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こんにちは 呪い代行屋さん   作者: てるてる坊主
7/13

譲れないもの

「おはよう、詩織ちゃん。って何見てるの?」

朝、事務所に入ると鎌田が真剣な顔でテレビをみていた。

「あ、おはようございます。いや、あのパルコ連続殺人事件の判決が出たそうですよ。」

「パルコ連続殺人?何それ?」

「知らないんですか?6年前起こった事件ですよ。犯人は当時13歳の中学生で、彼の家の前の通りで歩いてた人たちを合計9人殺傷した恐ろしい事件ですよ。」

「ふーん、パルコって何?」

「犯人が捕まった時ずっとパルコパルコってよくわからない言葉を狂ったように叫んでたそうです。」

「…なるほどね。それにしても怖いな。で、判決は?死刑?」

「それが、何と無罪だそうです。」

「え!?」

「犯人が精神鑑定を引き受けた結果心神喪失と認められたし、犯人は当時13歳ですからね。」

「マジかよ。」

「世の中おかしいですよね。」

そう言うと鎌田は深く溜息をついた。

確かにその通りだ。心神喪失だろうが、人を殺してることには変わらない。彼の無罪には俺も違和感を感じていた。

「斎藤さん、依頼人がいらっしゃいました。」

「はいはい、すぐ行きます。」

依頼室に入ると、中に30代くらいの男がいた。

「どうも…斎藤といいます。」

「…あんたが呪い代行屋か?」

「はい。」

「俺はこういうもんだ。」

そう言うと彼は胸から手帳のようなものを取り出し、俺に見せた。

その手帳には「巡査長 菅亮太 」と記してあった。

「…おっと……刑事さんが何の用で?」

まずいな…刑事にバレてたとは。パクられるかもしれない。

「勘違いするなよ。別にお前らをパクりに来たわけではない。」

「ならば…どのような用で?」

「……お前たちに呪い殺してほしいやつがいる。」

「ほう…誰でしょう?」

「村田弘樹というやつだ。」

「…なるほど。でも…なぜ?」

「……お前らは知らないだろうが、この村田はパルコ連続殺人事件の犯人だ。」

「え!?その村田がですか。」

「ああ、こいつは罪のない人を計9人殺傷した。死んだのは7人、残りの2人も重症で今でも意識が戻らないらしい。それなのになぜこいつが無罪なんだ。」

「……でもどうして菅さんはそこまで村田を憎んでいるのですか?」

「……殺された7人の中に妻がいた。…大事な妻を殺された……。」

「それは……お気の毒に。」

「だから俺は許せない。村田だけは絶対に。」

「……わかりました。呪い殺しましょう。」

「そ、そうか…。ありがとう。」

「では報酬は70万で。」

「お、おい 呪い代行って金をとるのか?」

「ええ、こっちも商売ですから。」

「ふざけんな。相手の弱みにつけ込みやがって。」

「こっちも慈善事業じゃないので。」

「この野郎!!俺はな、お前らのような裏でコソコソやるような輩が1番嫌いなんだよ。でも今回の事件はお前らに頼むしかできないんだよ。」

「あなたが村田を本当に憎んでいるなら70万くらい簡単に出せるでしょ。…あなた本当に村田を憎んでいるのですか?」

「なんだと、」

すると菅はいきなり立ち上がり、俺の左頬を思いっきり殴った。

勢いのあまり椅子ごと俺は吹っ飛んだ。

「…いって。」

「もう1度言ってみろ。お前らムショ送りにしてやるからな。」

「……だが、俺にも流儀がある。」

「あん?犯罪者がなに馬鹿なこと言ってんだ。」

「あんただけ特別金を払わなくてもいいようにするなんてできない。」

「……ちっ、また来るわ。その時でもまた金を払えなんて言うようなら、俺はお前らをムショに送ってやる。」

そう言うと、菅は出て行った。

菅が出て行った途端、鎌田が急いで入ってきた。

「だ、大丈夫ですか?斎藤さん。」

「いってーな。あいつ思いっきり殴りやがった。」

「あの人本当に刑事さんですか?」

「刑事てかまるでヤクザみたいだったな。」

「それよりも私達大丈夫なんでしょうか?このままだと……。」

「…はぁー、厄介な依頼人だな。」

「それにしても斎藤さんの言う通りですよ。普通村田を憎んでいるならいくらお金を積んでも頼みたいくらいですよね。」

「……あの依頼人も俺と同じなんだろうな。」

「え?」

「あの人なりの流儀があるんだろう。」

「流儀?」

「うん、あの人は俺らみたいな陰湿な連中をやたら嫌ってた様子だった。おそらく村田を呪ってもあの人には悲しみしか残らないが、あの人に嫌われる俺たちは金をもらい幸せになる。それがあの人とって癪だったのだろう。」

