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N-096 武器も使いようだ


曳釣りから帰った次の日。銀貨10枚をサリーネに貰って、商船を訪ねた。

 短パンとTシャツ姿だが、良い具合に古びて来たので、ネコ族の人達と一緒に商船に行っても、それほど目立つことは無い。


 商船は定期的にやって来るなじみの商船だとサリーネが言ってたから、相談もし易いだろう。

 船に足を踏み入れ、1階の陳列棚を見ながら奥に向かって歩いて行く。小さなカウンターが商談の場所だ。


「ちょっと相談したい事があるんですが……」

 カウンターにいた壮年の男に話掛けた。

「どんな御用でしょう? ドワーフの職人も乗り込んでいますから、たいがいの漁具は制作できますよ」

 俺の姿がネコ族ではないと直ぐに気が付いたようだ。それでも、口調に疑問は見受けられない。商人の鏡だな。


「実は弓矢もしくはクロスボウという武器が欲しいんですが、この商船で扱っているんでしょうか? 俺達は漁師ですから、良く分かりませんが、軍隊以外に武器を売ることはできないんでしょうか?」

「そうですね……。2階で詳しく伺いましょう」


 男の案内で2階にある小部屋に向かった。

 どの商船にも交渉をするために部屋が用意されているようだ。小さなテーブル越しに座ると、向こうから話を進めてくれた。


「まず、武器は一般にお売りすることは可能です。一応、買い取った人物を記録として残すことが我等商人に義務付けられてはいますが、この場合は氏族名で良いでしょう。弓矢は私も存じています。ですが、クロスボウと言う名は初めて聞く言葉です」

「短距離を狙いやすくするための弓と言えば良いでしょう。こんな形だったと思います」


 メモ用紙に簡単な形を描くと、相手は直ぐに理解してくれたようだ。

「当方では石弓として扱っています。海賊対策でどの商船にも10丁以上持っていますよ。素人でも狙い易いですからね。海賊はこの辺りのも出没するのですか? ネコ族を襲う等と言う話は聞いたこともありませんが」


 やはり、そう来るよな。漁具として使うなんて想像もできないだろう。

「実は8YM(2.4m)程先の魚を狙うつもりなんです。矢のヤジリを銛と同じに考えれば非力な者でも正確に射ることができると考えまして……」

 

 俺の話を聞いて男が笑い顔になる。とはいえ声に出さないんだからたいしたものだな。


「そんな話は初めて聞きました。少しお待ちください。この商船にあるものをお持ちします」

 そう言って部屋を出て行ったけど、廊下辺りで笑ってるんじゃないかな?

 やはり、突拍子も無い話だったかな。

 数分もしないで男が戻ってきた。弓矢とクロスボウだな。

 弓矢は、短弓と呼ばれる種類のものだ。クロスボウはトリガーが握りになっているぞ。先端にアブミのような足を掛ける鉄の輪が付いているから、足で押さえて弦を両手で引くんだろう。

 

「武器ではありますが、使い方次第では漁具になるとはおもしろいですね。もっとも、銛もある意味槍と同じに思えますから猟の道具から武器は発達したのでしょうね」

「ちょっと触っても良いですか?」


 俺の問いに頷いてくれたので、クロスボウの弦を引いてみた。どうにか引くことができるな。これにするか……。

 クロスボウの矢はボルトと呼ばれるんだが、この世界では何というのかな? 

 テーブルにクロスボウを置くと今度はボルトを手に取る。

 水中銃の銛のような小型のヤジリと太さ1cmに満たないシャフトの長さは50cm程だ。

 この先端のヤジリが問題だな。

 テーブルにあったメモ用紙に脱着可能な銛先を描いて、シャフトの先端にねじ込めるような説明文を加えた。

 サリーネに文字を教えて貰って良かったぞ。

 ローマ字のような組み合わせの表音文字は、慣れると簡単に読み書きができる。


「なるほど、おもしろい矢の形ですね。ヤジリに穴を開けるのも変わっていますね。そうなると、矢はたくさんいるんじゃありませんか?」

「初めに聞くべきでしたが、この石弓はおいくらになるんでしょう?」

「石弓本体が250D。矢は12本で60Dになります。でも、ヤジリを特注して個数が3個であれば、矢を5本付けて100Dでどうですか?」


 合わせて350Dなら買い込んでも良さそうだ。ついでに鉄の輪を8個とフックを8個を買い込む事にした。

 矢の先端に付ける銛の加工に時間が掛かるという事で、小部屋で待たせてもらう。お茶を頂き、パイプを楽しんでいればその内できあがるだろう。


「それにしても、トウハ氏族は以前に比べ豊かになっていますね。動力船も新品が多いですし、この間は双胴船を見ましたよ。更に今朝入り江を見ると白い綺麗な双胴船まで入港してるじゃありませんか」

「氏族の移動でどうなるかと思いましたが、東には良い漁場がありました。前の島の周辺も良い漁場でしたが、この辺りは漁も初めてなのでしょう、豊漁が続いてますよ」


 そんな世間話を2時間程続けていると、新品の銛先が届けられた。

 荷物を纏めて代金を支払うと、替えの弦を1本サービスしてくれた。切れたら使えないからな。ありがたく礼を言って自分の船に帰ることにした。


 カタマランにも戻り矢の先に付けられた銛に開けられた小さな穴に紐を通しておく。曳釣り用の組紐がかろうじて通る穴だから、使用目的には十分適う。打ち込まれた銛先は紐が引かれれば回転するから外れる可能性はまずないだろう。

