呪い>暴力?
「はあー、今日はなんか暇だな。」
「そうですね。テレビでもみますか。」
鎌田がテレビに電源を入れる。
テレビではアニメがやっていた。最近流行ってる不良系のアニメらしい。
「へぇー、こういうの流行ってんだ。」
「こういうアニメとか漫画に影響受けて暴走族とか不良になる子多いんですよね〜。」
そう鎌田が溜息をもらしながら言った。
「まったく、スポーツとか教師とか医者とかならまだしも不良とかって憧れるべきではないですよ。」
「…言えてるな。」
「斎藤さんは昔グレてたりしたんですか?」
「んなわけないでしょ。俺昔から平和主義だったから喧嘩なんてしたことない。」
「…斎藤さんみたいな不良に絡まれても全然怖くないですね。」
「何気に傷付くな。」
そんな会話をしてると依頼人がやってきたようだ。
依頼人がくる時、依頼人はビルの玄関にあるボタンを押す。すると事務所にあるランプが光る。そして一階の監視カメラをチェックし、依頼人ならロック付きのドアを開ける。なぜこんなことをするのかというと、警察などが来た時に速やかに逃げれるからだ。
ノロノロ事務所はある廃ビルの三階にある。
この廃ビルはなかなか使えて、元はオートロック付きのドアもあった。俺がノロノロ事務所を始めた時はただのロックされたドアだったが、改造して好きな時に解除できるドアに改造しておいた。防犯対策もばっちりだ。
鎌田が監視カメラをチェックする。
「…斎藤さん、依頼人……ですかね?」
鎌田は怯えた様子で尋ねてきた。
「どうした?」
急いでカメラをチェックする。
「これって…」
見た目は見るからに暴走族みたいなやつだった。後ろには2、3人の仲間らしき奴らがいた。
「た、多分大丈夫だろ。」
「さ、斎藤さん、めちゃくちゃ震えてますよ。」
「大丈夫だ。」
そう言ってドアの解除ボタンを押した。
しばらくしてドンドンという音が聞こえてきた。
「じゃ、じゃあ行ってくるわ。」
「斎藤さん、お気をつけて。」
「お、おう。」
手が震えてる。
本音は行きたくない。しかし、奴らも依頼人なのかもしれない。依頼人は誰でも差別するわけにはいかない。
勇気を出して依頼室に入っていく。
「こ、こんにちは。」
「おう、あんたが呪い代行屋か?ずいぶん若えな。」
「そ、そうですか?」
中にはさっき監視カメラで映ってた一番偉いっぽい人がいた。絵に描いたような暴走族だ。
「あんたに依頼したくてさ、」
「何でしょう。」
金をよこせ!!とか言われたらどうしようか。
「呪ってほしいやつがいる」
「だ、誰でしょう。」
「俺は見て分かると思うが暴走族なんだ。織田連合つう暴走族の首領やってる織田哲志だ。最近俺らのチームの後輩が10人くらい闇討ちにあっててよ。……犯人は分かってんだが。」
「だ、誰ですか?」
「アンデットっていう不良グループだよ。10人くらいの連中なんだがな、未だにそいつらの拠点もメンバーも分からね。ただ分かってんのはリーダーだけだ。そのリーダーは元織田連合の裏切り者の塩田だ。塩田が前に俺らに織田連合を追放された恨みを晴らすと言ってからアンデットからの攻撃が始まった。だから頼む、塩田を呪ってくれ。塩田浩介を。」
「な、なぜ塩田を追放したのですか?それに塩田を呪っても他のメンバーがまだいるんじゃ……。」
