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こんにちは 呪い代行屋さん   作者: てるてる坊主
13/13

ノロノロ事務所続行!!

《鎌田side》

「……今日も来ないか…。」

誰もいないノロノロ事務所で、私は1人そう呟いた。今のノロノロ事務所はまるで廃墟のように見える。

斎藤家の人々が亡くなったあの日から4日経ったが、斎藤さんはノロノロ事務所にまだ帰って来てないのだ。



あの時斎藤さんは…………


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


目の前にはすでに全焼した寺と寺の前で崩れている斎藤さんがいる。

頭が働かない。

目の前で一体何が起きたのだろう、

『…おい。』

『へ!?…ああ、なんですか。』

菅さんに話しかけられるまで、私はぼーっとしていた。

『……どうするよ。』

『そうですね…』

斎藤さんに近づく。

『斎藤さん……』

『…詩織ちゃん。』

『はい』

『先に帰ってくれないか。……俺は後で帰るから…』

頭をうな垂れたまま斎藤さんは言った。それから斎藤さんは何も話さなかった。

私達はそれから何も話しかけることが出来なかった。

それから私は行きしなに置いてきた目印を辿り、菅さんと共に帰ってきた。帰り道では菅さんとは何も話さなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


時刻は午後6時すぎ。


その時ノロノロ事務所の扉が開いた。

「あ………斎藤さんですか?」

「………すまない」

扉の側には申し訳なさそうな顔をした菅さんが立っていた。

「あ、菅さんでしたか。…大丈夫ですよ、いつもすいません。」

菅さんも斎藤さんと別れたあの日から毎日様子を見にきてくださる。正直1人では心細いので助かっている。

「…まだ来てないのか…」

「ええ……それより菅さんもお仕事とか大丈夫なんですか?」

「ああ、俺のことなら心配ない。」

「…………。」

「……なあ。」

「はい?」

「……俺が…あの水晶玉みたいなのを撃ってなけりゃ、こんなことにはならなかったんじゃないかな。」


「……それでも…菅さんは私達の命を救ったじゃないですか」

「…え?」

「菅さん、ありがとうございました。」

私は今思っていることを全て菅さんに話した。

「……ありがとう。」

菅さんが優しく微笑みながらそう言った時だった。


再びノロノロ事務所の扉が開いた。

私と菅さんが扉のほうを向く。

「……もしかして…なんかまずい状況だったか?」

私が一番会いたい人の声だ。

「…斎藤さん。」

「……うっす、ご迷惑かけました。」

私は気づいたら斎藤さんとの胸に飛び込んでいた。

「ちょ、詩織ちゃん!?菅さん見てるって。」

斎藤さんが急いで私を引き離そうとしたが、私はギュッと掴んだまま離そうとしなかった。そのうち斎藤も諦めたのかもう引き離そうとはしなくなった。

「……俺も菅さんには感謝してるんですよ。……菅さんが自分を責める必要なんてありません。撃てと言ったのは俺ですしね。」

「……そう言ってもらえるだけで、助かるよ。」

「…って、詩織ちゃん、いつまで抱きついてるんだよ。」

「…すいません、嬉しくて…つい。」

「…恥ずかしいな…」

斎藤さんの顔を見たら真っ赤になっていた。

「…でも…この3日間大丈夫だったんですか?」

「…ああ、死んだかもとか思った?」

「……正直、ちょっとは。」

「今の俺の心の中はまだ落ち着いてはいないけど……俺はまだ死ねない。」

「無事でなによりだ………ああ、斎藤1つ聞いていいか?」

「ん?」

「俺が撃ったあの水晶玉…あれは一体なんだ?」

「ヨキ様の水晶…」

「ヨキ…様?」

「斎藤家ってのは元々一般的な農民一族だったんです。でもある日俺達の先祖がヨキという男からあの水晶玉と憑獣呪殺の方法を授かったらしいです。それから斎藤家は呪術師の一族へと変わったんです。」

「……なるほどな。」

「あの水晶玉は獣の霊を閉じ込めておくいわば魂の檻のようなものなんです。獣の霊はあの世に行く前にあの水晶玉に閉じ込めておくんです。そして憑獣呪殺の時にその魂を解放し、取り憑かせる。」

