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3話「共鳴」



「はいストーーップ! 何してるの君たち!」


 俺は光を越えた速さで背を向けながら声を張り上げた。

 何してるんだよマジで!


「え? いえ、伝承では降臨の儀式を行った者は、賢者様の身体を清めるという重要な仕事が……」

「その後、賢者様に洗ってもらうんだよー。洗いっこだね!」

「まてまてまて何そのクソみたいな伝承! 歴代賢者はあれか? アホなのか!?」

『私が考えた儀式だが?』

「やっぱりてめえか」


 この杖ろくでもないな。


『だってそうしたら高確率で性欲抱くから魔力吸い放題なのよねえ』

「ふざけんな。つうかこいつらの貞操観念はどうなってるんだ!」

『ほお……流石はテンガ様。鋭いところを突きますね。なるほど“突く”のがお得意と……げっへっへ』


 ダメだこいつ……叩き折ろう……。リリスが無駄に美少女っぽい声なのも腹立つ。言ってることほぼおっさんじゃねえか。


『彼女達の性に対する意識は……マジレスするとテンガ様のいた時代で言えば、小学校低学年の少女が父に抱くぐらいの意識ですかね?』

「やっぱりな……全然そういう感じじゃないし……」


 そう、今はリリスのおかげで賢者タイム中というのもあるが、彼女達の素はそりゃあエロいし色気も半端ないのだが、どこか純真というか、こちらを信じ切っているというか……なんだろう……おもてたサキュバス像と違う!


