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第20話 憎悪の歴史

「魔族? 魔族っていうと要するにゴブリンやオークみたいな?」


「いや違う。ゴブリンやオークは魔物だ。奴らは人間に敵意を持っているとはいえ、所詮本能のまま行動している野生の動物に過ぎん。。魔族というのは、人間同様都市に住み、文明を育み、そして軍団をもって人間に敵対してくる歴とした知的生命体だ。ダンジョンを作って魔物の養成をしているのも奴らに他ならない」


「魔族……」


「奴らはただただ明日の糧のために冒険者を襲う魔物と違い、人間の支配を企んでいる。自分達が人間よりも高等な生物だと思っているのだ。精霊の教えさえ滅ぼせば、人間を支配できると思っておる。自分達に頭痛をもたらし、人間に加護を与える精霊さえ駆逐すればな。そして実際に人間離れした力を持ち、魔法も放ってくる。外交や通商すら駆使してくるのだ」


「……」


「先日、ルールズベリで大きな会戦があった。人対魔族の趨勢を決める戦いといっても良い。我々が圧倒的に不利かと思われたが、奇跡的に大勝利を収めた。魔族軍は将軍アスモデウスが討たれ、大崩れした。軍の中にはハーゲンティという魔族きっての貴族がいたのだが、そやつの死体がまだ見つかっていない。魔具『ゴブニュの槌』を身に付けているため、戦場で死んでいれば必ず見つかるはずだ。魔族側はハーゲンティの身柄を解放するよう我々に求めているが、我々もハーゲンティの身柄など拘束していない。つまり戦場の混沌のせいで行方不明というわけだ。どこに行ったのかと思っていたが、まさかこんな所に潜り込んでいたとはな」


「なんでそんな奴がこんな所に。ルールズベリって言えばだいぶ遠くじゃねーか」


「『太古の森』を渡って来たのかもしれん」


「『太古の森』?」


「ああ、別名、『黒い海』と名付けられるこの森は人族、魔族の関わりなく文明の侵入を拒み続け、そこには原始世界が広がっているという。『黒い海』はここ〜世界に大河のように隅々まで行き渡っている。入ったら最後、永遠にさまよい続け、挙げ句の果てには、原始生物によって骨まで食われてしまう。そんな『黒い海』だが、ハーゲンティが運良く超えて来たのだとしたら……はるか遠くの戦場からここスローザ領まで辿り着いたとしても不思議ではない」


「チッ。マジかよ。そんなヤバい奴がこの領内に。こうしちゃいられない早速討伐隊を編成して……」


「和彦。ハーゲンティには手を出すな」


「はあ? 何言って……、っ」


 和彦は神官の刺すような視線の前に萎縮した。


 心臓に冷たい刃が触れたような錯覚すら覚える。


 そんな殺意のこもった視線だった。


(こいつ……なんて目を……)


 それは決して相容れない者に向けられる強い憎しみのこもった目だった。


「ハーゲンティはワシがやる。もう一度言うぞ。ハーゲンティには手を出すな」


「……」


「しばらく壊れた風車には誰も近づかんよう御触れを出せ。外出も控えるようにな」


「おい。まさか一人で戦うのか?」


「当たり前じゃろ。奴は精霊の教えの敵、見過ごすわけにはいかんし、ペーペーの新人司祭を戦わせるわけにもいかん」


 そう言った頃、神官からはすでに先ほどの殺気は消えていた。


 いつもののんびりした調子に戻っている。


「では頼んだぞ」


 神官は風車の奥にある森、おそらくハーゲンティが逃げ込んだであろう場所へと立ち去って行く。




「見てください。領主様」


「おいおい。これ全部魔石か?」


「はい。ここには沢山落ちているようです」


 メイはウキウキしながら言った。


 避難勧告と外出禁止令を一通り出した和彦はメイと一緒に壊れた風車とは反対側にある湖に来ていた。


 ここなら魔人の脅威に晒されることも無いだろう。


「ハハ。スゲーな」


 和彦は石を拾って削り、その魔石の光沢や純度を調べた。


(これはさすがに使えねーな。とはいえ、こんだけあれば大粒のものも必ず見つかるはず。漁ってみる価値はあるかもな)


