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15話「冒険者は迷わない——side【金色の杯】」


 【金色の杯】の行動は迅速だった。


「ピルス! エール!」

「あいよ!」

「分かってるって!“拘束せよ【捕縛の檻(バインド)】”」


 ラガーの声と同時にピルスが下がりながら、麻痺毒を仕込んだナイフを黒鎧へと投擲。

 エールも短杖を向け素早く詠唱し魔術を放つ。


 青い魔力光が暗い森を一瞬明るく照らし、ナイフが黒鎧に当たった軽い金属音と共に、スタウトが戦斧を大上段に構えたまま突進。


 その巨体の影に隠れるようにラガーが低い姿勢で追随。


 麻痺毒と拘束魔法による先制。

 ほとんどの者は魔法もしくは毒、どちらかにしか対策を練っておらず、両方を同時に放てばそれだけで対処を迷わす事が出来る。


 迷えばそこに隙が生じ、例えどちらも効かなかったとしても詰めてくるスタウトの一撃を受けきれる人間は少ない。仮にそれを受けきれたとしても、死角から飛び出したラガーの一撃は防げない。


 彼ら四人の対人必勝連携が黒鎧へと華麗に決まる。


「むむっ!」


 スタウトの大上段から振り下ろされた一撃が黒鎧の黒剣によって防がれた。並の武器ならへし折る攻撃を受け止めている。


「こいつはっ!」


 ラガーは瞬時に黒鎧がただの人間でないことに気付き、本来ならすぐに使わない魔器【仕込みしデュベル】の力を発動させた。


「【雷棘(サンダーソーン)】!!」


 ラガーの声と魔力光と共に、剣が雷を纏う。そのまま、雷速で放った突きが黒鎧の脇へと迫る。


「馬鹿め!」


 黒鎧へと戦斧で圧をかけていたスタウトの斧がいとも簡単に黒剣で弾かれ、そのまま突きを剣の腹で受けた。


「防御したところで雷撃は防げまい!」


 ラガーの咆吼と共に剣から雷撃が放たれ、黒鎧へと直撃する。


「っ! 二人とも下がれ!」


 ピルスの鋭い声と共にラガーとスタウトがバックステップ。


 つい先ほどまで経っていた位置に黒い剣閃が通る。


「馬鹿なっ! フルプレートメイルなのに雷撃が効いていない!?」


 雷撃を受けて、煙が上がっているものの平然とした様子で黒鎧は立っており、振り終わった剣を戻した。


「っ! ラガーこいつ……()()()よ!」


 魔力視を行ったエールが驚愕した表情を浮かべた。


「ちっ、こいつあ分が悪いぜ。なぜ帝国の魔導兵器がこんなとこに」


 舌打ちをしたピルスがナイフを仕舞う。相手が人でない以上毒は無意味だ。

 

「魔蒸兵が相手とは聞いてないぞ!」

「どうするラガー」


 困惑するラガーと油断なく戦斧を構えるスタウト。


「一体だけだ! それに、俺達は——それ用の戦術は練習済みだろ!?」


 ラガーが【仕込みしデュベル】を構え直す。


「バルディン遺跡のリビングアーマー相手にやった奴か! いいぜ援護する」

「ったく! あんたたちってほんと博打みたいな戦い好きよね!」

「俺は……やるだけだ」


 スタウトがそう言い切ると、再び黒鎧へと突進。ラガーもそれに合わせて地面を蹴った。ピルスが何やら腰のポーチから取り出す。


 エールが杖を向けて言葉を紡ぐ。


「“極点の風よ、制止する息吹よ、轟き凍てつけ!”【氷雹(アイスブリーゼ)】」


 エールの杖から巨大な氷の(つぶて)が放たれる。


「ほらよ!」


 ピルスがそれに先駆けて、何やら液体の入った瓶を投げつけた。


「フン!」


 スタウトが戦斧を振り、回避しようとする黒鎧の動きを止めた。そこへ瓶が命中。割れた瓶から緑色の粘液が散り、黒鎧が粘液まみれになった。


 黒鎧が黒剣を振るうが、その動きは先ほどと比べ精彩に欠けていた。


 そして、サイドステップして避けたスタウトのいた位置に氷の礫が飛来。

 

 黒鎧は粘つく粘液で動きが鈍くなり、避ける事が出来ずに直撃。


「もういっちょ!【氷雹】!」


 ラガーが冷気纏わせた剣を霜で凍てつく黒鎧へと振り下ろした。


 黒鎧が右手で持つ黒剣でそれを防ごうとするも、関節が凍り付いて動かずまともにその一撃を受けた。


 兜が僅かに割れ、亀裂から蒸気が噴き出した。


「よっし! スタウト!」

「任せろ!」


 スタウトの戦斧が大きく薙ぎ払われ、黒鎧が吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ先で木の幹に当たり、黒鎧が地面へと落ちた。