『彼女達……この村の住人はほぼ全員が男性経験がありません。そしてずっとこの村で生まれ育ったので……性に対する知識もありません』

「なるほど」


 とにかく、服を着ろと言ったおかげで二人は服を着てくれた。


「よし、とりあえずその伝承とやらは全て忘れていい。杖もそう言ってる」

『ええい歴史を! 伝統を踏みにじる者め!』


 うるせえ。


「本当ですか? であればそういたしますが……」

「洗いっこしないんだ……一緒にお風呂楽しいのに……」


 この二人、心からそれがエロい事に繋がるとか思ってない。メリッサなんてエロの塊みたいな見た目と格好をしているのに……。


「いいか、男にみだりに肌を見せるもんじゃない。特に乳尻太ももは危険だ、雄生命体大量破壊兵器だ」

「と言われましてもここにはテンガ様しか男はいません」

「男の人ちゃんと見るの初めて! 女? と違って変なの付いてて面白いね!」


 ……これはどうしたもんか……。いやまずい、股間を凝視されている。


「あーとりあえずなんか着る服はないか? 流石に常時全裸はまずい」

「賢者様用にですか? 歴代の賢者様はどうせ脱ぐからいらないといつも全裸で過ごさ——」

「歴代のアホ共は忘れてくれ……」


 食い気味に否定しておく。

 マジでろくな奴がいなかったんだな歴代賢者は……。


「かしこまりました。では早急に裁縫士に見繕わせます。どのような物がよろしいですか?」

「あー、男性用で動きやすければなんでもいいよ。あ、露出少ないやつな? 威厳とかあるから」

「かしこまりました。では裁縫士に依頼してきます。テンガ様はゆっくりなさってください。失礼します」


 そう言ってメリッサが去っていった。


 ミーニャが彼女に向かって手を振った後、くるりとこちらに向くと眩しいほどの笑顔をこちらに向けた。


「テンガ様! 休憩されますか? ロングコース? ショートコース?」

「よし、その言葉も忘れろ」


 俺はそう言いながら杖に力を込めた。


『痛い痛い! それ教えたのは私じゃないですって!』

「ミーニャ良く聞いてくれ。歴代の賢者が教えた事は全て忘れろ。皆にもそう伝えろ」

「? 分かりました。まあ歴代の賢者様ってもう何百年も前の人ですしね! 知識も古くなっているのかな?」

「そういう事だ! 俺が新しい知識を授けるので心配無用!」

「はい! 楽しみにしています! それでは皆に伝えてきますね!」


 そう言うと風の如く去っていったミーニャ。


『貴方……煩悩と性欲は尋常じゃないのに、妙に紳士ですね。そういう時代ですか?』

「最近は色々めんどくさいんだよ!」

『度し難い』

「俺にはお前の思考の方がよっぽど……いや理解は出来る」


 さて、しかしこの部屋に一人全裸で放置されてもだな。ベッドの横に棚とクローゼットがあったので覗くと、おお、ちゃんと男性用の服あんじゃねえか。


 そう思って着てみると。いや見たときからまあ分かってはいた。


「バスローブやんけ!」


 まあ全裸よりマシか……。いやマシなのか? 変態度増してないか?……まあいいか。


『あの二人はしばらくは帰ってこないでしょうし村を見て回っては? ついでにムラムラ悶々して魔力ください』

「俺はだんだん、実はお前が封印されている悪魔で俺を(そそのか)して自分の封印を解こうとしているんじゃないかって思い始めたよ」

『な、何のことでしょうか! ……さ、さあ村見物しましょう! イエス! サキュバスビレッジ!』


 怪しい……。


 まあここでぼーっとしてても仕方が無いのは確かだ。

 それに、俺はエロ非エロ問わずファンタジーは好きなんだ。


 部屋の奥の窓辺へと向かう。


「綺麗だな」


 頭上を覆う木々の隙間から差し込む光が村のそこかしこに降り注ぐ。村ではそれぞれがそれぞれの仕事をしていたり世間話をしていたりと平和だ。


 心が清められていく感覚。こんな光景は地球では絶対に見られない。それだけで今ここにいる価値があった。


 俺は——ノリと勢いとエロだけに生きる男だが、感性は豊かな方だ。


 そうやって眺めていると、遠くで微かに赤い光が見えた。杖の先に嵌められている宝石と似たような輝き。そしてその光に連動するように、杖が震えた。


『……これは……共鳴?』

「共鳴?」

『いや、そんなまさか……テンガ様。すぐにあの光のもとへ向かってください!』

「つっても、もう消えたぞ? 方角は分かるけど……勝手に動いていいのか?」

「かまいません! すぐに行ってください! そんな馬鹿な……このタイミングで?』


 何やら珍しく真面目っぽいリリスの雰囲気に気圧されて俺は、賢者の館を飛び出した。


「あら、こんにちは賢者様。また近々色々と教えてくださるとか。楽しみにしていますわ」

「賢者様! 尺八? を教えてくれるんだよね! 細長い楽器なんだっけ?」

「ほお……私は騎乗の仕方を教われると聞いたぞ? 一体何に乗るのだろうか。興味が尽きぬ」

「あーはいはい、また今度ね!」


 ミリーが既に村人達に俺の事を伝えてたせいか、めっちゃナチュラルに下ネタで挨拶してくるぞこの村! 


 俺は走って光の差した方へと進む。村外れ辺りから急に霧が濃くなってきた。

 森の中は濃い霧に包まれ、視界が悪い。しかし、時折あの赤い光が誘うように点滅している。


 近付くにつれ、光の点滅する間隔が(せば)まっていく。


「近い」

『気を付けてください。良からぬモノがいます』


 森の中を進むとその先はちょっとした広場になっていた。そこだけ妙に冷たい空気が溜まっており、冷気が肌を突き刺す。全裸だったら凍えているところだ。


「はあ……はあ……貴様らしつこいぞ!」


 広場には、黒い騎士が5人立っていた。


 全員が黒色のフルプレートメイルを装着していて、兜を被っているせいか、顔は見えない。鎧の隙間から蒸気が溢れており、手に持つのはこれまた黒一色のロングソードだった。


 その5人が囲んでいたのは一人の10代前半ぐらいの少女。


 腰まで届くまるで天の川のような銀髪。ゆるくカーブしているその銀髪の下には人間離れした美しい顔があった。ここに来るまでに散々綺麗だったり可愛かったりしたあの村の住人を見てきたが、それと一線を画する美しさだ。


 目が離せない。その赤い瞳が俺を惹きつけて止まないのだ。


 折れそうなほど華奢な身体にはこんな森の中では不釣り合いなドレスを着ており、そこかしこが破れて、泥と血で汚れている。


 片手に、まるでその少女をそのまま剣にしたような美しい装飾の施された細剣(レイピア)が握られており、冷気を纏っているのが見える。


 よく見れば、耳が少し長く尖っているのが見えた。彼女もサキュバスか?


「あと少し……あと少しなのに……ここで負けるわけにいかない!」


 そう呟く銀色少女の控え目な胸で揺れるのは赤い宝石の嵌まったペンダントだった。それが赤く発光し、俺の杖が震えた。


「あの子か!」

『……驚きました……とにかく詳細は後です。是が非でも彼女を助けてください!」

「あのレーザービームは使えるか!?」

『それも良いですが、他に色々と方法があります。せっかくなので実戦を通して教えます!』

「そこは救助優先でもいいのでは?」

『為せば為るです!』

「てきとうだな!」


 こうして俺はその広場へと飛び込んでいった。



 

 この瞬間から俺と銀髪の少女——リーシルヴィア・リス・アークベルク第3皇女の運命の歯車は回り始めたのだった。




森を覆う魔霧は徐々に体力と魔力を奪っていく、ゲームでいえば、溶岩ステージみたいなめんどくさいです。

サキュバス達はリリスの加護があるのでこれが効きません。つまり森の中はサキュバスにとって有利フィールドとなっています。



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