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名前の無い少女   作者: 暁 和歌
第1章 魔術具店 クロード屋
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買い物と契約

 わたしの名前が決まった翌日、部屋に置かれた長椅子の上で目覚めた。まだぼんやりした意識の向こうで、物音が聞こえる。


 (おじさんが何かしているのかな?)


 音のする方へ行くと、おじさんが出かける準備をしていた。机の上には朝食が湯気を出して置いてあった。


「起きたのか。速く食べないと、ヒルが来てしまうぞ」

「え、ヒルが来るのですか?」

「言ってなかったか?シンハの名前も知りたいし、買い物に付いてってみたい!というわけで、ヒルが付いて来るそうだ」


 いやいや、聞いてませんから。神殿時代の新官もそうだったが、大事なことは忘れないで欲しい。

 わたしは、手早く朝食を食べて昨日の服を着る。準備が終わった直後、ヒルがやって来た。


「おはよう、ヒル。わたしの名前はシンハに決まったからこれからよろしくね」

「おはよう、おじさん、シンハ。…シンハか、これからよろしくな。叔父さん良い名前つけてくれたな」

「だろう。シンハも誇って良いぞ。…さて、ヒルも来たし、そろそろ行くか」


 おじさんの後に続いて、わたしとヒルが歩く。目的の店は、近くにあってあまり歩かなかった。

 店にはいると若いお姉さんがこっちにやって来た。わたしとヒルとおじさんを見て目をキラキラさせている。


「クロード久しぶりね。もっと店に顔を出してくれれば良いのに…。と・こ・ろ・で、その子達はだぁれ?クロードが子連れで来るなんて珍しいわね」

「こいつらは親戚のヒルと店の跡継ぎのシンハだ。二人分、店の制服を作ってくれ」

「私は、クロードの幼なじみのカンナよ。えっと、ヒル君とシンハちゃんだっけ、採寸するからこちらへ来てちょうだい。基本的にみんな優しいけど、何かあったら呼んでちょうだい」


 カンナは深紅のストレートの髪にオレンジの目をしている、おじさんが言うに噂好きの幼なじみらしい。


 (おじさんの名前、クロードっていうんだ。始めて知った。何で教えてくれなかったのだろう。カンナさんは……さすが幼なじみだな、おじさんの扱いになれている感じがするよ)


 わたし達は、試着室に入ってお店の人達の手によって下着まで脱がされて、採寸された。神殿時代の時、側仕えに着替えを手伝ってもらってたから、違和感はないけど、春の半ばだからまだちょっと寒かった。

 試着用の服を着て、ヒルとおじさんに見せにいった。


「おぉ、ちゃんと貴族と繋がりのある店の店員に見えるぞ」

「シンハ似合ってるぞ」


 二人ともほめてくれたが、今怖い単語を聞いた気がする。貴族と繋がる?嘘でしょ。神殿から出たらもう関わらないと思ってたのに。


 (あ、そっか魔術具の店だもん。そりゃ関わるよね)


 魔力がなければ魔術具は動かせない。魔術具店で働くということは、魔力を持っている貴族が店に来るということだ。


「さぁ、次に行くぞ」


 貴族対策を考えていたら、いつの間にか着替えて店の外に出ていた。振り替えると、カンナが笑顔で見送っていた。わたしが笑顔で手を振ると、満開の笑顔で手を振り替えしてくれた。






 次に向かったのは、文具店だった。

 優しそうなおじいさんが、カウンターにいておじさんと話している。わたしとヒルはおじさんに言われた通り、インクや紙など必要なものを買う。紙はだいぶ安くなってきたけど、インクが高い。製法が1つしかなくて、必要な材料が高いため、どうしても高くなってしまうらしい。

 結果、金貨1枚の出費になった。


「やっぱ、高いな。金貨なんて家では見ないぜ」

「あれ?今更だけど、何でヒルが見習いに必要なものを買ってるの?」

「あぁ、オレおじさんの店で働きたいんだ。家族には言ったんだけど、本気にされてなくて…。とりあえず、必要なものを買っとくんだ」


 普通、子供は親の仕事と似た職場で働く。商人の子供は商人。職人の子供は職人。ヒルは、もともと職人の道に進む気何てなくて、商人になりたかったらしい。でも、知り合いに商人がいないため、諦めかけていたらしい。おじさんは会ったことがなくて、みんなの印象から近づくのをやめていた。

 でも、わたしが居候になったこと、跡継ぎになったことで、おじいさんと喋るようになって、思っていたより優しくて面倒見が良いため、おじさんにお願いしに行ったらしい。魔力は無いため、基本的にカウンターや店の書類の管理を任される仕事しか無いことを条件に、洗礼式の後から、働くことが決定したらしい。洗礼式までは、お手伝いという形で働くという。


