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N-089 共同作業


 次の朝。素潜り漁の最終日に、嫁さん達に昨夜の相談結果を告げた。

 その話に、嫁さん達が驚いてスプーンを持ったまま俺に注目する。


「皆でガルナックを突くの?」

「ああ、そういう事になった。見付けた者が最初の銛を突く。その後は順番なんだけど……、俺は4番目だ」


 ジャンケンがこの世界にあるとは思わなかったが、そんな結果になってしまった。俺の前はバルテスさんで後ろがグラストさんだ。

「良いか。俺までちゃんと回すんだぞ!」

 何て俺達を睨みつけてたけど、微妙なところだ。狙う場所は頭からエラまでと決めているけど、頭は銛を跳ね返したんだよな。

 一応、頭は固いとは教えといたけどね。


「横一列でザバンを進めて、動力船は後ろで良いかにゃ?」

「それで良い。上手くガルナックを仕留めたら、このカタマランに引き上げるそうだ。他の動力船の保冷庫は小さいからね。合図は竹の笛で行うと言ってたから、サリーネは竹笛を首に下げといてくれ。ガルナック発見で2回吹くって事になってる」


「分ったにゃ。ライズは周りを良く見とくにゃ。漁が始まったら直ぐに近場に向かうにゃ」

 サリーネの言葉に2人が頷く。操船はリーザってことになるのかな。

 リーザにあまり長く双眼鏡を使わないように注意しておく。日差しが強い環境だから、双眼鏡でさらに光を集めるとなれば目に悪いのは俺にも分る。


 食事を終えてお茶を飲んでいると、ブラカの音が聞こえてきた。

 いよいよ計画的なガルナック漁が始まるようだ。リーザの操船でカタマランがゆっくりと島を離れて行く。船団での位置は銛を突く順番だ。

各動力船の位置は、白い吹き流しを付けた動力船の小屋の屋根の上でゴリアスさんが指示している。

エラルドさん達が手助けしてるんだろうけど、もう十分に船団の指揮ができてるんじゃないかな。

これから行うガルナック漁は、今までのように個人での漁ではなく、集団で行う漁だ。参加する銛打ち達、海上で支援するザバンの漕ぎ手達、さらには後方支援の動力船達と上手く連携を取る必要が出てくるだろう。

初めての試みだから色々と不都合も出てくるだろうが、若い連中の頭でもあるバルテスさん達だからな。統率力が試されるけど、俺達はちゃんと指示に従うぞ。


「銛は1本?」

「ああ、今日はガルナックだけだからな。エラルドさんに貰った最初の銛だ。前にガルナックを獲った時も、止めはこれで刺した」

 エラルドさんに貰った銛は返しの小さな銛だが、シャフトが太くて長い。柄と合わせると3m程になる。これで口内を刺せば前と同じように止めを刺せるだろう。


 船尾から小島を眺めるとだいたいの位置が分かる。

 どうやら、俺がガルナックを獲った場所の少し西を目指しているようだ。

 何本かの深い溝を、そのまま通過しているのは、2日間でこの辺りを調べた結果だろう。まだ調べていない海域を一気に調べるつもりだな。


 短い笛の音が聞こえてきた。船団は南西から西に進路を変える。

 少し進んだところで、ブラカの音が聞こえてきた。

停船の合図だ。曳いて来たザバンを引き寄せてカゴを持ったサリーネを先に乗せる。

銛を手渡し、船尾のロープを解くと直ぐにサリーネがザバンをカタマランから離して俺を待っていてくれる。

 急いで装備を整えると、海に飛び込みザバンのアウトリガーに座って指示を待つことにした。


 左手のザバンに乗っているイーデルさんが短く笛を吹くと指を1本掲げている。サリーネも同じように笛を吹いて同じようにサインを高く出している。

 あちこちで笛が鳴り、ザバンが小刻みに動き始めた。どうやらザバンの間隔を10ML(30m)とするためのサインらしい。


「カイト。始まるぞ。ちゃんと俺まで回すんだぞ!」

 右のザバンに片手で掴まりながら浮いているグラストさんが俺に怒鳴り声を上げる。

「俺の前に4人以上いるんですよ。こればっかりは分かりません!」


 そんな俺の大声で周囲から笑い声が上がっている。

 グラストさんは、俺達の緊張をほぐしてくれたに違いない。一緒になって笑ってたからね。

だけど、集団を指揮するには、そんな事が直ぐに思いついて尚且つできる人間でないとダメなんだろうな。


 ピイィィーっと長く笛が鳴った。

 いよいよガルナックの探索が始まる。息を整え、海底にダイブする。

 銛を持って潜るバルテスさんやグラストさんの姿がまるで空中に浮かんでいるように見えるぞ。透明度はかなりなものだ。

 水深は5m程あるだろうか、真下は一面にテーブルサンゴが重なり合っている。

 そんなサンゴの影で、50cm程のフルンネが小魚の群れを追い掛けていた。

 あの大きさのフルンネが餌を獲っているなら、この辺りにガルナックはいないって事になるな。


 息継ぎに、男達が次々と海面を目指して上がっていく。俺も一旦海面に向かう事にした。

 辺りを見渡すと、20m程離れてザバンが綺麗に並んで、俺達に向かっている。

 20m以上離れたって事だろうか?

