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こんにちは 呪い代行屋さん   作者: てるてる坊主
6/13

鎌田の過去

「詩織ちゃん、おはよう」

「お、斎藤さん今日は早いですね。どうかしたんですか?」

「いや、毎日毎日寝坊で罰金取られちゃ敵わないから目覚まし2個設置することにしたの

。」

重いまぶたをこすりながらテレビをつける。

「今日もろくなニュースやってないな。」

「そうですね。」

「いじめか…。詩織ちゃんのとこはいじめとかあった?」

「…………。」

「無視か……。無視は酷くない?」

「………。」

「まったく」

それから1時間くらい気まずくて鎌田と話せなかった。

何かタブーに触れたのだろうか。

よく考えれば鎌田の過去について俺は何も知らない。ノロノロ事務所に来るまで何してたかとか聞いたこともなかった。


「斎藤さん、依頼人の方がいらっしゃいました。」

「お、おう。」


そそくさに依頼室に入る。

今回の依頼人は女性のようだ。見た目は大学生くらいだろうか。年は若そうだが、体は痩せこけていた。

「どうも、斎藤と言います。」

「…どうも、中田と言います。」

声がか細い。

「今回はどのようなご依頼ですか?」

「…呪い殺したい相手がいるのですが。」

いきなり強烈だな。相当恨んでいる人がいるようだ。

「…なるほど、それで呪ってほしい相手とは?」

「……私をいじめている主犯の女です。」

「…その…中田さんは今いじめられてるのですか?」

「…はい、私が大学に入って初めて出来た友達がその主犯の女でした。名前は岸田茜といいます。岸田とは最初は仲良かったのですが、ある日から岸田やその周りの友達だった子から無視されたり、嫌がらせを受けるようになりました。……もう許せなくて…。お金はいくらでも払いますから、岸田を呪い殺して下さい、お願いします。」

「わかりました。」

この依頼は鎌田に任せたほうがいい、そう思った。

理由は鎌田はいじめに対して尋常じゃないくらいの嫌悪を抱いてると思ったからだ。

過去の彼女の動きを見れば分かる。

彼女に初めて任せた依頼はいじめの報復だったから彼女は冷静と呪えたのかもしれないし、今朝のいじめのニュースに対する態度だってそうだ。

彼女は過去にいじめられたことがあるのだろうか。

だから彼女に任せようと思った。俺がやったより強い呪いがかかるはずだ。


「詩織ちゃん、」

「何ですか?」

やっと普通に話せた。

「ちょっと任せたい依頼があるんだけど。」

「はい、何の依頼ですか?」

「その…いじめの報復で相手を呪い殺してくれっていう依頼なんだけど…。」

「どうして私が?」

「え?いや、その……。」

「…別にいいですけど。」

「おう、サンキュー」

「で、依頼人は?」

「ああ、依頼人は中田明美さん。呪い殺してほしいのは中田さんが通ってる大学で同期の岸田茜さん、昔は仲良かったのに今じゃ岸田さん含め周りの友達からも無視されたり、嫌がらせされたりしてるそうだ。それにしても女性って怖いな…って詩織ちゃん?」