「やっぱり、スライム液は使えるな!」

「一応持ってきて良かったぜ」


 ピルスが投げたのは、スライムという魔物の粘液だった。それだけだと粘ついて少し動きを阻害する程度の効果しかないが、それの特性は別にあった。


 スライムの粘液は水と比べ凍りやすく、そしてその強度が段違いに上がるのだ。

 つまりこの粘液を当てて、更に水の精霊魔術である氷魔術を当てれば、いとも簡単に凍りつき、そしてガチガチに拘束してしまうのだ。


 拘束魔術も毒も効きづらい相手用に考案した連携だが、効果は抜群だった。


 否、効果だけは……良かった。


「嘘だろ……」


 ラガー達が絶句する中、兜がひしゃげ、胴体が凹んだ黒鎧が器用に左手だけで起き上がった。身体の半分以上は凍っており、動かそうにないが左手だけはまだ動くようだ。

 

 だがそれだけではない。


「っ! 有り得ない!」


 エールの声と共に、辺りを赤い魔力光が赤く紅く染めあげた。


 黒鎧の左手から赤い魔力光が溢れ、そして——爆ぜた。


「対魔術陣!」


 エール以外の3人が後ろに下がり、エールが前へと飛び出す。


 魔術を使う相手にこの距離では剣士は無力。


「“そそり立て!【大地隆壁(アースウォール)】」


 エールの素早い魔術行使によって、地面から壁が出現。


「魔蒸兵が魔術を使う? そんな話聞いたことないわ!」

「ラガー! 悪いことはいわねえ、この依頼、やっぱり怪しすぎる!」

「俺もそう思ってるよピルス! 皆、一旦離脱し——」


 ラガーは言葉を途中で止めざるを得なかった。


 なぜなら、自分たちとあの黒鎧を隔てている分厚い土の壁が真っ二つに切断されたからだ。


 バラバラと土塊に戻る壁の向こう側から、蒸気を上げている黒鎧がゆっくりと歩んできていた。その表面は熱によって赤く発光している。


「火の精霊魔術で、粘液を自分ごと燃やした……?」

「有り得ないだろ! そんな判断奴らに出来ない! 魔蒸魔術師が直接動かしているにしたって操りながら魔術行使なんて不可能だ!」


 ピルスの言う事はもっともだが、現に目の前で起きている以上は、それはそうと受け止めるしかない。

 

「お前ら、逃げろ。俺が何とか隙を作る」


 ラガーがそう言いながら【仕込みしデュベル】を構え直した。


「はん! じゃあ遠慮無く! と言いたいところだが……」

「ふん、魔術を使う魔蒸兵相手するのに魔術師無しで挑むの? それは博打ではなくてただの自殺よ」

「俺は……逃げない!」

「お前ら……! いくぞ! あいつさえ倒せば! 俺はアレを使う。援護してくれ」


 返事の代わり、各自が動く。


 黒鎧は余裕そうにラガー達の動きを伺っていた。

 

「その余裕が! 命取りだ!」

「もっかい食らっとけ!」

「“宙を走れ!【雷棘(サンダーソーン)】」

「うおおおお」


 ピルスンの投げた瓶を黒鎧は警戒して避けた。そこへ、エールの放った雷撃が襲う。


 一瞬止まった動きに合わせて、右からスタウトが、左からラガーが挟撃。


 黒鎧は黒剣でスタウトの戦斧を弾く。


「ハズレを引いたな! 【闇獄球(ダークスフィア)】!!」


 闇色に光るラガーの剣が黒鎧の脇へと直撃。その瞬間に黒い球体が出現。


 黒鎧が綺麗にその闇色の球体に触れた部分だけが消失。黒鎧の内部から蒸気が噴き出した。


「くっ!」

「ラガー! 闇魔術は魔器でもリスクは回避できないのよ!」

「痛っ……まあでも、倒せたぜ」


 闇魔術の行使でダメージを負ったラガーは剣を地面に刺し、何とか立っている状態だった

 彼は地面へと崩れた黒鎧の残骸へと視線を向けた。


「とにかくこの森から離れましょう! 不明な点が多すぎるわ!」


 スタウトがラガーへと肩を貸し、ピルスとエールが辺りを警戒する。


「…………俺は……夢を見ているのか?」

「だとしたら私もそうね……とんだ悪夢だわ」


 二人して、そう言って、絶望の表情を浮かべた。

 その言葉の意味をスタウトとラガーもすぐに理解出来た。


 なぜならば。


 苦労して倒したあの黒鎧と全くおなじ姿が()()()()姿()()()()()からだった。


 絶望が4人を塗りつぶした。


次話で一旦完結です!

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