第二話 カクシ部屋にご一泊
宿屋のカウンターに近づきながら、アシェルは手を硬く握る。これからこの主人と交わす言葉しだいで、自分達の運命が大きく変わるのだ。後ろに控えるサイラスとファーラも緊張しているようだった。
屋根にあたる雨音は、ますます激しくなっているようだ。遠雷の光が夜の闇と窓ガラスを貫き石造りの床を照らし出した。
「あの、一晩泊め……」
「満室だよ」
アシェルの言葉は途中で主人の容赦ない一言でブッたぎられた。
気絶寸前の呻きのような、溜息のような声がストレングス部隊の面々からもれる。
「うわああん! 雨のバカァ!」
サイラスが天井を仰いだ。
ここはアスターの街から徒歩で三日ほど離れたバハレの町。各町に散らばっているストレングス部隊の重役たちは、順番を決め定期的に城へ顔をだす事になっている。今年はアスター街の番というわけ。
報告が終わり、夕方までにこの町についたのはいい物の、雨に降られたのが運のツキ。普段野宿する貧乏な旅人も屋根を求めるため、宿が取りづらくてしかたない。現にアシェル達はほとんどの宿屋で断わられてしまい、ここを追い出されたら後がない状況だ。
「頼むよ! 二部屋だけでいいんだ!」
パン、と音を立てる勢いで、アシェルは両手を組んで祈りの格好をしてみせる。
「と言っても無いモンはしょうがないだろが」
主人は半眼でアシェルを睨んだ。
「いいじゃん、親父。そこまで言うならさ、あの部屋に泊めてあげれば」
高めの声がして始めて、アシェルはカウンターの向こうに女の子がいることに気がついた。 低い子供ようのイスに腰かけていたため、見えにくかったのだ。顔つきから、主人の娘らしい。
「ラサル! 余計な事をいうな!」
「あら、聞き捨てなりませんわね。空いている部屋があるのに内緒にしてましたの?」
ファーラがにっこり微笑んだ。その笑顔は完璧で、隠されている怒りが見えない分余計に怖い。
「あなたを危険にさらしたくないからだよ、お嬢さん」
主人は困った顔をしてみせた。
「でもさ、服からするとストレングス部隊の人達だろ? あの部屋の謎、なんとかしてくれるじゃね?」
「おいおい、さっきから話が見えないんだが。まさかここまで意味あり気な事言っておいて、説明無しってことはねえだろうな」
アシェルの言葉に、主人はしぶしぶ語り始めた。
「この宿には、カクシ部屋があるんだよ」
「へえ。それがなにか?」
「ああ。この町の人間が泊まっても何も問題はないが、他の土地から来た人間がその部屋に泊まると必ず誰かに殺されるんだ。おまけに犯人がわからねえ」
「なるほど。客死部屋かよ。てか、上手いな、親父」
「この町に家があるのに、わざわざ宿に泊まる奴なんて滅多にいねえからな。部屋を遊ばせておくのはもったいないが、かと言って人死にを出すわけにはいかねえ。ずっと使われてねえのさ」
「ふうん…… 最後に死人が出たのは?」
「俺が子供の時分だったから…… 大体五十年くらい前だ。その時も原因不明だったんだよ」
「一度調べて分からなけりゃ、今更調べたりしないわな、そりゃ。『この町のストレングス部隊は何やってるんだ』とは言うまいよ」
思わずアシェルは苦笑した。一つの事件にじっくり取り組んだ方が良いに越したことはないが、いかんせん雑事が多すぎるのだ。
「もしこの怪奇現象を解明してくれたら、ただで泊めるどころか報酬を払ってやってもいいぐらいだ」
「帰りましょう、隊長」
「服の裾をつかむなサイラス、子供じゃあるまいし! お前俺より二、三年下なだけだろうが!」
「だって、ヤですよ客死部屋なんて! 橋の下ででも寝たほうがマシです!」
「まあ、そうだろうな。若干一人、眼を輝かせている者がいるが」
「で、殺されるってどういう風にですの?」
カウンターに身を乗り出しているファーラの背中を男二人はみつめた。
「女の人って、意外とオカルト物好きだよね」
