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N-095 雨季は曳釣りで


 ゆっくりと船団は南北に連なった状態で東に向かって進む。

 ほとんど歩く位の速度だろう。

 もっと速い速度で曳釣りをしたいが漁具が追従できていない以上仕方がないところではある。

 胴付仕掛けを下して水深を確かめると14mもあった。サンゴが海底に広く広がっているから、場所によってはもう少し浅いところもあるだろうが、平均的には10m以上と考えても良いだろう。これなら船底を何かにぶつけることも無さそうだ。

 夜になっているが、船に掲げたランタンの明かりで周囲の船に位置が分かる。僚船との間隔は60mと言っていたが、それよりは少し長そうだ。

 左右の船との間隔を考えながら舵輪を操作しなければならないから、操船櫓の2人は緊張しているに違いない。


 左右に張り出した竹竿の先に付けた洗濯バサミを通してヒコウキ仕掛けを流し、船尾からは潜航板仕掛けを直接リール竿で流す。先端部が細くは無いからあまりしなっていないが、当たりがあれば鈴が知らせてくれるはずだ。

 後は、獲物が掛かるのを待つだけだな。

 のんびりと船尾のベンチでパイプを楽しみながら待つだけだ。甲板の梁にランタンが1つ灯してあるけど、獲物が掛かれば大型のランタンを使うのだろう。既に小屋の扉に付けたフックにぶら下がっている。

 空は曇天のようだ。星が全く見えない。海の上もそれほど遠くまで見通す事はできないが、リーザ達の目には、近くの島影位は見えるのかも知れないな。

 全く、自分の能力の低さに呆れてしまう。

 ネコ族よりも勝っているのは、水中の活動時間が少し長くて、腕力がやや高い位なんじゃないか? どちらかと言うと劣っている事の方が多そうな気がするな。聖痕の加護があるなら、ネコ族並みの視力を与えてほしいものだ。

 

 ぼやきと同時に強い頭痛に襲われた。

 思わずベンチに横になったが、倒れこんだように見えたのだろう。サリーネがあわてて駆け寄ってきた。


「どうしたの?」

「ああ、ちょっと急に頭痛に襲われてね……。もうだいじょうぶだ。治まってきたよ」

 ベンチから身を起こすと、サリーネがお茶を運んできてくれた。

 熱いお茶をふうふういって少しずつ飲み始めた。

 いったい、何だったんだろう? 今ではすっきり元通りだ。

 まだ、心配そうに俺を見ているサリーネにカップを返す時、ふと、違和感を覚えた。

 サリーネの表情が小さなランタンの明かりでも良く見えるぞ。

 周囲を眺めると、先ほどまでは僚船のランタンの明かりだけがぼんやりと見えていたのだが、動力船の姿、水車の回転まで見ることができる。

 まさか! 俺の夜間視力が上がってる?

 あのぼやきを、竜神が聞き入れたということだろうか?

 ネコ族並みの視力なんだろうが、これなら夜の漁も問題ないな。かえって昼が問題だろう。たぶん瞳孔がかなり広がっているはずだ。瞳孔を絞れないと、サングラスでもキツイ事になりそうだ。


「さっきからキョロキョロして、どうかしたのかにゃ?」

「ああ、どうやら俺の目の機能が少し変わったみたいだ。夜でも辺りを見れるようになった」

「夜でも僚船なら十分に見れるにゃ。遠くは無理だけど……」

 サリーネにしてみれば当たり前ってことなんだろうな。

 だけど俺にしてみれば、ありがたことだ。星空を見るのが楽しみだな。きっと綺麗な銀河を眺められるに違いない。

 

 突然、パチン! と右手の竹竿から道糸が外れた。

 急いでリール竿を取り上げて巻き取ろうとしたが、ぐいぐいという引き込みに道糸が出て行くばかりだ。かなりの大物が掛かったらしい。


「サリーネ、急いで他の仕掛けを上げてくれ。大物だぞ!」

 後ろでサリーネが直ぐに仕掛けを巻き取り始めた。

 操船櫓からライズが手伝いに下りて来る。


「船は走らせたままで良いのかにゃ?」

「ああ、それで良い。それだけでも相手を弱らせる事ができるからね。引き寄せないと何が掛かったか分らないけど、シーブルでは無さそうだ」

 大型のシーブルも糸を引き出すが、明らかに手ごたえが違う。グーンっとグイグイの違いが腕に伝わってくる。

 100m巻きのリールの道糸の三分の二が繰り出される頃、ようやく引きが弱まってきた。

 竿を立てては寝かせながら少しずつ道糸を巻き取っていく。

 20分も経った頃、ようやくヒコウキが手元に帰ってきた。その先の釣り糸は8号ラインだからな。慎重に手繰り寄せると魚体が見えてきた。


「ハリオにゃ!」

「魚体が薄いな。だけど、3YM(90cm)はありそうだ。ギャフを取ってくれないか?」

 直ぐに、ライズが操船櫓に立て掛けてあったギャフを持ってきてくれた。

「サリーネ、軍手をして釣り糸を持ってくれないか。引き寄せたところでギャフに掛ける!」


 やはり男手が欲しいところだ。だいぶ弱っているから、糸を持つだけならサリーネでもできるだろう。

「絶対に糸を手に絡めるなよ。握っていれば良い。我慢できなくなったら、離しても良いからね」

「分ってるにゃ。糸を絡めると指が無くなるって父さんが言ってたにゃ」


サリーネに釣り糸を渡して、ギャフ沈める。

 ゆっくりと舷側に手繰り寄せてきたところで、ギャフを突きあげるようにしてハリオの腹に掛けた。そのまま勢いに任せて甲板に放り込む。

 バタバタと甲板を叩いているハリオの頭をポカリとライズが棍棒を振っている。

 先ずは1匹だ。ハリオと言うのも幸先が良さそうだな。

 

