表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/654

N-093 お店ができたらしい

 慣れて来るとリードル漁はあまりおもしろくはないな。

 それでも、氏族のほとんどの8割以上が参加する漁だから、ある意味お祭りのような気もする。

 危険な相手だから、グラストさんも昼は酒を飲まないけれど、夜はラスティさん達と飲んでいるに違いない。

 家族単位で漁をするという事だから、嫁さん達も夕食は張り切ってくれるからな。

 カタマランの甲板もそんな感じだ。

 夜は遠くの海面に月明かりに照らされてリードルの姿が見えるが、俺達の停泊した浅い海には全く姿を現さないのも不思議な限りだ。

 バルトスさんやラディオスさん達は魔石を20個以上手に入れたようだ。10個近く中位の魔石を手に入れたと話してくれたから、金貨2枚近くになったんじゃないかな?

 エラルドさんはあまり数を採っていないが、それでも10個以上は手に入れたようだ。

「次の船で最後だからな。この船を長く使って、のんびり貯めれば良い事だ」なんて言ってたけど、いつまで漁を続ける気でいるんだろう?

 俺は、21個だが、3つの上位魔石を手に入れた。もう1度リードル漁をすれば金貨15枚には到達しそうだが、新しいカタマランはラディオスさん達が注文する時で良いだろう。


 漁を終えて、入り江にずらりと動力船が停泊している。

 商船がやって来て、魔石を売るまでは次の漁には出掛けないようだ。

 俺達もいつもの場所に船を停泊させると、のんびりとその日を送っている。

 乾季の突き差すような日差しが少し和らいで、空気も少し湿り気を帯びてきたのが分かる。

 抜けるような青空には雲が広がっているから、甲板のベンチで昼間から酒盛りをしていてもあまり気にならなくなってきたな。


「まあ、いつも通りって事だろうな。相変わらずカイト以外に大型のリードルを狙おうなんて奴も現れねえし」

「体力がいるのだ。大型を1匹狙うより、普通の大きさのリードルを3匹突いた方がマシって事だろう。あの銛を使うのはグラストも無理だと思うが?」


「確かに無理だ。だがよう、誰もいないのが気に入らねえ」

 グラストさんは出来あがってるな。でも、言いたいことは何となく分かるつもりだ。

 それだから、ラディオスさん達は俯いてるんだよな。


「出来ない事は無いんです。ガルナックと同じで良いはずです」

 俺の言葉に、皆が一斉に顔を向けてきたぞ。

「確かにガルナックは俺達1人では無理な漁だったな。あれと同じという事は、何人かで1匹のリードルを突こうというのか?」

「はい。最初に大型リードルを突いた時は普通のリードル用の銛です。2本突いて、引き摺りあげたのを覚えてます。ビーチェさんに小さいのにしろって言われましたよ」


 俺の話を聞いて皆が、最初に東の漁場でリードルを獲った時の事を思い出しているようだ。


「そうだったな。2本の銛で大きなリードルを引き摺ってきたな」

「ですから、2人で当たれば取ることはできますよ」


 誰も声を出さない。きっと頭の中で2人で行うリードル漁を再現してるに違いないぞ。


「おもしれえ。確かに1人では無理だが2人なら何とかなるかも知れんな。エラルド、雨季明けのリードル漁で試してみるか?」

「そうだな。カイトは単独で獲れるが、バルテス達は相手を探しておけ。上手く行けば、1匹で金貨1枚だぞ」


 けし掛けてるけど良いんだろうか? それなりにリスクはあるだろうけど、今までに散々リードル漁をしているんだから、それ位は何とでもなると思っているのかも知れないな。


 グラストさんのお小言が続くと思っていたが、どうにか収まったようだ。そうなると、次の漁をどうするかに話が変わって来る。


「曳釣りに行きましょう。雨季限定って事ですから、最初の雨が降ってからという事で」

「そう言う決まりにしたんだっけな。あれはおもしろいが、人数が必要だ。船と乗る家族については十分考えるんだぞ」

 グラストさんの言葉にエラルドさんも頷いている。これで漁は決まりだな。

 カタマランに誰が乗って来るかはバルテスさんに悩んでもらおう。


 数日たって、大型商船がやってきた。

 魔石の量が多いという事で、小型の軍船まで同行しているぞ。

 サリーネ達はカゴを背負って買出しに出掛けたが、俺は特に用事は無いからな。

 曳釣りの道具を甲板に出して、具合を確かめながらリールに油を差し、釣り針を研ぐ。天幕を甲板の上に敷いて屋根にしてあるから、直射日光を避けられるだけでも涼しく感じる。


 夜は、購入した食材で皆が集まって宴会になる。

 嫁さん達も一緒だから賑やかな事この上ない。久しぶりに肉が食えるのも嬉しいんだが、スパイスタップリのカレーのような代物だ。これはご飯に掛けると美味しく頂けるから俺にはこの世界で一番の料理だと思うな。

 

