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名前の無い少女   作者: 暁 和歌
第1章 魔術具店 クロード屋
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初めてのお客様 前編

「いらっしゃいませ。魔術具点 クロード屋後継ぎのシンハと申します。以後お見知りおきを。待たせてしまい申し訳ございませんでした。以後、このようなことが無いようにいたします」

「オレ、ヒルと言います。よろしくお願いします」

「見かけない顔だな。いつからここで働いている?」


 わたしとヒルの挨拶の違いに驚いたのだろう。平然を装っている瞳の中に驚きの色が見える。

 お客様は、金髪に青い目をしている男性で、顔のパーツがとても整っていた。羨ましい。

 それにしても、貴族の服装をしているが護衛も連れていない。お忍びで来ているのだろうか。


「わたし、ここに居候しているんです。だから、ここに来たのが4、5日前で今日はじめて、お客様の接客をします。なので、色々不十分な点があると思うのですが、ぜひ言ってください。今後のためにも」

「……いいだろう。後継ぎとやらがどれ程できるか知りたいしな」


 注意点は一番最後に言えば良いなと言われた。わたしは緊張で、お腹が痛くなりそうだ。注意点を言うのにその場ではなく、最後というところが。


「では、今日はどのようなご要件でいらっしゃったのでしょうか」


 ちなみに、わたしはおじさんの接客姿を見たことがない。わたしが客として来たときどんなことを聞かれるか想像して言っているのだ。


「今日は、店主に作って欲しいものがあったのだが、ついでに商品も見ていこうか。何があるのだ?」

「店主は今、手が離せないためわたしが案内いたします。こちらへどうぞ」


 わたしは、ヒルを呼んでおじさんを呼んでくるように言う。ヒルは頷くとお客様に一礼して、店の奥へと入っていった。

 わたしは、商品の置いてある戸棚へ歩きだす。この店は小さいわりにところ狭しと商品が並んでいて、大変なのだ。

 端から順に商品の説明をしていく。わたしが来たとき無かった物まであって、いつやっているのか気になるところだ。

 映像を壁に映し出す物、録音する物、食べ物や素材を保存する物等々。新しいもの以外にも改良版もある。ちなみに、どんなものかはわからないので、カウンターのところの引き出しに入っていたメモ用紙を見て言っている。


 (あっ、これわからないや)


 わたしは、わからないものを飛ばして商品の説明を再開する。お客様は、特に気にするようすもなく、商品の説明を聞いている。

 一通り商品の説明が終わると、おじさんとヒルがやって来た。


「どうした、シンハ。……あぁ、いらっしゃっませチャインロイル様。本日はどのようなご用件で」

「今日は、そなたに作って欲しいものがあったのだ。ついでに商品も見ていこうかと思ってな」

「そうですか。シンハ、ヒル。二人とも店の奥へいなさい」






 ハァ、緊張のしすぎで疲れた。

 わたしとヒルは、わたしの部屋に入ってドアを閉めた瞬間へなへなとその場に座り込んでしまった。

 さっき、調合していた時なんか比べ物にならない。お貴族様のお客様を相手にするなんてきつすぎる。予行練習ややり方も教えられずに。

 そういえば、あのお貴族様の名前チャインロイルっていうんだ。おじさんの反応からも常連さんに見えるけど。


「シンハよくあんな受け答えできるな」

「そう?普通だと思うけど」


 ふるふるとヒルが頭を振る。どうやら、平民にとって普通ではないらしい。お貴族様に関わらない平民にとっては、丁寧な言葉遣いは「ですます」以外に使わないそうだ。


 (あぁ、わたしでも貴族の言い回しが難しくて、理解不能な時があるもの。平民には言っていることが伝わらないのも無理ないのか)


 神殿時代に机から逃げ出しても、強制的に貴族の言い回しを教えてくれた側仕えに心からの感謝を送るよ。そして、そのとき頑張ったわたし、えらい!

 あのとき頑張らなかったら、今何を言っているのか、どんな言葉遣いをすれば良いのかわからなかったよ。


「なぁ、今度オレに言葉遣い教えてくれないか?」

「うーん、別にいいけど。わたしよりおじさんに聞いた方が良いんじゃない?」

 

 わたしが教えるよりもおじさんが教えた方が的確だ。ついでにわたしも教えてもらいたい。

 おじさんの忙しさを削減するためにも、はやく仕事覚えないといけないな。


「そうだな、後で聞いてみるか」

「とりあえず、ですますだけは忘れないでね」

「わかったです」

「……そこは、わかりましただよ」


 どれだけの時間がたったのだろう。外はもう、黄昏時になっている。わたしとヒルは話すことも無くなって、ぼんやり窓の外を眺めていた。家へ帰るため急ぐ人、店を畳始めた人。そんな風景を見て、ヒルが立って変える支度を始めた。わたしは、ヒルの支度が終わるのを見て、玄関へと歩き出す。帰る前におじさんに一言言わないとならないため、店の方へ行く。


「おじさん」


 おじさんとお客様は、何かの設計図を見て話し合っていた。

 わたしが声をかけると、おじさんはわたしとヒルを見て、窓の外を見た。


「オレもう帰るんで、さようなら」

「そうか、また明日な」


 お貴族様に一礼して、わたしとヒルは玄関に向かう。


「……あのお貴族様、帰らなくても大丈夫なのか?」

「お貴族様には、私たちにはない帰る手段があるんじゃない」

「そっか、暗くなっても明るかったら良いのにな。……それじゃあまた」

「じゃあね」


 ヒルが見えなくなったため、わたしは部屋に戻ろうと家に入った。店への通路を通るところで、おじさんに引き留められた。


「シンハ。チャインロイル様が用があると言うんだ。こっちへ来なさい」

「はい」


 お客様は、わたしを厳しい目で見ている。どんなことを言われるのかわからないが、逃げられないことはわかる。

 わたしはおじさんとお客様に続いて奥の商談用スペースの机に座った。

 

すいません。接客はシンハ一人でやりました。ヒルにはまだはやかったです。

そんなシンハは、練習なしのぶっちゃけ本番にお腹が痛くなりそう。

これからさらに痛くなりそうです。


次は、後編です。

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