「メイ。大粒のものを見つけるんだ。魔石部分の比率が高いものを見つけたいんだが、出来るか?」


「はい」


 二人はしばらく魔石を探し回った。


 メイが手触りで判断し、和彦が使えるかどうか確認する。


 この作業を繰り返して行く。




「三つか。まあ上々だな」


「ハイ」


 和彦の袋には『ルネの魔石』100ジェム、『アムの魔石』20ジェム2個が入っている。


(あとは本当に加工と販路の確立だけだな。それさえ出来れば大幅に財政状態が良くなるんだが……)


「領主様」


「ん? どうした?」


「神官様は大丈夫でしょうか」


 メイが心配そうに尋ねてくる。


 和彦も神妙な表情になった。


「さあな。魔族っていうのがどれほどのもんかよく分からないし、あの女の強さもよく分からない」


「とても戦いに向いてる人には思えませんでしたが……」


「そうだな。あんな中学生みたいな体つきで化け物と戦えんのかよって思うよ。でも……」


 和彦は思う。


 あの目。


 オークを前にしても奮い立つことができた和彦をもってしても萎縮させたあの殺意の篭った目。


(あんな目をした奴見たことない)


 和彦は思い出してついつい震えてしまう。


(一体何歳だか知らねーけど、どれだけの憎しみを抱えたらあんな目ができるんだよ)


 和彦は大して深く知らないながらも人族と魔族の間の確執の深刻さについて考えざるを得なかった。


「領主様? どうかなさいましたか?」


「えっ、あ、いや。まあ、あいつ一人でやるって言ってるんだし、任せとけばいいさ」


「そうですね」


 二人は少しの間、お昼ご飯のサンドイッチを食べて、休憩した。


「領主様。領主様は風の司祭に就任なさったんですよね」


「ああ、まあな」


「では魔法を使えるんじゃないですか?」


「んーまあそうだな」


「では風車を回してみてくださいませんか。私、風車が速く回転した時に見える精霊が見てみたいです」


 この領地に伝わるの言い伝えの一つだった。


 普段は人前に姿を表さない風の精霊だが、強風の日、風車の回転が一定速度を超えると風車のそばに近寄って、風車の立てる音に聞き耳を立てるという。


「そうだな。気晴らしにやってみるか」


 和彦は近くの風車に向かって魔法を放とうとする。


『ルネの魔石』を握り締め、風車の方に体を向けて見据える。


 和彦は自分の足元から風車に向かって風が巻き起こるのをイメージする。


「いくぞスキル『強風』!」


 和彦が呪文を唱えると和彦の周囲から風が巻き起こり、近くに生えている草花が揺れ動く。


 風は集まって強くなり、風車の方に向かって行く。


 風車は先ほどよりも早くグルグルと回り始める。


「わー、凄いです。領主様」


「おお。初めてだけど。案外出来るもんだな。あ、今、精霊見えたかも」


「えっ。ウソ。どこですか?」


「ホラ。あそこ。人型っぽいの。あ、消えた」


「えー、私も見たかったです」


「アハハ。残念だっ……」


 グルオアアアアア!


 突然、雄叫びが周囲に響き渡る。


 人とも獣とも思えない禍々しい咆哮だった。


 大気が震え、大地と草花まで揺れているかのように感じる。


 和彦とメイは思わず耳を塞いだ。


(っ。なんだ? この叫び声はっ)


「貴様かぁ。あの風車を建てた司祭は!」


 森の中から牛の頭、人間の体、コウモリの羽、悪魔の尻尾を生やした化け物が出てくる。


(まさか。こいつが魔族?)