「中田…明美って。ちょっと依頼人のプロフィール見せてください。」

「いいけど…、もしかして知ってる?」

依頼人のプロフィールを鎌田に渡す。

鎌田はひったくるように取るとそれを真剣に見ていた。


「どうした、詩織ちゃん。なんか変だぞ。」

「斎藤さん…。お願いがあります。」

「何だい?」

「この依頼…断って貰えませんか?」

「は?無理無理。やるって言ったし。」

「…じゃあ私にはこの依頼を引き受けれません。」

「……どういうこと?訳を教えてくれよ。」

「斎藤さんには関係ありません。」

「いや、関係あるね。彼女と詩織ちゃんの間に何があるのか教えてもらわないと。内容によっちゃ詩織ちゃんを解雇しないといけない。」

「か、解雇って。そんな…。」

「言ったよな。俺たち呪い代行屋はどんな依頼だろうがどんな依頼人だろうが引き受けないといけないって。それが守れない奴には辞めてもらうって。」

「……っ 」

「…とりあえず依頼人と詩織ちゃんの関係を教えてくれないかな?」

「………嫌です。」

鎌田はそう言い放つと、事務所から出て行った。

「お、おい 待てって。」

急いで追いかけたが、鎌田の姿はすでに消えていた。


事務所に戻りイスに深く腰を下ろす。

「ふう〜。」

このままだと鎌田を解雇しないといけない。

彼女にはもっと働いてほしいのだが、

「考えても仕方がない。もう1回聞いてみるか…。」

鎌田が暮らしてるアパートの住所を調べ向かうことにした。

鎌田の住む所に行くのは初めてだ。俺らはノロノロ事務所で働いてからもう4年近く経つが、鎌田のプライベートなことはまったく知らない。

住所を調べて、早速そのアパートに向かうことにした。

タクシーを捕まえ約1時間後アパートに着いた。そのアパートは結構古そうで、幽霊がいかにも出そうなところだった。

鎌田の部屋の前に行きチャイムを鳴らす。

誰も出てくる気配がない。ドアを叩いても出てこない。居留守でも使ってるのだろうか。

しばらくドアを叩いていると、隣の部屋から住人が出てきて、

「うるさいな。あんた誰?」

「あ、斎藤といいます。しお…鎌田さんと同じ職場で働く者でして。」

「…で、そんな人が鎌田さんに何の用?」

「その…今日連絡なしに職場を休んでいまして…。」

「…鎌田さんなら今朝どっかに出かけてたけど。まだ帰ってきてないよ。」

「そうなんですか?」

「ここ…結構古いアパートだから隣の人が出て行ったり帰ってきたら音がして分かるんだけど、まだ帰ってきた音がしてないから。」

「そうですか…。ありがとうございました。」

そう言ってアパートを立ち去る。

やれやれ一体どこにいるんだか。そう考えていたらふとある場所が思い浮かんだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『はあ〜 疲れた。』

『今日依頼多かったもんね。この仕事結構ストレス溜まるな。』

『ですね。斎藤さんってストレス溜まった時はどうしてるんですか?』

『あー俺のストレス解消法はひたすら寝ることだな。詩織ちゃんは?』

『私はね…高い所から大声だしてますね。』

『高い所?』

『はい、家の近くに大きな廃ビルがあるんです。地元では心霊スポットって言われてて誰も来ないんです。嫌なこととかあったらそこの屋上に上って叫んだりしています。』

『…完全にヤバい人でしょ。』

『うるさい!!』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


アパートから出て周りを見渡す。

(廃ビルらしきもの……。あ、見っけ。)

あたりにそれらしきものを見つけた。近づいてみたが…

確かに心霊スポットみたいだ…

もう時刻は午後8時を過ぎてる。正直怖い。

たまに幽霊より生きた人間の方が怖いって言う人がいるが、俺からすれば生きた人間は呪えるからまだ怖くない、だが幽霊は呪えない…。俺が怖いのは呪いをかけれないものだけだ。

そんなこと考えてるうちにだんだん暗くなってきた。ぐずぐずしても仕方がないので俺は度胸をきめて廃ビルに入っていった。

怖い怖い怖い。階段に着いた瞬間ダッシュし、一気に上がっていった。そしてついに屋上に到着した。

ちらっと見ると、鎌田らしき人が座っていた。

息を整え、さっき下の自販機で買った2つのコーヒーを持って鎌田の方へ向かっていく。


「…飲むか?」

「……斎藤さん。どうしてここに?」

「…嫌なことあったら近くの廃ビルの屋上で叫んでるって言ってたろ。」

「……よく覚えていましたね。」

「まあな。」

「……でも斎藤さん。」

「ん?」

「私がコーヒー飲めないのは覚えてないんですね。」

「え!?そ、そうだっけ?」

「私紅茶派なんですよ。」

「そ、そっか…。」

「斎藤さん、相変わらずですね。」

鎌田はふふっと笑ってた。

「…で、気分は晴れた?」

「……まあまあ。でも斎藤さん何しに来たのですか?」

「その……あれだよ、あれ。……やっぱり…無理かな?なんて。」

「………斎藤さんはなぜ呪い代行屋なんて始めようなんて思ったのですか?」

「………俺さ、1回死んだんだよ。」

「へ?」

「自殺したんだよ。1度。マジな。」

「え?でも…。」

「うん。で、死後の世界的なところに行ったのよ。そこで何か行列ができてたのよ。で、俺もなんとなくその行列に並んでたら入国審査みたいな所がでてきて、そこで天国か地獄か決められていってたんだ。」

「斎藤さん?それって…」

「マジの話な。もしかして疑ってる?」

「いや、話があれなんで。でも斎藤さんの顔がマジなんで一応信じてます。」

「一応ね…。で、ついに俺の番になったんだ。そしたら綺麗な服を着ていたおっさんに君はまだこの世に対する未練が強すぎるとか言われて下界に追放されたわけよ。目を覚ましたら事務所の近くの路地裏で倒れてたんだ。」

「なるほど…。ってか何で自殺したんですか?」

「…俺ね、こう見えても昔は頭良くてさ、将来医者になろうって目指してたんだ。」

「さ、斎藤さんが、ですか?」

「うん、でもね。途中から自分の生きている意味がわかんなくなってさ。なんかもう何もかも嫌になってさ、自殺したんだよ。だから生き返った時、この自分を追い込んだ社会に復讐したくて呪い代行を始めた。呪いは人の妬みや恨みを増幅させる。だから俺は人を呪い続けることで今の社会を粉々にしようと思った。」

