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第22話 騎士団学校創設

 メイはいつも通り朝の魔石採取を行なっていた。


(今日は見つからないなぁ魔石)


 メイは少ししょんぼりしながらうろつく。


 そうこうしているうちにお昼ご飯の時間になってしまう。


(しょうがない。帰ろ)


 メイが帰宅の途につこうとした時、森の木立の間に銀色の光が瞬いていた。


(あれは……)




 和彦は騎士団創設に向けて予算を編成していた。


(うーん。騎士団創設に必要な初期費用が10万リーヴ。年間の維持費が騎士一人につき1万リーヴってところか)


 和彦は書類を前に腕を組みながら難しい顔をしていた。


(どうあがいても費用が足りない)


 領民がジョブ『騎士』を取得するために満たさなければならない条件は二つある。


一つは領主からの任命を受けること、そしてもう一つは『騎士』として必要な装備を整えることだった。

 馬はそれ自体高価な上、手入れと飼育にもお金がかかる。


 鐙や拍車、吊る革、蹄鉄なども仕入れなければならない。


 スローザ領の領民にこれだけの維持費を支払うお金が工面できるとは思えない。

 

 なのでこれらの費用は和彦持ちということになる。


 この世界の一年は4ヶ月。


 現状、和彦の収入では1ヶ月に24.5万リーヴの利益が出る。


 年間に換算すると98万リーヴだ。


 何をどうあがいても100人も騎士を雇うことはできない。


「ま、いいや。馬や金のかかる武具鎧の購入は後回しにして、とりあえず人員の選定だけでもしておくか」


『騎士育成手引書(非売品)』という本によると、騎士になる前段階に『見習い騎士』というジョブがあるらしい。


 これなら馬や馬具を揃えなくても認定することができる。


 それなら低コストで騎士の訓練を課すことができる。


『騎士』となる前にステータス上げと、ジョブスキルを身につけておくことができるというわけだった。


(今の俺には『スキル開発』と『スキル管理』がある。これを使ってとにかく適当に集めた若いやつから騎士の才能のある奴を見出すことくらいはできるだろ)


 和彦が『領民のステータス』を開くと現在、20歳以上の成人で騎士系のスキルを身につけているものはいない。


 とにかく10代の若者を集めて騎士の才能を持つ者を見出すしかなかった。


(集めるだけなら衣食住の費用だけだからな。そこで一人一人の才能を見極めて選抜し、集中的に教育する)


 和彦は鈴を鳴らした。


 すぐに執事がやってくる。


「お呼びでしょうか」


「騎士団の学校を創設しようと思う」


「騎士団の学校……でございますか?」


「ああ、先日魔族が現れたのもあるしそろそろ本格的に騎士団の創設に力を入れようと思ってな」


「なるほど」


「というわけで将来の騎士となる資質のある若者を候補者として集めたい。10代ならとにかく誰でもいいから集められるだけ集めるようお触れを出してくれ。貧しい家庭なら一人や二人いるだろう。衣食住の世話をするってお触れを出せばやってくる奴もいるだろう。とりあえず第1期生として30人ほど集めたい。そうだな。それぞれの村から5人ずつ集めるのを義務とするように。手配してくれ。それと騎士団学校に入学する『見習い騎士』が寝泊まりするための宿舎を建てる建築家と、『見習い騎士』用の武器を作る鍛治師も集めろ」


「かしこまりました」


 執事が立ち去ると和彦は憂鬱そうに机の上で手を組みため息をついた。


「今年の目標は騎士30人の育成。初期費用10万リーヴに、年間、30万リーヴかぁ」




 和彦が書斎で仕事をしているとドアがノックされる。


「領主様。よろしいですか?」


 メイの声だった。


「どうぞ」


「よいしょっと」


 和彦が入室を許可するとメイが重そうな金色の槌を持って入室してくる。


「メイ。それは……」


「森に落ちてました」


「それって例の魔族が持ってたやつだよな?」


「はい。魔族のえーっとなんておっしゃいましたっけ。とにかく領主様が瞬殺された魔族の方が持っていたものです。魔族の所有する不吉なアイテムかもしれないので、司祭様でもある領主様にお届けしなければならないと思いまして」


