8話「賢者出撃」
「ミーニャ達は?」
メリッサが短くそう入ってきたサキュバスに答えた。
「隊長含め、応戦していますが……数が……桁違いです。やられはしませんが、いずれ突破されます」
メリッサが視線をリシアへと向けた。まるで厄介者を見るような目付きだ。
まあ、そうだよね。どう考えても彼女が原因だろう。
もしくは——俺?
俺なんかやっちゃいました? やってるな。思いっきりあの黒鎧に敵対しちゃったよ。
「……十中八九私狙いだろうな。コーン卿め……それほどの兵力を……」
「村人全員に、戦闘準備と伝えなさい。魔蒸兵ならば、必ずそれを操る魔術師がいるはず」
リシアがブツブツと何か呟いており、メリッサが素早く指示を出している。
村人全員? さっきの戦士団以外も戦えるの?
『サキュバスは元々魔術と体術に優れた種族ですよ? それに武器を使った戦闘法を先代賢者が教えてからは戦闘力は飛躍的に上昇しました。まあそれも森に出る魔物を狩るぐらいにしか使われなかったんですけど』
そうなのか……というか先代はまとまな事教えてるじゃないか。
『戦闘性奴隷として村の子達を人間に売ろうとしたので、帰っていただきました』
前言撤回だ。ろくでもねえなほんと……。
ん? 帰っていただいた?
あれ、もしかして俺も日本に帰れ——
『地獄へと』
……俺はそういう事はしないでおこう。
「魔力視が出来る者がいれば魔蒸兵を操る魔術師も見付けられる。誰かいるか?」
リシアは責任は感じているようで、そう助言をしてくれた。どうやら協力してくれるようだ。
「あいにく、私達は魔術については精霊魔術しか知らないわ」
「魔力視ってなんだ?」
知らない単語ばっかりで困るよ!
「魔力は本来視認出来ない物なのですが、目を魔力で強化する、もしくはそういった魔眼を持っていれば見る事ができるようになります。それで魔蒸兵を操る魔術を視認し、辿っていけば……」
「なるほど、操り人形の糸の先には操り主がいると」
で? リリスさん、俺に出来るの?
『余裕ですよ』
おっけ。ならまあ仕方ない。義を見てせざるは勇なきなり。彼女達に恩を売っておくのは悪くない。
「それ、魔力視? だっけ? 俺出来るから、手伝うよ。メリッサには世話になっているし」
「テンガ様。村に帰ってきていただいて早々で非常に心苦しいのですが……助かります」
「うっし、じゃあ行くか。リシアは……お留守ば——」
「私も行く。これは私の問題だ……だからあの……剣」
リシアがなんだかモジモジして、言おうか言わまいか迷ったような表情を浮かべている。
そんな事はつゆ知らずメリッサが判断を待っていたサキュバスへと声を掛けた。
「ではテンガ様と私とリシアで、魔術師を狩る。貴女達は奴等を一歩も村に入れない事。そして一匹たりとも無事で帰さない事」
「はっ!」
再び窓から出て行くサキュバスちゃん。ここ、のんびりしてるように見えたけど結構軍国主義?
「では行きましょうかテンガ様」
「任せろ……と言いたいところだが、服は……いいかこれで」
バスローブ姿は格好がつかないが、まあ今更だ。
「私……これでいくの?……動きやすいからいいけど……」
頬を赤らめながらリシアが自分の格好を改めて見下ろしている。
「申し訳ございません。まだテンガ様用の服は用意できていなくて……貴女は文句言わないの」
「構わん。あと、リシアにはあの剣を返してあげてくれ。あれ、大事なもんなんだろ?」
俺がそう言うと、リシアがなぜそれを知っている! みたいな表情を浮かべた。
さっきからそわそわ何かを探しているのがバレバレだっつーの。
「テンガ様がそう仰るなら……ほら」
「……その……ありがとう」
そう言ってリシアが赤面しながら顔をうつむかせた。
うんうん、可愛らしい反応でお兄さんは満足だよ。
メリッサが、戸棚にあったあの細剣を取り出して、リシアへと渡した。
「っ! おかえり……【氷獄の逆刺】」
リシアが愛おしそうにその細剣を抱き締めた。うん、名前は厳ついけど大事な物なんだろうね。
「では、行きましょうか」
というわけで、リリン村防衛——開始だ。
防衛戦開始!