「…そうだったんですか。」

「…詩織ちゃんは?どうしてノロノロ事務所で働きたいと思ったの?」

「…私…学生の頃いじめられてたんです。」

「今回の依頼人中島明美に?」

「え?何でそれを。」

「詩織ちゃんの様子をみて、ピンときた。」

「斎藤さんは今までいじめられたり、周りでいじめられてる人を見たことありますか?」

「いや…1度もない。」

「……明美ちゃんはすごく優しい子だったんです。でもある日明美ちゃんと喧嘩してしまってから明美ちゃんは私のことをいじめてきて…。」

「それって…。」

「そうなんです。今の明美ちゃんと全く同じ状況でした。ですが、ある日いじめがエスカレートして明美ちゃんから階段で突き落とされたんです。」

「え?」

「重症でした。3日間意識不明の状態になりました。でも結局私が階段から落ちてしまったことにされたのです。私が先生や親に言っても全く信じてもらえませんでした。私はその時絶望を味わった…。信じてくれる人が誰もいない、だから私はそんな人たちを憎んだ。怪我が治るとすぐに私は彼らから逃げ出しました。そんな時ノロノロ事務所を見つけました。ここで働いて人の呪い方を学び、あいつらに復讐してやる、そう思いました。」

「なるほどな…。」

「だから明美ちゃんが依頼したと知った時は腹が立った。彼女は自分のしてきたことを顧みてないんだ。あんな人もっと苦しめばいいのに。」

「詩織ちゃんの気持ちはよくわかったよ…。でもさ、詩織ちゃん腹が立たない?」

「何に…ですか?」

「そんなくだらない連中に復讐するため貴重な時間削るなんてさ。俺ならごめんだね。」

「………斎藤さんも復讐に時間削ってるじゃいですか。」

「確かに…でも俺はそうしないと生きていけない生き物らしい。俺は…復讐って言っておきながら自分の生き方を見つけれなかったのを社会のせいにしてきたんだ。」

「斎藤さん…。」

「だからこそ詩織ちゃんにはこんな馬鹿の生き方をしないでほしい、そう思ってる。」

「………とりあえず明日答えを出します。」

「……そうか。ならもうこのビルから出ようぜ。」

「はい」


と二人とも立ち上がったが、


「…何で斎藤さん前を歩こうとしないんですか?もしかして怖いんですか?」

「怖くない……と言ったら嘘になる。」

「やっぱり怖いんですね。」

すると鎌田は前を歩きだした。

「…詩織ちゃん怖くないの?」

「もう何度も来ているので、慣れました。ほらもう出口ですよ。」

「やっとか…。でもここ幽霊いないんじゃないの?」

「え?……いますよ、私見たことありますもん。」

「え………。とりあえず出よう。」

「斎藤さん、怖がりですね…。」

「…詩織ちゃんが普通じゃないの。……じゃあ…また明日な。」

「はい…。今日はありがとうございました。」


この日はこれで鎌田と別れた。

それにしても鎌田も鎌田で色々抱えてたんだな。だけど、鎌田に嘘ついちゃったな…。我ながらよくあんな話よく思いついたよな。

「まあいっか…。」

そう呟き、俺は事務所に帰った。



翌日、

朝6時、いつもノロノロ事務所では午前8時から働き始めるのだが、今日は早く目が覚めてしまった。

「詩織ちゃん、来るかな…。」

椅子に座ってそんなことを呟く…。

30分経ったが、来ない…。当然ちゃ、当然だな まだ午前6時半だ。色んなことを考えているうちについうとうとしてしまい、気がついたら寝てしまっていた。


「……さん、斎藤さん、起きて。」

「………ん?詩織ちゃん?」

「こんなところで寝ちゃうと風邪引きますよ。」

「うん、ごめん。」

時計を見ると8時になっていた。

「私決めました。私……今回の依頼を引き受けます。」

「そうか…。」

「私は過去とか関係なくノロノロ事務所が好きです。だからもっとここで働きたい。それが私の出した結論です。」

「ふっ……いい答えだ。じゃあ早速岸田茜を呪ってきてくれる?」

「はい。」

朝一だったが鎌田はすぐに儀式部屋へと入っていった。

1時間後

「斎藤さん、終わりました。」

「そうか、ご苦労様。これで詩織ちゃんを解雇しなくてすんだよ。」

「…はい。これからもよろしくお願いします。」

「こちらこそ。」





数週間後、

「斎藤さん、中田さんが今日報酬をもってくるそうです。」

「おう、分かった。」

「……それで、私が彼女にもらいに行ってもいいですか?」

「…いいよ。」


数時間後、依頼人がやってきた。

「じゃあ 私行ってきますね。」

「おう。」

鎌田が依頼室に入っていく。

俺はドアの近くで中の様子を伺っていた。

「ど、どうも…鎌田といいます。」

「あれ?前の男の人は。」

「あ…斎藤さんは今忙しくて。」

「そうですか…。先日はどうもありがとうございました。おかげで岸田は死にました。これでやっと普通に暮らせます。」

「……そうですか。」

「報酬をお渡しします。本当にありがとうございました。」

そう言うと、依頼人は去っていった。




「よく何も言わず耐えれたな。」

「斎藤さん…。名前を言っても彼女は覚えてなかったようです…。」

「………。」

「斎藤さん、屋上に上がってもいいですか?」

「まて、」

「?」

「俺も行く。」



そう言って、2人でビルの屋上に上がって

「「馬鹿野郎ーー!!」」

って一緒に叫んだ思い出は今でも忘れない。



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