第2話 異世界ちゅーとりある 後編
3
「どこだろ、ここ」
崩れた石造りの部屋、でも、老朽化した形跡はない。
「壊された?しかも、ごく最近…?」
雫は、唐突にこの場所に飛ばされてきたが、状況の把握が早かった。
「作り的には中世のお城かな?壊れててよくわからないけど、翔がよくやってたゲームがこんなところがあったと思うんだけど」
冷静にあたりを見渡す。
「………!!!!」
その時、足音がした。
少なくとも雫自身の足音ではない。
(ど、どうしよう、とりあえずこの戸棚の中に)
近くにあった戸棚の中に隠れて足音の主を待つ。
戸棚には微かに穴が空いており、雫は外の様子を伺っていた。
「ふはは!この国も終わりだ!ふはっはははっはっっはっっはははは!」
足音の主は三十代半ばくらいの男だった。
男は狂ったように笑っている。
「これで、私もあの方に…」
肩を抱えその場にしゃがみこみながら天井を見やる
「ふぅ、しかし、何が起こるかわかりませんからねぇ、早く見つけましょうか」
(あの方?見つける?わたし、、、じゃないよね)
男は地面に手を当て、何やら唱え始めた。
「Search start<探索開始>」
すると、男の周りを丸く囲うように床に光が灯り始めた。
(あれは、魔法陣ってやつのかな、よく見えないけど)
男にばれないよう息を潜めつつ、思考を巡らせる雫
「……!?何者だ!?」
男が驚き戸棚に手を向けた瞬間、戸棚が吹き飛んだ。
(やばい!!!)
雫も冷静ではいられない、知らない土地で、知らない力を使う、知らない男が目の前にいるのである。思考が止まる。
「ふん、見たところ、ただの人間か、魔力量は10000と多いようだが、その様子ではただの雑魚か」
(魔力量?)
雫の知らない単語だ。そこで確信に至った。
(ここは、やっぱり違う、何もかもが…)
「見物人も必要だろう。歴史の転換期の観測者と言ってもいいだろう。暫くしてこの国は終わる。その時が来るまで、眠れ、人間の娘よ」
雫の額に手のひらをかざされた瞬間抗えない眠気に襲われた。
(…わたし、の、いた所と、何、もかもが…)
***
「くそ!くそくそくそ!やっちまった!そりゃどれだけ街を探しても見つからないわけだ!あんなところにいたのかよ!あいつは!雫は!!!」
悪態をつきながら燃え盛る街を走る。
「だから、レオは自分のところに来いって言ったんだ!あいつは他人を無下にするようなやるじゃねぇ!ましては自分が危険に晒した相手をそのまま放り出すようなやつじゃねぇ!」
体の痛みも忘れて怒りのままに炎に包まれる街を走る。
翔が炎の中に飛び込んでも、炎はたちまち勢いを弱め、朽ちた壁に突っ込んでも木っ端微塵に砕け散る。
最短距離で、ひた走る。
「一番身に危険が迫っていたのは雫だったんだ!」
音を置き去りにしながら、さらに、速度を上げた。
***
雫は石で作られた手枷と足枷をつけられ、城の最奥へと男に連れられていた。
「ついに、ついに、聖剣がわが手に…考えるだけでも、震えが止まらない」
「どうして、街をこんなことにしたの…」
雫は堪らず声を出した。男は雫に「滅びるところを見ろ」と言ったのだ。であれば、身の安全は保証されるはずだ。
「ふん?そんなことは、分かりきっているだろう?…いや、俺の武勇伝を今後語り継いでもらうためにも、勘違いがないよう、すべてを説明しようか」
それから、男は暗い螺旋階段を降りながらゆっくりと語り始めた。
我ら魔族は、ここの所、人類に攻めあぐねていた。大きな内戦が起こっていることも理由の一つだが、大きな理由は、この城には、人類の切り札である、聖の力を身にまとい魔を絶対的に退ける、聖剣があるのだ。その力がある限り、下等魔族程度はこの国に近づくこともできない、つまり大胆な編成も組めないわけだ。そこで私は考えたのだ。「単身で人類の国を落とすことができるならば、大きな褒美が受け取れるのではないか?」と、私には、それに見合う力がある。私は天界より魔族に身をおとされた天使、堕天使だからだ。その力を使い、聖剣が発する聖なる力を闇の力に書き換えることができる。さらに、その闇の力を流用し、邪神級クラスの魔族の召喚も可能だろう。この国は自国のの最後の切り札で滅ぼされるのだ。皮肉がきいているだろう?
