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第17話 魔族

 和彦が館に帰還した頃と時を同じくして、一人の魔人が深く暗い森を彷徨っていた。


 太陽の光が一切届かないその森には、樹齢二千年以上の大木が立ち並ぶ太古の昔から存在する森だった。


 人の胴体に牛の頭をした、その魔人の名はハーゲンティ。


 本来、彼は魔族の中でも貴人の地位に属する者であり、領内には何十もの一族郎党、何百もの兵士、そして何万人もの奴隷に囲まれる彼であったが、今は誰一人従者をつけることなく、一人暗い森の中を彷徨っている。


 彼がこんな羽目に陥っているのは他でもない。


 人間との戦争に敗れたためだった。


 魔界と人界の境界線であるルールズベリ領において人間と魔族の間で戦争があった。


 スローザ領から遠く離れたこの土地において起こったこの戦争は、軍勢の数、兵の質、軍事魔法の質、いずれをとっても彼我戦力差は明らかで、魔族の圧勝となるはずであった。


 これにより長きに渡る人間・魔族間の戦争は一気に魔族側有利に傾くはずであり、ルールズベリの城壁を突破した魔族軍によって、人間側の領地は思うがままに蹂躙されるはずであった。


 ところがちょっとした運命のいたずらが起こった。


 天候がにわかに変わり、嵐が吹き荒び、魔族軍に襲いかかった。


 それに乗じた人間達はにわかに勢いを得て、魔族軍の陣列を乱し、魔族軍の総大将アスモデウスを討ち取ってしまった。


 意気揚々と勝ち戦に出かけたはずの魔族軍は、一転、敗走を余儀なくされる。


 魔族軍の前衛に布陣していたハーゲンティの軍も人間達による執拗な追撃にさらされ、壊滅的な損害を受ける。


 ハーゲンティは自分を守っていた部下達ともはぐれてしまい、愛馬すらも失って森の中に迷い込んでしまう。


 全ての部下を失い、単騎となった後も人間によってしつこく矢衾やぶすまを浴びせられた彼は、深手を負い、命からがら太古の森へと逃げ込んだ。


 彼の受難はこれで終わらない。


 あらゆる生物の方向感覚を狂わせるこの森はハーゲンティを密林の中に閉じ込める。


 彼は人間の追撃をかわす代償に、あてどもなく森を彷徨い歩く羽目になったのだ。


 そして彼は三日三晩飲まず食わずで歩き回り、今に至る。


「おのれ人間どもめ。なぜ私が、魔王の子孫にして、33個の魔軍を率い48の位階を受け継ぐこのハーゲンティが、なぜこのような仕打ちを受けなければならんのだ。覚悟しておれよ人間ども。この報い必ずその身であがなってもらうぞ!」


 ハーゲンティはズシンという巨大な足音を聞いてビクリとする。


 太古の生態系を保ち続けるこの森には熟練の冒険者、叡智を持つ魔導師、百戦錬磨の勇者、そして強大な魔力を持つ魔人でも決して敵わない原始魔獣が棲息している。


 彼らに鉢合わせすれば何人たりとも生きて森から出ることは叶わない。


 ましてや手負いのハーゲンティであればなおさらである。


 ハーゲンティは急いでその場を離れ、当て所もない森の放浪を続けた。


「クソッ。どこまで行っても森が続く。このままでは飢え死にしてしまうぞ。魔王の血を引く我が飢え死に。そんな惨めなことがあってなるものか」


 ハーゲンティの意識は空腹と出血、傷の痛みで朦朧としていた。


 森の中を彷徨ってはや一週間。


 もはや歩く力も無くなり、木の根っこの上にその巨体を横たえる。


 木の実と野生の動物で食いつなぐのも限界だった。


 いよいよ死を覚悟したハーゲンティだが、ふと木々の間から見える僅かな隙間に立ち上る紫色の煙を見つけた。


(あれは!)


 煙があるということはそこに火を使うものがいるということ。


 魔族かあるいは人間か。


 どちらにしても森から抜けられる可能性が高い。


 希望を得たハーゲンティは空腹も忘れ、最後の力を振り絞って走り出した。




 ハーゲンティが辿り着いたのは風車のある村だった。


 建物は魔界のものと明らかに様相が異なる。


(人間……の村か)


 ハーゲンティは落胆したが、それでも生き長らえる希望を見つける。


 どうも僻地のようだった。


 自分の領地は遥か彼方に違いなく、帰還は困難を極めるだろう。


 しかしこのような小さな村であれば、凄腕の勇者も歴戦の強者もいないだろう。


(一先ずこの村に潜伏しよう。力を取り戻してから魔族の領土まで帰るのだ)


