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第23話 騎士の適正

 和彦は運動用の服を着て庭に出たが、集まった娘達は依然としてかしましくおしゃべりしていた。


(どうすんだよ。これ)


 和彦は頭をポリポリ掻きながら彼女らを眺める。


 騎士団を創設したい和彦は、彼女らを黙らせて、どうにかこうにか戦闘訓練を施さなければならない。


 しかし和彦はもう戦意喪失していた。


(やっぱり帰ってもらおっかな……)


 そんな事を考えていると一人の少女が叫んだ。


「みんな。いつまで喋ってんの。領主様が見てるよ。いい加減静かにしようよ!」


 庭が静まり返る。


(ほお)


 和彦が叫んだ少女の方を見ると、黒髪ポニーテールの彼女はムスッとした顔で膨れっ面をしていた。


 不満そうにあらぬ方向を見ている。


 彼女は嫌われるのを恐れていないようだった。


(これは使えそうだな)


 リーダーの資質だと思った。


 和彦は彼女の近くに歩いていった。


「ありがとう。君。名前は?」


「えっ? わ、私ですか? ドロシーと申します」


 少女は急に和彦に話しかけられて顔を赤くし、恥ずかしそうにして答えた。


「そっか。ドロシーか。よし。それじゃ、静かになったところで説明を始めるぞ」


 少女達は押し黙って、和彦の話を聞く。


「君達にここに集まってもらったのは他でもない。長らくこの領土に居なかった騎士を輩出するためだ。騎士になるためには厳しい鍛錬と実戦経験が必要になる。はっきり言って君達に耐えられるかどうかも分からない。しかし騎士となった暁にはそれなりの待遇を用意するつもりだ」


 少女達は一心に和彦の話を聞き続ける。


「もちろん。鍛錬が無理だと感じたら、帰ってもらって構わない。こっちの方で判断して帰ってもらうことになるかもしれない。それでもいいと思うものだけ残ってくれ」


 少女達の中に立ち上がって帰るものはいなかった。


「帰る奴はいないな? よし、それじゃ、訓練について説明する。騎士に必要なスキルは『指揮』、『剣術』、『馬術』、『鍛治』、『飛道具』だ。早速、練習に移る。全員、ズボンを履いて木刀を持て。まずは剣術から。ドロシー!」


「は、はい」


 ドロシーは和彦に指名されて、ピョンと立ち上がる。


「みんなに練習用の剣を配らなければならない。手伝ってくれるかな?」


「はい。喜んで」


 ドロシーは思った以上に賢い子だった。


 彼女は集まった25人を5つの班に分け、それぞれに班長を選んだ。


 班長を使って効率よく練習用の木剣を配布する。


「領主様。剣の配布終わりました」


 ドロシーがそう言って和彦に報告する頃には、彼女はすっかり助手役のポジションに収まっていた。


「よし。それじゃあ、一人一人剣を持ってこっちに来て跪くように。まずはドロシーから」


 和彦は跪くドロシーに対して『見習い騎士』の資格を与える旨を宣言した。


 彼女の木剣に『見習い騎士』の紋様が刻まれる。


「これは……」


「見習い騎士の紋様だ。これで君はスローザ領の『見習い騎士』となった。今後、君は一刻も早く正式な

『騎士』になれるように修行に励まなければならないよ」


「はい」


(これで彼女らは『見習い騎士』になった。訓練によって『騎士』に必要なジョブスキルを身につけることができる。後は適性があるかどうかだな)




 少女達の戦闘訓練が始まった。


 和彦は『騎士育成手引書』に従って少女達を訓練していった。


 和彦は少女達に5人がかりで自分に打ち掛かって来るよう命じた。


 少女達は一斉に和彦に打ち掛かるものの、スキル『回避』を駆使してかわし、彼女らの剣を一つ一つ順番に弾いていく。


「次!」


 一つ木刀を弾く度に娘達は飛ばされた練習用の剣を取りに行く。


 その度に交代して一人戦闘に加わる。


 しかしスキル『回避』を持つ和彦に剣を当てることができるものはいない。


「次! 次! 次!」


 和彦は一人、また一人と少女の剣を弾いていっては交代させて行く。


(やっぱ、初めから剣を使える奴なんていないか)


「次!」


 和彦が20本目の剣を弾いた時、一人の少女の木刀が和彦の髪をかする。


「!?」


 和彦は焦りから本気で反撃してしまう。


 バシッと音が鳴って少女の手首に剣が当たる。


「うう」


 少女は手首を押さえながらうずくまる。


「ごめん。大丈夫か?」


「っはい」


 彼女は気丈にもそう答えた。


 和彦は彼女の顔を見てハッとした。


 そのショートカットの髪型と怜悧そうな瞳持つ少女は、まるで少年のようだった。


「君、名前は?」


「ノエルと申します」


「ノエルか。ノエルは何か剣技を学んだりしていたのか?」


「いえ。剣を握ったのは今日が初めてです」


 一切の穢れを持たない純粋な瞳を持つ少女はそう言った。




 乗馬訓練。


 一人一人落馬の受け身を取らせて、受け身を完璧にできたものから順に和彦がいつも使う馬車用の馬に乗せて行く。


 彼女らは乗ってみるものの、上手く馬を操るものができず、揺り落とされてしまう。


 カンのいい者でもどうにかゆっくり進ませるのが精一杯だった。


(やっぱりこればっかりは一朝一夕では身につかないか)