「―――この国は強い。今の程度の破壊であらばまた、どこからか湧いて出てくるだろう。だから、一切合切すべてを消滅させる」
この世界には魔族と人類の大きく2つの種族が存在すること、人類が崖っぷちであることはわかった。
(結構、やばいな、今の状況)
雫の脳は焦りで満ち満ちていた。
「さあ、ついたぞ、ほほう、あれが聖剣か!」
最下層には家具などは特にあらずど真ん中に剣が一本刺さっていた。
白く輝く刃にところどころ青白いラインの装飾が施されていた。
「さぁ、始めようか終末を」
男が聖剣に触れた瞬間、あたりが一瞬白く煌めき、そのまたすぐに黒いモヤのようなものが立ち込み始めた。
「さぁ、来るぞ!邪神が来るぞ!さぁ!さぁ!さぁ!sっ…」
男の言葉は最後まで続かなかった。
「なにか、来ている。のか?」
その男が言った瞬間刺さっていた聖剣が吹き飛んだ。刺さっていた台座もろとも
「そこかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
台座を吹き飛ばし、下から登場したのは、翔だった。
「うぐ、貴様どうやってここまで」
衝撃から、男は2メートルほど後ろに吹き飛ばされていた
「あ〜すまん、すまん、聖剣の部屋に行きたかったんだがまさか先客がいるとわな」
「ふん!わざとらしい、魔力量も1500と少ないやつが!なめよってからに!」
男は、翔に向かい手を突き出した。
「駄目!翔逃げて!駄目なのコイツは!」
「ふはははは!お前はここで死ぬんだよ!まぁ最後に遺言を言うくらいの時間はとってやるぜ!」その時翔は、
笑っていた。
大きく笑っていたわけじゃない、笑いを堪らえようとしていた。ただ、それだけだった。ただし、男の神経を逆なでするには十分だった。
「それが貴様の答えか、死ね!Flames!<炎上>」
「ダメー――!!」
人の二倍はありそうな火球が翔に向かって飛ぶ。
「ふん!」
翔は無造作に手刀で周囲を一閃した。すると、スピードもパワーもどれも、1.5倍以上となって火球が跳ね返った。
「なに!?」
男はその火球をとっさに避けたがとても動揺している。
「んじゃ、次はこっちから行くぜぇ!」
翔は身をかがめ一瞬で懐に潜り込み渾身の一撃を叩き込む
が、それは、残念ながら障壁によって阻まれた。
「うう、貴様!何だその力は!?本当に人間か!?なぜ、そんな力を使える」
障壁で阻んでも、衝撃は完全には打ち消せなかった。男は障壁ごと後ろへ吹き飛ばされた。
「ははーん、お前、俺の実力を測り損ねたな」
「ど、どういうことだ!?」
「お前は相手の能力を測る事ができるんだよな?それでお前は俺の能力を測った、で?じゃあもう一度測ってみれば?」
小馬鹿にしたように男に問いかける。
「……っ馬鹿な!!そんな事ありえぬ魔力量が80000だと!そんな量ただの人間一人が持てるわけがない!!」
「そうだな、わかってるじゃねぇか、これは、俺たち二人の力の末端だ」
「貴様何を言っているんだ!?」
「お前は聖剣を利用してなにかやろうと考えているようだが、聖剣は他の剣とはちがう。コイツは剣というよりも精霊の概念のほうが近い、つまり名前を呼んで契約をかわさない限りその力は完全には引き出せない!」
右手に魔力を集中させる。翔が入ってきて吹き飛ばされ、天井に刺さった聖剣の柄を握る。
「俺は戦う!お前の剣で!お前と共に!俺の力をすべてお前に捧げる!だから、力を貸せ!レオバルド!!!」
「全く、雑な契約詠唱だねぇ!」
立ち込めていた黒いモヤは全て吹き飛び、爆発的に光が飛ぶ。
「うぐおおおおお!!!!」
眩い光は男を苦しめる。
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!」
天井に刺さった聖剣をそのまま振り下ろす。光に苦しむ男に反応するすべはない。
「ぐあああああああああ!!!!!!!」
男は断末魔の叫びを上げ、その場に倒れた。
しかし、男には傷はなく、呼吸もしていた。
「なるほど、憑依体か、じゃあ本体は別の場所かよ」