「……斎藤さん、これからどうするつもりですか?」

「もちろん、俺は俺の流儀を貫く。それくらいの覚悟がないと呪い代行屋のトップなんて出来ないよ。」

「…わかりました。」

そうは言ったものの、どうすればいいのか。

ここで呪い代行屋を廃業するわけにはいかない。俺だけならまだしも鎌田に迷惑をかけるわけにはいかない。

「どうしよっかな。」

「斎藤さん。」

「ん?」

「斎藤さんが呪い代行屋としての流儀を貫くなら私もその流儀を貫きます。」

「え?」

「ここに来た人は差別しません。例え逮捕されても。」

「そっか……。ありがとよ。」





それから数日後、

「斎藤さん、菅さんがいらっしゃいました。」

「オッケー。」

深呼吸をして、依頼室に入る。

「待たせましたね。菅さん。」

「……で、結局どうする。」

「呪い殺してほしいのならば、70万払っていただきます。」

「…あくまで流儀とやらを貫くつもりか。」

「ええ、そうでないと呪い代行屋なんて出来ないですからね。」

「ふっ……。ほらよ。」

そう言うと彼は札束を机の上に置いた。

「これは……。」

「70万だ。お前の勝ちだよ。お前らをムショに送っても俺にとっちゃ何の意味もない。」

「……。」

「どうした?取らないのか?」

「……菅さんは流儀を貫かないのですか?」

「は?」

「俺はね、今まで色んな依頼人を見てきました。俺からすれば依頼人は2種類に分けられます。1つは見ててムカつかない依頼人ともう1つは見ててムカつく依頼人です、もちろん本人には言わなかったのですが。前に来たあなたは俺を殴ったにもかかわらず、不思議なことに俺は菅さんに全くムカつかなかった。でも今目の前で70万出した菅さんは俺の目から見ると本当にムカつく。」