「その割には男がちょっと怪談話とかすると『やめて! 怖い!』とか大げさにぎゃーぎゃー騒ぐのな。あれ、なんなんだろうな?」
ワクワクしているファーラと、タジタジするラサルの様子をしばらく見守ってから、アシェルはおもむろに口を開いた。
「とにかく、そんな危ない所にかわいい隊員を泊めることは出来ないよ。しかたねえ。取り敢えずなんか食う物だけでも買って、どうするか考えよう」
アシェルはスッと手をサイラスの方に差し出した。今回、共用の財布はサイラスに預けている。
「ん~」とポケットに手を入れたサイラスは、そのままの姿で固まった。
「オイ。なんか、嫌な予感がするんで訊きたくないが…… そういうわけにはいかないだろうな。どうした」
「スられた…… 財布……」
「バカモーン!」
アシェルの怒鳴り声と、ファーラの回し蹴りがサイラスを襲った。
「どうするんだよこれからの食事と宿! まだアスターまで距離があるんだぞ! 帰れねえじゃねえか!」
「ぶわあああん! ごめんなさ~い!」
「ねえ、ご主人」
大騒ぎする男性陣を尻目に、ファーラがにっこり微笑んで言う。彼女がこの笑みを浮かべる時は、何かたくらんでいる時だ。
「さっきの話、本当ですの? もしその部屋の謎を解いたら報酬をくれるって」
「ん? ああ。もしできるならな」
草食動物並みの勘で、自分に危険がせまっていることを察知したのだろう。サイラスが外にむかってダッシュを始めた。
「逃さん」
アシェルの手が、サイラスの襟首をつかむ。
「隊長! 言いたいことはわかります! 僕にその部屋へ行けっていうんでしょう!」
「そこまでわかっているとは、偉いぞ。話が早い」
「無理です! 無理ですから! イヤですから!」
「黙れ! このことに関してお前に発言権はないっ!」
サイラスの「いやだあ!」の悲鳴と稲妻のとどろきが同時に響いた。
隠し部屋のベッドの上で、毛布を被って膝を抱き、サイラスはすすり泣いていた。まるで子供がお気に入りのぬいぐるみをお守り代わりに抱きしめるように、彼の武器である細身の剣を抱えている。
「うっうっうっ、怖いよう怖いよう」
「ええい、うるさい!」
廊下からアシェルの声が聞こえてきた。
あれから詳しく話を訊いた所によると、この部屋で命を落とした旅人の死因は一つ。胴体から首をチョン斬られたという。
それだけでも十分怖いのに、この部屋は少々不気味だった。滅多に使われる事がないからだろう。掃除はしてある物の雑で、隅に少し埃が溜まっていた。そして何より嫌なのが、枕元の壁にかけられた戦絵。敵の死体でできた山の頂で、剣を突き上げる騎士が描かれている。サイラスは、こういう血生臭い絵は苦手だった。
「大丈夫。怖くないように私がずっとお話していてあげますわ。タイトルは呪いの……」
「怪談やめてええええ!」
「ファーラ…… たまに思うが、お前結構Sっ気ねえか? まあいいや。安心しろサイラス。なんかあったらそっち行くからよ。それにお前にはその剣があるだろう」
アシェルがサイラスを部屋へ入れたのは、何も財布を盗まれた罰ゲームというだけではない。サイラスが持っている剣の柄には、もう今は絶えた魔法の印が刻まれている。人間だけではなく、幽霊や魔物など人ならぬ者も斬れると伝えられるシロモノだ。(もっとも、魔物が伝説となった今ではあまり使い道はないのだが)
もしサイラスが何もやらかさなくても、アシェルは彼を原因究明役に選んだだろう。
「剣があってもっても怖いものは怖いんです!」
サイラスはなんだか、子供に戻った気分だった。毛布のシワが人の顔に見えるし、ベッドの下に何かがひそんでいるんじゃないかというバカな想像が消えない。それに、あの戦絵まで動きそうな気がする。
もちろん、そんなのは妄想だ。現に、鎧で身を固めた騎士は剣の切っ先を地面に向けて…… おかしい。さっき、この騎士、剣を掲げてなかったか?