「…俺と塩田は昔からのダチだった。だがある日塩田が俺のバイクに細工をして俺を殺そうとしてきたことがあってな…、おそらく織田連合のリーダーになりたかったんだろう。それで俺らはあいつを追放した。それ以来あいつの行方が分かんねえ。塩田以外のアンデットの連中は普通の学生らしい。奴らはいつも塩田が呼んでくるらしいが、ただ憂さ晴らししたいがために来るらしい。俺ら暴走族でも1対10だ。それに塩田がいりゃ勝てねえ。だから塩田さえ動かなけりゃアンデットは潰れたも同然だ。」
「なるほど…ならば塩田を呪い殺せと?」
「いや……それは…。あいつとは昔ダチだったから、殺すのは勘弁してやってくれ。せめて喧嘩できないくらいの体にしてやる程度で。」
「…わかりました。引き受けましょう。」
「そうか…恩に着るぜ。金はちゃんと払うからよ。」
そう言うと、彼は去っていった。
「でもよかったです。こうやって無事に斎藤さんが帰ってきて。私の頭の中だと斎藤さんはボロ雑巾になってましたから。」
「ボ、ボロ雑巾?……ったく、それでアンデットのボスである塩田浩介を呪ってくれだと。」
「アンデット?……ダサっ。」
「おいおい、そこは気にすんなよ。」
「アンデットって不死身ってことですよね?いや人間いずれ死ぬってのに。」
「そこかよ。……ってことで詩織ちゃん呪ってくれ。」
「私ですか?」
「うん、俺はさっき織田さんと会ってきて力抜けたから頼むわ。」
「しょうがないな……。でももうこんな時間ですよ。」
「そうだな……。じゃあ明日やってくれる?」
「わかりました。それではまた明日。」
「また明日。」
そう言って彼女は帰っていった。
「ふーっ、俺ももう休むか。」
時刻は午後6時半くらいだったが、なぜか織田の件で一気に疲れてしまったため寝ることにした。
翌日、
「遅いな…。」
鎌田が来ない。いつもは30分前くらいに来てるのに。もう10時半だ、2時間半も遅刻だ。
すると、電話がかかってきた。
「はい…ノロノロ事務所です。」
「………。」
「…もしもし、どちら様ですか?」
「…お前ノロノロ事務所の斎藤か?」
「そうですが…どなたですか?」
「……昨日織田哲志とかいう客が来たろ。」
「……知らないですね。」
「嘘つけ、昨日お前らの事務所に織田たちが入っていくのを見たんだよ。」
「見間違いじゃないですか?」
「とぼけんのか……本当のこと吐かなきゃお前のとこの社員が痛い目にあうぞ。」
「何!?詩織ちゃんか?」
「おっと、急に余裕がなくなったな、斎藤さんよ。正直に答えろ、昨日織田たちが来ただろ?」
「……ああ、来たよ。お前は誰だ?」
「…塩田だよ、塩田浩介だ。聞いたことあるだろ?織田から。」
「塩田だと?…ああ、聞いたことあるよ。」
「…昨日織田に何を依頼された?」
「……あんたを呪えって。」
「俺を?…くくくっ、織田も馬鹿だな。俺様を呪うなんてふざけたまねをしやがって。」
「もういいだろ。詩織ちゃんを解放しろ!!」
「……いいけど、条件がある。」
「何だ?」
「一つは織田の依頼を断ること。二つは俺を呪おうとした罪として300万持ってこい。お前ら稼いでるだろ?三つは警察には通報するな。これらの条件を守れなかったらお前のところの社員の命はない。」
「………分かった。」
「素直だな。じゃあ11時に立花区にある第3倉庫で待つ。」
「…ちょ、ちょっと待ってくれ。」
「何だ?何か不満か?」
「だ、第3倉庫ってどこ?」
「…お前馬鹿か?…んなこと自分で調べろ。」
「わ、わかりました。すいません。」
そう言った瞬間電話は切れた。
まいったな…、鎌田が捕まってる。無事だといいんだが。それよりも第3倉庫がわからない。まずい状況だ、どうする斎藤仁?