 ハーゲンティは手頃な家屋に忍び込み、貯蔵されていた麦と家畜を持ち出して、再び森の中に隠れた。




 メイは鼻唄を歌いながら、朝の散歩をしていた。


(あっ。あれってもしかして……)


 メイは駆け寄って石コロを拾い上げる。


(やっぱり『ルネの魔石』ほどではないけれど光ってる)


 メイの拾い上げた石は一見ただの石だが、よく見れば赤い光沢を放つ部分が点々とついている。


 磨けば魔石になるだろう。


 メイのアイテム収集の才能は和彦の予想をはるかに超えるものだった。


 朝に二時間散歩を許すだけで、彼女は二日に一個は魔石を見つけけるようになった。


 和彦は驚いたが、メイも驚いた。


 まさか自分にこんな才能があったなんて。


 和彦は午前中一杯使ってメイに散歩するよう命じた。


(領主様のおかげだな)


 彼女の日常は以前とは一変していた。


 毎日がキラキラと輝いている。


 以前から散歩の時間は彼女の唯一の楽しみだったが、それが他人に評価され、給料になるというだけで、より充実したものとなった。


 以前は朝起きるのが億劫で仕方なかったが、今は夜眠る前から朝が待ち遠しくて仕方なかった。


 それだけではない。


 以前は嫌で仕方がなかった暖炉のお掃除も床磨きも比較的楽な気分で行えるようになった。


 朝の散歩時のリラックスして、ウキウキした気分が午後の嫌な仕事をする時にも続くのだ。


 おかげで彼女のミスは減り、女中長にガミガミ嫌味を言われることも少なくなった。


(1日の始めに魔石探しをするだけでこんなに変わるなんて)


「あっ」


 彼女はまた川の近くにキラキラ光るものを見つけた。


 今度は青色だった。


(1日に2個も見つけられるなんて。今日は運がいいわ)


 彼女は今度は早く領主の館に帰りたくなってきた。


 早く和彦に今日の戦果を見せて喜ぶ顔が見たい。


(領主様。褒めてくれるかな)


 メイは来た時よりもウキウキした気分で心持ち早歩きで来た道を引き返し始めた。


 以前は女中長ハウスキーパーの許可を得なければ和彦の書斎のドアをノックすることができなかったが、今は女中長を飛ばして和彦の書斎を訪れることが許されている。


 今から彼女は和彦に報告する昼食時のお茶の時間と、毎日3時に魔石を提出しに和彦の書斎を訪れる時間が待ち遠しくて仕方がなかった。


(早く、領主様にお茶を淹れてさしあげないと)


 もちろん彼女のこの急な変化にもネガティヴな面はあった。


 同僚の嫉妬である。


 以前まで一緒に煤と埃、洗濯物に追い立てられて建物を這いずり回っていた彼女らは、急に領主様のお気に入りになって、書斎に自由に出入りするようになり、お茶の時間も一緒に過ごして、重労働の負担も免除された彼女に嫉妬せずにはいられなかった。


 直接何か言われたり、陰口を叩かれているのはメイも知っている。


 それでも彼女の輝かしい毎日の前にそんなものは些細なことでしかなかった。




 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領主62日目〜68日目 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲


 ・メイが『レドの魔石』30ジェム、『ディゴの魔石』40ジェム、『ルネの魔石』20ジェム、『アムの魔石』30ジェムを持って帰ってきました。

 ・メイのスキル『収集』がレベル2に上がりました。

 毎日、50パーセントの確率でアイテムを拾ってきます。

 ・和彦は領主スキル『スキル開発』レベル1を取得しました。

 メイのステータスが解放されます。


【資産】

 穀物:38万2千ノーラ(↓4万2千)

 貨幣:22万リーヴ

 魔石:『ルネの魔石』205ジェム(↑7)、『レドの魔石』30ジェム、『ディゴの魔石』40ジェム、『ルネの魔石』20ジェム、『アムの魔石』30ジェム

【領地】

 総面積:100万エーヌ

 穀物畑:45万エーヌ

 菜種畑:5万エーヌ

 未開発:50万エーヌ

【領民】

 総人口:3000人

 開発済みの土地:1000人

 未開発の土地 :2000人

【スキル】

『文字解読』LV10

『スキル開発』LV1



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 領民のステータス ▲ ▽ ▲ ▽ ▲


【メイ】

 ジョブ:メイド

 レベル:1

 攻撃力:1

 防御力:1

 素早さ:1

 スキル:『アイテム収集』LV2



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 次回、第18話「風の司祭」

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