 再度海に潜って様子を探る事にした。

 5回ほど繰り返したところで、ザバンで休憩を取る。


「まだ、見つからない?」

「ああ、そう簡単に見つかるなら、トウハ氏族で年に何回かガルナックが突かれているさ。それだけ数が少ないって事なんだろうな」


 サリーネからお茶のカップを受け取りながら答えると、彼女も納得しているようだ。

 まあ、ある意味今日の漁は娯楽でもあるようだ。たまに皆で一つになって何事かを成そうとするのもおもしろいからね。今日の漁の方法や、感じたことを肴に酒を飲むのも楽しいに違いない。


 10分程休んでいると、再び長く笛が鳴った。

 作業再開って事だな。サリーネにカップを渡すと、呼吸を整えて海中にダイブする。

 何回潜ったか忘れた頃、突然海中で違和感に捕われた。

 今までと異質な感じがする。

 それが分かったのは、海底の岩の割れ目に張り付くように身を潜めているフルンネを見付けた時だった。

 いるぞ……。素早く海面に浮上すると、サリーネに笛を1回だけ吹いて貰う。

 直ぐに、浮上した男達が俺のところにやって来る。


「どうした。いたか?」

「まだ姿は見てませんが、前と同じ光景をこの下で見ました。怯えて溝に張り付いたフルンネです。絶対に近くにいますよ!」


 グラストさんにそう答えると周囲がざわついた。

「どうやらこの近くらしい」、「ほんとうか?」……。


「おもしれえ、バルトス!」

 大声でグラストさんがバルトスさんに声を掛けた。


「おう! 良いか。横に5FM(15m)だ。しっかり探してくれよ」

 バルテスさんの指示に皆が銛を掲げる。底で俺はまだ銛を持っていないことに気が付いた。ザバンの列を見ると、1艘だけこちらに近付いて来る。どうやら皆が銛を上げたのを見て、俺が持っていないのを知ったサリーネが運んできてくれたようだ。

 泳いで行くと銛を受け取り、皆の中に混じって列を作った。


バルテスさんが潜るのを見て、一斉にダイブする。

 海底の割れ目やサンゴの影に目を凝らす。グレーの体色は保護色に近いからな。

 息継ぎに海面を目指し、呼吸を整え再びダイブ……。

 4回目に潜った時だ。コツコツと言う音が聞こえて来た。誰かが銛の柄を叩いているぞ。

 急いで海面に浮上すると、周囲を見渡した。


 ピイィィーっと2度、鋭い笛の音が聞こえて来たぞ。見付けたのは誰だ?

 次々と男達が海面に上がり、笛を再び吹いた男のところに集まっている。俺も急いで皆のところに向かった。


「いたぞ。この真下だ!」

 そう大声を上げたのは、ゴリアスさんだ。

 1番銛はゴリアスさんになるのか……。確か、ずっと後だったんだよな。俺は5番目って事になるぞ。


「1番銛はゴリアスで良いな。2番手は順番通りラスティになる。3番、4番も待機してくれ」

 バルテスさんの言葉に、ゴリアスさんとラスティさんが力強く頷いている。他の連中は渋々って感じに見えるけど、これは約束だからね。


「2人が上がってきたら次の2人が潜る。ゴリアス、狙いはエラの近くだぞ。頭は銛が効かん」

「おお、分かってるつもりだ。ラスティ、行くぞ!」


2、3度素早く呼吸をして、2人が銛を手にダイブしていく。銛先が外れる銛だ。紐が柄の中ほどまで伸びている。

 

 次の2人はバルテスさんと初めて見る顔の青年だ。

 2人とも海に頭を突っ込んで先に潜った2人の様子を見ているぞ。

 俺もシュノーケルで呼吸をしながらゴリアスさんの銛打ちを見守った。ゴリアスさんが銛を打つと、直ぐにラスティさんも銛を打って、海面に浮上してくる。


「俺の身長位の奴です。2本の銛は刺さってます!」

「次は俺達だ。直ぐに上がって来るから、カイトも準備しとくんだぞ!」

「カイトが突いた奴より小さいのか?」

 

 グラストさんが少し気落ちしてるけど、あれだってかなりの大物だぞ。

 ゴリアスさんが海面に出ると、バルトスさん達がダイブしていく。

 狙いはエラお周辺なんだが、海底を覗くとガルナックが銛を外そうともがいているのが見える。上手く銛の柄が岩に引っ掛かっているようで、銛で突いた穴から血が周囲に広がっている。


「グラストさん、今度は俺達ですよ。先を譲りますから上手くやってください。俺は口を狙います」

「殊勝だな。ありがたく先を行くぞ。お前はじっくり待って上手くやるんだ!」


 グラストさんの事だから、さっさと突いて上がるに違いない。

 俺はその場で機会を待てば良い。


プハ! っと浮き上がって息を吸う2人を見て、俺達は海底にダイブした。

 ガルナックに刺さっている銛は3本だ。1本は外れたようだな。グラストさんは、ダイブした勢いを殺さずに、一気に銛を押し込んで、直ぐに浮上していく。

 背中に深く銛が突き立ったが、ガルナックの暴れる勢いが減ることは無い。

 やはり、口を狙うしか無さそうだぞ。

 ガルナックとほぼ同じ位置になるように体を沈める。ゴムを引いて柄を握り、ジッとその時を待った。


 再びガルナックの体が震えて苦しそうに口を開く。その瞬間、左手を突き出すように銛をガルナックの口内に突き入れて左手を緩めた。

 前にも増してガルナックが痙攣するように振えると、またもや新たな銛がガルナックに突き立つ。

 急いで海面に浮上した俺を、バルタスさん達が見つめる。

 大きく頷いた俺に、皆がホッとした表情を見せた。


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