「うむ。受け取ろう」


 和彦は『ゴブニュの槌』を受け取った。


(まだ原型を留めていたのか。あれだけの竜巻に巻き込まれたっていうのに全然、破損していない)


 和彦はゴブニュの槌の柄から打撃部分まで指でなぞる。


 こうしてなぞっているだけでも凄まじい魔力を感じさせた。


 なんだかんだ言って魔族の貴人が所有する強力なアイテムであることが分かる。


(あの魔族、確か魔石をこの槌で変形させてたよな。これを使えば魔石の加工ができるかも)


「メイ。お手柄だ。ありがとう。わからないけれどきっと何かの役に立つと思う」


「はい」


 メイは和彦に褒めてもらえて嬉しそうにはにかんだ。




 和彦は早速、『ゴブニュの槌』について『魔族のアイテム百科』という本で調べてみた。


『ゴブニュの槌』は魔神ゴブニュが作り出したアイテムの一つ。

 あらゆる鉱物を本人の思うがまま自在に変形させる効力がある。

 それに例外はない。

 どんな鉱物でも本人が頭の中で思い描いたイメージの通りに変形させることができる。

 加工系アイテムの中では現存するアイテムの中で最も性能が高いと言われている。


(ふむ。試してみるか)


 和彦は始まりの街で買っておいた『魔石加工・初歩』の本を開いてみる。


 今自分の所有している魔石の目録と見比べながら、作成できるアイテムを探してみる。


 すると『魔石加工・初歩』に掲載されているアイテムのほとんどが作成できることが分かった。


(作ってみるか)


 和彦は『魔石加工・初歩』に載っているアイテムの一つ『グラヴィトンの剣』を作ってみることにした。


『グラヴィトンの剣』は振り下ろす際に通常以上の重力が加わり、攻撃力が増す剣だ。


 材料は『アムの魔石』と鉄の剣。


アムの魔石』1ジェムを正八面体に加工した上で独自にデザインされた鉄の剣に嵌め込まなければならない。


 和彦は『アムの魔石』を机の上に置いて本に載っている正八面体を頭の中でイメージし、軽く叩いた。


 すると『アムの魔石』は和彦のイメージ通り、1ジェムだけこそげ落ちて、正八面体に変形する。


「おおーできた。案外簡単だったな」


 和彦は正八面体の出来栄えを確かめるように手元で弄んだ。


「あとはこれをスタンダードな鉄の剣にはめ込むだけだな」


 和彦は鈴を鳴らした。


 やってきた執事に村の鍛冶屋を呼ぶように言う。




「どうもお世話になっております」


 商人はいつも通りの愛想笑いを浮かべながら和彦と面会した。


「菜種の栽培は思った以上に上手くいっているようですね。ここに来るまでにも未開発地域の方を見て来ましたが、見事な菜種が咲き乱れていました。この分なら事業は軌道に乗りそうですね」


「ああ、いつも通り買取を頼む」


「もちろんですとも。こちらこそよろしくお願いします」


「ところで相談なんだが、我が領内でもそろそろ騎士団を創設しようと思っていてな」


「騎士団ですか?」


「ああ、今、領土内の若いやつから適切な人材を選定しているところだ」


「ふむ。いよいよというわけですな。もちろんウチとしては領主様の意向に沿って武具や鎧、馬と鐙を供給させていただきますよ。ただそれなりに値は張りますがね」


「う、やっぱりか」


「馬は大変貴重でございますからね」


 商人はおおよその見積もりを言ってみた。


 和彦の計算とほぼ同じくらいだった。


「領主様。私が言うのもなんですが、今すぐ騎士団を創設するのには無理があるのではないですか? せめて荒廃領土の開発が終わってからでないと……」


「ああ、分かってるよ。今すぐどうこうするつもりはない。ただ一応心の準備だけはしてもらいたいと思ってね」


「なるほど。分かりました。私もできる限りの協力はさせていただきます」


「それはそうと見て欲しいものがあるんだ」


 和彦は『グラヴィトンの剣』を持ってこさせる。


「これは『グラヴィトンの剣』ですか?」


 商人が驚いたように言った。


「ああ、自前で作ってみた」


「この領土で?」


「ああ、魔石ならともかく『グラヴィトンの剣』ならあんたのとこでも卸せるんじゃないかと思ってな。これなら『始まりの街』に持っていくだけで取り扱ってくれる店もあるんじゃないか?」