事務所内をうろうろしている間にある一計が思い浮かんだ。
「ここが…第3倉庫か。」
ようやくたどり着いた。この時代にネットがなかったら確実に鎌田はボロ雑巾になっていただろう。
恐る恐る勇気を出して入っていくと、中に10人ほどの覆面を被った輩と、1人の男が立っており彼らの後ろに椅子に縛られた鎌田がいた。
「し、詩織ちゃん!!」
「さ、斎藤さん、…すいません。」
鎌田は無事のようだ。すると塩田らしい男が近づいてきた。
「お前が斎藤か?…思ったより若いな。それで金は持ってきたのか?」
「ああ、ここにある。」
そう言って持ってきた封筒を塩田に見せる。
「よし、警察にも通報してないみたいだな。」
「先に詩織ちゃんを解放しろ。そうすればこの300万は渡す。」
「ふん…いいだろう。おい、その子を離してやれ。」
周りの覆面を被った奴らは少々渋ってたが、塩田が怖いのか渋々鎌田を引き渡してくれた。
「さ、斎藤さん、すいません。こんなことになって。」
「いいんだ、気にすんな。それよりケガはないか?」
「わ、私は大丈夫です。でも…斎藤さん…。」
「心配するな、俺を信用しろ。」
鎌田と会話をしていると、
「おい、斎藤さんよ。300万早く出せよ。」
「……ほらよ。」
そう言って封筒を渡す。
「ほう、結構分厚いな。…そんじゃ最後に織田の依頼を断れ。俺の前で織田に電話をかけて依頼を断れ。」
「………。」
携帯を取り出し、織田に電話をかける。塩田に聞こえるようにスピーカーをオンにする。
「いいぞ…斎藤。」
しばらく電話のコール音がなる。そしてついに織田が電話にでた。
「…おおっ、斎藤か?どうした?」
「織田さんが先日依頼した件ですがね………。」
塩田がニヤリと笑う。
「いいぞいいぞ、断れ断れ。」
目の前でそう言われた俺は
「……引き続きやらせていただきます。それじゃ。」
そう言って電話を切った。
鎌田が驚いた顔で見てくる。
「さ、斎藤さん?」
一方塩田は恐ろしい顔になって
「斎藤…てめえどういうことだ?」
「…やっぱり無理だわ。」
「あ?」
「俺は呪い代行屋だ。依頼人に止めろと言われない限り俺は依頼を遂行する。」
「てめえ、なめてんのか?…二人ともぶっ殺してやる。てめえら殺した後織田もぶっ殺す、金は入ったからな。」
塩田と周りの奴らが俺らに近づいてくる。
「さ、斎藤さん…。」
「………二つ言いたいことがあるんだが、言ってもいいか?」
塩田たちの動きが止まる。
「何だ?」
「さっき渡した300万はフェイクだ。ただの新聞紙だよ。」
急いで封筒の中身を確認する塩田。しばらくして
「てめえ…なめたまねしやがって。」
「大変だったよ、急いで大量に作るのは。ちゃんと大きさ一緒だからね、騙されたでしょ?」
「てめえぶっ殺してやる!!」
そう言って塩田が鉄パイプを片手に走ってきた。
「それともう一つ。」
「何だ?」
また塩田たちの動きが止まる。
「君たちに紹介したい人を連れてきたよ。紹介っていうか再会?」
そう言うと、背後から声が聞こえてきた。
「久し振りじゃねーか、塩田。俺をぶっ殺す?おもしろそーな話じゃん。俺も混ぜてくれよ。」
塩田の顔が青ざめる。
「お、お前は織田。どうしてここに。」
「斎藤が呼んでくれたんだよ。」
織田の後ろには30人近くの連れがいた。
塩田の取り巻きはそれを見て、恐れて
「し、塩田さんこんなの聞いてないよ。」
「う、うるせえ。クソが、斎藤にやられた。」
塩田が睨んでくる。すると、織田が
「斎藤、あんたらはもう帰んな。こっからは俺らの出番だ。」
「ありがとう、織田さん。ほら、帰るよ。詩織ちゃん。」
そして無事鎌田を事務所に連れて帰った。
数日後、
