神殿のお勤め
わたしには母さんがいない。いなくても神殿で過ごしてるため、面倒を見る人はいる。別に、いなくても不自由したことはない。
神殿は、国に数個ある程度で誰も近寄ろうとしない。神殿はあまり良いイメージを持たれていないのだ。
わたしは、クラントールという町にある神殿の神殿長。神殿内で一番偉い人で、5歳という若さで神殿長になれたのは、魔力量が一番多かったからだ。
今、わたしは神殿外での役目を終え帰るところだった。
「ねぇ、リータあれは何かしら?」
リータはわたしの側仕えで、小さい頃から見てもらっている。他にも側仕えはいるが皆神殿でお留守番している。
リータは茶色の髪にオレンジの瞳の女性だが、無表情で滅多に感情を表に出さないため落ち着いて見える。
「あれですか?……私にはわかりません」
わたしたちは、天馬が引っ張っている馬車に乗っている。その側には力なく飛ぶ羽の生えた猫が飛んでいた。
わたしが捕まえようとして身を乗り出すとリータが慌ててわたしの肩を押さえた。
「何をするのですか」
「そんなに身を乗り出すと落ちます。…私が捕まえるので待っててください」
わたしが睨むとリータは溜め息をついて猫を捕まえてくれた。
猫は真っ黒な毛に黄色い真ん丸とした目をしていた。
「何でしょう。こんな生き物見たことありません」
リータは生物が好きで、神殿にある本でよく詠んでいた。もちろん主に見つかったら怒られるため、こっそりと。
でも私は、怒らない。本が好きな勉強熱心な側仕えは大歓迎だ。
(珍しい、リータの目がキラキラしている)
普段、余り感情を表に出さないリータの珍しい表情の変化にびっくりしていると、馬車がドン!!と揺れた。
「な、何事ですか!?」
猫は馬車が揺れたせいで、ジタバタと暴れだした。その勢いで馬車からポーンと飛んでいった。
「あっ、待って!」
わたしが猫を捕まえようとしたら、馬車から出て、まっ逆さまに落ちていった。
髪がバタバタと肌に当たって痛い中、わたしは猫を捕まえて、リータの悲鳴と何か言っている叫び声を聞きながら、落ちていった。
わたしは猫をしっかり抱きながら、意識を手放した。