N-098 色々と出来てくる
途中中断した石運びを終えると、俺達は次の漁の相談を始めた。
まだまだ雨季は続くみたいだ。
豪雨の中で素潜り漁をするのも考えものだから、やはり釣りになるのだが……。
「あまり遠くには……」
そんなラディオスさんの思いを汲んで、今度は西に1日船を走らせ、2晩ほど根魚釣りを行う事にした。
ラディオスさんとラスティさんは、嫁さんと赤ん坊をエラルドさんとグラストさんに預けるらしい。
その間の獲物の売上の半分を渡す事で話は着いたと言ってたけど、それぐらいは仕方のない事だろう。
「西は初めてだな。やはり、サンゴの海か?」
「そうらしい。東と同じように、浅いサンゴの海に穴がたくさんあるように海図には書いてあるぞ。平均的な水深は10YM(3m)らしいが、カイトの船はだいじょうぶなのか?」
「3YM(90cm)あれば十分です。この船の喫水は浅いんですよ」
「俺達の動力船より浅いのか……。驚いたな」
もう少し深いかと思ったんだけど、左右の船を長くしたお蔭かも知れない。こんなのを『瓢箪から駒』って言うんだろうな。
「なら、少し大きな穴に船を停めて根魚釣りを2晩で良いな。2日目の朝に帰ることにする。ラディオス達は俺の船に乗れ。自分で釣った獲物は自分の物だ」
バルトスさんの言葉にゴリアスさんも頷いている。
困った時はお互い様ってやつだな。そんなに長い間じゃないだろうしね。
まあ、そんな感じで長い雨季が終わったのだが……。
サディさん達がたまたま遊びに来ていた時、俺達のハンモックを見付けたようだ。
子供を寝かすのに都合が良いと早速作らせてしまった。
ハンモックの広がりは瞬く間に氏族の島を覆ったようだ。
長老も愛用してるとエラルドさんが教えてくれた時には、空いた口が塞がらなかったが、ネコ族だけあって、バランス感覚は天性なんだろうな。話を聞く限りにおいて、落ちたのは俺だけのようだぞ。
ラディオスさんの赤ん坊がハイハイをし始める頃になると、豪雨の間隔がまばらになり、刺すような日差しの日々が多くなってきた。
いよいよ雨季が終わり、乾季が始まるようだ。
そんなある日、変わった形の動力船が大型商船に曳かれて氏族の島に届けられた。
中型の動力船を2隻横に繋げた大型の双胴船だ。半分が小屋で、普通前にある小屋が船尾にある。船首部分は大型の門の形の柱が付いている。梁には滑車が2つ付いているから、動滑車を使用することも可能ではある。
カゴ漁の母船になる船だ。この船よりも大きく見えるな。
その夜、いつものように皆が集まってきた。
そろそろリードル漁が始まるから、その相談になるんだろう。
「4日後に出発だ。食料は十分だろうが、向こうでは何も無いからな。焚き木は十分に集めておくんだぞ。ラディオスとラスティの嫁さんと子供は、カイトに頼む。サディとケルマの子供達は、漁場に着いたらカイトに頼めば良いだろう。オリー達で5人は大変だからサディ達が交代でこの船に乗れば俺達は安心してリードルを突ける」
「カイトには世話になるな」
「俺達の仲じゃないですか。だいじょうぶですよ」
いたずら盛りの子供とようやくハイハイしだした赤ん坊がいるんだから、オリーさん達2人では手に余りそうだ。サディさん達が同乗してくれるんなら、甲板に出てもだいじょうぶだろう。
「それで、ラスティはグラストの許可を取ったのか?」
「ええ、やってみろ! と言われました。銛も作りましたから、ラディオスと一緒に挑戦します」
本来ならば、ラスティさんはグラストさんの家族と一緒になってリードルを獲るのだが、今回はエラルドさん一家に合流することになった。
その理由が、大型リードルを獲ることにあるらしい。ラディオスさんと一緒に同じ個体を突いて引き上げれば可能なのでは……、という事らしい。
俺も最初の時には、通常の銛を2本使って浜に引いて来たんだから、十分に可能だと思うな。その為に、少し太めの銛先を持つ銛を新たに作ったらしいけど、結果はどう出るかだな。
「カイトの考えたロデニル専用船は昨日出掛けたようだな」
「かなりのカゴを積んでましたね。乱獲が心配になってきます」
「カゴの総数は20個にしたらしい。あまり仕掛けても、翌日引き上げられなくては本末転倒だからな。10家族近くで漁をしているそうだ」
俺達が船を更新すれば、更にロデニル漁の船が増えるんだろうな。そうなると、他にもカゴ漁に適した場所を探すことになりそうだ。そんな調査も彼らで出来るに違いない。船が増えれば先行調査を行う事も出来るからね。
「リードルが終われば、再び石運びですか?」
「まあ、そうなるだろうな。南の島でかなり採掘してるが、あの島は全体が岩山のようだ。まだまだ運んでも問題なさそうだぞ」
「入り江の両側に灯台を作るそうだ。あの桟橋の広場にもな。それは商船に頼むらしいが、どんなものができるか楽しみだな」
