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こんにちは 呪い代行屋さん   作者: てるてる坊主
11/13

斎藤家との再会

《鎌田side》

「…それにしても斎藤さん、よく道がわかりましたね。」

「…ああ、一度もこの集落から出たことがないのにな。…まるで誰かに呼ばれてるような気がしてな…。」

手の震えが止まらない。

本音は帰りたい……けど、斎藤さんをこのまま行かせるのはもっと嫌だ。

「……詩織ちゃん、何してるの?」

「…え?……いや、その…」

「…さっきから何でその石ころみたいなの置いてるの?」

「…その…斎藤さん…前に集落から逃げる時にこの森から抜けれなかったって言ってたじゃないですか。」

「なるほど…目印か…。全然考えてなかったな…。」

「でしょ。だからこの『ヘンゼルとグレーテル作戦』の登場というわけです。」

斎藤が笑ってくれるかな?と少しドヤ顔で言ってみた。

「…ふっ…じゃあ頼んだ。」

ややうけ……。

斎藤さんはそれから後ろを振り向こうとしなかった。

私は引き続きあらかじめ用意してた小学校のプールの授業の宝探しで使われるような色付きブロックを一定の間隔で置いていった。

この目印には2つの意味があった。

1つはさっき斎藤さんにも言った帰りの目印に。

2つ目は斎藤さんには黙ってる私の秘策のために。

それから私達の会話は終わった。

無言のまま山道に入っていく。

それから1時間近く歩いた。

このままだと目印のブロックがなくなってしまう、そう思った時だった。

斎藤さんが急に立ち止まった。

「どうしたんですか?」

「しっ!!……静かに。誰かいる。」

人差し指を口に当てたまま斎藤さんはあるところに指をさした。

その方向をよく見ると人らしきものが見えた。

「……俺が行く。俺の側から離れるなよ。」

「…はい。」

そう言って斎藤さんの背にくっつく。

斎藤さんが慎重そうにその人に近づいていく。

距離が縮んでいくとその人物が次第によく見えてくる。

その人は中年くらいの男性だった。見た目は気が弱そうなおじさんといったところ。

「………久しぶりだな」

斎藤さんがその男性に声をかけた。

男性は斎藤さんのほうを見ると

「うおっ!?……え…お前……」

その男性の目は大きく開き、顔は真っ青になった。

無理もない、斎藤さんはこの集落では死んだと思われてるのだから。

「……仁……なのか…?」

「……ああ、久しぶりだな。…二朗さん。」

「……馬鹿な…こんなことが…」

二朗と呼ばれた男は目の前の現実を受け入れてないようだった。

「…話がある。みんなはどこにいる?」

「何をしに来た?」

とたんにその男の表情が強張る。だが斎藤さんは怖じ気づくことなく

「事情はあとで話す。とりあえずみんなのところに連れて行ってくれないか。」

「……わかった。」

腑に落ちてない表情のままその男は斎藤さんに背を向けて森の奥へと進んだ。

斎藤さんもその男のあとを追っていく。

するとすぐに墓が出てきた。

二朗と呼ばれた男はある墓の前に立ち止まった。

「これがお前の墓だ。……そしてこの2つがお前の両親のだ。」

「なんだと!?母さんと父さんに何があったんだ。」

「……お前が出て行った後にな、責任を取ったんだ。危うく憑獣呪殺の使い手を外に放つところだったと。」

「……そんな……馬鹿な……」

斎藤さんが墓の前に崩れた。

「…ここをまっすぐ進めば集落に辿り着く。俺はみんなに報告してくる。…もちろん綾乃にもな。あの寺で待つ。……じゃあな。」

そう言うとその男は走り去っていった。

斎藤さんは墓の前で崩れたままだった。その男の言葉も聞こえないようだった。

「……斎藤さん…」

「………俺が……」

「斎藤さん!!しっかりしてください!!」

つい声を張り上げてしまった。

「…悪い。」

斎藤さんが力のない声で言う。

「…大丈夫ですか?」

大丈夫なわけがない。故郷に戻ってくると両親が2人とも死んでいるのだ。しかも原因に自分がかかわってる。

「……斎藤二朗」

「え?」

「さっきの男の名前だ。」

「…あの寺で待ってるって言ってましたね。」

「……ああ、行こう。」

斎藤さんの顔は真っ青だった。両親の死を聞いて明らかに動揺している。

だが何も声をかけることはできなかった。

そんな自分の無力さに腹が立った。

斎藤さんは二朗の言った道へ向かっていった。その足取りはとても重かった。これ以上行けばさらなる絶望が待ってるかもしれない。そんな恐怖があったのだろう。

10分くらいすると森が開けてきた。

すると目の前に無数の建物が見えてきた。

全ての建物が木造で、いかにも古い感じだった。

警戒して入って行ったが誰もいない。

「……誰もいないようですね。」

「…二朗のおっさんが寺で待ってると言っていたな。……みんな寺にいる。」

そう言って斎藤さんは集落の奥の方へ入っていった。

次第に寺が見えてくる。

寺の近くによると何やら空気がひんやりとしたように思えた。

ノロノロ事務所の呪い部屋とは次元が違う。これは絶対に近づいてはいけない。そう思った。

「……入ろう。」

斎藤さんがそう言った。

私はブルブル震えた手をもう片方の手で抑えながら斎藤さんの後ろからついていった。

斎藤さんが寺の戸をノックする。

すると寺の戸がギィーーーッと開く。

中には10数名の大人たちが驚いた表情でこちらを見ていた。

「…まさか…嘘でしょ…」

「……あの時確かに…」

「…幽霊……なのか…?」

斎藤さんが入ると周りがザワザワし始めた。

寺は広い一室だけでそこに10数名と私達がいる。私達の逆方向に何やらよく分からない掛け軸のようなものが掛けてあり、その前には水晶玉のようなものが供えられていた。

壁には無数のくぼみがあり、そこにはいくつもの小箱が入っていた。よく見ると人の名前と日付が書いてある。この箱に恐らく憑獣呪殺に使われる動物の体の一部が入ってるのだろうか。

