隣人トラブルにご注意!!
「なあ、詩織ちゃん」
「なんですか?」
「壁ドンって…何?」
「え?今まで知らなかったんですか?」
「いやいや、行為自体は知ってるよ、質問が悪かった。あんなことされてドキドキするもんなの?」
「ま、まあ そりゃしますよ。女の子だったら一度はされたいものですけど。」
「お、じゃあ俺がやってやろうか?」
「え?いやいやそれは無理ですよ。笑ってしまいます。」
「なにそれ?何気に傷つくんだけど。」
「いや、普段ふざけてる斎藤さんにあんな感じに迫られても…普通笑っちゃうでしょ。」
「俺ふざけてるつもりはないんだけど…。俺ら2つしか年違うんだから、そういうのってドキドキするもんだと思ってた。」
「え?…ってか今更ですけど斎藤さんっておいくつなんですか?」
「ほんと今更だね…今年で21だよ。」
「えーー!?嘘でしょ。いや、全然見えないですよ。」
「俺ってそんなに老けてるか?」
「いや、老けてるというか、年の割にはなんかスゴイオーラで…」
「そうですか…」
「どうしたんですか?拗ねてるんですか?壁ドンの件は謝りますから。」
「別に拗ねてないよ。…そういえば壁ドンってもとはマンションやアパートでよく起こる現象のことじゃなかったっけ?」
「急に話変わりますね…。現象っていうか、隣にうるさいってことを伝えるために壁を殴ることでしょ?」
「そう、それ。この事務所は幸いアパートやマンションのような作りの建物じゃないから壁ドンはこないから安心だな。」
「っていうか、他にこのビルに住んでいる人いないですから。逆に壁ドンきたら怖すぎでしょ。」
「言えてる…」
そう話していると、どこからか
ドンドンドン
と聞こえてきた。
「し、詩織ちゃん、これって…。」
「いや、依頼人でしょ。」
「あ、そっか。普通に仕事してるの忘れてた。」
いつも通り依頼室の前の鏡で服装を正し、依頼室へと入った。
中には見た目20代くらいの若い男がいた。
若い男はわりと珍しかった。
「どうもお待たせいたしました。」
「呪い代行屋さん?だよね。」
「はい、」
「呪ってほしいやつがいるんだけども。」
「はあ、それでは詳しくお聞きかせ下さい。」
依頼内容はこうだった。
依頼人坂口泰人が最近越してきたマンションで嫌がらせをしてくる人がいるらしい。調べてみると、それは自分の隣に住む中年の男性島田健吾だったらしい。島田は依頼人の部屋の前にゴミを置いたり、勝手に郵便物を取ったり、郵便受けに生卵を入れたりといった嫌がらせをしてくるらしい。依頼人はなぜこんなことをしてくるのかは、よく分からないという。嫌がらせがエスカレートする前に島田を呪ってほしい、というのが依頼だった。
「それで…どの程度まで呪えばいいですか?」
「あー、もう殺しちゃって。」
「……分かりました。では、報酬について話させていただきます。」
「…その…金がさ、あんまり無くて…。」
「はあ、ご予算はどのくらいでしょうか?」
「…5万だな。」
「5万ですか?…すいませんが相手を呪い殺すとなると最低50万はいただいているんですが…。」
「50万!?はぁ?ぼったくりかよ。」
「いや、こっちも商売なんで。」
「無理無理、5万で何とかしてよ。じゃあそういうことで。」
「あ、ちょっと……クソっ。」
「今の客感じ悪かったですね…」
「ああ、まあな」
「本当に呪い殺すんですか?」
「冗談じゃない。5万で殺すわけがない。でもちゃんと呪ってやるぜ……5万円分はな。」
今回は呪う相手の写真は貰ってない。普通呪い代行屋に来る時には呪う相手の写真を持ってくるのが当たり前なのだが…。しかも詳しい情報も無し。
だからその島田という男について調査しなければならなかった。
「じゃあ調査に行ってくるわ。」
「いってらっしゃーい。」
依頼人の住んでるアパートまでやって来た。
「依頼人の隣の部屋か…」
しばらく待機していると、それらしき人物が出てきた。
どこか外出するのだろうか。尾行をしてみた。
すると彼はあるスーパーの中へ入っていった。入ったところからして彼はスーパーで働いているようだ。
しばらくして、スーパーに入ってみると、彼は一生懸命に野菜を並べていた。彼の様子を見て、ふと
(彼は本当に他人に恨まれるような人なのだろうか?)