聖剣は魔を退ける剣だ。つまり魔族に憑依されている相手を斬った場合憑依している魔族のみを斬る。そんな荒業ができる剣が聖剣である。
4
「っと、雫、もう大丈夫だ怪我はないか?」
そういいつつ、雫に駆け寄り、手枷と足枷を粉砕する。
「しょ、翔ちゃんだよね?」
急にあんな力を見せられたら、信用出来ないことが普通である。
「おう、俺だぜ、授業中いつも寝て、姉ちゃんに叱られてる俺だぜ!」
「翔ちゃーん!!!!ごわがっだよお!!!!」
雫は泣きそうな顔で翔に抱きついた。
雫も一般的な女の子だ。怖くないはずがない。
「ちょっ、お前、当たって…」
「ああ、ご、ごめん!」
顔を真赤にして雫は離れた。
(ああ、しまった。とっさに突き放したが、コイツも怖かったよな。もう少しそのままにしておけばよかった。他意はないぞ)
心の中で、よくわからない言い訳をする翔だった。
《GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!》
耳を割くような声が響く
「何!この声!」
「あー、忘れてた―」
「あんたほんっと抜けてるねぇ」
翔の持つ剣から女性の声が響く
「あ、そうだ!こいつは聖剣レオバルド、レオって呼んでやってくれ!」
「え?あ、分かった。いや、正確にはあんまりわかってないんだけど、それより、あの声のやつなんとかしなくていいの?」
「あー」と、翔は天井を見上げる
「いやー、あいつが飛んでるからこの城飛んでるんだし、あいつ倒したら、この城落ちるんだよね、そこの俺がはいってきた穴見てみ?」
そう言われそっと穴に近づいて見ると
「え、なにこれ高っ、てか翔ちゃんどうやって来たの!?」
「えーっと、さっき、あの男と似たようなことしたんだよ。できるだけ高いところに飛び出して、自分の真下に爆破魔法を仕掛けてさらに、障壁を張って、ダメージを消して衝撃だけをすべて残してここまで飛んできたって、分かるかな?」
「いやー、まぁ理屈はわかったけど」
そう言って下を見ると大きなクレーターができている。
「でだ、今はこの状況をどうするかだ。まだ主がいなくなったことに気づいていないのか、このドラゴンは空中を浮遊するだけだ。いつ主がいなくなったことに気づいて、この街を攻撃し始めるかわからないから、早めに仕留めたくはあるんだけど」
その後、周りを見渡す。
「俺一人ならなんとかなるんだがその後二人を安全に運べる保証ができない」
翔は考えにふける。雫は、頭が混乱しかけているので、先程から話があまり入ってこない。
そんなとき、ふと声を上げた。
「ならば、その役割、私に任せていただけませんか」
振り返ると声の主は先程まで眠っていたはずの男だった。
「あんたまだ!…て、違うか、正気を取り戻せたのか?」
「ええ、なんとか、記憶もあります。私が大変なことをしてしまったことは、信じられませんが、理解しています」
悲しそうに男は瞳を閉じる。
「私の力ではあのドラゴンをどうこうすることはできません。しかし、私も魔道士の端くれ、彼女を下まで安全に送り届けることはできます。お願いします。一人だけでも、私の手で救わせてはいただけないでしょうか?」
翔は考えた。考えに考えた。しかし、他に方法もない。
「俺は、まだあんたのことを信用したわけじゃないが、そうするしかないみたいだ。もし、雫を傷つけるようなことがあれば、わかるな?」
声を低くして聞く、「お前に、雫を何があっても守りきれるのか?その覚悟はあるのか?」と聞いているのだ。
「命に変えても、彼女を、しかし、私がまいた種でありながら君に助力するだけの力がなく、本当に申し訳ない」
この人は、ほんとに誠実の人なんだ。翔は率直にそう思った。
「俺のことはそんなに気にしなくていい、レオがいれば俺は世界最強だからな!」
大きく胸をはる。
「おーおー、大きく出たねー、この世界に来たばかりの若造が、あんたなんてねぇ、この世界で数えたら15番くらいよ!」
「はっ!俺より強いやつそんなにいるの?」
「まぁ、相性の問題もあるけどね、でも、あのカラスを倒すくらいは問題ないぞ」
