第24話 強化
翌日、早速和彦は『領民のステータス』を確認してみると、ドロシー、ノエル、ユリア、クレア、イルザの五名のステータスが新たに解放されていた。
それぞれ、ジョブ『騎士』に必要なスキルを身につけている。
(やっぱり。この五人には騎士適正があるようだな。少し集中的に鍛えてみるか)
和彦はメイにしたように彼女ら5人の得意なスキルを伸ばすことにする。
それぞれのスキルを最優先に、騎士団学校での訓練のカリキュラムを組む。
和彦が朝食を終えて、庭に出るとすでに少女達は訓練の準備に取り掛かっていた。
もはや和彦の前でダラダラ喋り続ける者はおらず、和彦が姿を見せると整列して、鍛錬への準備が万全であることを示す。
ドロシーは駆け寄って来て、報告する。
「領主様。訓練の準備できています」
彼女は一日目に見せた積極性を忘れることなく、率先して少女達を統率しているようだった。
「よし。それじゃあ昨日に引き続き鍛錬を始めるぞ。ただその前にドロシー、ノエル、ユリア、クレア、イルザの5人には少し特殊な訓練をしてもらう」
和彦は彼女らに午前中、得意なスキルを伸ばすよう指示して、それぞれに課題を授けた。
ドロシーにはスキル『指揮』を伸ばさせるために基礎訓練の監督を行わせた。
基礎訓練とは攻撃力、防御力、素早さを上げる訓練のことである。
攻撃力を上げるためには腕立て伏せと剣の素振りを、防御力を上げるためには腹筋とマラソンを、素早さを上げるには反復横跳びと短距離走をする必要があった。
庭のスペースは限られているため、全員を同時に訓練するためには効率よくスペースを配分しなければならない。
たくさんある訓練の項目をこなせるように、テキパキと道具の準備をさせ、各員にそれぞれスペースを振り分けた。
ドロシーは班員を使って間断なく指示を飛ばし続け、武具や着替えの持ち運びを手際よくさせる。
少女達は彼女のいうことに逆らえないようだった。
瞬く間にそれぞれの訓練の準備が済まされる。
「1班は木剣を倉庫から持って来て、2班はとりあえず鍛冶場の鍵開けてきて。3班は的と短剣の準備。もし倉庫の鍵が閉まってたら、執事さんから鍵もらえるか聞いてきて。あと4班は馬の準備しとこうか。馬丁さんに言ってきて。急がないと訓練の時間終わっちゃうよ」
ドロシーが言うと、みんな慌ただしく訓練を始める。
すでにみんなのお姉さんのような立ち位置になっていた。
(やはりドロシーには指示を出すことについて資質があるみたいだな)
和彦は彼女の効率の良さに感心した。
ドロシーは全員に準備の指示を与えると、和彦の元に駆け寄ってくる。
「領主様、午後からの鍛錬のことなんですが……」
彼女は事あるごとに、あれはどうすればいいですか、これはどうすればいいですか、と和彦に聞いて来る。
要するに彼女は自主的な生徒だった。
こんな風に頼りにされるものだから和彦もついつい彼女のことを特別扱いしてしまう。
和彦は彼女を見習い騎士達のリーダーにして、訓練の準備と監督についてほとんどを任せるようにした。
剣の訓練場で、和彦はノエルを集中的に鍛えていた。
ノエルは木剣で和彦に斬りかかる。
和彦は集中してスキル『回避』を発動させる。
(昨日よりもさらに太刀筋が鋭くなっている)
和彦はノエルの剣を避けながら思った。
生まれながらに剣の振り方を知っているかのようだった。
(もらった)
ノエルが和彦の木剣を弾こうと剣撃を加える。
しかし和彦の木剣はビクともしない。
「くっ」
逆に和彦が反撃して打ち込もうとする。
ノエルは巧みにステップを踏んで間合いを取りつつ、和彦の剣を捌く。
(フットワークと防御も申し分ない。あと必要なのは攻撃力だけか。とはいえ……)
ノエルはまた斬りかかり、和彦を惜しいところまで追い詰める。
和彦はノエルの剣を弾き飛ばす。
「うっ」
ノエルは手を痺れさせてうずくまる。
(とはいえ攻撃力は『グラヴィトンの剣』を使えば十分補える。明日は『グラヴィトンの剣』で打ち合いしてみるか)
「痺れが止んだら打ち込み100回しとけ」
「……はい」
「これでな」
和彦はノエルに『グラヴィトンの剣』を手渡す。
「これは……本物の剣?」
(軽いな)
ノエルがその剣を軽く振ると異様な重さが加わる。
「うわっ」
ノエルは剣に引っ張られて、よろめいてしまう。
「それは『グラヴィトンの剣』。一見ただの軽い剣だが、使用者が攻撃する時だけ桁外れな重さが加わる魔法の剣だ。それさえあればお前の力でも魔獣に重い斬撃を与えることができる」
(私でも魔獣を……)
ノエルは『グラヴィトンの剣』を無垢な目でマジマジと見つめた。
「お前は特別に今日からそれで打ち込みだ」
「はい。ありがとうございます」
和彦はノエルに剣術の指導をした後、競馬場に顔を出した。
「ユリアの調子はどうだ?」
「相変わらずですよ」
馬丁長は諦めたような様子でユリアの方を指差した。
彼女は馬を独り占めして、ずっと走り回らせている。
「1日で乗馬を覚えただけでなく、調教までやっています。馬はもう私より彼女のいうことを聞く始末でして……。餌をやるのも体を洗うのも身につけて。蹄鉄をつけることまで。馬の痛みが分かったり。まるで馬と以心伝心しているかのようです」
馬はユリアの下、今まで抑えていた力を発揮しつつあった。
彼女の調教によって今までよりも速く、巧みに領土内を駆け巡っている。