「それにしても本当に怖かったんですよ。」
「だろうなー。」
「だから解放してくれた時、すごい嬉しかったです。」
「そ、そうか。」
「そして織田さんの依頼を断らなかった時、すごい殺意が湧いた。」
「なんでだよ。」
「だって、あの状況であんなこと言われたら誰でも殺意湧きますよ。」
「だってあれは俺の作戦だったし。」
「私は知りませんでした。」
「そ、そうだよね……ごめん。」
「でもあの作戦って全部斎藤さんが思いついたんですか?」
「ああ、どうだ?かっこよかったろ?」
「全然。」
「え?あれ?」
「だって、全部織田さんたちのおかげじゃないですか。それに比べ斎藤さんは……ダサ。」
「おい、だから俺はどっちかっていうと頭脳派なんだって。」
「まったく、そんなんだから女の子にモテないんですよ。それと織田さんがいらっしゃいました。」
「ぐぬぬ……。」
悔しがりながら依頼室に入っていく斎藤の背後で鎌田は小さい声で、
「……でも本当は私をちゃんと助けにきてくれただけでスゴいかっこよかったですよ、斎藤さん。」
そう言ったが、斎藤には聞こえなかった。
依頼室に入ると中には織田がいた。
「おう、斎藤、悪かったな。色々迷惑かけて。」
「いえ、全然」
「ん?ちょっとキレてる?」
「いえ、全然」
「……まあいい、で今日は勝手なんだが依頼を取り消してもらえないか?」
「…そうですか。全然大丈夫ですよ。」
「あんたらには悪いことをしたと思ってる。だからせめてこれだけ受け取ってくれ。」
そう言うと織田は胸ポケットから封筒を取り出し机に置いた。
「いえ、今回解決できたのは織田さん自身の力ですからこのようなものは…。」
「いや、これは迷惑をかけてしまったことに関する謝罪の気持ちとして受け取ってくれ。」
「…分かりました。」
俺は机にある封筒をとって胸ポケットに入れた、相当分厚いな。
「よ、よかったぜ…。」
織田はなぜかホッとした顔になった。
「どうかしたんですか?」
「い、いやー俺さ、呪いとか一番怖くてさ。斎藤怒らせたら怖そうだし。」
「いやいや俺全然怖くないですよ。大丈夫ですよ。そういえば塩田は?」
「あ、ああ塩田はな…詳しいことは言えないがもう二度とあんなことできないようにしてやったよ。」
「そ、そうですか。」
織田は時計を見ると何かを思い出したかのような顔をして
「もうこんな時間か。そんじゃあな、斎藤。助かったぜ。」
俺に一礼すると織田は颯爽と去っていった。
「へえー織田さんがそんなことを。」
「そうなんだよ。塩田は詳しいことは分からないが、もうあんなことしないだろうって。」
「…もしかして、」
「ん?」
「塩田は消されたんじゃ。」
「そ、そんなわけないだろ。」
「…怖いな。で、その封筒は何ですか?」
「あーこれね、何か織田さんが謝罪の気持ちって渡してきたんだよ。俺は別にいいって言ったんだけどね〜。」
「斎藤さん顔笑ってますけど。……斎藤さん。」
「ん?いくらぐらい入ってた?」
「その…原稿用紙が入ってるんですが。」
「原稿用紙?」
急いで中を見ると、中には原稿用紙が500枚以上入ってた。
開いて見てみると
「反省文 アンデット一同」
というタイトルがでてきた。
「は、反省文?」
「ま、マジかよ…。」
「斎藤さん、落ち込みすぎ。それにしてもいっぱい書きましたね。」
筆跡を見ればわかる、織田に脅されて書いたのだろう。
相当怖かったのか、筆跡が乱れていた。
「震えながら書いたのだろうか。」
「やっぱり織田さん怖いですね。そんな織田さんがまさか呪いを怖がってるとは意外ですね。」
「ま、呪いは暴力より強しってことだな。ハッハッハ 」
そう言って笑う俺と納得のいかない顔をしている鎌田であった。