第18話 風の司祭
和彦はメイの持って帰って来た魔石を一つ一つ机の上に置いた。
『炎の魔石』30ジェム、『水の魔石』40ジェム、『風の魔石』20ジェム、『土の魔石』30ジェム。
レドの魔石は暖炉で火に入れて、ディゴの魔石は清らかな水に入れて、ルネの魔石は月明かりに照らして、土の魔石は肥沃な土の中に一日中入れることで、それぞれ増殖していく。
(全部で12万ノーラか。7日で12万リーヴ。メイ一人でこんなに稼げるなんて。もの凄い成果だ。後はいかにして販路を確立するかだな。いや、しかしここまで上手くいくとは)
和彦がメイの生産性を評価しているとドアがノックされる。
「領主様。よろしいですかな」
執事のベヤの声だった。
「どうぞ」
「風車の修復?」
「ええ。タペルの村(未開発の土地)にある風車の羽が折れてしまったとのことで」
「そう言えば風車あったな。あれって何に使ってるの? 領民はよく風車に並んでるけど……」
「風車は小麦を挽くのに使われております」
「小麦を……」
「風車には宗教施設としての役割もあります。我がスローザ領は風の精霊を信奉しておりますため、風車を使って小麦を挽くことには風の精霊への感謝の気持ちも含まれているのです」
「そうか。それなら風車はすぐ直さないとマズイな。領民達の心の拠り所なわけだし。ん? ちょっと待って」
「はい。なんでしょう」
「宗教施設ってことは定期的に訪れた方がいいよね」
「そうですな。毎週、日曜日には感謝の印に訪れるのが習わしです」
「でも俺は一度も訪れてないよね。領主に就任してから三ヶ月以上経つのに」
「そうですな」
「それってかなり外聞悪いんじゃないの?」
「まあそうですな」
「なんで言ってくれなかったんだよ」
そう言うと執事はハッとした。
「申し訳ありません。てっきり知っているものかと」
「いや、でも不信心なことやってるんだから注意してくれても……」
「前領主様があまり参拝に熱心な方では無かったので。てっきり領主様も同じ理由で訪れないのかと」
和彦は溜息をついた。
「あー。分かった。とにかくその風車の修理は俺の方でやっとくから。もう下がっていいよ」
「は」
「やれやれ」
和彦は書斎に置いてある風車についての文献を漁り始めた。
和彦は風車の直し方、それに伴う宗教儀式、この領地と風車の歴史について調べ始めた。
『精霊の伝承』には以下のようにあった。
この村が風の精霊を信奉するようになったのは今から300年ほど前、精霊の伝道師が訪れた時にさかのぼる。
伝道師はこの土地が風と相性がいいことに目をつけて、訪れたのだ。
伝道師の助言に従い、村の住人達は六つの風車を建立した。
それを起点に人々が集まり、六つの村ができた。
精霊の教えはこの村に風の司祭を派遣するようになる。
人々は風の司祭に租税を納めるようになったが、たちまち風の司祭と領主は租税の主導権を巡って対立するようになった。
ついに第10代領主は風の司祭を追い出した。
風の精霊を信奉する組織、精霊の教えはこれに対し猛抗議をするものの、この時はまだこの村にも騎士団が健在で僻地だった事もあり、内政に口出しすることはできなかった。
それ以降、この土地では風の司祭が不在のまま人々は風の精霊を信奉するようになった。
そして前領主が領土を引き継ぎ、彼も精霊の教えからの内政干渉を拒否した。
そして和彦が領土を引き継ぎ今に至る。
(なるほどね。そういう成り行きがあったのか)
和彦は『精霊の伝承』を閉じると次は書棚から『精霊の儀式完全マニュアル(非売品)』を取り出す。
そこには風車の設備において重要な宗教上のポイント、風の司祭が行なっていた儀式のポイント、参拝の時間とその様式、衣装、修繕時の参拝の際の普段の参拝と違うところなどなど、こと細かく書かれていた。
和彦は鈴を鳴らした。
ドタドタと足音を立てながら執事がやってくる。
「お呼びでしょうか領主様」
彼はヒゲに肉汁をつけながらやってきた。
「仕立て屋と木こり、大工、村一番の年寄りなど、風の精霊に詳しいやつを呼んで。なるべく早くね」
「はっ」
執事は来た時同様ドタドタと帰って行く。
(食事中に呼んで悪いけどさ。もうちょっと気を利かせてくれてもいいと思うんだよなぁ)
風車の修繕はつつがなく行われた。
翌日、再度の運行の儀式が執り行われる。