和彦は彼女が帰ってきたところで次の訓練目標を出した。
「もうこれだけでは物足りないだろう。明日は鎧と剣を身につけたまま、馬に乗るんだ」
「はい」
和彦は競馬場を出た後、鍛冶場に赴いた。
「クレアの調子はどうだ?」
「もうすでに鍛治のために使う道具一式をマスターしています」
「領主様ー。剣磨き10本できましたー」
和彦は磨かれた剣を手に持って振ってみる。
きらめく刀身が鏡のように光を反射する。
(ふむ。いい感じだ。これなら斬れるだろ)
和彦はクレアを呼んで新しい鍛錬を課す事にした。
「上出来だ。明日はこれの手入れをしてくれ」
和彦は『グラヴィトンの剣』を手渡す。
「これは?」
「『グラヴィトンの剣』だ。魔石の力を使っているから、普通の剣よりも扱いが難しい。魔石を傷つけないように注意しながら磨くんだ」
「はい」
イルザはというと器用に4本の短剣を的に当てられるようになっていた。
和彦はなんとなく彼女に対して苦手意識があるので、話しかけられずにいた。
彼女はあどけない顔立ちにもかかわらず、なんとも言えない妖艶な雰囲気を発していた。
その目元はシャドウなど特に引いていないというのに陰影が垣間見え、その微笑みは熟練の娼婦のように艶かしい。
キツネ顔なのと相まってことさら大人びた印象を受ける。
和彦は、少し彼女の訓練を見学しただけで、声もかけずに立ち去ってしまう。
一方でイルザは和彦のことを注意深く観察していた。
(なるほど。まずは全員の得意分野を強化しようというわけですか。なかなか賢明な領主様のようですね)
彼女は和彦の背中を見て妖しげな笑みを浮かべる。
和彦は少女達の鍛錬を終えて『領民のステータス』を見直してみる。
【ドロシー】
ジョブ:見習い騎士LV1
攻撃力:11(↑1)
防御力:11(↑1)
素早さ:11(↑1)
魔法 :0
スキル:『指揮2』
【ノエル】
ジョブ:見習い騎士LV1
攻撃力:13(↑1)
防御力:6(↑1)
素早さ:12(↑1)
魔法 :0
スキル:『剣技2』
【ユリア】
ジョブ:見習い騎士LV1
攻撃力:9(↑1)
防御力:13(↑1)
素早さ:9(↑1)
魔法 :0
スキル:『馬術2』
【クレア】
ジョブ:見習い騎士LV1
攻撃力:7(↑1)
防御力:9(↑1)
素早さ:8↑1)
魔法 :0
スキル:『鍛治2』
【イルザ】
ジョブ:見習い騎士LV1
攻撃力:10(↑1)
防御力:7(↑1)
素早さ:11(↑1)
魔法 :0
スキル:『飛道具2』
(よし。ちゃんとそれぞれステータスとスキルが1ずつ上がってるな)
和彦は彼女らの訓練が上手くいっていることに満足した。
(後はレベルを上げるだけか)
鍛錬でもステータスを上げることは出来るが、レベルを上げた方が飛躍的にステータスを伸ばすことができる。
レベルを上げるには実際にモンスターと戦って経験値を積ませなければならない。
ちょうど和彦の元には、畑を荒らすモンスターがいるのでどうにかして欲しいという苦情が来ていた。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領主79日目 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
・『グラヴィトンの剣』を5本作ったため、『土の魔石』を5ジェム消費しました。
【資産】
穀物:31万3千ノーラ(↓6千)
貨幣:2万リーヴ
【魔石】
ルネの魔石 :3個、238ジェム(↑3)
レドの魔石 :2個、60ジェム(↑2)
ディゴの魔石:2個、75ジェム(↑2)
アムの魔石 :5個、129ジェム
【領地】
総面積:100万エーヌ
穀物畑:45万エーヌ
菜種畑:5万エーヌ
未開発:50万エーヌ
【領民】
総人口:3000人
開発済みの土地:1000人
未開発の土地 :2000人
【スキル】
『文字解読10』
『スキル開発1』
『スキル管理1』
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ 勇者66日目 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
・特に無し
【ステータス】
レベル1
攻撃力?
防御力?
素早さ?
体力?
【スキル】
『回避』
『重心斬り』
【アイテム】
『勇者の剣』
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ 風の司祭5日目 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
【スキル】
『最上級風魔法』
『強風』
【精霊】
風の精霊1体
【建築物】
風車6台
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領民のステータス ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
【メイ】
ジョブ:メイド
レベル:1
攻撃力:1
防御力:1
素早さ:1
魔法 :0
スキル:『アイテム収集2』
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
次回、第25話「初陣」
タイトル詐欺との指摘をいただいたので変更しました