「軍船が一緒と言うのは穏やかじゃねえな」

「王国間の交易手段らしいからな。どこかで商船が襲われたに違いない。氏族会議で詳しくは説明して貰えるだろうが……」


 各種の魔道機関や魔法の触媒として魔石は欠かせぬものらしい。俺達からは1個銀貨2枚程度で商船は買い取るが、王都では5倍程に値を上げるそうだ。

 その売買には王国の徴税官も係わっているらしいから、王国の収入源としても成り立っている。

 数百単位で魔石を奪われたら確かに大事ではあるな。

 俺達も魔石を商船に売りだすまでは持っているが、海賊の人数は精々が数十人。対する俺達が銛を持てる人数だけで200人は超えているんだから、海賊としてもリスクはあるって事だ。

 その点、商船ならば30人程度だからな。襲撃するには都合が良いらしい。


「で、どれ位続けるんだ?」

「出来れば10日を考えてます。大漁ならば5日ということで」

「出航して5日目に漁を続けるか否かを判断するって事だな。なら、食料は20日分は確保しとく必要があるぞ。水もたっぷり用意するこった」


 水は雨季だから通常の量で十分じゃないかな? 今夜もだいぶ曇って星の姿さえ見当たらない。サリーネ達がだいぶ食料を買い込んでは来たが、長い漁になりそうだから、もう1度買い込んでくる必要がありそうだ。


・・・ ◇ ・・・


 氏族の島にお店ができたらしい。

 5D均一のお店ということだが、運搬船やロデニル漁の船が周囲の島で採取した野生の果物や畑で取れた野菜を売っているそうだ。

 途中で取ることも出来るけど、柱と屋根だけの建物に品物を入れたカゴを並べているそうだ。

 いつもラディオスさん達の厄介になるわけにもいくまい。

 リーザとライズが出掛けて行くと背負いカゴに入りきれないほど買い込んで来た。


「本当はもっと少ないんだけど、売れ残りをおまけしてくれたにゃ」

「賑わってたにゃ。奥にたくさんカゴが置いてあったにゃ」


 段々大きくなるんじゃないかな。酒をタルで買い込んで量り売りしてくれると助かるぞ。竹製品や、お菓子も人気が出るんじゃないかな。

 たぶん運営しているのは、漁に出ることができないおばさん達に違いない。

 畑が大きくなってきたからな。野菜もたくさん収穫できてるんだろう。

 

 買い込んだ野菜や果物を保冷庫に入れている。

 一応、魚用と野菜用に区別してるから匂いが移ることは無いだろうな。


「明日は、朝食後に出発するそうだ」

「だいじょうぶにゃ。今夜早く寝れば、それだけ早く起きられるにゃ」


 だいぶ甘い考えだと思うな。まあ、4人いるから誰かが起きれば起こして貰えるって事なのかな?

 そんなことで、たっぷりと夕食を食べて、早々と小屋で横になる。

 眠りに着こうとした矢先に、とんでもない豪雨が降ってきた。雨季が近いからだろう。明日は晴れると良いんだけどね。


 翌日は朝から良い天気だ。ずっと持ってくれれば良いのだが、この季節は突然降りだすからな。

 簡単な朝食を済ませ、お茶のポットにたっぷりと水を入れて、真鍮の水入れを持って水場に向かう。いつものように途中でエラルドさんやラディオスさんの容器も預かって汲んでくる。

 それが終われば、お茶を飲みながら出漁の合図を待つだけだ。気の早い船はすでに白旗を上げているぞ。

 まあ、俺の船も似たような雰囲気ではあるな。すでにライズとリーザは操船櫓に上がっているし、俺とサリーネはサングラスに麦わら帽子姿だ。

 既に僚船と繋いだロープは解いているから、後は船首のアンカーを上げるだけになっている。


 バシャバシャと水車の音がするとブラカの音が入り江に広がる。

 ベンチから跳ねるように立ち上がると船首に向かって走り、アンカーを引き上げた。落ちないように別のロープでアンカーを固定したところで、操船櫓に向かって片手を上げる。

 ライズが頷くと、直ぐにカタマランが停泊場所から後退して南に向かう。

 前は、もう一人が後ろを見張りながらの操船だったのだが、操船櫓の横梁にバックミラーを付けたから、舵輪を握っているライズにも後ろが見えているはずだ。だけど、たくさんの動力船が辺りにあるのだから、リーザが操船櫓から後ろを見て教えているみたいだ。

 船尾の甲板に戻ると、サリーネが4色旗と白旗を櫓の両端に取り付けていた。

 いつものように、入り江の東側で船団の出発を待つことにする。

 赤い吹流しのバルテスさんの船が入り江の出口付近に停まってる。その付近には白い旗を翻した船が10隻近く集まっているぞ。今回は十数隻になりそうだな。

 船団に加わることを予定していたがトラブルで出航が直ぐに出来ない船は黄色の旗になるのだが、今のところはどこにも上がっていない。


 ブラカが再び吹き鳴らされる。

 赤い吹流しをなびかせてバルトスさんの船が入り江をゆっくりと出て行った。

 直ぐに、白い吹流しを付けた船が入り江の出靴付近に動いて行く。あれはゴリアスさんの船だな。船団の順番を指示しているぞ。


 カタマランが入り江の出口を目指す。どうやら順番が近づいたとライズが判断したらしい。確かに入り江に残っている白旗を掲げた動力船は数隻だからね。

 やがて速度を上げて入り江を出て行く。後ろを見るとエラルドさんの船だ。その後に白い吹流しのゴリアスさんの船が続くから、俺達のカタマランは後ろから3番目って事になるな。

 何か、この位置が定着してきたみたいだぞ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