 和彦はその異様な迫力に目を見張った。


 筋骨隆々の体つきは3メートルはあり、尋常ではない怪力の持ち主であることが分かる。


 身につけている胴当てと防具は長い敗走期間のためボロボロだが、 銀色の輝きを放つ槌はホコリひとつ被っていない。


 その様子からあれが神官の話していた『ゴブニュの槌』だと分かる。


「クソッ。こっちに来ていたのかよ」


 ハーゲンティは槌を傍の巨岩に叩きつけた。


 岩は一部を蒸発させたかと思うと、グニャリと曲がり、ペチャンコにひしゃげてしまう。


(なんだ。あの槌。あっさりと石を溶かして……)


 この辺りには魔石がたくさん転がっているはずだった。


 魔石はどんな高熱に晒されてもその原型を失うことはない。


 魔石の形を変えることができるのは熟練の錬金術師が扱う槌のみ。


 それも1日に何回も叩くことでようやく自分の思い通りの形に変えることができるのだ。


 しかし、ハーゲンティは一撃で岩を薄い金属板にしてしまった。


 あの槌には尋常ではない魔力が込められているに違いなかった。


「小僧! 三十三個の魔軍を率い、魔界第48位の位階を持つ私に喧嘩を挑もうとはいい度胸だ」


「俺は別にそんなつもりは……。ただ領土統治の一環として風車を建てただけで……」


「貴様がどういうつもりかなど、問題ではない!」


 魔人は傲然と言い放った。


「小僧。貴様は知ら布かもしれんがな。魔族と人間はお前ごとき生まれる1000年以前から、血で血を洗う争いの歴史を繰り返してきたのだ。貴様には分かるまい。魔族と人間によって積み重ねられた血と怨嗟の歴史。その重みが! あの風車!」


 ハーゲンティは風車を指差した。


「あの風車を回した時点で貴様は軽率にもこの血の歴史に踏み込んだのだ。私にはあの風車から聞こえる。同胞の無念と怨嗟の声が! 精霊の教えに従うなら貴様も私の敵だ! 同胞の仇だ! 我が一族の憎悪、貴様の死をもって贖ってもらうぞ」


「うっ」


 和彦はついつい及び腰になり、あとじさりしてしまう。


 大気を揺るがす魔族の咆哮、積み重なった歴史の怨嗟、そして魔人の自分を睨みつける目。


 その目は神官が和彦に向けた刺すような視線と全く同じものだった。



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領主76日目、その2▲ ▽ ▲ ▽ ▲


・『ルネの魔石』100ジェム、『アムの魔石』20ジェム2個を手に入れました。


【資産】

 穀物:33万1千ノーラ

 貨幣:12万リーヴ

【魔石】

 ルネの魔石 :4個、392ジェム(↑100)

 レドの魔石 :2個、54ジェム

 ディゴの魔石:2個、69ジェム

 アムの魔石 :5個、120ジェム(↑40)

【領地】

 総面積:100万エーヌ

 穀物畑:45万エーヌ

 菜種畑:5万エーヌ

 未開発:50万エーヌ

【領民】

 総人口:3000人

 開発済みの土地:1000人

 未開発の土地 :2000人

【スキル】

『文字解読10』

『スキル開発1』

『スキル管理1』



 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ 勇者63日目、その2▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 ・特に無し


【ステータス】

 レベル1

 攻撃力?

 防御力?

 素早さ?

 体力?

【スキル】

 『自動回避』

 『重心斬り』

【アイテム】

 『勇者の剣』



 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ 風の司祭2日目、その2 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



【スキル】

 『最上級風魔法(ジムナクト・エル)

 『強風』

【精霊】

 風の精霊1体

【建築物】

 風車6台



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領民のステータス ▲ ▽ ▲ ▽ ▲


【メイ】

 ジョブ:メイド

 レベル:1

 攻撃力:1

 防御力:1

 素早さ:1

 魔法 :0

 スキル:『アイテム収集』LV2



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 次回、第21話「魔族との戦い」

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