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N-092 運搬船ができた


 俺達の収入は、280Dそれにガルナックの分配が320Dになった。商船が来てればもう少し上乗せされたかもしれないが、欲はかかないでおこう。

 氏族への上納を済ませた残金が540Dだから、まあまあ豊漁だったと言えるんじゃないかな。

 商船で買い物がしたいと言ったら、サリーネが中位の魔石を1個渡してくれた。これだけで銀貨30枚以上になるんだけど、それほど必要は無いんだよな。


 数日後に商船がやってきた時に、魔石を売ったお金でバックミラーを作って貰った。曲線を出す事が出来ないようなので、縦6cm横幅30cm程の鏡を青銅の枠に入れた物を作って貰い、ついでにコンパクトを3個購入する。タバコとお菓子、それに酒のビンを3本手に入れて、残金はサリーネに渡しておいた。穴の開いていない銀貨を2枚受け取って、穴開き銀貨と銅貨は返してくれたから漁具の制作用にとっておこう。


 5日程度の漁を行い3日程休むというような生活を続けていると、石運びの当番がやって来る。

 これも5日続くのだが、食事が付くからサリーネ達は「楽な仕事にゃ」なんて言っている。

 そんなある日のこと、商船が新しい船を運んで来た。

 カタマランだが、ラディオスさんの船を2隻並べたものだから、改造するのが簡単だったようだ。

 それでも操船櫓は付いているし、小屋の船首側には、左右には腕木を持った柱が付いている。


「あれが運搬船なのか?」

「そうです。荷役中心ですから、2家族が乗り込みます。大きさは小型の動力船ですが、ザバンを積みませんから甲板の位置が反対になってます。イケスも保冷庫も大型ですよ」


 イケスの大きさは横幅が2mで長さも2mある。深さは1mだ。それが左右に1こずつ。その半分の大きさの保冷庫も同じように左右に作られている。

 操船は船尾に作られた操船櫓で行うのだが、横6.5m長さ4.5mの小屋は左右に部屋が作られている。甲板への出口とは部屋別についているから、2家族が暮らせるだろう。2家族ならば休むことなく運搬船を動かすことができる。


 サリーネを連れて商船に出向き、支払いを済ませて世話役に引き渡した。

 今乗っているカタマランの半額以下だから、それ位氏族に還元しても良いだろう。まだまだリードル漁で稼いだお金は残っているし、次の船を制作するのもそれ程先の話ではないからね。


 その夜、いつもの連中が集まってくる。

 エラルドさん達が長老会議の様子を話てくれるんだが、バルトスさん達はまだ残っているらしい。

「いよいよバルトスも末席に座れるようになった。まあ、発言はしばらくはできまいが、会議の後に長老達が色々と教えてくれている」

「ご苦労なこった。だが、長老のお蔭で俺達は楽ができるな」


 そんな事を言って酒を飲んでいるけど、教育ってのが引っ掛かるな。

「何を習ってるんですか?」

「俺達の歴史だな。口伝で教えられる。カイトもいつかは俺達の歴史を知ることになるかも知れんな」

「そんなに先ではないだろうな。俺達がどこから来てどこに行くのかを教えてくれる」


 精神論的なものなんだろうか? 昔から千の島で暮らしていたわけでは無いんだろうな。意外と落ち武者物語のようなものかも知れない。だが、どこに行くのかと言うのは、今の暮らしが仮であるという事になる。

 その辺りはカヌイの小母さん辺りとも繋がっているような気もするぞ。

 しかも、氏族の長老会議に参加できる者達だけに伝わると言うのも気になる話だ。

 

「そんな深刻な話ではないぞ。俺達は遥か西にあった王国からこの島に流れて来たらしい。今ではそんな王国なんて無いらしいがな。ここで暮らして、死んだ後は龍神が治める平和な島で銛を競う事になるらしい。まあ、そんな話だな」


 人生観って感じなのかな? 少なくともルーツを教えて貰い、氏族の信じる龍神の元に向かう日々を送る。

 単調ではあるが、その中にも喜怒哀楽は存在する。

 一生を無事に過ごして、信じる神の御許に向かえるなら、それは幸せな事なんだろう。

 生きた証を残して、氏族がいつまでも続くならこれに越したことは無い。

 

 まあ、そんな哲学じみた話は生粋のトウハ氏族の人に任せておけば良い。前の世界に帰る手段があるとは思えない俺にとっては、この世界が生きていく世界に他ならない。あまり波風を立てずに、世話になった氏族にそれなりの恩返しができれば十分だと思う。


「まあ、それはさて置いてだ。1か月もすればリードル漁が始まる。その前に、何かおもしろい漁は無いのか?」

 そんな話は俺の方から聞きたいくらいだ。グラストさんはトウハ氏族筆頭なんだから、いつごろ、どこで、何が獲れるか位は知っていると思うんだけどな……。


「やはり、前の島とは異なるか?」

「ああ、同じなのはリードル漁位だな。それも少し時期が変わってるし、漁期も短い。皆が筆頭と言ってはくれるが、漁獲高ではカイトが抜きんでてるぞ。島を変えてから漁場を探すのもカイトの漁を基準としてるぐらいだからな」

