始めての森へ
翌朝、昨日すっからかんだった部屋に買って来た家具類を入れた、わたしのわたしだけの部屋で気持ちよく目覚めた。窓から、晴れた日差しが降り注いでいる。
ベッドから、起きてわたしは、昨日のうちに用意していた森に行くための準備をする。
ワンピースを上からばさりと着て、腰にベルトをかけて、革袋とナイフをつける。
そして、背負えるサイズの籠を背負う。ベルトは昨日、おじさんにもらったものだ。
準備が出来て、おじさんとご飯を食べ終わってしばらくすると、ヒルが来て一緒に出かける。
近所の子供達だけで行くため、集合場所に行かなければならないのだ。わたしとヒルが集合場所に着くと、2人ほど子供がこっちにやって来た。知らない人が怖くてつい、ヒルの後ろに隠れてしまった。
「ヒル、お前妹なんていたっけ?」
「こいつは、シンハだ。叔父さんの店の後継ぎの」
好奇心の目で見られて、わたしはヒルの袖をぎゅーっと掴んで、少しでも目線を避けようと小さくなった。わたしはもともと小さく、本来の年より幼く見られる。ヒルと並ぶとどうしても兄妹に見えてしまう。
「シンハ、大丈夫だからこっち出てこいよ。いたずら好きな奴だけど、根は悪く無いから」
ヒルの言葉に渋々出ると、珍しい物を見る目で、2人が乗り出して来た。
皆が思い思いに自己紹介するので、聞き取れない。
まず、ヒルの近所で同い年のコリック。赤い髪に黄色の目をした頼りがいがあるごつい体をしている。
その隣にいるのは、4才のシャーナ。コリックの妹で、黄色の髪にくりくりしたピンクの目をわたしに向けて、キラキラさせている。わたしの方が年上なのに、背が低いせいで、自分が年上だとか思ってそう。
「おーい!そろそろ行くぞ!」
わたしの自己紹介が終わって、シャーナが「うそぉ」とか言って目を丸くしてると、最年長の子供が出発を促した。
「シンハ、ヒル、先いくぜ」
コリックとシャーナがわたし達を追い越して先へ行く。わたし達はのんびり列の最後尾を歩く。
「シンハ、今日は何をするんだ?お前、今日始めての森だから一緒にいてやれって母さん達に言われたんだ」
「今日は、おじさんに頼まれた素材の採集を行うの。シュンツェという木の実。タッチェという木の皮。レンチェという木の蜜を採集するの。ここに特徴をまとめた紙があるから、大丈夫だと思うのだけど。その合間に普通の採集もするつもり」
そんな話をしてたら、森に着くた。
「大きい奴らは、弓を持って獲物を狩りに行くぞ。小さい子達は、必ずこの集合場所が見える所にいろ!夕暮れになったら、ここに集合だ。初め!」
わたし達は小さい方に入るのだが、ちょっと遠くの方に行かなければならない。まず、シュンツェから探すのだが、湖の近くに行かなければいけないのだ。
ヒルのナビゲーターにより、石についたこけで足が滑ったりして川に落ちそうになったりしたが、無事についたのでシュンツェを探す。
「えっと、シュンツェは、腰ほどの高さの草についた、赤い実だって。アランドっていうにたような実もあるんだけど、それは毒入りだから気をつけて」
湖は木々に囲まれていて、眩しい日の光が水面を照らしていて、向こう側には獣の姿も見える。夜になったら、星が空一面にあってきっと綺麗で幻想的な風景だろう。
わたしが懸命に探していると、ヒルからあったという声がかかった。そっちの方へ行くと、赤い実がいっぱい生えていた。
おじさんに教えられた通りにナイフを構えたら、強制的に魔力がナイフに流れていった。昨日と違うなと思いながら、シュンツェの実を切ると、赤かった実が黄色に変わって、わたしもヒルもびっくりして、息を飲んだ。二人で顔を見合わせてから、続きをする。
しばらくして、結構な量が集まったので、次の採集に行こうと、移動し始める。
「さっきのあれなんだったんだ?」
「わたし、間違えておじさんのナイフを持って来ちゃったらしい」
わたしのは、普通のナイフだ。魔力を使うはずがないのだ。でも、今日持っているのは手持ちの部分に魔石が埋め込まれている。
「怒られるかな?」
「多分な」
「うぅ」
次の採集場所についた。
次に採集するタッチェは、草原の近くにある木だ。木に出来る花は雪のように真っ白で、とても良い臭いがする。薬にも使えるとても良いものだ。最も今の季節、花は咲いてないのだけど。
「花が咲くのは、秋の半ばだから、絶対見に来ようね」
「おう」
タッチェを採集し終えたら、レンチェを採集しに行く。
採集場所は、森のちょっと奥の方にある花の蜜だ。水色の丸っとした花の蜜は、とても甘いうえに、傷や疲れを取ってくれる不思議な効果のある蜜で、秋には、旅をしている者達が採集していく。
花の蜜を取って、二人で他愛もない話をしながら、お昼を食べる。
わたしのお昼ごはんは、片手で持てる程度のパンにレンチェの花の蜜をかける。
甘さをいっぱいに感じながら食べる。
(もぐもぐ、おいしい。あまーい)
食べ終わったら、みんなのいる採集場所に戻って、普通の採集をする。
夕暮れになって、みんなで町に戻る時、最後尾にいたわたしにヒルが不思議そうな顔で聞いてきた。
「お前、何を描いてんだ?」
「素材を採集したから、お祈りしてるんだよ」
わたしも何で、そんなことをいうのか訳がわからず、不思議だ。
もしかして、ここでは神様に感謝することなんてないのだろうか。お貴族様でさえ、神様の名前とかは覚えていたのに。
わたしは、神殿にいたときに覚えた地の神様に祈る魔方陣をせっせと描いて、ヒルがなにも言えず口をぽかーんと開けているうちに、さっさとお祈りを開始する。
「地を司る女神に告ぐ 我は神々の恩恵に敬意を表す者 神々に感謝と祈りをここに捧げる」
いつもなら、魔方陣が光って風がはためくのに、今日はならない。何故だけいいろうと思ったが、魔石を持っていなかった。魔術具をつけていないと、魔方陣は作動しないことを忘れていた。
「ただいま!」
お店に入ると、おじさんが出迎えてくれた。
笑顔で素材を渡すと、おじさんは目を丸くして、わたしとヒルを見た。
「いっぱい取れたな、私のナイフは役にたったようで何よりだ」
「え、あれおじさんがいれたんですか!?」
おじさんはこくりと頷く。わざとだったなんて、心配して損した。
「これだけあれば薬が作れるから、明日は薬を作るため二人とも店に来てくれ」
「はい!」
(調合、超楽しみ!)
神々にお祈りしないことに驚くシンハ。
変な模様、言葉に驚くヒル。
二人がいっぱい採集してきたことに驚くクロード。
次は二人が森に行ってる間のクロード視点です。