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第3話 消えた10万ノーラ

 和彦が本の光っていたページに目を通すと、光は消え元どおりになった。


 まるで新着メールの未読マークが取れるかのように。


(光が消えた。俺が目を通したから? それにしてもこの『領主のステータス』。収入やジョブ、それにスキルってこれじゃまるで……)


 不意にコンコンと扉の叩かれる音がした。


 和彦はギクリとして慌てて本を本棚に戻した。


「領主様。いらっしゃいますか?」


「は、はい。なんですか?」


「もうすぐ御夕食の時間です。食堂までお越しください」


「はい。すぐに行きます」


 和彦はまだ本について考えていたかったが、とりあえずは思慮の外に置いて食堂に向かうことにした。


 その日はそれ以上何も起こらず夕食後、そのまま就寝した。




 翌日、朝食のスープを啜りながら和彦は『領主のステータス』について考えていた。


(昨日見た『領主のステータス』、まるでゲームのステータスみたいだった。もしこれが俺の現在のステータスを表しているとしたら……。資産30万ノーラっていうのは、昨日税収として運び込まれた作物のことだよな。じゃあ領民と領地が『?』になっているのは……。調べる必要があるな)


「領主様。本日のご予定ですが……」


「ん? ああ」


 和彦は執事に話しかけられ、思考を途中で中断する。


「本日は特段ご予定はございません。ただ、明日の午後より、商人との謁見を予定しております」


「商人との謁見?」


「はい。月に一度館の必需品を卸してくださる商人です。仕入れるものについてはこちらで手配しておきますので、領主様は『未開拓の土地』の活用方法について相談してくださいますか?」


「分かりました」


「ところで、領地の譲渡売却の書状についてはどうなっておりますか? こちらの手配はもう済んだのですが……」


「今日の午前中には終わるよ。また呼ぶから来てくれるかな?」


「かしこまりました」




 朝食を終えた和彦は書斎に篭って、書状を書き上げた。


 異世界の文字を読めるようになった和彦は、過去の書類を参考にして、書式を真似して作成した。


「これでよし、と」


 和彦は鈴を鳴らして執事を呼んだ。


 すぐにベヤが駆けつけて来る。


「お呼びでしょうか。ご主人様」


「書状が完成したから、届けてくれ」


「はっ、かしこまりました」


「あ、そういやこの書状を届けるのってどのくらい費用かかるの?」


「使いの者の旅費と他領の通行税、しめて2000ノーラといったところでしょうか」


「2000ノーラ? そんなにかかるのか?」


「ええ、そのくらいは必要ですな。隣の領主の館まで往復で約7日かかります」


「7日なら、21食分21ノーラで十分じゃないのか?」




「領主様。使いを出すのに必要なのは食費だけではないのですよ。領主間のやりとりなのですから、それなりの見栄えを整えなければなりません。使い一人で行こうものなら軽んじられて門前払いを食らうでしょう。領主の使いたるもの従者で人数を揃えなければなりません。服装もきっちりしたものでなければなりませんし、相手方への贈り物も必要です。他にも馬の秣、宿代、使者に何かあった時の保険代なども必要になります。盗賊対策に護衛も雇います」


「なるほど。そういうものか」


(文明の利器がないと色々大変だな)


「ん、分かった。もう行っていいよ」


「は、失礼します」


 ベヤはいそいそと書斎を後にした。


(盗賊問題はひとまずこれで一段落か。後はステータスの方だな)


 和彦はもう一度『領主のステータス』を開いてみた。


 やはり、領地と領民は『?』のままだった。


(やっぱり『?』のままか。資産の項目が埋まっているのは、昨日、ベヤと一緒に税が運び込まれる様子を見て話したから? だとしたら領地と領民の項目もなんらかの条件を満たせば埋まるということか。これもベヤと話すことが条件かな? さっきついでに聞いとけばよかったな)


 和彦は本棚と資料を見回した。


「他に何か領地と領民の手がかりになりそうなものは……、あっ」


 和彦は本棚の中に『前領主のステータス』という本を見つけた。


 その本には『領主のステータス』同様にステータスが記されていた。


 日付に沿って、人口と領地の推移が分かる。


(こりゃあいいな。この一冊だけで人口と領土の変遷が丸わかり。国勢調査いらずってわけだ)


 和彦は『前領主のステータス』の最後のページを見る。


 そこには以下のように書かれていた。


 ステータス

 資産:10万ノーラ、領地:100万エーヌ、領民:3000人


(前領主の最終日は、資産10万ノーラ、領地100万エーヌ、領民3000人か。ん? 資産10万ノーラ? ……っ)


 そこまで来て和彦は突然眩暈を覚えた。


 本の文字が歪んで見える。


(なんだ? 文字が読めない。そういやスキル『文字解読レベル1』は1日に1万文字しか読めないんだっけ。もう1万文字に達したのか)


 和彦は本を棚に戻してしばらく目を休ませる。


(それにしても前領主の最終資産が10万ノーラってどういうことだ?)


 和彦のステータスには先日租税として徴収した30万ノーラしかない。


(この10万ノーラは一体どこに行ったんだ? まさか前領主が全部持って行ったのか? でもあんな量の作物を持って行くなんて……、あっ、待てよ)


 和彦は思い当たることがあって、書斎を飛び出した。




「おかしいな。こっちだと思ったんだけど」


 和彦はぶつくさ言いながら何か探し物するようにキョロキョロと屋敷内を歩き回る。


 すると窓を拭いているメイドを見かけた。


「あ、ねぇ君」


「はい。なんでしょう?」


 彼女は窓を拭く手を止めてこちらをじっと見てくる。


 いつも和彦に食後のお茶を出してくれている黒髪の女の子だった。


「えっと、作物の納められた倉庫を探しているんだけれど」


「ああ、それなら突き当たりの廊下を曲がった先に……」


「ありがとう。助かったよ」


 メイドの少女は走って行く和彦をキョトンとしながら見送った。




 メイドの少女の言う通り道を辿って行くと、かくして倉庫が見つかった。


 倉庫には鍵がかかっている。


 和彦がどうしようかと考えていると折良くボーイが通りかかる。


「ねぇ。君。ここの鍵を開ける方法ってわかるかな。中身を確かめたいんだけど」


「鍵は執事が持っていらっしゃいます。でも中身ならそこにかけられている出納帳を見れば分かりますよ」


「あ、そっか。ありがとう」


 和彦は扉の脇にかけられた出納帳を確認する。


 異世界の文字は読めなかったが、数字は読めた。


 直近の在庫は40万ノーラとなっている。


(やっぱり。前領主の残した10万ノーラは無くなったわけじゃない。倉庫にまだあったんだ。ステータスに反映されないのは、さっきまでこの10万ノーラを認識していなかったから?)


 和彦はさらに考えた。


(自分で認識しなければ例え存在していてもステータスに反映されない。だとしたら、裏を返せばまだ資産と認識していないだけで、見逃している資産があるのかも。前領主すらも見逃していたような資産が)



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領主2日目 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲


 ・倉庫で10万ノーラ発見しました。

 ・文字解読1万文字を達成したため、スキル『文字解読』がレベル2に上がりました。

 異世界文字を1日に2万字まで読めるようになります。

 ・隣の領主に遣いを出しました。2000ノーラ支払われます。


【資産】

 穀物:39万8千ノーラ(+9万8千)

【領地】

 100万エーヌ

【領民】

 3000人

【スキル】

 『文字解読2』


 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 次回、第4話「魔法の石」

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