 5本の矢の内、銛が付いているのは3本だけで、残りヤジリさえない。つかっている内に矢がダメになるだろうから、これは予備って事だな。

 紐の長さを10m程にして、とりあえずは準備完了って事になる。


「何だ? 今度は海賊でも狩るのか」

「これですか? 使うのはサリーネ達です。前に大きなのを釣った時、ラディオスさんが銛を打ってくれましたけど、嫁さん達には荷が重いでしょうから……」


 やってきたのは、バルトスさん一家だ。

 嫁さんと子供は、小屋から顔を出したサリーネの手招きで小屋に入って行った。

 残ったバルトスさんが俺の手元のクロスボウを見てからかって来たんだけど、一応利用目的を説明しとく。


「まあ、カイトのいう事も分かる。だが、役に立つのか?」

「やってみないと分かりませんが、原理的には俺の水中銃と同じです。この銛を魚体に打ち込めば、4YM(1.2m)程の獲物は取り込めますよ」


ふ~ん、という目で見ているな。

やはり、銛は手で打つ物と言うイメージが強いんだろう。だけど、俺が教えたゴムで銛を突く事は、いつの間にか皆が取り入れているんだよな。

クロスボウを片付けて、パイプを手に次の柄用の話を始める。


「まあ、カイトのいう事も分かるが、石を運ぶのが先だ。この間運んだばかりだが、まだまだ足りないと言っていたぞ」

「今は広場作りですからね。あれだと、運ぶ傍から石積みの中に土砂を入れないと間に合いませんよ」

「だけど、帰るたびにできあがって来るな」


 バルトスさんの話に頷くと、西に見える石作りの桟橋を眺める。

 いつの間にか、岩礁のように見えた突端の広場に石組が立ち上がっている。もう、2段程積めば桟橋と高さが同じになりそうだ。確か1辺が15m程あったから、中を満たすのは力技で大量の土砂を投入する外はないだろう。


「あれを見ると、石を運んで来い! と言うのが理解できます。明日からですか?」

「そうだ。3日で良いという事だ。終わったら、また漁に出よう」

 

入り江の中を見ると、西の方に運搬船やカゴ漁の動力船まで停泊している。彼らが今日まで石を運んでいたのだろうか?

 氏族総出で作るんだから、後世まできちんと残したいものだ。これも、まだ見ぬ俺達の子孫への贈り物に違いない。


「了解です。それで、ラディオスさんのところは……」

「母さんの話だと、2、3日中には確実だそうだ。ラスティと一緒に、浜辺をうろついてるぞ」


 そう言って俺に笑顔を見せてるけど、バルトスさんだって、似たり寄ったりの事をしてたんだけどな。


 翌日は若手の連中達で石を運ぶ。ラディオスさん達も一緒だ。

 男なんて何の役にも立たないとのビーチェさんの言葉に、しぶしぶ従っているけど、生まれたら仕事を放り出して顔を見てこい、と俺達の言葉を聞いて喜んでいたっけな。

 

 1日目は、特に何事も無く過ぎ去り、2日目を迎えた時だ。

 氏族の島に大量の石を台船に乗せて桟橋の広場までやって来ると、ビーチェさんが手を振っているのが見えた。


「生まれたか?」

 ラディオスさんが石作りの桟橋に台船から飛び移って、砂浜伝いに自分の動力船へと駆けて行った。

 そんな光景をジッと眺めていると、動力船の小屋からラディオスさんが飛び出して来て俺達に大きく手を振っている。

 どうやら、無事に生まれたみたいだな。

 カタマランと台船の上で俺達はハイタッチをして新しい命の誕生を祝った。

 本日3回目の石運びだから、早く荷を下ろして俺達もラディオスさんを祝ってやろう。

 日が傾く前には作業を終えて、いつもの停泊場所へと船を移動する。

 船のアンカーも下ろさない内に嫁さん達がエラルドさんの船に飛び移って桟橋伝いにラディオスさんの動力船に向かって行く。

 

「全く行動的だよな。俺も、酒を取って来る。悪いが、今夜はカイトの船で宴会だ」

「良いですよ。そうなると、おかずを釣らなくてはなりませんね。数匹あれば今夜は足りるでしょう」


 互いに手分けして準備をしておく。

 リーザとライズが小さな子供達を引き連れて戻ってきた。その後ろからサディさん達がやって来る。

 

「この船で宴会にゃ。母さんがおかずを釣るように言ってたけど……、もう始めてるなら良いにゃ」

 リーザがそう言うと、子供達を引き連れて小屋に入っていく。

 その後から申し訳なさそうに俺に頭を下げてサディさんが入って行った。この流れなら、この後に来るのはケルマさんだな。

 小屋から桟橋に視線を移すと、鍋を持ったケルマさんがやってきた。


「カマドを借りますよ?」

「どうぞ、使ってください。皆は小屋の中にいます」」


 さて、俺も頑張らないとな。まだ1匹も釣れてないぞ。

 それでも、夕焼けが始まるころには10匹近いカマルを釣り上げた。

 サディさんとケルマさん、後からやってきたイーデルさん達と一緒になってご馳走を作っているところに獲物を渡しておく。

 後は宴が始まるのを、ベンチでパイプを楽しみながら待つことにしよう。



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