のお顔を確認されますか?多分、ショックで気絶されると思いますけど」
そんなに!?え?
ラリアットそんなにやばかったの?
看護師から見せられた鏡に映った自分の顔を見て驚いた。
そこに映っていたのはいつも通りのブサイク顔だったのだ。
ラリアットの跡は、ちょっと鼻のあたりが赤くなってるだけだった。
俺は入社して5年、あだ名はブルドッグ。
生まれて27年。彼女がいたことはない。
ブサイクなんて知ってたことだからどうでもいい。
だけど、病院でいわれる筋合いはないだろ。
まして、患者だぞ。言わんだろ。
てか、この大量の管に、呼吸器なんなんだよ。
顔も普通だし。退院させろ。
「1日ほど気を失っておられましたよ」
やっと、看護師が看護師らしいことを言い始めた。
「体には何も問題はなく、脳震盪だったようです」
そうだったんだ。よかった。
「あ、口が臭かったので、呼吸器つけてます。すいません」
呼吸器ぶんどって、投げつけるぞ。
鼻息が荒くなって呼吸器が結露した。
「この管は足りない栄養を補うためにつけさせていただきました」
栄養?薬じゃないの?
「ここだけの話、主治医が管をつけまくってみかったんだよねとかいってました」
それは大問題だ。俺の血管に何を流し込んでるんだ。
「ちゃんと歯磨きしてます?」
してるわ。唐突に口臭に話をもどすな。
「歯磨き粉がちょっとだけ点滴に入ってるみたいなんですけど・・・」
こえええよ。ここで死ぬわ。殺されるわ。
「主治医は『ちゃんと歯を磨けよ。達者でな』とか言ってました」
俺、どっか逝っちゃうよ。主治医、あたまいってるよ。
「そういえば、お友達がお見舞いに来てますよ」
今日、一緒にバイクツーリングする予定だった大学時代の友達かな。
「主治医が捕まえてきたダンゴムシのダンちゃんでーす」
「ああああああああああああああああああああああああああああ」
俺は耐えかねて叫び声をあげた。
その叫び声は地球の大気を揺らし、観測史上初の現象を世界各地で発生させた。
この現象は「ahhhhhhh現象」と呼ばれ、気象兵器の原理に応用されている。
世界各国で開発が進んでいるが人類にとって禁忌の兵器と言われており、開発には様々な問題が伴う。
俺はその後、退院した。
今日も会社に向かう。
ラリアットを避けながら。
力尽きました。