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花束に銃弾  作者: 狗山黒
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プロローグ

 昼間から銃声が鳴り響く。耳をつんざくようなそれに交じり、男達の罵声が聞こえる。そんなのはこの都市(まち)では日常茶飯事だ。血飛沫、麻薬、弾丸、あとは死体。掃き溜めのような、否、事実掃き溜めの都市なのだから。

 どうしてそんなところにいるかといえば、俺達もその掃き溜めの一つで、また別の掃き溜めに喧嘩を売ったからだ。否、もしかしたら売られた喧嘩を二束三文で買っただけかもしれない。ちなみに二束三文というのは、ユーラシア大陸極東の島国でクソ安いことを意味するらしい。つまり、俺達にとって喧嘩は日課みたいなものだということ。

 が、決して俺が喧嘩を買っているわけじゃない。俺が買うのは、セール中の卵くらいだ。勿論、他にも買うけど、俺は進んで喧嘩を売りも買いもしない。俺は巻き込まれたマネージャーってとこだな。

 なら誰が喧嘩を買ってくるのかというと、まあ大体弟の双子、正確には弟分の双子だ。

 奴らは好戦的で、しかも若いせいで元気が有り余ってると来た。なんていうか、思春期真っ只中って感じだ。それだけなら構わないが、奴らが喧嘩を買うのは大抵俺が一緒の時だ。甘えなのか信頼なのかは知らないが、大変嬉しくない。俺はもう若くない。

 今回は俺がセール中の、一人二袋までのトイレットペーパーを


買ってる最中に、奴らは喧嘩を買ってきた。本当なら合計六袋のトイレットペーパーが手に入るはずだったが、どうにか手にしたそいつも今は無残に穴だらけだ。

 俺も含め奴らの喧嘩相手は、どこぞのマフィアだ。よく覚えてないが、美味しそうな名前だった気がする。確か、にんにくのきいたパスタの一種だ。

 あちらさんはまあお構いなく銃をぶっ放しておいでだが、こちらは逃げるが勝ちと言わんばかりに、飛び交う弾丸を避けながら走っている。逃げることを発案し、通したのは俺である。

「なあ、やっぱりあいつらのしちゃおうぜ」

とかなんとか双子の片割れが言ってるが、無視だ。

「だめ、イーフォンは歳で弱っちいから、すぐくたばっちまう」

ともう一人が言う。ちなみにイーフォンとは俺の名前だ。綴りはIphone。どっかで見た綴りなのは、気のせいだろう。ちなみに、名字はApfel、ヨーロッパと呼ばれてたところのどっかの国では林檎の意味らしい。

「俺が歳だから逃げてるわけじゃない。あちらさんは、まあそこそこお強いマフィアさんだから、下手に敵にまわすと生きにくくなるんだよ」

「別に倒しゃいいじゃん」

「面倒くさい」

「なんだよ、いつもそれだな」

一体どこに好き好んでマフィアを殲滅する奴がいるのか。……ああ、目の前に二人もいた。

 風を切るような音がして、弾丸が俺をかすめ、双子の片割れの頬に傷をつけた。今の軌道は頭一直線だったが、よく避けたものだ。

 自分の顔に傷がついたことで、奴の闘志に火がついてしまったらしい。名誉のために言っておくが、彼は別にナルシストじゃない、断じて。

 奴は立ち止まる。人は急には止まれないので、俺は少しぶつかったが、彼はもう完全にハイってた。左手のナイフをしまい、刀を抜いて、振り返る。海を彷彿させる青緑の眼は、血肉を目前にギラついている。歯を覗かせる口からは湯気が出そうだ。草食動物を目の前にした、飢えた獣はこんな感じだろう。

 片割れは、もうそれが楽しそうで、リボルバー式の拳銃をホルダーにしまい、背負っていた自動小銃を準備しだした。お兄さんは胃が痛みだした。

 このままじゃどう転んでも面倒なことになるので、俺は決意を固めた。目の前には、立派な教会。そこから向こうは、美味しそうなマフィアのシマじゃないから、手出しはできないはずだ。

俺は、目の前でドンパチしようとしてるお兄さんらの腹にラリアットをかまし、そのまま担ぎあげ、一目散に走り出す。もう死にそうだけどね、お兄さんは自分の身のためなら頑張りますよ。こんなとき、いつも思う、煙草の本数減らそう。

「何すんだよ!」

「じたばたすんな! 頭から落とすぞ!」

「勝手に落とせばいいだろ!」

「やだよ! んなことしたら間違いなくお前ら戦っちゃうだろ! そしたら俺がとばっちり喰うだろ! 俺は平和が好きなの! アイ、ラヴ、ピース! 分かった!?」

息切れしてきた。これだから嫌なんだ、こいつら担いで走るのは。

 後ろでは相変わらず、マフィアさんが騒いでいるが、俺はひたすら逃げてゴールイン。教会の向こう側に到着した。

 荒い息を整えつつ、暴れていた二人を下ろす。こいつらがどんなに暴れたくても、あちらさんはこっちには入ってくることもできない。こいつらがあっちに行かないようにすればいいだけなので、とりあえず服の襟をつかんでおく。

「おい、放せよ!」

「放せって言われて放す奴があるか、バカ」

「くっそ、覚えてろよ!」

とあちらさんが吠えてる。こいつら何したんだろうと思ったが、よく見ると奴らの服には可愛い可愛いアップリケが付いていた。また地味で時間のかかる嫌がらせをしたもんだな。どうして、そう余計なことばかり考えつくのか、脳味噌を眺めてみたいもんだ。

 そういえば、この前のマフィアさんの服もこうなっていた。流行りか、アップリケテロ。

「覚えてるわけないだろ!」

「可愛いアップリケでちゅねー」

と二人は揃って馬鹿にしている。ああ、ほら火に油を注いでいる。あちらさん、頭から発火しそうだ。

 これ以上面倒になるのは俺が嫌だし、今日はこっちの商店街でティッシュのセールがあったから、そっちに行くことにしよう。でも、あっちのスーパーしはしばらく行けないな。よく閉店セールやってる店だから好きだったのに。

「おい、行くぞ」

と二人に声をかけるが、全然帰る気はなさそうだ。不本意だが、今度は首にラリアットを決め、二人を引き摺ることにした。二人はめでたく気絶した。仕方あるまい。

「今度あったら、恩返ししてやるからな! 覚えてろよ、地獄(シフォン)三頭狂犬(ケロべロス)!」

 俺、その通り名好きじゃないんだけどな、思春期丸出しで。

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