10話「魔蒸機竜」
あのおっさん、なんかリシアを見て喚いてるけど、頭大丈夫か?
「……ネルスなにゆえ、軍を動かす。これほどの魔蒸兵を動かす事など……貴様の一存では出来まい」
リシアがそうネルスに声を掛けたので、一旦攻撃は中止。魔蒸兵に停止命令を出し、メリッサに戦士達を動かすなと指示した。
あいつ、もはや詰んでるしな。
『ふふーん私の有能さを分かっていただけて何よりです』
「はいはい、リリスちゃん凄いね」
『まあ、魔蒸兵のジャックなんて余裕のよっちゃんですね。なんか一応防壁掛けてたっぽいですが、あんな張りぼてでこのリリスちゃんを阻もうなんて千年早いです』
魔蒸兵をリリスを使って乗っ取って反撃開始したのはいいが、あんまりにも簡単過ぎるので何かの罠かと警戒したが……。
「ああ、リシア様ぁ! わたくしはただただリシア様にお会いしたくてぇ! わたくし直下の魔蒸兵とコーン卿の私兵でお迎えに参上いたしましたぁ! さあ、コーン卿がお待ちですぅ!」
どうもその様子はなさそうだ。後ろの兵士達は既に逃走しているし。まあ【撃滅処女】の連中が既に回り込んでいるので逃げ場はないのだけど。
「はあ……やはりコーン卿か。あのゲスが……ネルスよ、帰ってコーン卿に伝えろ。私はもう帝都に戻る気はない。死んだと報告せよ」
コーンコーンうるさいな。トウモロコシ食いたくなるじゃないか。
「んで、リシア、こいつら帰すの?」
「ここで殺したところで、別の輩が来るだけだ」
「殺すとかこわっ」
「? 何を言っている? 命の奪い合いだぞ? そこに慈悲はないだろ」
何を言っているとばかりにリシアが俺を睨む。
……いや分かっているんだけどね。ここは地球でも日本でもない異世界だ。死生観も倫理観も違う。
「テンガ様。村の掟として、この森に入った者は……生かして帰すべからずとあります。どうか、殲滅の許可を」
メリッサがそう言って、かしずいた。
「リシア様ぁ! どうかぁどうかぁ! お考え直されよぉ! もう皇帝も皇后も求心力は有りませぬぅ……コーン卿と共に覇道を歩まれるのが一番だとネルスは確信しておりますぅ!」
「熱烈なラブコールじゃないか。帰したところで、また来るだけだと思うぞ」
俺はそうリシアへと声を掛けた。あのおっさんや兵士に罪があるかどうか分からんが、少なくともこんな少女のケツを追いかけ回す輩だ。
「……滅せよ」
リシアがまっすぐ前を向き、細剣をおっさん——ネルスに向けた。
そしてもう一度、口を開け、叫ぶ。
「殲滅せよ!」
「……まあ覚悟は出来てないんだけど、郷に入ったら業に従えってか、メリッサ、好きにしてくれ」
「感謝致します、総員、殲滅せよ!」
『魔蒸兵動かします? 500体どころか10万ぐらいまでなら自由に動かせまっせ。まあそんだけいればですけど』
まあ、適当でいいよ。ってか、出番はなさそうだ。
飛び出したサキュバス達に、兵士達はネルスを置去りに逃げ惑う。
サキュバス達の刃によって一人、また一人と兵士達が死んでいき、鮮血と内蔵が地面へとぶちまかれる。
なぜだろうか、不思議と恐怖とか忌避感はなかった。
『そこまでやる義理は私にはないんですが……まあサービスということで』
どうやらリリスがそういう感情を抑えてくれているようだ。……俺は大丈夫なのか?
兵士達が地獄を味わっている間、ネルスはと言うと……。
「……愚かぁ……愚か愚か愚か愚かぁ! なぜ僕の愛が伝わらないぃ! もうコーンなんざどうでもいいぃ。僕は僕は僕は……リシアが欲しいぃ!」
なんか頭おかしくなった感じで発狂してる。持ってる杖を掲げてブツブツなんか言い始めたけど、あれ大丈夫?
「使うまいと思っていたが仕方が無いぃ! “熱炉を上げて蒸気を掲げよ!【魔蒸機竜】”」
ネルスの詠唱と共に魔力の乱流と地響きが発生した。
「テンガ様! 下です!」
メリッサの声と共に、ネルスの立っていた場所を中心に魔方陣が発光。
それを砕くように地面から現れたのは——機械仕掛けの竜だった。
小物感あるけど、実際はまあまあ強いんですよネルス君。