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9.おうじょのあい を てにいれた!

魔王妃は地を揺るがす咆哮をあげます。その激しい振動は、魔界だけでなく人間界にまで伝わるほどでした。


「その身をもって償うが良いわ!!」


魔王妃は勇者一行へ向かって炎を吐きました。

ライアンとツバキは身をかわし、ソフィアを庇い抱きかかえたロランごと、ナユユが魔法シールドを張りました。


「くっ、今反撃を・・・!」


攻撃魔法を発動しようとするソフィアは、他の誰も動こうとしないことに驚きました。


「ど、どうしたのよあなたたち・・・!」


「・・・できない・・・」


「俺たちに姫を攻撃することなど・・・!」


「あのドラゴンは、ケイトリンなんだ!!」


項垂れるナユユ、ツバキ、ライアンの脳裏には、在りし日のはつらつとしたケイトリンの姿が浮かんでしまい、とても攻撃できません。


「そんなこと言ってる場合!?いいわ、わたしだけでも・・・っ!」


ソフィアは氷の矢を魔王妃に向かって放ちますが、リリーによって跳ね返されます。


「うわっ!」


「魔王妃様には指一本触れさせませんわ!」


リリーだけではありません。魔王妃の隣には黒騎士アルドリッジも控えています。

ロランたちは強敵を前に、成すすべもありません。

突如、魔王妃の瞳が赤く光り、ロランたちを射抜きました。


「――っ!?」


《ナユユ は いしになった!!》

《ツバキ は いしになった!!》

《ライアン は いしになった!!》


「ロラン、にげ・・・」


《ソフィア は いしになった!!》


「ソフィアぁ!!」


女神シェンの加護を受けた勇者であるロラン以外の全員が、石化されてしまいました。

ここまでロランたちを導いてくれた聡明な賢者は、諦めの表情を浮かべていました。

裏切り者の仮面をつけていたアサシンは、まだ機を伺っているような表情でした。

ひたすらに妹を思う慈悲深い王子は、絶望に歪んだ表情を浮かべていました。

そして、いつだってロランの背中を押し、喝を入れ、元気づけてくれた最愛の幼馴染は・・・


「ソフィアぁ・・・なんで・・・なんでこんなことに・・・」


最期まで、ロランを見つめていました。

ロランの瞳から大粒の涙がこぼれます。


「僕が勇者に選ばれなければ・・・くそぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


叫んだロランから、聖なる光が溢れ、激しい衝撃となって魔王妃たちに襲いかかります。


「なっ・・・この力は・・・!?!」


体の大きな魔王妃は持ちこたえましたが、アルドリッジとリリーはその凄まじさに吹き飛ばされ、壁に打ち据えられ気を失いました。


「・・・決着をつけましょう。」


魔王妃は鋭い爪を構え、ロラン目掛けて振りかぶります。

ロランも剣の柄をぎゅっと握り、魔王妃へ向かって助走をつけ飛び上がりました。


(ダメだ・・・間に合わない!)


ロランよりも動きが早い魔王妃の爪が、ロランの額を貫こうとしたその時、身代わりとなり守るようにサークレットが光を放ち、中央の石が砕けるとその光はどんどん膨れ上がって世界中を包み込みました。


「何なの、この光は・・・!?!」


魔王妃は眩しさに目がくらんでしまいます。ロランも同じで、受け身も取れず床に倒れ込んでしまいました。

すぐ側では、光の力でドラゴンの姿を保てなくなった魔王妃が、人の形へ戻り伏せています。

しばらくして余韻を残しながら光が収まってくると、ロランと魔王妃の間には美しい女神シェンが立っていました。


『もうおやめなさい。』


「女神様・・・!」


『この争いは、本来必要のないもの。かけ違えた釦はかけ直せばいい。』


魔王妃が窓の外を見ると、魔界にも清々しい空が広がっていました。


「瘴気が・・・なくなっている!?」


『私の力で火種は消しておきました。今後人間による邪な思いは、瘴気ではなくH2とO2に分解されるでしょう。魔族の安全な暮らしは私が保証します。』


「あぁ・・・!聞こえる?ヴィンス・・・魔界は守られたんですって・・・」


「ソフィア!!ナユユさん、ツバキさん、ライアン様!!」


魔王妃の魔術で石化されていた人たちは、元の姿を取り戻しました。


「ロラン・・・!一体どうなってるの?」


「僕にもよく・・・。どうやら、これが女神様の加護ってやつみたいなんだ。」


壁際では、光によって傷が癒えたリリーとアルドリッジが支え合って立っています。

まだ奇跡が信じられないという顔をしている全員に、女神はうふふ、と微笑みました。


『人間と魔族における全ての争いは、今、私の名の元に平定します。異論はありませんね?』


「・・・あるわ・・・」


ぽつりと声を上げた魔王妃に、全員が目を向けます。


「争いがなくなったって・・・ヴィンスはもう・・・」


静かに涙を流す魔王妃の前に、女神はしゃがみこみ、小さな子をあやすように頭を撫でました。


『かわいい私の子孫、ケイトリン。私の血を引くあなたなら、小さくても奇跡を起こせるはずです。この、善き心を持つ魔王に、何をしてあげれば良いか、知っているわね?』


「・・・はい・・・」


魔王妃は涙を拭うと、倒れている魔王を抱え起こし、そっと口付けました。

すると、魔王は再び息を吹き返し、眩しそうに目を開けたのです。


「・・・なんだ・・・?寝たフリをしていたのがバレてしまったか・・・」


「・・・バレバレよ。ばかね」


魔族になってしまったアリステニアの王女様は、人間だった頃と変わらず愛らしい笑顔を浮かべました。


---


勇者一行は人間界へ戻り、アリステニアの王と王妃に事の顛末を説明しました。

女神の力添えもあり、魔族と和解したアリステニア王は、自分の娘と魔王の結婚を祝福しました。

やがて治世はオルト王からライアン王の時代となり、各国の王を自慢の話術で説得したライアン王は、世界の半分を人間が、もう半分を魔族が、平等に収める約束を魔王ヴィンスと交わし、それは何百年経った今も、守られています。


一躍、世界を救った勇者となったロランは、故郷の村へ帰り、気が強くてかわいいお嫁さんをもらいました。二人はたくさんの子どもに恵まれ、幸せに暮らしました。


そして魔王妃となったケイトリンは、魔王ヴィンスと愛し合いながら、長い長い年月を共に生きたのち、仲良く眠りについているそうです。



おしまい

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