閑話 いつものクロード屋
「行ってきます!」
私はクロード。秋には40歳になるから、今は39歳だ。
朝から、森へ行くのが楽しみでうずうずしていた、シンハとヒルを送り出して、私は店の奥、調合部屋に向かう。
自作した、魔石を入れたナイフを入れたのだが、シンハは気づいていないだろう。
(シュンツェの実が黄色に変わったのを見て、慌てるシンハとヒルの姿が安易に想像出来る)
そう考え、苦笑しながら、魔法薬を作っていく。今作っているのは、魔力と体力を回復させるものだ。明日、シンハに作らせるものは魔力だけを回復させるものだからちょうど良い。
下準備が終わったので、次は鍋にいれて、魔力を込めながら鍋に入った材料を溶かしていく。最後に、呪文を唱える。
「ヒューシェン」
薬が光ったら完成だ。
魔法薬を瓶の中にいれて、片付けをしていると、誰かが来店したことを促すベルの音が聴こえた。
「クロード、久し振りだな。魔術具を買いに来た。何があるか、ちょっと教えてくれ」
「かしこまりました」
私があわてて店に戻ると、そこにはお得意様の、ヒンタンチア様がいらっしゃった。
私は、一つ一つ、どんな魔術具かを教えていった。結果、ヒンタンチア様は改良して、さらに使いやすさのあがった録音する魔術具を買った。
帰ろうと、ドアに向かったヒンタンチア様がこちらへ向いて、真剣な表情で言い出した。
「クロード。私は3ヶ月後クラントールの隣の国、タンレンティアに向かうのだが、一緒に来ないか?」
「勿体ないお言葉にございますが、私はクラントールを気に入っていて、ここで働きたいと思っております。ヒンタンチア様が私のことを大事にしてくださるのは、とても嬉しいのですが、申し訳ございません」
「そうか……ここは、色々な素材があってとても研究しやすい所だからな、仕方あるまい」
ヒンタンチア様は少し寂しそうな顔を浮かべて、店をあとにした。もう、会うことも無いだろう。
私はカウンターについて、二人の仕事内容を考える。
親戚とはいえ、ヒルにはあまり関わっていなかったから、どんな性格かどの程度頭が良いのか私は全く知らない。文字や計算がわからないと言っていたので、基礎から教えた方がいいだろう。
紙に基本の文字と、1から10までの数字を書いたものと石板石筆、計算機を用意する。
(そういえば、ヒルの髪と目の色は、あの伝説の民を思わせるな)
淡い金髪に淡い緑の瞳は、伝説の民族と呼ばれるメレンドの民の特徴だ。メレンドの民のいるメレンドの森は神秘の森とも呼ばれ、地の女神シャントレーナの産まれた地として有名だが、その森へは、メレンドの民しか入れないようになっていて、よそ者が入って来たら、襲われてしまう。そこで、メレンドの長と国王は森との間に境界線を引いて、不用意によそ者が入らないようにしている。
ちなみに、魔力も持っているが、普通の魔術具ではその魔力量は測りきれず、専用の魔術具が必要らしい。
また、全員が美形とか、地の女神の祝福を受けているとか様々な伝説があるが、実際の所は定かではない。
……アニスの息子というのに、親たちと似ている部分は全く無い。でも、アニスが産んだことは間違い無いんだよな
取り敢えずヒルのことは置いといて、シンハのことを考えなければ。
5歳とは思えない3歳に見えるくらい幼いが、雪のように真っ白な髪に宝石のような青の瞳、容貌が整っていて、目上に対する対応もできているため、受付に向いているが、調合がしたいと言うので取り敢えず調合からやるとしよう。
……たった1日で素材が集まるとも思えんし、しばらくはいつも通りの生活だな
「誰か助けてくださーい!」
やることがなくて、暇していた時に外から悲鳴が聞こえた。
何事かと、外へ出てみれば、女性が男性に暴力を振るっていた。
男性は、黒い布で顔を覆っているため、表情は見えないが、指には魔石のはまった指輪を持っていた。
女性の方は、平民の格好をしているが、肌や髪の綺麗さから、そこそこの身分の人に見える。
近くに護衛がいるはずなのだが、見回してみると、黒い布で顔を覆った男達に襲われていた。騎士で手こずっているのだから、ここの領民なのだろう。そして、手練れのようだ。
近くにいた人によると、女性が歩いていたら、いきなり現れて襲い掛かったそうだ。
(下手に手を出すと危ないな)
私は、一旦店に戻り、人を拘束する魔術具と、自分を守るお守りを着けて男達に飛びかかりにいった。
「うおりゃぁぁっ!」
女性男を引き離し、魔術具を作動させ、身柄を拘束する。次に護衛を相手にしていた男にも襲いかかり、身柄を拘束する。
後は、護衛が何とかするだろう。
私は、女性の無事を確認して、店に戻った。
「はぁ、40歳には、きつすぎた」
私が椅子に座って、一息付いてるといきなり声が聞こえた。
「あの、さっき助けてくださったのは貴方ですか?」
さっきの女性が店のドアから顔を出して、尋ねてきた。
私がこくりと頷くと、女性は私の前まで来て丁寧にお礼を言ってくれた。
「さっきはありがとうございました。いきなり襲われたので大変だったのです。わたくし、お店を探して歩いていたのですが、魔術具を売っているお店はこちらだったのですね。買いたいと思うのですが、どんなものがあるのでしょうか?」
「いらっしゃいませ、クロード屋店主のクロードと申します」
女性に一つ一つ、丁寧に機能を教えて、風景を撮って映し出す魔術具を買っていった。
かなり気に入ったので、これからもご贔屓にしてくれると言った。
女性が帰って、しばらくした後、シンハ達が帰ってくるのだが、しばらくいつも通りの日々を送れると思っていた私の予想は外れて忙しくなるとは、全く思っていなかった。
おじさんは、激しい動きをしたお陰で、体のあちこちが痛いのに、翌日から忙しくなります。頑張ってほしいものです。ファイト!