がちゃり、と甲冑の動く音。本来するはずのない、吐き気を誘う血臭。額縁を超えて、騎士の持つ剣の切っ先が闇に見えない切れ込みをいれた。まるで水面から浮かび上がるように、絵の中の騎士は実体化していく。
「うわあああ!」
咄嗟に鞘を抜き払って、騎士の刃を受ける。金属のかみ合う音が響く。腕がしびれた。
「サイラス!」
叩きつける勢いで、扉が開く。
「クッ……」
ファーラは騎士を見て、構えた銃を悔しそうに降ろした。ヘタに金属の甲冑に撃ち込めば、弾き返された弾丸でサイラスにケガをさせかねない。
騎士がまた剣を振り上げた。サイラスはベッドから跳び降りる。舞い上がった毛布が、分厚い剣に叩き落された。
「痛いよ、ごめんね!」
立ち上がる勢いを剣にのせ、サイラスは騎士の右肩に突きを繰り出す。鎧の隙間を縫い、切っ先が騎士の肉に食い込む。幽霊が痛みを感じるかどうかはともかく、ひるんだことは間違いない。頭を狙ってサイラスは剣を振り上げた。致命傷ではなく、気絶を狙った一撃。
細かなツタのレリーフがある兜に、銀色の刃が触れようとする。
待ち構えていた手ごたえがなく、思い切り振り切られた剣のせいで、サイラスは前につんのめった。
いつの間にか、騎士の姿が消えていた。
「消えた?!」
サイラスは急いで辺りを見回す。まるで悪い夢のように騎士の姿は跡形もなくなっていた。
「逃げられた……?」
「どっちかっていうと時間切れで引き分けだな」
いつの間にか部屋に入って来たアシェルが、窓を視線で指した。蒼いガラスを通したような朝の光が差し込んできていた。
「というわけで…… どうやら本格的にあの騎士をなんとかしないといけないようだ」
アシェルの声を聞きながら、サイラスは呆然と壁にかかった絵を見つめた。騎士の形に絵具が消えうせ、カンバスの白が見えている絵を。
ベッドの下をのぞきこみ、誰のかわからないハンカチのきれっぱしを見つけ、アシェルは顔をしかめた。
サイラスの言葉によると、絵の騎士が実体化して襲ってきたという。とても信じられない話だが、サイラスは人の目を見て嘘をつけるほど器用な奴ではない。本当に幽霊なのかトリックなのかは知らないが、少なくともサイラスをそう信じさせる何かがあったことは確かというわけだ。それに、客が死ぬのがこの部屋だけ、というのも気にかかる。明るいうちなら騎士は出ないらしいので、アシェルは手がかりになる何かを探して、客死部屋をゆっくりと調べていた。
「アシェル、あの騎士の正体がわかりましたわ」
いつの間にか戸口にファーラが立っていた。
「おお、さすがダーリン仕事が早い」
「名前はセヴァオム。昔、この町を救った伝説の英雄だそうですわ」
それは良くありがちな伝説だった。このバハレの町は、かつての王都の傍にあった。戦のさい、都を目指す隣国の軍がこの町を襲ったときその侵攻を妨げた王都軍の将こそ、ヴァオムだった。ちなみにそのセヴァオム、戦がすんだあとこの街一の美女を都に連れ帰ったという伝説が残っている。
「その英雄とマトモにやり合ったのか、サイラスは。つくづく奴がああいう性格でよかったと思うよ。強い奴が変に性悪だと始末におえねえからな」
おもしろい物を見つけ、アシェルはファーラを手招きした。壁の隅、くるぶしほどの高さに。帯状に部屋を囲んでレリーフがほどこされていた。
神話がモチーフになっているようで、神が地面を創り、木を植え、と世界を造る様子が彫られている。
アシェルが見ているのは、神が粘土で人間を造ろうとしている所だった。今まさに命を吹き込まれようとしている粘土の塊は、顔も胴体も人間そっくりに細かく彫りこまれている。
