一般人認定試験
また落ちた。これでもう何回めだろう。数えるのも嫌になる。
一般人認定試験。
たび重なるテロリストの犯罪に業を煮やした政府が、その犯罪を未然に防ぐため成立させた法律「新治安維持法」。その捜査対象から一般人は除外されているが、一般人の定義があいまいだと言う批判から法務省が設けたのがこの一般人認定試験だ。合格率は80%、複数回受験可能。
バカでも受かると言われているこの試験に僕はなぜか合格できない。危険な思想なんて持ち合わせてはいない。友人の友人がテロリストなんてこともない。今日と同じ明日が続けば良いと思っている模範的な一般人だ。
だからこそ憂鬱だ。また親父から怒鳴られるだろう。いつになったら合格するのか、と。母は今度も泣くかもしれない。妹からは「お兄ちゃんが合格しないから私までバカにされる」と非難されるのが目に見える。
僕だって合格したい。早く立派な一般人になって大手を振って歩きたい。「the PUBLIC GENERAL ONLY」と書かれたトイレも使いたい。映画館で「それ以外の方」に行くのはもう嫌だ。
でも、合格しない。
なぜ、なぜ、なぜなんだ。分からない。考えても考えても分からない。
誰か助けて。僕を一般人にして。できることならなんでもする。お願いだ!
……。
そうか、この一般人試験が悪いんだ。僕を合格させない一般人試験が悪なんだ。
そもそもおかしいと思っていた。善良な一般人である僕が合格しないなんて。そんはずは無いんだ。
こんな邪悪な一般人試験を作る政府が悪だ。極悪非道の大罪人だ。この国は悪魔に支配されてしまっているんだ。
ならばどうする。諦めるのか。
いや、僕がこの国を変えればいい。この手で悪魔を倒せばいい。そう、例え、どんな手段を使っても……。
「ピー、試験は修了しました。お疲れ様でした」
気かつくと、僕は小さな部屋の中にいた。目の前にはチカチカ光る機械が動いている。
……そうだ、僕は試験を受けていたんだった。何度落ちたか分からない、一般人認定試験を。
今日こそは合格できただろうか。