そんなことを思っていると。

「久しぶりじゃの。仁。」

奥から見た目は90代くらいのお婆さんがでてきた。見た感じではこの人が長老のような感じだった。

「……お久しぶりです。婆さま。」

斎藤さんが一礼する。

「…冥界で見放されたようじゃな。」

「……そのようです。」

すると婆さまと呼ばれたその方は周りの人たちに斎藤家では全員死んだ後本人にとって一番苦しい目あわされると説明した。

普通そんなことを聞かされるとゾッとするものだが、周りの人たちは動揺する様子なく聞いていた。

「どうやら仁は斎藤仁としての生が一番の苦だったらしいぞ……はははは…、」

その婆さまは不気味に笑うと周りも同じように笑う。

私は腹が立って拳をぎゅっと握っていた。

斎藤さんを見ると斎藤さんは至って冷静な表情をしていた。

「それでここに何をしてきたのだ?後ろにいる女は誰だ?まさか結婚の報告でもしに来たのか?」

「まさか…俺がここに来た理由は1つです。」

「…なんじゃ」

「1ヶ月前くらいに佐々木大輔という男から内藤浩介と内藤達也という男に呪いをかけるよう依頼されたでしょう。」

「………」

「知らないとは言わせません。憑獣呪殺の依頼なんて1年に3、4人くらいしか来ませんからね」

「…ああ、それがどうした?」

婆さまと呼ばれる人物はあっさりと認めた。

斎藤さんは落ち着いた口調で続ける。

「彼らの依頼を解いてもらいたい。」

「ほう……」

寺の中は婆さまと斎藤さんの2人の声しかしなかった。

周りの人々はじっと斎藤さんたちの様子をうかがっていた。

「……なぜだ?」

「俺の仕事だから。」

「…仕事?呪いを解く仕事か?」

「ああ…」

「嘘をつくな!!」

婆さまが声を張り上げた。

ついビクッとしてしまった。

「お前…今も人を呪っているだろう。」

「………。」

「…見ればわかる。まだ人を呪い殺してるだろう。」

「……そうですね。俺…実は今こんなことしてるんです。」

そう言って斎藤さんは最近作ったばかりのノロノロ事務所の名刺を婆さまに渡した。

婆さまは名刺をしばらく眺めると再び斎藤さんに視線を向けた。

「…呪うと同時に呪いを解いてるとはな…」

「……そういうわけで、ここに戻ってきたんです。」

「…くくっ……お前も強欲な男になったのう。呪いをかけて得る金で満足できないのか?」

「違う!!……それは違う」

つい大きな声を出してしまった。

周りの人たちが一斉に私を見た。

「…詩織…ちゃん?」

斎藤さんも驚いた表情をしてた。

「……あなたはどなたかな?」

婆さまは私を見て不気味に笑いながら聞いてきた。

「私は斎藤さんの事務所で働いている鎌田詩織というものです。」

「………それで、何が違うのかな?」

「斎藤さんは…その…呪いながら…その人たちのことを本当に…なんて言うのかな?」

「詩織ちゃん…」

斎藤さんが優しい目で私を見てくれた。

「だから…上手くは言えないけど斎藤さんはただお金がほしくて呪いをかけたり、解いてるんじゃないんです。」

「……ふふふっ、仁。面白い子を連れてきたな。…まあいい、仁、呪いを止めるのは無理だ。」

「…依頼人の断りなしでは止めれないからですか?…でも依頼人の佐々木さんはもう死んでるんですよ。」

「いや…そうじゃないんだ、詩織ちゃん。」

「え?…どういうことですか?」