アシェルがくすくす笑った。
「考えてみればおかしいな」
「何がですの?」
彼が指差したのは、粘土人形の鳩尾を指差した。
「へそだよへそ。なんで母親から産まれてこないのにこれがあるんだ?」
「確かに。こうやって生まれたのならへその緒なんて必要ないですものね。大いなる矛盾、という奴ですわ」
「だろ。でも本当に細かく……」
なんとなく、アシェルは胴体に触れる。ズズ、と鈍い音がして、壁が凹んだ。
「へ?」
小刻みな振動が足に伝わったと思ったら、いきなりガラガラと音を立てて目の前の壁が崩れて失せた。
「まさか、客死部屋に……」
「隠し部屋、ですわね」
どうやら、ここの彫刻を彫った職人は、気まぐれで余分な物を彫りこんだわけではないらしい。アシェルが感じたちょっとした違和感を隠し部屋の目印としたのだろう。
「隊長! 今なんか物凄い音が……」
「お、丁度いい所に。サイラス、ランプ借りて来い。冒険に行くぞ」
部屋から続くトンネルは、覗き込んでも黒く塗りつぶされたようだった。ランプを持って一歩踏み込む。補修もされず、ただ土を掘っただけの壁は今にもくずれそうだ。長い間閉じ込められた空気の腐った匂い。
「しかし、なんでこんな所にこんな物が」
呟いたアシェルの声が響いた。
「さあ、そ、そりゃあ何かを隠しているんだろうけど」
少し緊張した声でサイラスは言う。何があるかわからない洞窟に入りたくはないけど、ストレングス部隊として調べないといけない、と言った所だろう。
先頭を行くアシェルがふいに足を止めた。
「どうしましたの?」
「行き止まり…… いや、違うな、道が直角に曲がってんのか。暗くて脇道が見えなかった」
さらに進もうとむきを変えたアシェルの肩を、ファーラがつかんだ。
「待って。これ。ここの壁に、石版が埋められてますわ」
アシェルからランプを受け取って、ファーラは他の壁より一際硬い岩に彫られた文字に顔を近づけた。
「随分昔の文字ですわね。字が磨り減っていて読み辛いですわ。この宝は、捧げられた…… 我より我の……」
ガチャン。ファーラの言葉を遮って、金属の触れ合う音が響く。そう、ちょうど鎧を着た者が後から歩いてくるように。
「ね、ねえ隊長」
「なんだよ」
ガチャン。金属の触れ合う音は、少し近付いてきたようだ。
「今朝、日が昇ったから幽霊が消えたみたいなこと言ってませんでした?!」
「うん、まあ、言ったな」
「確かにここは暗いけど、今昼ですよ? なんで出るんですか?!」
「おいおい。俺のせいかよ?」
闇の中にオレンジ色のランプの光を跳ね返しながら、白銀の騎士が突進してきた。後をいくサイラスが剣を抜く。
剣がぶつかり合った瞬間、粉のように白い火花が舞って消えた。
「……!」
腕がしびれ、サイラスは顔をしかめる。力ではどうやっても勝てない。まだ体力が残っているうちに、スキをついて決定的な一撃を叩きつけるしかない。
両の手首をひねるようにして咬み合ったままの剣を外す。思い切り頭を殴りつけようと、一気に剣を振りかぶる。だが瞬間、剣先を誰かに押さえられた。
「!」
視界の端に、壁から突き出した岩に引っかかる剣先。なれない場所と、わずかに体勢がくずれ目測が狂ったのに気づかなかったのが致命的だった。
セヴァオムは両手を引き突きの姿勢をとり、そして……
「やめてえ!」
聴きなれない悲鳴は、ラサルの物だった。
剣の風圧で舞い上がったサイラスの前髪がさらりと額の上に戻った。