和彦は朝早くから水で体を清め、この日のために仕立てさせた礼服を着込んで、朝早くから『タペルの村』にある風車まで行進した。
村の人達も付いて来て、いつの間にか行列になった。
多くは年寄りだった。
彼らは和彦が儀式を執り行うのを好意的に見ているようだった。
村の子供達も行列を見て楽しそうに付いて来た。
和彦は風車の前に来ると倉庫から持って来た最も上質で新鮮な麦を風車に捧げる。
精霊への感謝の言葉を述べる。
村人達も和彦に倣う。
やがて全ての儀式が終わり、風車を再び動かし始める。
風車は和彦の捧げた小麦を挽いていく。
挽かれた麦は神の化身であるとされる牛に捧げられる。
(ふう。なんとかやりきったな)
「領主様。後は儀式をやり遂げた者が一人で風車の中に残り、日が暮れるまで祈りを捧げるだけです」
「お、そうか」
和彦は助言に従ってその通りにした。
和彦は祭壇の前に傅いて祈りを捧げる。
始めは苦行に思えた祈りだが、続けているうちに案外心が静かになって来て、悪くない気分になって来る。
(宗教的儀式も悪くないかもな。性に合ってるのかも)
和彦がしばらく祈りを捧げていると施設の中に一陣の風が吹いた。
誰かが和彦の肩に軽く触れる。
「えっ?」
和彦は振り向くがそこには誰もいない。
それもそのはず、和彦の肩に触れたのは風の精霊だった。
風の精霊が肩に触れるのはその者を『風の司祭』と認めた証だった。
その日は強い風が吹いて、風車はいつもより速く回り続けた。
村人達は風の司祭が就任したと囁き合った。
無論、それが誰かは明らかだった。
魔人ハーゲンティは頭痛に苦しんでいた。
傷が癒えかけていた矢先である。
「痛い。なんだこの頭を金槌で叩かれているような痛みは」
ハーゲンティはすぐに異変に気付く。
「風車がいつもより回っている。風の精霊がいつもより活発に活動しているではないか」
ハーゲンティは歯を食いしばって憎しみの目で風車を睨む。
「おのれ人間どもが。戦争で負かし、空腹で森を彷徨わせるだけでは飽き足らず、精霊の力まで使って我を
苦しめるか」
魔人は風車に憎悪の視線を向けた。
『精霊の教え』本部。
とある神官の部屋。
胸騒ぎがした彼女はベランダに立って雲の動きを見つめていた。
空には黒々と雲が垂れ込めており、今にも嵐が来そうだった。
ふと、唐突に空に旋風が立って雲の流れが乱れる。
彼女は目を細めてその動きを見つめた。
「風の司祭が新しく立ったか。あの方向は……スローザ領」
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領主69日目〜75日目 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
・風車の修繕に10万リーヴ使いました。
・メイが『アムの魔石』20ジェムを手に入れました。
【資産】
穀物:34万ノーラ(↓4万2千)
貨幣:12万リーヴ(↓10万)
【魔石】
ルネの魔石 :3個、289ジェム(↑21)
レドの魔石 :2個、52ジェム(↑14)
ディゴの魔石:2個、67ジェム(↑14)
アムの魔石 :3個、77ジェム(↑34)
【領地】
総面積:100万エーヌ
穀物畑:45万エーヌ
菜種畑:5万エーヌ
未開発:50万エーヌ
【領民】
総人口:3000人
開発済みの土地:1000人
未開発の土地 :2000人
【スキル】
『文字解読』LV10
『スキル開発』LV1
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ 風の司祭1日目 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
・風車の司祭に就任しました。
【スキル】
『低級風魔法』
『強風』
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領民のステータス ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
【メイ】
ジョブ:メイド
レベル:1
攻撃力:1
防御力:1
素早さ:1
スキル:『アイテム収集』LV2
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次回、第19話「訪れた神官」