「その前に文字が読み書きと計算が出来るようになることが優先だけどな」


 ヒルは苦笑したが、夢に向かって頑張るのは良いことだと思う。わたしは将来跡継ぎになった後どうしようかな。

 ヒルと色んな話をしながら、働くのに必要なものを買っていく。

 制服にインクとペンと紙、素材採集に必要なナイフ等々。





 一通り買い終わって店に戻って来た。中に入って、契約の紙を渡された。内容は、要約すると『シンハは、魔術具店 クロード屋の跡継ぎとして住み込みで働く。住む場所、ご飯に関してはこちらで保証する。後継ぎとして、魔術具のレシピ、採集方法を全て教える』というものだった。

 わたしは、名前を書く欄にシンハと記入した。おじさんを見上げると、おじさんも名前を書いて、指先をナイフで浅く傷つけ、盛り上がった血を名前の上に押す。わたしも同じように、新しく買ったナイフで指先を浅く傷つけ、盛り上がった血を名前の上に押す。すると、紙がカッと光った。眩しくて目を閉じしばらくしてから、目を開けると光は収まっていた。


「これで、契約は終わりだ」


 どうやら、これでわたしは跡継ぎとなったらしい。ほっと一息付いて、隣を見るとヒルが、紙を見て困っていた。わたしの視線に気がつくと視線をそらした後、恥ずかしそうに言った。


「オレ字読めないから、読んでもらっても良いか?」

「良いよ。『ヒルは、魔術具店 クロード屋で、後継ぎシンハの補佐をする。10才までは、家からの通いとして出勤日に働く。また、本人が望めば他の店に行かせることもありとする』こんな感じかな。名前、代筆しようか?」


 わたしが契約内容をよんでる間におじさんが石板に石筆で、ヒルと書いた。


「ほれ、これがヒルの名前だ。見よう見まねで、書いてみろ」


 ヒルが驚いた後、目を細めて嬉しそうに笑った。石板におぼつかない手で書いて見る。ちょっと字が歪んだけど、始めてにしては上手な方だ。何回か練習した後、慎重なてつきで契約書に書いた。おじさんも書いて、血判を押して、紙が光る。契約が終わると、おじさんが紙を鍵が何重にもかかった部屋に保存しに行った。

 戻ってくると、おじさんが真剣な顔を少し柔らかくしていた。


「ようこそ、魔術具店 クロード屋へ。店主のクロードだ。これから、ここで働く二人を私は心より歓迎しよう」

「よろしくお願いします!!」


 おじさんに歓迎されて、魔術具を作れるようになれることを聞いて、とても嬉しくて、二人で喜びあった。

 落ち着いてくると、おじさんがやって来た。


「ヒル。明日はシンハと一緒に森へ採集しに行ってくれ。私は、二人の仕事内容を考えておく」


 今日はもう帰ると言って、ヒルは帰った。明日は、朝早く近所の子供達と、近くの森へ行くことになるらしい。迎えに来るまで待ってろよと言われた。

 ヒルが帰って、夕食が終わった後、話があるとおじさんに部屋に呼ばれた。






「こっちへ来なさい」


 部屋に入った後、おじさんに呼ばれて店の裏口から出ると、小さな庭がありそこには小さな温室があった。おじさんに続いて入ったら、そこは外から見たときとは別に中がすごく広かった。一面に草や木など素材になりそうなものがある。

 この部屋は何なのか聞いてみたら、魔力で作った部屋だと言った。魔力で満たされて要るため、季節を操作する魔術具を特別に作って、手前から春夏秋冬にして一年中素材を採れるようにしているらしい。

 春のエリアのある植物の前で止まるとおじさんはナイフを取り出した。わたしも持って来るよう言われていたので、取り出す。


「ナイフで、枝の部分を切る。少しずつ周りの余分な枝を取り除いて、この革袋の中に入れる。そっとな。やってみろ」


 おじさんが実演しながら枝の先に付いた実を回収する。

 わたしは、ナイフを構えて言われた通りに採集する。革袋に入れておじさんを見ると、頷いて「これなら安心だ」と言った。

 その後、取って着て欲しい素材を教えられた。シュンツェという、木の実。タッチェという木の皮。レンチェという木の蜜の3つを頼まれた。それぞれの特徴を書いた紙と、革袋を渡された。

 集めてきた素材で一番簡単な薬を作るらしい、魔術具を使う上で最も必要になるものだから、多目に取って来いと言われ、わたしは明日のために早めに寝ることにした。


働くのに必要なものを買うと、とってもお金を使いました。おじさんは、財布とにらめっこです。

ヒルは、商人になるためシンハと一緒に働きます。

その夜、家の裏にある秘密の温室で採集方法を教わりました。

最初に作るのが、薬と聞いてちょっとテンションダウンな、シンハでした。


明日は、森へ採集に行きます。

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