斎藤一族の秘密
今回は鎌田詩織目線で作ってみました。
《鎌田side》
「斎藤さんの過去…。」
胸のドキドキが止まらない。こんなに真剣な顔をした斎藤さんなんて初めてだ。
「……その前に教えてくれ、どうして俺の部屋に入ったんだ?」
「…秘密にしていたんですけど、私過去に菅さんに斎藤さんの過去に自殺したという情報を調べてもらってたんです。…なぜか気になって。でも斎藤仁という人が死んだという情報はいくら調べても出てこなかったそうです。その時から斎藤さんが何だか信じれなくなって……、それで一度斎藤さんの部屋に…。」
「なるほどな。確かに斎藤仁の自殺情報なんて出ないわな。」
「斎藤さん…。」
「……これだけは言っとくが、俺は過去に一度死んだ。」
「………。」
「ただ自殺じゃない……俺は…殺されたんだ。」
「こ、殺された?」
「ああ、話せば長くなるがな、俺の昔話について話そう。」
そう言って斎藤さんは憂鬱そうな表情で過去について教えてくれた。
「俺はある集落で生まれたんだ。その集落には俺を含めたった18人しか住んでいなかったんだ。みんなの姓は斎藤…。いわば斎藤一族が住んでいる集落だ。俺はそこで育った。俺らはそこの集落から離れたことはなかったし、外の世界なんて考えたこともなかった。」
「斎藤一族…。」
「…たった18人しか住んでいなかったから同い年のやつなんていなかった。一番年が近かったのが2歳年上の斎藤綾乃だけだった。他はみんな大人だったよ。綾乃さんはいつも俺に優しかったし世話もみてくれた、だから俺は彼女のことが好きだった。でも一度も気持ちを伝えたことはなかった。いつか彼女に告白するって決めながらできない、馬鹿みたいだけど楽しい時だった…。……でも俺が15歳の時全部ぶっ壊れた。」
「何があったんですか?」
斎藤さんの顔が強張ってきた。
「15歳の誕生日に集落にいる全員が俺をある寺に誘ったんだ。その寺は昔から気味が悪かった、なぜなら寺はボロボロだし、所々にはお札が何枚か貼ってあったからな。だから小さい頃から近づくなってみんなに言われてた。そんな場所に呼ばれるなんて不思議に思った。でもみんな俺を驚かせたくて呼んだんだと思い、俺はその寺に入った。……中は暗かった、所々に置いてあるロウソクの明かりでやっとこさ見える程度だった。そこにはみんながすでに待機していた。みんな白装束のようなものを着ていて、いつもとは違った様子だった。この集落には15歳になると憑獣呪殺を教わるという風習がある。その日初めて俺は呪いというものを知った。」
「斎藤さんは憑獣呪殺の現場を見たのですか?」
「…ああ、あれはまさにこの世の地獄だった。6人の人間が動物の足のようなものを囲んでよくわからない呪文を唱えてた。…一番恐ろしかったのは全員最後まで笑い続けていたんだ、相手を殺すことを楽しんでるようだった。初めて見た時、鳥肌がたったのを今でも忘れない。…その中には綾乃さんもいた。綾乃さんの顔はまるで化け物のように見えた。呪い終わるとみんなはいつものように俺に接してきた。俺は怖かった……だが、俺は…憑獣呪殺をすることを誓った。この集落ではこれが当たり前なんだ、そう自分に言い聞かせて俺は何人もの人々を呪い殺してきた。」
「…でも斎藤さん、どうして…」
「……俺が憑獣呪殺を知ってから3年が経った時、ある依頼が来たんだ。いつも依頼してくるのは大物ばかりだった。社長や時には政治家が依頼してくるのもあった。依頼内容はある一家を呪ってほしいとのことだった。俺は依頼を実行した。だが呪ってる最中にあるものが見えたんだ。」
「あるもの?」
「ああ…呪い殺された人々の顔だった。みんな苦痛に満ちた様子だった。その中でまだ小学生にもなってないようなぐらいの子供の姿もあった。俺がやってることは本当に正しいのか?そう思った。その日からその疑問は次第に大きくなった。…だから俺は集落から逃げることにした。俺は三日三晩逃げ続けたが、奇妙なことに同じ道を何度も何度も来てしまう。ついに俺は力尽きて倒れてしまった。その時綾乃さんの声が聞こえた、いつもの綾乃さんだった。俺は必死にその声に向かっていった。すると彼女の姿が次第に見えてきた。彼女は白装束を着て、鎌を片手に握ってた。彼女は俺を見つけると俺に何度も何度も鎌を振り下ろした…。俺は……殺されたんだ、この世で一番愛していた人に……。」
「そんな…ことが。」
言葉が見つからない。斎藤さんにこんな過去があったとは想像していなかった。
「気づくと俺は真っ暗闇の中に立っていた。するとどこからか声が聞こえてきたんだ。声の主は分からなかった、だがそいつは俺に散々人を呪い殺してきた分俺に最も苦痛な目に合わせてやると言ってきた。……気づくと俺はここの廃ビルの前に転がってたんだ……。」
「…………。」
「俺にとって最も苦痛なことは…斎藤仁として生きていくことだったんだ。」
「斎藤さん…。」
「…ふっ、ずいぶんとスケールのでかい失恋話だよな。」
「……斎藤仁さんは一度死んだ。」
「え?」
「私は…今の斎藤さんが好きです。…その上手くは言えないけど、今の斎藤さんは一度死んだ斎藤さんとは違うんです。…すいません。」
「ありがとうな、全然意味わからないけど。」
「わ、分からないか〜。」
「今まで誰にも言わなかったんだよ、この話。詩織ちゃんに聞いてもらってなんかスッキリしたよ。」
「い、いえ、これくらいのことなら。でもどうしてまた呪い代行を始めたんですか?」
「……俺は呪いから逃げたつもりだったんだ。でも俺は気付いたら呪い代行なんてはじめてた。俺には呪いしかなかったんだ。こんな自分が嫌いだった…」
「だから…自殺を?」
「ああ。」
気がつくと私は斎藤さんの手を握ってた。
「斎藤さん、し、死なないでください。死なないで死なないで死なないで……」
「わっ!?どうした急に?」
「死なないで死なないで…」
何回言ったことだろう。私は泣きながら斎藤さんにずっとそう言っていた。
しばらく経ち、
「だ、大丈夫か?詩織ちゃん」
「す、すいません。取り乱してしまいました。」
「……もう自殺なんかしないから安心しろ。」
「え?」
「…新しい目標を作ったんだ。」
「目標?」
「ああ、内緒だけど。そいつを達成するまで自殺はしない。」
「…はい。」
「…よし、内藤さんの依頼引き受けるぞ。」
そう言うと斎藤さんは立ち上がりいつものように自分の席に座った。