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こんにちは 呪い代行屋さん   作者: てるてる坊主
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人を呪わば穴3つ?

依頼室に入るともうすでに依頼人が待機している。

俺はいつも通り、愛想よく相手に話す。

「大変 お待たせしました。」

「あ、いえ、その……ここは呪い代行してくれるところだと聞いたのですが……」

見たところ割と若い女性のようだ。

この仕事をしていつも思うのが、男性より女性の方が妬みや恨みを抱えるのが多いということである。

「ええ、依頼主様の依頼された通りに特定の方を呪うのが、私達呪い代行屋です。それで今回の依頼内容はどのようなものでしょうか?」

「その…主人が浮気をしているようで…」


依頼内容はこうだった。依頼主の新見静江さんはご主人の健太さんの浮気相手を呪ってほしいということだった。

結婚して五年目になる新見さんは最近ご主人の帰宅が遅いことから、ご主人の浮気を疑っていたという

そこで探偵を雇ってみると実際にご主人は勤め先の後輩と浮気をしていたらしい。

大好きなご主人が取られたことで、静江さんの怒りは爆発し、浮気相手を呪ってやると誓った


「と、こんな感じ」

今回の依頼内容を説明すると、鎌田は何か納得のいかなそうな顔をして、

「いや、斎藤さん、これおかしくないですか?」

「何が?」

「普通旦那さんを責めるべきでしょ。」

「まあね。でも浮気相手も悪いっちゃ悪いでしょ。」

「うーん…」

「……あまり依頼内容に疑問を持つな。例えどんな依頼だろうと、希望どおりに実行するのが、俺たちのルールだ。」

「…はい、分かりました。で、今回はどんな呪い希望ですか?」

「相手が二度と浮気出来ないぐらい酷い目に合わせろだって。」

「じゃあ殺さない程度に呪えってことですか…」

鎌田はどこか安心したような顔をしていた。

時々呪殺の依頼もあるが、自分も鎌田も一応は人なので、人を呪い殺すのはあまり気が乗らない。

「じゃあ 今回は藁人形を使うのが、適していますね。」

「そうだな。じゃあ藁人形と五寸釘を6本持ってきてくれ。」

「分かりました。」

藁人形は一番オーソドックスな呪い方である。丑の刻参りとかを想像するかもしれないが、あんなに面倒なことをしなくても普通に藁人形に釘を刺せば相手を呪うことができる。


「持ってきましたよ。」

「おう、んじゃ俺がやるわ。」

「は、はい。」

そして、俺は呪い専用の部屋に向かう言うなれば儀式部屋みたいな?感じの部屋である。

部屋の中は外とはまったく空気が違う。どんなに暑い日にも部屋のなかはとてもひんやりしている。

「よし。」

俺は呪う相手の写真を藁人形の頭あたりに貼り付け、五寸釘をそこにあてる。そして金槌を力強く振り下ろした

カーーン カーーン カーーン カーーン カーーン カーーン カーーン カーーン

…………


何度振り下ろしただろうか、藁人形の頭には6本の五寸釘が深々とささっていた。

頭に貼り付けていた写真の中の顔はもうぐしゃぐしゃになっていた。


これで相手は呪われた。実に簡単である。呪いはやり方ではなく、呪う人の思いの強さが呪いの強さに反映されてくる。今回の依頼人もなかなかの思いの強さだった。死なない程度とは言ったものの相当な呪いがかかるだろう。


「……終わりましたか?」

「うん、終わったよ。結構強めにかけといたわ。」

「そうですか…」

「まあ効果がでてくるのは…3日後ってとこだな。」






一週間後

「斎藤さん、新見さんからです。」

そろそろ効果が出始めたかな?依頼人から電話がきた。

「分かった。………はい、斎藤です。」

「あ、新見です。先日はどうもお世話になりました。」

「はい……それで、どうかなさったのですか?」

「はい、実は先日していただいた呪いの効果が効き始めたようなので、報告させてもらいました。」

「はあ、」


聞いたところ浮気相手は呪い始めてから数日後、会社の階段から転げ落ちてしまったという。幸い命に別状はなかったみたいだが、落ちた際に顔を強打したらしく片目を失明し、歯も何本か折れ、顔は原型をとどめていないくらいひどいらしい。

そのため会社の人たちに化け物を見るような目で見られ、依頼人の旦那からも捨てられ、散々な目にあったらしい。


「本当にありがとうございました。おかげで主人も私を見てくれるようになりました。本当に何と申し上げたらよいか。」

「いえいえこれが私達の仕事ですから。」


それから数日後新見さんは事務所にきて、報酬を渡しにきたが、

新見さんは最後まで頭を下げていた。報酬を渡し、事務所から去る時も

「ありがとうございました。ありがとうございました。」


と言っていた。


「よかったですね。依頼人さん」

「うん。」


すると鎌田が小さな声で

「…これで終わるといいですけど。」

「………だな。」






それから数日後、

「斎藤さん、新規の依頼人さんがきています。」

「おう、今行く」


依頼室に入る

依頼人はすでに待機していた。

今回の依頼人は少し変わっているようだ。というのも依頼人の格好は夏場なのにロングコートを着用し、顔はサングラスにマスクをつけていた。だが、一瞬で分かった。俺はこの人を呪ったことがあると、