バルトスさんがエラルドさんの答えに、追加して教えてくれた。長老会議での発言は控えているらしいが聞くことはできるということで、エラルドさんの情報以外を俺達に伝えてくれるのはありがたい話だな。
「保冷庫も作るなんて長老が話していたが、問題は氷の供給だな。場合によってはカヌイのご婦人方の協力が必要になってくる。それでも、あまり大きなものは作れないだろうな。燻製した品物を一時保管もできるから、あれば役に立ちそうなんだが、木製では無く石作りとなると、時間が掛かりそうだ」
燻製小屋を2つ作ったが、燻製している最中に中身を追加できないからね。やはり、保冷庫作りは急ぐ必要がありそうな気がするな。
そんなことで、乾季初めのリードル漁に出掛けたが、漁の結果は何時もの通りだ。
今回はラディオスさん達が大型リードルを3匹突いて、上級魔石を3個手に入れた。他の魔石を売れば十分に新しい船が手に入ると喜んでいたな。
従来の船の更新頻度は5年から10年と言っていたから、この島に来てからそれが短期間で行われることを考えると、周辺海域の漁に不漁が無いって事になりそうだ。
入り江の桟橋にも最初から比べると20隻近く動力船が増えている。
小型の動力船を2隻繋いで双胴船にしようか? という者まで現れているそうだ。
子沢山の一家には、そんな船も必要だろう。甲板は広く使えるし、小屋も2つ合わせたよりも大きく作れる。
問題は、通常の動力船でそんな改造を行うと、船足が遅くなることだが、同型船を複数で構成した船団を組むなら何ら問題は無い。
俺達も、カタマランで船団を作るつもりだからね。
大型商船がやってきたところで、ドワーフの職人をカタマランに招いて商談を行った。契約書は後で作って貰う事になったが、個別の要望を、若いドワーフの弟子に書き留めさせて、唐揚げを肴に俺達とワインを飲み交わす。
「何とも、おもしろそうだな。理解はしたつもりじゃし、他にカタマランを作る職人はおらんはずだ。都合、5隻だな。明日商船で正式な契約書を発行する。嫁さん連中がやってきた時に、カウンターで渡せるようにしとこう。それより、このカラクリは特許を俺が取っても良いのか?」
「かまいませんが、俺達氏族には優遇してくださいよ。でも、売れるんですか?」
俺の書いた図面の何枚かを広げて、俺に確認をしてきた。
「十分に特許になる。前のカタマランはたんまり稼がせて貰ったぞ。これは、軍に売れるじゃろう。こっちは漁師や趣味に走った連中が相手だな。漁師には8掛けで、この島には6掛けでどうだ?」
発光式の通信機は半額以下で銀貨2枚。竹を張り合わせて作る釣竿は銀貨3枚って事だな。俺は頷く事で了承を伝えた。
「この島に来るのが楽しみだな。お前さんなら、大陸の王都でも十分その才能で暮らしていけるじゃろう。だが、ネコ族だからな……。この島で暮らしながら、俺達ドワーフに知恵を付けてくれれば十分という事になるか」
「氏族の絆は深いですからね。いつまでもここで暮らしますよ」
そんな俺の言葉に、エラルドさん達も満足そうな顔をしている。
俺が行きたいと言っても、止めることは無いだろうが、俺には都会暮らしは合わないからな。
「できあがるのは、雨季になるだろう。数が多いし、他の工房も忙しい最中だ」
最後にそう言って、ドワーフは商船に帰って行った。
かなり先になるけど、これでカタマランが6隻になる。漁場を素早く巡りながら素潜り漁ができそうだ。
「ということで、無理をしないで雨季を待つことになるな」
「既存の船を改造する人もいますから、俺達だけ先にとは行かないんでしょうね」
「それもあるが、俺達の船を誰に譲るかで長老会議が揉めそうだな。長老達も船で暮らしたいと言う始末だからな」
「ハリオの漁場が分かったから、婚礼の航海も復活するそうだ。あれから数人が嫁さんを貰ってるぞ」
という事は、今度も何隻か新造されるって事なんだろうか?
景気が良い話だけど、他の氏族から妬まれるなんてことは無いだろうな。
「それよりもだ、族長会議がまたおこなわれるらしい。通常なら、来年のカガイの席で行われるはずだが、急きょ招集があったらしいぞ」
「前回はオウミ氏族が分かれた時だったけど、他の氏族が分かれることになったのだろうか?」
「オウミ氏族の場合はかなり前から商船から噂を聞いたが、今回は商船でも理由が分からぬらしい。大型商船に乗って長老が出掛けるが、一応、グラストが同行することになっている」
ひょっとして、オウミ氏族の分派によって、周辺の氏族が外側に移動したのだが、氏族によっては移動場所での漁に支障が出て来たって事かな?
そうなると、氏族の移動は無効だと言い始めるだろうし、温厚なネコ族と言えども諍いに発展する可能性だってありそうだぞ。