「…依頼人は死んだのかい。ありがとうよ、お嬢ちゃん。でも仁も分かってるだろう。憑獣呪殺は一度実行すれば絶対止めれないことくらいは。」

「そんな…」

「知らなかったのかい?…絶対とは言ったが1つだけあることはあるね。」

「…それって」

「…呪いをかけた張本人を殺すことですよね、婆さま?」

「おや、よく知ってるじゃないか、仁。」

「でも斎藤さん…」

斎藤さんが怖くなった。もしかしてここに来た理由はその人を……。

「…仁よ、お前はここに殺人をしに来たのか?」

「…いえ、まさか。」

「仁…お前は両親2人とも殺した。」

「…!?」

斎藤さんの表情が変わる。

「そして…綾乃の心も殺した。」

「…どういうことだ!!」

斎藤さんは声を荒げた。明らかに冷静さを失っている。

「…まさか本当に知らないのか?綾乃はお前を逃がそうとしたあの日から心は死んでしまったんだ。お前が綾乃に妙な気持ちを持たせてしまってたせいでな。」

「…綾乃…さんが?嘘だ…綾乃さんはあの日俺に刃物を突き刺して…。」

斎藤さんが慌ててそう言った。斎藤さんの話だと斎藤さんは斎藤綾乃に刃物を振り下ろされ、そして死んだと聞いたのだが。

「……綾乃も気の毒よ。綾乃はあの日私達を欺いたんだ。自分が仁を殺したように見せかけ、そして2人でここから逃げ出そうとした。幸いあの門で捕まえたがな。そしてお前は燃やされ、綾乃は罰として心を壊されたんだ。」

「そんな…俺は……あの日。」

「まだ信じられぬか。……綾乃よ、お前もかわいそうに。」

そう言って婆さまは振り返り言った。

その先には髪の長い随分と綺麗な女性が座っていた。彼女の目は遠い目をしている。私達より少し年上だろうか、そしてその時その方が斎藤綾乃さんだとわかった。

「……綾乃さん……あなたは。」

「…もう無駄だよ。彼女には何を話しても無駄。」

「何しやがったんだ。」

斎藤さんがいかにも婆さまに殴りにいきそうな口調で言う。

周りの人たちも斎藤さんに警戒している。

「お前のせいだ!!お前がそもそもここから逃げ出そうとしなければこんなことせずに済んだのだ。」

婆さまのその怒声に斎藤さんはハッとした顔になった。

その時、

「違う!!斎藤さんは間違っていない。あなたたちのような呪いを楽しんでるような人たちの言ってることなんか全て間違ってる!!」

気付いたらそう言ってしまったのだ。

その瞬間婆さまが目を見開き、

「お前が何を知ってるんだ!!」

と私に大声で言った。

急なことで私は固まってしまう。

すると斎藤さんは私をかばうように腕を出した。

「詩織ちゃん…いいんだ。そう思ってくれるだけで俺は…嬉しい。」

「斎藤さん…」

「……仁よ…お前がこの集落に戻ってくることを許そう。」

「……なに?」

「ただ条件がある。それさえ守ればお前をまたこの集落に入ることを許し、綾乃との結婚も許そう。」

「…………。」

斎藤さんは黙ってしまった。

私はその様子を見て不安な気持ちになった。斎藤さんがこのままいなくなってしまうような気がした。

斎藤さんが黙ってしまっても婆さまは続けた。

「…その条件は後ろにいる女を殺すことだ。」

婆さまはそう言い放った。

「え………」

斎藤さんが振り返った。

その目は周りにいる斎藤家の人たちと同じ目をしていた。




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