誰もが声をなくした中、金属の触れ合う音が響いた。まるで主に従う家来のように、セヴァオムは大人しく武器を収める。そして、空気に溶けていくようにその姿を消して行く。
「な、なんだったんだ。一体」
命拾いしたサイラスは、胸を押さえてぜいぜい音を立てて息をした。
「どうやら、この先にある物を守っていたようだな」
直角に折れた道を曲がる。突然、前方の闇が水滴で飾られたようにきらめいた。
「これは……」
ファーラがまぶしさに目を細くして、それから丸くした。それは小山のように積まれた宝石と古い金貨だった。突き当たりに積み上げられた宝物が、ランプの光を反射してきらめいている。
アシェルが短く口笛を吹いた。
「宿屋の地下にこんなのがあるなんてね。財宝の上に寝てたんじゃ、大金持ちになる夢がみれるだろうよ」
ものめずらしそうに、アシェルが金貨を一枚つまみあげた。
「やった~! おっかねもち~!」
サイラスがグッとガッツポーズをした。
「さ、帰りますわよサイラス」
サイラスとは対称的に、ファーラは冷めた口調で言った。アシェルもさっさとお宝に背を向けて出口にむかっている。
「え、ちょっと……」
「忘れたか? サイラス」
ちょっと振り返ったアシェルの顔は、ちょっとうんざりしているようだった。
「俺らの報酬は、アスターに帰るまでの旅金! それにこの宝物は含まれてないんだよ」
「そういうこと! あげないからね」
ラサルがニッと八重歯を見せて笑った。この分だといい商人になるだろう。
「やれやれ、ただ働きはいつもの事だけど、こんなお宝見せ付けられてもらえないんじゃちょっとくやしいな。ま、面白かったからいいか!」
アシェルはハハッと笑った。
―この宝は、我より我の妻と妻を育みしバハレの町に捧げられし物なり―
「とまあ、こんな事が書かれていたわけですの」
「つまり、英雄セヴァオムの奥さんはあの宿一家の遠いご先祖だったってわけだ」
晴れ渡った午後の空の下、アシェルはアクビ混じりに言った。仕事がら一晩の徹夜ぐらいならなれているが、さすがにこの時間帯は眠くなる。
「で、英雄は愛する女性に捧げた宝物を他の街の奴らに盗られるのが許せなかったわけだ。特に当時は国が荒れてたから、間違っても敵の奴らに渡したくはなかったんだろうよ。ラサルの声で攻撃をやめたのは、彼女が奥さんの一族だったからだろう」
あれから、例の絵はまるで見えない炎に焼かれたかのように、白い灰となって崩れた。ずっと守っていた宝が子孫に渡った事で、英雄は願いを全うしたのだろう。
「でもさ、少しマヌケな話だよね。先祖が隠した宝物の場所どころか、隠した事その物もわからなくなっちゃうなんて」
「そんな物だろうよ。人間の寿命なんてたかが知れてる。現に、俺は自分のひい爺さんの名前も知らないよ」
雨はすっかりあがっていた。地面のあちこちにできた水溜りに空が移りこみ、まるで穴の開いた浮遊大陸を歩いているようだった。
「でも、隊長もファーラさんもひどい! 今回がんばったのは僕だけじゃないか!」
サイラスはすっかりすねてしまっていた。
「何よ、その言い草は。あげませんわよ」
意味ありげな笑みを浮かべ、ファーラがそっと手を広げた。
金貨が人数分、繊細な手の平に乗っている。
「あ、持ってきちゃったのファーラさん!」
「さすがダーリン、抜け目ない」
「これぐらいの働きはしましたもの」
サイラスが、「もらっちゃっていいかな」の視線をアシェルに向ける。
「スキにしろ」
アシェルは、空に向かって腕を伸ばし、大きく伸びをした。
第二話 カクシ部屋にご一泊 完