 仕掛けを3個流したところで、ホッと一息ついた。ライズがお茶を沸かしなおして、カップに入れてくれる。

 操船櫓の2人にも差し入れをしたところで、俺の横に座りマイカップでお茶を飲み始めた。


「ハリオは新しい島に来て初めてにゃ。今度はこの辺りが婚礼の航海になるにゃ」

「だけど、あの時の方が大きかったな。ちょっと形が小さいぞ」

「数が出れば良いにゃ」


 大きさよりも量ってことかな?

 となると、他の動力船の釣果も気になるところだな。

 夜間視力の向上で僚船の動きが良く見える。エラルドさんのところも何か掛かったようだ。上手く取り込めれば良いんだけどね。


・・・ ◇ ・・・

 

 3日程漁をして帰路に着く。

 どれぐらい釣れたかは帰ってからの楽しみだな。ハリオ8匹にシーブルが14匹、その上良形のカマルが16匹なら大漁と言えるだろう。

 昼夜を問わずに動力船を走らせ、2日目に氏族の島に帰りついた。

 嫁さん達が停泊していた商船に獲物を何回かに分けて運んで行く。


 のんびりとそんな姿を甲板で眺めていると、石の桟橋に変化があるのが目に付いた。いつの間にか、突端部に広場ができている。近くの動力船と比べると1辺が15m程の正方形のようだ。まだ海面から少し顔を出した位だが、どうやら終わりが見えてきたのかも知れない。


「どうだった? あの辺りにはハリオがいるんだな。4匹釣りあげたぞ」

「俺の方は5匹だ。確かにおもしろい漁場だな。素潜りでも良いんじゃないか?」

 やってきたのはエラルドさんにグラストさんだ。その後ろからバルテスさんやラディオスさん達がいるぞ。

 とりあえず甲板に座り込んで、ラディオスさんが持ち込んだ酒を飲み始める。


「ハリオが8匹にシーブルが14匹です。そのほかにカマルが掛かりました。良い形でしたよ」

「曳釣りはカイトが初めたものだ。まあ、それは仕方がないだろうな。取り込みはギャフか?」

「近くまで寄せて、ギャフを使いました。2YM (60cm)以下ならタモ網です」

 

 ハリオの形がもう少し大きいと、ギャフより銛を使いたいな。これは今後の課題でもある。

 簡単な方法としては弓矢を使うと言う方法がある。

 先端のヤジリを銛先と同じに考えれば良い。精々2m先を狙うんだから、相手の大きさを考えれば有効な手だと思うな。

 場合によっては、クロスボウという手もある。あれなら2m先を外すことはまず考えられない。向こうの世界でも大型獣の狩りに使われた実績もある。

 商船が来たら、確認してみるか。武器ではあるが、用途が漁であることと、矢の本数を3本程度にしておけば向こうも安心できるだろう。武器を買えるなら片手剣位は欲しいところだ。片刃で薄い作りならば、獲物をさばくのにも使えそうだ。

 一応、出刃包丁があるけど、あれよりは使いやすいんじゃないかな?

 

「ギャフは確かに有効だ。だが、もう少し大きくなると、ギャフを打ち込むのも難しくなるぞ」

「もう一つ、問題があります。嫁さん達にはギャフを使えるとは思えません」

「それは、他の連中も嘆いていたな。何匹か手元に寄せてバラシたと言っていた。男2人なら造作もないんだが」

 

 俺の言葉に相槌を打って言葉を繋げたのはグラストさんだった。

「一応、考えた手段はあるのですが……。明日、商船に行って確認してきます」

 そんな俺の言葉に、皆は興味を持ったようだ。

「上手い手があれば、誰もが飛びつくぞ。曳釣りの最大の課題は取り込みだからな」

 グラストさんが俺の肩をポンっと叩く。


「という事で、これはカイトに任せとけば良いだろう。とりあえず、ハリオの漁場が見つかったいう事が俺達の喜ぶべきところだ。これで婚礼の航海を復活できる」

「確かにそうだな。曳釣りの腕は似たり寄ったりと言うところだ。最後の取り込みに差が出ているのだろう。曳釣りはトウハ氏族の漁の1つとして長老も考えているようだ。銛と曳釣りで前よりも豊かに暮らしていける」


 取り込みの有効な手段が確立して、始めて漁法として認められるという事だな。これは何としても形にしなければならないぞ。

 武器の購入という事で、売ってくれなければ自分で作る事になるが、その時は長老に海軍との交渉を頼んでみよう。


「ところで、お前達も気が付いただろうが、石作りの桟橋の先端を小さいながらも広場にする。石が足りないようだ」

「また石運び? まあ、それで完成が早まるんなら持ってくるけど……」

「ついでに、砂利もだ。荒めの砂でも良いらしいぞ」


広場に敷いて固めるつもりだな。となるとかなりの漁が必要になりそうだぞ。そうなると、またザバンを連結して台船を作らなくちゃならないだろうな。

形になって来ると、そんな苦労も気にしないで運べそうだ。また若い連中で運んで来よう。


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