「……何が言いたい?」

「いえ、別に。それじゃ70万先に受け取っておきます。」

そう言って目の前の札束に手を伸ばそうとすると、

「ちょっと待て。」

「?」

「それは俺の金だ。手を触れるな。」

そう言うと、彼は胸ポケットに札束を戻してしまった。

「やめますか?」

「…ああ呪い代行なんかに頼んだ事自体間違ってたって今気づいたよ。俺は俺なりのやり方で村田を死刑台に送ってやる。」

「…そうですか。」

「それにしてもお前ら呪い代行屋はムカついた依頼人にはいちいちそんなこと言うのか?」

「いや、俺がこんなこと言ったのは初めてですよ。……なぜかあなたには言わないといけないって思ったんで。」

「…ふん、なんだそりゃ。でもまさかお前みたいなやつが呪い代行屋なんてやってるとはな…、世の中おもしろいもんだ。」

「そうですね。」

「ま、今日のところはありがとうって言っとくぜ。……それと、もしなんか俺に手伝えることがあるならいつでも言ってくれ。お前らの仕事に少し興味を持ったよ。」

「ありがとうございました。」

「それと…ここの存在は黙っておいてやるよ。バラすなんて俺の流儀に反するんでね。」

そう言って彼は立ち去った。

ノロノロ事務所を後にした菅は

「呪い代行屋か…。奴らのこと少し勘違いしているようだな。人を殺したやつが許されるイカれた時代に奴らみたいなのがやっぱり必要なのかもな。……がんばれよ、斎藤。」

そう言って夕闇に消えていった。

その頃依頼室では、

「よかったですね、斎藤さん、本当に良かった。今回ばかりはダメかと思いましたが、菅さんをあそこまで変えてしまうとは…斎藤さん、あんたって人は…」

「褒めすぎだって。」

「斎藤さんの下で働けて本当に良かったと初めて思いました。」

「初めてかよ。」





それからしばらく経ち、


「斎藤さん、菅さんがいらっしゃいました。」

「菅さん?どうして?」

「分かりません。でも…スゴイ剣幕で。」

「わかった、とりあえず話してくるわ。」

依頼室に入ると、中で菅が落ち着きのないような様子で待っていた。

「おう、斎藤。」

「菅さん、どうかしたんですか?」

「ああ、その前にお前の他に働いているもう1人の子も呼んでくれ。」

「もう1人?ああ、鎌田ですか。わかりました。」

事務所に戻り、鎌田を呼ぶ。

「ど、どうも鎌田です。」

「ああ、……お前らに単刀直入に聞く。お前ら最近村田弘樹を呪ってないか?」

「え?村田弘樹ってパルコ連続殺人事件の犯人ですか?」

「そうだ、呪ってないか?」

「いいえ、呪ってないです。」

「本当か?」

「ええ、詩織ちゃんはなんか知ってる?」

「いえ、そんな依頼はきてないです。」

「そうか…。」

そう言うと菅は大きく溜息をついた。

「村田がどうかしたんですか?」

「昨日な…村田弘樹が精神病院の中で死んだそうだ。」

「え!?」

「まだ報道されてないがな…。聞いたところ村田は三か月ほど前からまるで動物が取り憑いたかのように狂い始め、もがき苦しんだ挙句、昨日死んだそうだ。」

全身から血の気が引いた。思い出したくもない記憶のページが強引に開かれた感じだった。

「そ、そんなことが…って斎藤さん?大丈夫ですか?顔真っ青ですよ。手も震えてるし。」

「本当だ。斎藤、大丈夫か?…もしかして何か心当たりでもあるのか?」

「ない…ない……ない。悪いが少し休ませてもらう。」

そう言って俺は依頼室を飛び出した。

心の奥底にある最悪の記憶が……。奥底に押し込めていたはずなのに、再び出てきてしまった。

……………



「斎藤さん、大丈夫ですか?」

「あ、ああ だいぶ楽になったよ。」

「良かった。それにしてもどうして村田はあんな死に方をしたのでしょうね。私も菅さんも同業者がやったと思っています。」

「……詩織ちゃん、もう俺の前で村田の話はやめてくれないかな。」

「どうしてですか?斎藤さん、なんか変ですよ。村田の死因を聞いてから様子が一気に変わって…」

「お前に関係ないだろ!!」

つい鎌田に怒鳴ってしまった。

「す、すいません。」

「い、いやこっちこそごめん。」

「……それで話は変わるんですが、斎藤さん。」

「……何?」

「さっき菅さんがおっしゃってたんですが、斎藤さんって呪いを解いたりする方法とか知ってたりしますか?」

「………知らなくはない。」

「え?どんな方法ですか?」

「…人が呪われたとき呪いを解く方法と呪いをはじく方法がある。解くのは呪いをかける人が素人ならば至って簡単だ。かける人はほぼ無意識に呪いを相手にかけることが多い。だから、その呪いをかけた人と直接対話することによって呪いを解くことはできる。」

「へぇー、でもどうやって呪った人なんかを探しだすんです?」

「見えるんだよ…。俺には呪いがかけられた人を見れば誰にやられたかすぐ見破ることができる。」

「す、すごい。」

「呪いは指紋や声紋と同じく人によって違う特徴を持つ。それを解明すれば簡単に特定することができる。」

「へぇー…。」

「でもどうしてそんなことを?」

「さっき菅さんから人を呪ってばかりでなく、呪いを解く側についたらどうだ、って言われて…。」

「呪いを……解く側か…。やってみるか。」

「やりましょう。菅さんがさっき言ってましたよ。呪いを解く方法を知ってるなら今度村田みたいなやつが現れた時には私達に頼んでくれるって。」

「…村田のはどちらにせよ無理だったがな……。」

「え?何か言いましたか?」

「いや、何も。」

新しく始めることにした呪いを解くという商売に緊張しつつ、ワクワクしている鎌田とは裏腹に村田の死について考えていた。

村田の死に方…明らかにあの方法だ。

あいつら……一体なぜ?


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