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6話「帰還」


 それは——誰かの記憶。

 俺ではない誰かの残滓。


『リシアは我が子ながら美しい……力も外見も……全て』


 目の濁った男がそう言いながらこちらへと手を伸ばす。

 嫌悪感がヘドロのようにこびりついて取れない。


『もう……14か……まだ発育段階とはいえ……我を受け入れる事は……もう出来るだろう?』


 欲に塗れた声に怖気が走る。

 

『リシアは……我の物だな? そうと言え』


 自分の口が発言を拒否する。

 

 それを言ってしまったら壊れそうだから。


『なぜそのような目で我を見る! お前は……お前は! お前の身体も自由も命も魂も全て全て我の物だろ!』


 男の手が首へと伸びる。苦しい。

 痛い。

 助けて。


『何を為されているジルス様!!』


 乱入してくる男の声。


 視界が乱れる。首に込められた力が強まり、首元で赤い光が点滅する。


 やがて黒く濁った視界が赤色に染まった。


 ああ、そうか……これは……彼女の()()か。



☆☆☆



「……ンガ様……テンガ様!」


 自分を呼ぶ声でハッと目を覚ます。


 俺は、木にもたれかかって、少女を抱きかかえたままだった。


「テンガ様! 大丈夫ですか!?」

「……ああ」


 俺はそう言って手を伸ばすメリッサに、すっかり体温を取りもどしてすやすやと寝ている少女を服で包んだまま預けた。

 なぜか、夢を見る前に感じていた性欲も情欲もすっかり無くなっていた。杖は俺の横で転がっており、触れていないはずだが、妙に頭がすっきりしている。


「この子は?」


 一緒に来ていたらしいミーニャが少女へと視線を向けた。


「分からん。とりあえず助けたけど……」

「この子、うちの村の子ではないですね。耳を見る限りサキュバスの血は引いていそうですが」


 少女の耳を見てメリッサがそう答えた。やはり長耳はサキュバスの特徴らしい。


「もう大丈夫そうだけど、村に着いたら風呂にでも入れてやってくれ」

「かしこまりました。テンガ様にお怪我は?」

「俺は大丈夫だ。さっき黒い鎧に襲われたけど、もういなさそうか?」

「黒い鎧? 人間でしょうか?」

「いや、中身は空で蒸気みたいなのが入ってただけだ」

「魔蒸兵ですねそれは。ということは帝国の手がこんな近くに?」


 メリッサが表情を険しくする。どうやら帝国やら魔蒸兵やらの単語は知っているらしい。あとで教えてもらおう。

 俺は杖を拾い立ち上がって、また全裸に逆戻りだなと思っていた。


『……』


 リリスはなぜか無言だった。まあそういう事もあるんだろう。


「ミーニャ、戦士団を動かし村周辺の警戒を。私はテンガ様とこの子を連れて一旦村へと戻るわ」

「りょーかーい!」


 声を置き去りにミーニャが疾風の如く駆けていく。


「少し急ぎましょう。テンガ様が降臨されたと同時にこれだけの出来事……ただ事ではありません」

「はいよ」


 少女一人抱えているにも関わらず、軽快に進んでいくメリッサを追い掛ける。

 杖から時々なんかエネルギーみたいなサムシングを注入されるせいで、結構な距離を走っても息も上がらない。


 元々運動は苦手ではないとはいえ便利だねこれ。


 どうやら彼女達はこの霧の中でも迷わないらしく、村にすんなりと辿り着く。


 それとすれ違うように、武器と鎧の意味が果たしてあるのかと疑うようなビキニアーマーを装備した集団が村から出て行く。


「今のがこの村の戦士団【撃滅処女(ゼノービア)】です。流石に村の近くまで辿り着く輩はいないと思いますが念の為に警戒をさせます」

「なるほど。こういう事はよくある事……ではなさそうだな」

「この村は、私達の始祖リリス様のご加護と魔霧のおかげで外界からの侵略を防いでいましたが……はい、仰る通りで、こんな事はここ100年近くありませんでした……やはりディシスのせいかしら……」


 賢者の館へと入る。どうやらミーニャが気を利かせて、湯を溜めるように言付けてくれたようで既に俺の? 部屋にはお湯とハーブっぽい良い匂いが充満していた。


 メリッサが少女を木らしき物で出来たバスタブへと入れようとして、


「……はっ! しまった! 申し訳ございません! テンガ様を差し置いて私が入浴させようなどと!」


 そう言いいながら慌ててこちらへと振り向いた。ばか! 見える!


 俺は稲妻の速さで後ろを向いた。少女も寝ているとはいえ、真っ裸を見られるのは不本意だろう。


「俺の事はいいから早く入れて身体を温めて、洗ってやってくれ」

「よろしいのですか?」

「よろしいです!」

「では……」


 俺は背を向けたまま、水の跳ねる音を聞きながら先ほど見た記憶とこれからの事を考えていた。


 あれは多分……あの少女の記憶だ。なぜそれを俺が追体験したかは謎だが……あのリアルさは思い出すだけで震えるし、実際に経験した彼女の心の傷は察するに余りある。


 しかし人の心配をしている暇は俺には残念ながらない。とりあえず、いくらここがエロエロ天国とはいえ間違いなく自分は場違いだ。さっさと日本に帰りたいのが正直なところ。冷静に考えて、最高に美味しいシチュエーションであることは自覚しているが、案外離れると日本が恋しいのだ。


 とはいえ、どうも俺をここに喚んだっぽいリリスに何とか送り返してもらうしか方法が思い付かない。そしてあいつが素直にそれをしてくれるとは到底思えない。


「まさかこれをリアルに言う日がくるとは……やれやれ」


 やれやれ系と馬鹿にしていたが、実際にその状況になってみるとそれしか出てこない。


『げへへ……エロ教師と女子中学生(JC)のお風呂トゥゲザーとか最高やんけ……捗るなあ……』


 ……こいつようやく起きやがったか。というかそっち方面も行けるクチなのね。


『ちょっと力使い過ぎてしまいまして。いやあ参った参った。久々に壮大な姉妹喧嘩をしましたが、ちゃんと姉のなんたるかを拳で教えてやったのでモーマンタイですよ』


 俺はお前の頭の方が心配だよ。


「っ!! 貴様! 何者だ! 離せ! あ、そこはダメ! やっ、だめ!」

「はい、綺麗に洗いますからね。いつなんどき()()()()()()分かりませんから常に綺麗にしておくのがサキュバスの嗜みですから」

「やめ! ちょ!」


 背後からあの少女の声が聞こえてきた。どうやら身体を洗われている時に起きたようだ。


 ……まだこの世界に来て1日も経っていないにこれでは……はあ……。


 俺はそっとため息を付いた。



魔霧の森に迷い込んだ者は帰ってこない、という言い伝えが周辺の村落に伝わっているほど、森は禁忌の場所になっているとか。理由は簡単で、魔霧によって遭難し体力と魔力を吸い取られ衰弱したところを魔物に襲われる事が多い為です。基本的にサキュバス達は人間との接触を避けるように住んでいますが、敵意を持った者に関しては容赦なく攻撃を加える苛烈な一面も持っているそうです。

こわやこわや……そしてサキュバス達はなぜ魔霧が平気なのかは……本編で登場予定ですが……基本的に根性です()



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