「でも、リードル漁を抜かせば、俺の漁はたかが知れてますよ」


 俺の言葉をおもしろそうにグラストさんが聞いている。

 何か言おうとしたんだけど、そこにバルテスさん達が戻ってきたから口をつぐんだようだ。


「長老の話では、南の島を東に3日のところでシメノンが釣れたらしい。シメノン釣りはどうだ?」

 若手には指折りの情報を教えてくれるみたいだな。

 苦い顔をしてエラルドさん達が顔を見合わせているぞ。だけど、俺たちにとってはありがたい話だ。


「餌木を持つ連中は多い。彼らも連れていくのか?」

「父さんの方で提案してくれると助かります」

「良いだろう。入り江には20以上の動力船が停泊してる。10隻以上は同行するだろうが、またお前達で率いてみろ」


 そんな話で俺達の次の漁をどうするかが決まっていく。

 単独の漁が主体だと思ってたんだが、トウハ氏族の漁は集団が主流のようだ。

 エラルドさんが俺を助けてくれた時は、一隻だけだったが子供達が大勢いたからなんだろうな。


・・・ ◇ ・・・

 

 シメノン漁から帰って来ると、大型の商船が停泊していた。

 あのドワーフが乗っている船だから、ラディオスさん達が動力船に操船櫓を作って貰っている。

 銀貨5枚は高いんだろうが、これからリードル漁を行えば直ぐに取り返すことができるからな。

 エラルドさん達まで改造して貰ってるぞ。やはり雨の中の操船はビーチェさんも嫌がるんだろうな。

 問題はラディオスさんとラスティさんのところだ。

 だいぶ嫁さんのお腹が大きくなってきたぞ。やはり、リードル漁は難しいだろうな。


「すると、カヌイを頼む事はいらぬと言うのだな?」

「イーデルさんとナディさんも来てくれましたし、子供達の世話はサディ姉さんとケルマさんがいます。オリー1人ならサディ姉さん達に預けられるかと」


 今夜の集まりは、数日後に迫った、リードル漁の打ち合わせだ。いつも通り、向こうに付いたらカタマランに子供達を乗せておくのは問題が無いのだが……。


「なら、最初からカイトのところにオリーを頼んだ方が良いな。ここなら、容易に船から移動できるが、リードル漁の島の周辺は動力船をあまり動かせん。ラディオスは俺の船にザバンを積めば良いだろう」


 ラディオスさんが俺に顔を向けたので、頷いて了承を伝える。義兄弟じゃないか。困った時には助け合うのが筋だからね。


「カイトには世話を掛けるな」

「そんな事は無いですよ。それに、俺のところもいつかはそうなるわけですし、嫁さん連中も、退屈しのぎの相手ができると喜んでくれると思います」


「確かに、迷惑をかけどうしだ。船を大きくしたら少しは何とかと思っているのだが、ドワーフとの話し合いは済んだのか?」

「ロデニル漁の専用船は金貨9枚、すでに長老が発注を済ませてます。このカタマランを一回り小さくした船は、小屋の屋根にザバンを積む形になるんですが、金貨11枚と言ってました。今俺達がいる動力船は金貨14枚との事です」


「やはり金貨10枚を超えるか……。次の漁も頑張らねばならないな。だが、2年も続ければなんとかなりそうだ」

「兄さんもか? 俺もそれ位にはできそうだ。リードル漁に中位魔石が混じってるからね」


 西の漁場に比べて魔石の数は2倍以上になっている。西のリードル漁場は、今は期間限定で、分裂したオウミ氏族が利用しているらしい。オウミ氏族も喜んでいるだろう。

 東の漁場も、もう少し近くにある島が大きいと良いのだが、あれでは焚き木を切れないからな。途中にある島から焚き木を切り出して漁に向かうのが、ちょっと面倒ではある。


「という事で、近場の島で焚き木を集めてこい。途中で集めるとなれば船団の船が多いからな、あまり集められなくなってきている」


 確かに俺達の仕事だな。4人で顔を見合わせて頷いた。

 いつもリードル漁の前にはラディオスさん達が果物を採りに出掛けるんだが、焚き木を取るなら俺も参加できるぞ。それに、カタマランの甲板は広いからな。リードル漁で使い切れない程乗せられる筈だ。


 次の日、カタマランに皆が乗り込んで近くの島に向かう。

 半日も船を進めれば数か所の島を巡れるのも、この船の良いところだ。

 2日掛かって大量の焚き木を乗せて氏族の島に戻って来る時、島に向かって進んでいる運搬船を追い抜いた。

 数人の男女が俺達に手を振っているから、俺達も手を振って答える。

 

「水車が2つなんだな。普通の動力船よりも速いんじゃないか?」

「2割増しって、ドワーフが言ってましたよ。サンゴの崖近辺には結構船が出てるんでしょうね」

「ああ、ロデニル船団と長老会議では話していたな。動力船4隻とあの運搬船で構成されてる。食料や水も運んでいるから長期に漁ができると言ってたぞ。入り江の西には、大きなイケスを作ったらしい。ロデニルはそこで商船を待つんだろう」


 イケスと言っても大きなカゴを杭で固定したものらしい。そのカゴの中にカゴに入れたロデニルを沈めておけば確かにイケスとしての機能は持てるわけだ。

 誰が思いついたか知らないけど、良いアイデアだと思うな。



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