「確かに。これなら私の得意先の店でも買ってくれるでしょうし、こちらからお願いしたいくらいですが……。いや、しかしこれを作るには魔石と熟練の錬金術師とそれなりの設備が整った工房が必要なはずでは……。一体どうやって」


「それは企業秘密ってやつだ」


 和彦はニヤリと笑ってみせる。


「まさか偽物じゃないでしょうな」


「試してみるか?」


 和彦は剣を取り上げて傍の大理石に突き刺してみる。


 剣は放っておくだけで重みを増していきズブズブと沈んで行く。


 和彦は剣を引き抜いて鞘に戻す。


「すごい。本物の『グラヴィトンの剣』じゃないですか」


 商人は驚嘆の声を上げる。


「もし商人さんさえよければだけれど、値段次第では毎月、定期的に納品することもできると思うよ。毎月、150本納品、15万リーヴでどう?」


「分かりました。ちょっと待ってください。至急、得意先の方に問い合わせてみますので。この剣をサンプルとしてお預かりしてもよろしいですか?」


「ああ、ぜひ、持って行ってくれ」


 商人は善は急げとばかりに早々とスローザ領を去り、『始まりの街』に向かうのであった。


(『アムの魔石』は毎日1ジェム増えるから原料費はほぼ0リーヴ。魔石を『ゴブニュの槌』で叩くだけで毎日、1000リーヴ丸儲けだ。ふぅ〜。これで騎士団にかかる費用も工面できそうだな。後はどんな奴が集まるかだけか)




 翌日、騎士団学校の第1期生となる生徒達が集まった。


 領主の館の庭には25人の若人が集まっている。


 和彦はそれを書斎の窓から見て顔を引きつらせていた。


(女子しかいねーじゃねーか)


 集まった25人はいずれも年頃の少女ばかりだった。


「領主様。25人の生徒招集完了いたしました」


 執事が書斎に入って来て言った。


「完了しましたじゃねーよ。これどういうことだよ」


「は? 何か問題がございましたか?」


「お前、騎士って言ったら戦士だぞ。馬に乗って戦うやつだぞ。なんで女の子しかいねーんだよ。親も何考えてんだ」


「どうも領民達は男子を手放すのが惜しいようですな。男手は働き手であると同時に跡取りでありますから」


「いやだからって……」



 和彦は窓から庭に集まった少女達を眺める。


 彼女らは一体なぜ自分が集められたのかも分からずにおしゃべりに興じている様子であった。


 和彦はまだまだ前途多難に満ちた道のりであることに思い至ってうなだれるのであった。



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領主77日目 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲


 ・ゴブニュの槌を手に入れました。

 ・『アムの魔石』を1ジェム消費しました。

 ・『見習い騎士』用の騎士団創設の初期費用に10万リーヴ支払いました。


【資産】

 穀物:32万5千ノーラ(↓6千)

 貨幣:2万リーヴ(↓10万リーヴ)

【魔石】

 ルネの魔石 :3個、232ジェム(↑3)

 レドの魔石 :2個、56ジェム(↑2)

 ディゴの魔石:2個、71ジェム(↑2)

 アムの魔石 :5個、124ジェム(↑4)

【領地】

 総面積:100万エーヌ

 穀物畑:45万エーヌ

 菜種畑:5万エーヌ

 未開発:50万エーヌ

【領民】

 総人口:3000人

 開発済みの土地:1000人

 未開発の土地 :2000人

【スキル】

 『文字解読10』

 『スキル開発1』

 『スキル管理1』


 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ 勇者64日目 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 ・特に無し


【ステータス】

 レベル1

 攻撃力?

 防御力?

 素早さ?

 体力?

【スキル】

 『回避』

 『重心斬り』

【アイテム】

 『勇者の剣』



 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ 風の司祭3日目 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


【スキル】

 『最上級風魔法(ジムナクト・エル)

 『強風』

【精霊】

 風の精霊1体

【建築物】

 風車6台



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領民のステータス ▲ ▽ ▲ ▽ ▲


【メイ】

 ジョブ:メイド

 レベル:1

 攻撃力:1

 防御力:1

 素早さ:1

 魔法 :0

 スキル:『アイテム収集2』



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 次回、第23話「騎士の適正」

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