そう思った。
今日一日彼を観察してたが、彼が他人に嫌がらせをするような人とは思えないようだった。
だから仕事が終わった後直接彼に聞いてみることにした。
「あの…島田さんですか?」
「…すみませんが、どなたですか?」
「あ、私は探偵でして、その…あなたが住んでいらっしゃるマンションの隣の部屋に住んでいる坂口さんから最近嫌がらせを受けているから犯人を探してほしいという依頼を受けまして…何かご存知ないですか?」
「探偵さん?…もしかして僕が嫌がらせをしているとお思いになられてるのですか?」
「いえ、隣人の島田さんなら何か知っているかと思いまして。」
「なるほど…僕は以前彼がゴミを分別せずに出したので、そのゴミを彼の部屋の前に置いたことはあるんですが…、もちろんその事はちゃんと彼に言いました。…でも。」
「でも…?」
「その時に彼とちょっと口論になっちゃって…。それ以来彼との仲が険悪になっているんです。…でも僕は嫌がらせなんかしていません。本当です。」
とても嘘をつくような人とは思えなかったので、彼の言葉を信じた。
「そうですか…。では一体誰が?」
「……その…もし…犯人が分かったら、彼にその事を教えるんですか?」
「それは…どういう…」
「実は…坂口さんはあのマンションではその…少し問題のある方で…他の住人の方々も迷惑に思っていて…それで以前彼に嫌がらせをしようなんてことを他の住人に誘われたことがあるんです。もちろん断りましたが…。」
「なるほど…」
「あの…彼らには私からやめるように説得するんで、どうか見逃してあげられないでしょうか?」
「……事情は分かりました。彼には黙っておきましょう。」
「…すいません。」
翌日、
鎌田に昨日のことを伝えると、
「それって、依頼人が全部悪いんじゃないですか?」
「まあね、マンションの管理人にも聞いてみたけど、彼は問題をしょっちゅう起こしてるみたいだし。」
「で…嫌がらせの犯人は?」
「ああ…昨日の深夜に依頼人の部屋の真下の部屋に住んでいる住人が郵便受けに生卵を入れるのをちゃんと見た。」
「じゃあ島田さん無実じゃないですか。どうするんですか?」
「ん?もちろん呪うよ。」
「斎藤さん!!」
「だから、依頼されたら何だってやるんだよ、俺らは。……ただ5万しか貰ってないから今回は…。」
数日後、
「斎藤さん、坂口さんがいらっしゃってます。…そのお怒りになった様子ですが…大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。心配すんな。」
そう言い、依頼室に入ると
「おい、てめえ、島田死んでねーじゃねーか。この野郎、ふざけんなよ。」
「だから言ったでしょ。5万じゃ足りないって。」
「この野郎……はぁ、でもあいつ左手骨折したらしいし、少しスーッとしたわ。ほらよ、5万だよ。」
「どうも。」
「でもよ、お前ら最悪だな。」
「はい?」
「金でしか動かねークズだよな。」
「あんたも人のこと言えねーだろ。」
「は?」
「第一この程度の嫌がらせで、普通呪おうなんて考えねーよ。」
「チッ、調子乗んなよ。クソが。」
「気をつけた方がいい。次はあんたが呪われる側になるかもしれないよ。」
「…フン。」
「こ、怖かった…」
「詩織ちゃん、ビビリすぎでしょ。」
「斎藤さん、よくあんなに強気なこと言えましたね。」
「だって…金全然貰えないんだもの。」
「結局金かよ!!」
「でも隣人トラブルっつーのは怖いなー。」
「ですよね。自分の住んでいる環境でさえ他人に気を使わないといけないのは大変ですね。」
「まあ、でも隣人と上手いことやっていけば逆に良いこともあるからな…。人間関係を大切にしないとね。」
「そうですね。」
「よし、仕事仕事。今日も頑張ろうぜ。」
「はい。」