「はぁ、俺へこむぞー、この世界、人類不遇すぎるだろー」
男は、この会話を唖然として聞いていた。
(魔族が9割のこの世界で15番目…だと!だが、相応の力は先程この目が体が体感したばかりだ)
「うーんじゃあ、うちの、女の子を頼みます。」
そう言うと、天井を屋根まで突き破る光線が走り、翔はそのまま跳躍していった。
「君の友だち、何者かね?」
「ごめんなさい、私、脳がパンクしそうです」
「そ、そうか、とりあえず、君に障壁を張ったあと、風魔法を併用して、ゆっくり下ろすよ」
「あ、魔法のことは、よくわかりませんが、よろしくおねがいします」
二人はぎこちなく挨拶をして、降下を始めた。
***
ドラゴンは前足で城を下に抱えるようにして飛んでいる。つまり、今、翔が立っている屋根の上は、ドラゴンの真下にあたる。
「ん、あいつら降り始めたみたいだな、じゃあ始めますか」
翔は飛び出し、腹の下から背中にかけて斬り払う。が、浅い
「ふぅー、やっぱ厚いなー」
《GYAAAAAAAAAAAAAA!!!!!》
ドラゴンは翔に気づき巨体で吹き飛ばそうと尻尾を振るう。そのまま、吹き飛ばされてしまうと、降下中の2人も思った。しかし、そうはならなかった。聖剣とは”聖なる力を身にまとう”武器だ。さらに、”聖剣は剣であって剣ではない”のだ。つまり、聖剣は身にまとうこともできるのだ。
「ぐう、空中だとやっぱ少しダメージはいるなー」
剣を防具に変え空中を浮遊する。
「こーら、遊んでないの、出し惜しみして、やばくなるのは、お約束でしょ」
「俺は、この世界に来てはじめての戦いだから、某有名RPGでは青いとろっとしたかわいいモンスターが最初だったりしたのに…その腹いせだ!」
「あんた、最初から、最強アイテム持ってるのにそれ言えるの?」
「あ、それもそうか」
繰り返される攻撃を雑談しながら難なくかわす。
「じゃあ、そろそろ、死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ドラゴンの頭上に向かって飛ぶ、後ろで爆発を起こし、障壁でガードして速度を上げる。防具はもうない。そのかわりに手に握られていたのは先程の5倍はありそうな大剣。しかし、もちろん振るのにも時間はかかるため、ドラゴンは避けようと首を動かす。
「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
大剣に爆破をまとわせ、速度を上げつつ、軌道修正する。
《GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!》
ドラゴンの首に翔の一撃が入った。
「まだ、終わらねぇぞ!」
さらに、大剣に爆発を重ねる。
《GYAAAAAAAAAAAAA……AA..Aaa》
耳を割くような鳴き声は長くは続かなかった。
「ふぅ、疲れた」
「あなた、戦闘中によくしゃべるねぇ」
「いいだろ、別にそっちのほうが気合はいるし、なんか少年漫画の主人公っぽいし」
雑談をかわしながらゆっくりと下降する。ドラゴンの頭と共に
「別に頭切らなくてもアレごと吹き飛ばせばよかったじゃない」
「脳ある鷹は爪を隠すんだよ、って言ってみたかったんだ!」
「そうか、まぁ、聖剣の力を変に見せびらかすのは確かにどうかと思うけどね」
戦いは終わった。異世界最初の敵にしては厄介すぎたが、ようやく終わった。
「さらば日常!来たぜ非日常!嫌な学校や現実からはおさらばだ!ゲームみたいなこの世界で俺のセカンドライフが始まるんだ!」
翔は、大きな声で叫んだ。
こうして彼らは、異世界第一歩を踏み出した。
***
その数週間後、街の復興もそこそこ進み、街の救世主である翔は…
「どうして俺は、異世界に来たにもかかわらず学校に行かなきゃなんねぇんだよ!!!」
学校に苦しんでいた…
最後まで、読んでいただき、誠に誠に、感謝しています
この内容は少し長い気がするから、もう少し小分けのほうがいいのかなって思いました。(次話から小分けになるかも)
次回は、コメディパートにしようかと思っています