「お待たせしました。」

「あの…呪ってほしい人がいます。」

「はい、」

その女の喋り方はどこかぎこちない感じだった。

だが、すぐに分かった。喋りにくいのは歯が折れたせいだと。

この人は前に俺が呪った女だ。確か依頼人の旦那の浮気相手だった。

(やっぱりこうなるのか…)

女性の恋愛に関する呪いはよくあることだ。

自分が呪われたと知れば、たちまち自分も相手にやり返すものだ。

(しかし、なぜ呪われてることが分かったのだろうか)

そう考えていると

「その…新見健太という男を呪ってほしいのです。」

どうやら勘違いをしていたようだ。てっきり呪われたことを知り、呪った相手新見静江に呪い返しにきたとばかり思ってたが、どうやら自分が呪われていたことには気付いていないようだ。

「…それは…どういった理由で?」

「実は…その男は奥様を持っていて、私達は不倫の間柄だったのです。彼はある日奥様とは別れて私と結婚するって約束してくれたんです。…でも私がこんな顔になった途端、彼は私のことを見捨てたんです…。彼が憎い…、憎くて憎くて…」

「なるほど…それで彼にはどの程度の呪いをかければよろしいですか?」

しばらくの沈黙後、彼女は口を開いた。

「彼を呪い殺してください。」

「……はい、分かりました。」

あまり気が乗らないのは本音だった。

彼女の声には恨みと悲しみがあった。何とも言いがたい声だった。


依頼人と別れ、俺は事務所に戻り、今回の依頼内容を鎌田に説明した。

「…最悪ですね、その男。呪われて当然ですよ。」

「いつにも増して詩織ちゃん怖いな。」

「怒って当たり前ですよ。こんなの女の敵だ!!」

「はぁ〜 今回の件は俺がやっとくわ。詩織ちゃんがやるとオーバーキルしそうだし。」


ということで、今回は相手を呪い殺すことになった。

儀式部屋に入りある人形に呪いの対象となる人の写真を貼る。この人形は藁人形とは別のもので見た目はのっぺらぼうの人型のぬいぐるみのものである。その人形に先程依頼人から貰った依頼人の血を塗る。そうして人形を鋭利なもので何回も何回も刺して、ズタボロになったら、火の中に入れ燃やす。


こうすれば相手を呪い殺すことができる。


「斎藤さん、終わり…ましたか?」

「……うん。」

「…斎藤さん、大丈夫ですか?」

「…やっぱり慣れねーな。この時ばかりは。」

「…人の命を奪っているんですもんね。」

「ま、これが俺らの商売だから仕方ないな。」

「…そうですね。…そういえば斎藤さんはなぜ呪い代行屋を始めたのですか?」

「うーん?教えない」





それから数日後

「斎藤さん、斎藤さん。」

まだ事務所が始まる時間になっていないのに、鎌田が慌ただしくやってきた。

「何だよー詩織ちゃん。もうちょっと寝かせてよ。」

「いや、これ見て下さいよ。これ。」

鎌田が渡してきたのは新聞だった。眠い目をこすって見てみると、

「…衝突…事故?深夜ドライブ中の車がトラックに激突。この事故で、新見健太さんと新見静江さんが亡くなられました……って、詩織ちゃん、 これって…」

「そうなんです。依頼された相手が亡くなられました。しかも呪ってもいない奥様まで。」

「そうか…」

「しかもこれ見てください。」

「今度は…飛び降り?これって…新見健太の昔の浮気相手じゃないか…。しかも俺が報酬を受け取った日と同じ…」

「みなさん結局死んじゃったんです。」

「そうか…。まあ仕方のないことだ。」

「もし…」

「ん?」

「もし、新見静江さんが初めに呪おうとしなければこんなことにはならなかったんじゃないでしょうか?」

「…そうかもね。人は他人を呪うと全て自分に返ってくるって言うしね。他人を呪えば呪うほど、自分はどんどん不幸になっていくことに気付かない人が、多いからね。」

「人を呪わば穴2つ……まさにこの通りでしたね。」

「いや、今回は…人を呪わば穴3つだったな。」

「…そうですね。」

「それにしてもやっぱり女って怖えーなー。この仕事やってたらつくづくそう思うよ。」

「人によりますよ。私はあそこまで怖くないですよ。」

「本当に?…じゃあ君に旦那さんがいて、その人が浮気したら?」

「ん?殺しますね。物理的に。」

「え……詩織ちゃん…それ…犯罪…。」

「斎藤さん、バレなければ犯罪じゃないですよ。さあ仕事仕事っと。」

張り切って仕事をし始めた鎌田を見て俺は呟いた。

「詩織ちゃん、あんたが一番怖いよ」



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