「……恐ろしい呪いですね。」

話を聞いただけでも恐ろしい呪いだ。

「…だからあの水晶玉を破壊した今、憑獣呪殺はこの世から無くなったんです。憑獣呪殺の呪い方を知ってるのももう俺だけです。……これでよかったんです。」

「……………。」

気まずい空気になった。何を話していいのか分からない。斎藤さんの心はまだ癒えてないように思えた。

その時、

「……あー、これから飲みに行くか。」

と菅さんが。

「…へ?……お、おおー良いっすね、菅さん。」

斎藤は少し驚いた様子だったが、またいつもの笑顔に戻った。

「…じゃあ行きましょう!!」


それから私達は近くの居酒屋さんに飲みに行った。

斎藤さんも本当に楽しんでるようで嬉しかった。ただ菅さんの酒癖が超がつくほど悪いことが予想外だった。

結局飲み会は泥酔した菅さんを放置した形で終わった。

その帰り道の時だった。私が自分の家に帰ろうとした時。

「……詩織ちゃん、ありがとうな。」

「え?…ふふっ、どうしたんですか?急に。」

「…へへっ、いや、俺が帰ってきた時にノロノロ事務所に詩織ちゃんがいてくれたのが、本当嬉しかった。」

「…ずっと待ってましたからね。」

「……もし、よかったら今日俺の部屋に泊まってくれないかな?」

「…え?」

今まで決して自分の過去や私生活を話そうとしない斎藤さんだったので、驚いた。

「あ、絶対変なことしないから!!」

必死に首を振りながらそう言う斎藤さんが可愛く見えた。

「……嫌なら仕方ないけど……。」

「……じゃあお邪魔してもいいですか?」

「…うん!!」


そうして私は斎藤さんの部屋にお邪魔することにした。斎藤さんの部屋は普段私達が働くノロノロ事務所の一つ上にある。

私は一度だけ入ったことがあった。その時は斎藤さんの部屋というよりも中にあった大量の睡眠薬の入ったビンが印象的だったので、あまり部屋のことは覚えていない。

普段見慣れない電気が消えた薄暗いノロノロ事務所を通り、斎藤さんの部屋の前まできた。

「ん…どうぞ。」

「……あ、お邪魔しまーす。」

これで斎藤さんの部屋に入るのは2度目だが、中の様子は以前よりも大分変わっていた。

「……これが…普段住んでるとこ。」

「…普通だ、ふふっ。」

私はホッとした。

「普通…か。なんか…ちょっとショックだな。」

「え?」

「……オシャレって言われるかもとか期待してた…。」

「あ…おしゃれ…」

「……言わされてる感がすごいな。」

「斎藤さんってこの部屋にずっと一人で?」

「ああ…俺以外で初めて詩織ちゃんがこの部屋に上がった人だよ。」

「……なんか嬉しいな」

「詩織ちゃん、どっちで寝る?」

「へ?」

「いや…ソファーとベッドあるんだけど、なんなら二人で一緒にベッドで寝て…」

「一人でベッドで寝ます。」

「……そ、そうですか。」

少ししょんぼりした斎藤さんを見て私はホッとした。

それからしばらくして

部屋の電気を消し、それぞれの寝床に寝そべりながら斎藤さんと喋っていた。

「……詩織ちゃんってさ、家出した時によりによってなんでこんな呪い代行の事務所に来たの?」

「そうですね…あの時は何も考えたくなかったんです。退院したらまた学校でいやがらせを受けるかもしれないって考えると死にたくなったりもしましたからね。」

「……そっか」

「それでふと目の前を見るとノロノロのチラシが貼ってあったんです。その時ここで復讐してやるって思って。」

「それで来たのか。」

「お金もそんなになかったから働いて人を呪う技術を学ぼうって思ってました。」

「…初めて会った時のこと覚えてる?」

「覚えてますよ、こんな人が本当に人を呪えるのかなって思いましたね。」

「ははっ、こんな人って。」

「魔女みたいなおばさんがいるのかな?って想像してたのに、思ってたより若い男性がいたもので…。斎藤さんは初めて私を見た時どんな印象受けたんですか?」

「そうだな……なにせ最初の客だと思ったから、テンション上がってたってことしか頭にないな…。」

「え…じゃあ私に対して特に何も思ってなかったんですか?」

「……ごめん。」

「まったく……もう…。」

「……ただ結構可愛い娘だなって印象しか…。」

「………。」

「寝てる……。………待っててくれてありがとうな、詩織ちゃん。…ただいま」

そう言って斎藤さんは眠った。

一方さっきまで眠ったふりをしていた私は眠った斎藤さんに向かい、

「おかえりなさい、斎藤さん。」

そう言った。



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