 しかし一人の少女が乗ったとき、彼女はいきなりギャロップ(最高速)で走り始める。


「ちょっ、おい」


 和彦は追いかけようとするが、彼女は決して止まらない。


「はっはっは。いいぞ。どこまでも行け」


 体格のいい赤髪の少女は高らかな声をあげながら、ひたすら馬を飛ばして行く。


「ちぃ。なんなんだあいつは」


「じゃじゃ馬ユリアですな」


「じゃじゃ馬?」


「ええ、タペルの村では、男勝りなことで有名な娘ですよ。同年代の男の子を家来にして遊び場を占拠しているとか」


「うーむ」


 彼女はなんの問題もなく最高速のまま帰って来た。




 少女達は鍛冶場に来ていた。


 ここで武具や馬具を修理したり、手入れしたりする。


 騎士となるにはただ戦うだけでは足りない。


 武具や馬具の手入れもできなければ一人前の騎士とは言えない。


 和彦は一歩下がって、ここは鍛冶場の親父に任せる。


「いいか。ピカピカに磨くんだぞ」


 鍛冶場の親父はダミ声で少女達を指導する。


 少女達はサビと汚れでくすんでしまった盾を鏡のようにピカピカになるまで磨いていく。


(流石にこれは差がつかないか)


 和彦達は少女たちが磨く盾を見ながらそう考えた。


 しかし一本の盾の前に来たところで和彦はハッとした。


 他の娘達がまだ半分も終わっていないのに、その盾だけ既に磨き終わっている。


 しかもその盾はまるで新品同然のようにキラキラに磨かれていた。


「おい、親父。これをやったのは誰だ?」


「ああ、それは……」


「その盾を磨いたのは私です。領主様」


 和彦は声の方を振り向いた。


 そこには村娘にしては妙に淑やかな雰囲気の少女がいた。


「どうぞ。領主様」


 少女は恭しく跪いて、少し首を傾げながら、手に捧げもった剣を和彦に差し出す。


 どういうわけか彼女は和彦の剣を持っていた。


「領主様の剣も磨いておきました。お受け取りください」


 和彦は剣を受け取った。


 抜いてみると異様に丁寧に磨かれている。


 新品同様どころか、以前よりも鋭くなっているような気さえした。


「えっと、今日の課題は盾だけだったと思うんだけど……」


「時間が余りましたので、領主様の剣も磨かせていただきました」


(他の娘の二倍以上の早さで終わらせたってことか)


 和彦は改めて剣の刀身を眺める。


 突貫工事でやったとは思えないくらい、剣はピカピカに輝いていた。


「申し訳ありません。出過ぎた真似だったでしょうか?」


「いや、助かったよ。ありがとう。君の名前は?」


「クレアと申します」


 彼女は上品な笑みを浮かべながら言った。


 その柔らかな物腰といい柔和な表情といい、彼女は騎士というにはあまりにも優しげな雰囲気を持っていた。




 飛び道具の実習。


 設置された弓道風の的に少女達が短剣ダガーを投げていく。


 飛び道具なんて扱ったことのない少女達は、的に向かって短剣を投げるものの、明後日の方向に飛んで行ってしまう。


 場合によっては、的まで届くことなく地面に落ちてしまう。


 彼女らには三本ずつ短剣ダガーを与えたが、三本とも的に当てられる少女は一人もいなかった。


(こればっかりは俺も教えられないからなぁ)


 和彦は少女達のぎこちないフォームを眺めながら肩をすくめる。


 その時、複数の短剣が同時に的に当たる音がした。


 和彦が見ると、的には三本の短剣ダガーが刺さっている。


 それも全て中央の黒丸に刺さっていた。


(気のせいか? 今、三本同時に当たる音がしたような……)


 和彦が投げた人間の方を見ると、そこには狐色のツインテール少女がいた。


 和彦が自分を見ているのに気づくと、彼女もこちらに向かって微笑んで見せる。


 ツインテールの似合う愛らしい容姿に反して彼女の笑みは異様に大人びていて、妖艶だった。


 和彦の背筋にゾクッと悪寒が走る。


(なんだ、こいつ)


「ドロシー」


「はい?」


 和彦は傍にいたドロシーに声をかける。


「今、短剣ダガーを投げてたあの子のことなんだけど名前知ってる?」


「ああ、イルザですよ」


「イルザ?」


「ええ、大人びていて、とても聞き分けのいい子ですよ」


(イルザ……。本当にただちょっと大人びているだけか? 今の悪寒は一体。一応注意しておくか)




 こうして騎士団学校1日目は終わった。


 訓練を終えた彼女らは、『見習い騎士』用に建てられた宿舎に引き返す。


 その宿舎で提供される食事と寝室は、貧しい家の出である彼女らにとっては、あまりにも居心地の良いものであった。


 彼女らは領主の言っていた、『それなりの待遇』とはどういう意味かを理解した。


 これらの特別待遇は、彼女らに領主への感謝の気持ちを植え付けると同時に、領主に仕える騎士としての自覚を育んでいった。


 ドロシー、ノエル、ユリア、クレア、イルザの5人は和彦によって『スキル開発』されたため、『領民のステータス』にステータスが解放された。



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 騎士団1日目 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲


【ドロシー】

 ジョブ:見習い騎士LV1

 攻撃力:10

 防御力:10

 素早さ:10

 魔法 :0

 スキル:『指揮1』


【ノエル】

 ジョブ:見習い騎士LV1

 攻撃力:12

 防御力:5

 素早さ:11

 魔法 :0

 スキル:『剣技1』


【ユリア】

 ジョブ:見習い騎士LV1

 攻撃力:8

 防御力:12

 素早さ:8

 魔法 :0

 スキル:『馬術1』


【クレア】

 ジョブ:見習い騎士LV1

 攻撃力:6

 防御力:8

 素早さ:7

 魔法 :0

 スキル:『鍛治1』


【イルザ】

 ジョブ:見習い騎士LV1

 攻撃力:9

 防御力:6

 素早さ:10

 魔法 :0

 スキル:『飛道具1』


 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 次回、第24話「強化」

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