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N-088 ガルナックはどこだ?


 初日の獲物は11匹だから、素潜り漁としてはまあまあの成績って事になりそうだ。

 獲物は大きく開かれてザルに並べて小屋の上に干されている。

 カモメやウミネコがいたら厄介だけど、小鳥はいるんだが海鳥は姿を見たことが無い。

 漁を終えて島の砂浜にアンカーを下ろして停泊すると、直ぐに夕食の準備が始まった。

食事を終えるころには、日はとっぷりと暮れているから、小さな浜にはランタンの灯りがいくつも揺れている。

 そんな灯りを眺めながらワインを飲んで明日の漁の作戦を立てるのもおもしろい。皆自分の意見があるみたいで、中々相手の意見に同意しないんだよな。

 最後には、3人で睨みつけられてしまったぞ。

 

「それで、カイトはどこにするの?」

「前にガルナックを仕留めた辺りは、グラストさん達が漁をしてたし、ラディオスさん達はこの辺りだったよな。そうなると、まだ、今回誰も潜ってないのは、ここしかないんじゃないか?」


 逆に、意見を求めてみたが、俺の指差した海域を見て3人と頷いてるぞ。

「全体が深いにゃ。底に谷は無さそうにゃ」

「大岩がごろごろとあるにゃ。この船のアンカーを下ろせないにゃ」


 そうなると、誰かが常に操船櫓に上ってないと不味いだろう。だが、海流はそれ程きつくないから、大きく流されることは無いんじゃないか。

 他の船では動力船に残るのが1人だし、バルトスさんのところのようにちびっ子を連れた動力船もある。動力船を固定できる位置で、あるいはザバンを使わずに漁をするとなると、俺達が漁をしようとする海域は難しいのかも知れないな。


「皆と同じ場所なら獲物も同じにゃ。私達なら漁ができる場所で漁をするにゃ!」

 サリーネの過激な意見にリーザ達も頷いているぞ。

 確かに、それも一理ある話ではあるな。一応、俺の考えを了承してくれたということで今夜は眠ることにした。


 翌日。素潜り漁の開始を告げるブラカの音を聞いて、俺達は北北東に進路を取った。

 南側と違って、島の北方面にはあまりサンゴが発達していないようだ。

 何か理由もあるんだろうけど、大きな岩が林のように海底から突きだしているぞ。

 岩礁の頭頂部は水面下3mはありそうだから、とりあえず衝突する危険性は無さそうだが、操船は油断できないな。常に周囲を見張る必要がありそうだ。

 

 予定の海域を500m程進んだが、昨日のような海底の谷間は見当たらない。

 フルンネのような魚はいないようだが、1匹狼のようなバルタスと根魚ならたくさんいそうな感じだな。上手くいけばガルナックも期待できそうだ。


 今日はライズがザバンを操ってくれるみたいだ。

 俺が、カタマランの停船を指示すると、直ぐにザバンに乗り込んで行く。

 カゴと銛を手渡して、曳き綱を解く。

 ライズがパドルを操って、カタマランの南側へと漕いで行った。

 装備を整えて海に飛び込むと、いったん深く潜って海底の様子を窺う。


 かなり今まで見た海底の光景とは異なるな。まるで異世界に来たみたいな気がするぞ。

 林立する大岩は列柱のようにも見えなくもない。あまり海草やサンゴが着いていないのが不思議ですらある。

 思わず人工的なものかとも思ったけれど、列柱のように見える大岩が不規則に乱立しているから、やはり自然に作られたものなんだろうな。

 この辺りの複雑な海流がこんな形に岩を削ったんだろうか?

 古代神殿の中を飛んでいるような錯覚すら覚えるが、今の俺は漁師の1人だからな。あまり考えずに獲物を探すとするか……。


 一旦、浮上して息を整える。

 ライズがこっちに向かおうとしたのを見て、銛先を掲げて獲物が無い事を告げた。

 さて、狙い目は何だ? シュノーケルで呼吸をしながら海底を眺める。

 

 いた! やはりバルタスだな。フルンネはこちらには近付かないようだ。

 息を整えて一気にダイブすると、触れんばかりの距離で銛を打つ。狙いはエラの付近だからビクンっと体を震わせておとなしくなった。

 急いで浮上して獲物を掲げると、ライズが急いでやってきた。


「バルタスにゃ! たくさんいるのかにゃ?」

「バルタスは群れないからな。でも、数はそこそこだ」


 獲物を突いた銛をライズに預けると、次の銛を渡してくれる。

 銛を受け取ると、その場で呼吸を整え海中に潜っていく。


 ロデナスの小さいのも結構いるようだ。20cmに満たないし、これだけ岩があるからな。カゴ漁には向いていないだろう。

 そんなロデナスを狙おうとしているバルタスが次の獲物だった。

 まだ余裕があるので、ロデナスを1匹掴んで海面に浮上する。


「ロデナスがいるぞ。俺達が食べる分は問題ないって言ってたからな」

「小さいにゃ! でも焼いたら美味しそうにゃ」


 ポイっとザバンに投げ込んだロデナスを軍手で掴んでイケスに入れている。

 銛を交換すると、また海底を目指してダイブした。


 バルタスを数匹突いたところで小休止を取る。ロデナスも4匹捕まえたから今夜のおかずは期待できそうだ。

 ライズからお茶を受け取って、ゆっくりと飲み始めた。


「ガルナックは?」

「ここにはいないみたいだ。前に来た時は海底の溝に魚が潜んでたけど、この海域の魚は自由気ままに泳いでる。それだけ危険な奴はいないって事だろうな」

「残念にゃ……。でも、もう1日あるにゃ!」


 ライズの言葉に頷きながら、今自分が言った言葉をもう1度考えてみた。

 確かに身の危険が無いように泳いでいる。それは自分達より大きな魚がいないって事に違いない。

 だとすれば、バルタスやフルンネが泳いでいる場所にはガルナックがいないって事になる。逆に言えば、フルンネ達が泳いでいない場所には、ガルナックがいるって事にならないか?


 場所を変えるにしても、この海域を今から探すのも面倒だな。

 今日は、ひたすらバルタスを突くか……。


 昼過ぎにカタマランに戻った時には、バルタスを9匹、バヌトスを4匹捕えていた。今日も、良い成績だったな。

 昼食をカタマランで取ると、小島の砂浜に停泊した。俺の船に動力船を寄せてきたところを見ると、漁果の確認でもするのかな?

 夕暮れまじかの甲板に次々と男達が集まって来た。

 甲板に車座になって腰を下ろすと、早速酒盛りが始まる。


「エラルド、どうだ?」

 グラストさんの質問にエラルドさんが首を振る。

 きょとんとしてラディオスさん達は、さえない顔をした父親達を眺めてるが、グラストさんの質問はガルナックはいたか? って事なんだろうな。


「フルンネばかりだ。1日で12匹なら大漁と言えるのだが……」

「だな。俺は種類を問わずに突いたから14匹を持ち帰ったが、肝心のやつがいねえ」


 今度は俺をじろりと見てるぞ。どこに隠したって感じだな。

 これは、早い内に誤解を解いておいた方が良いかもしれないな。


「別に俺が隠してるわけじゃないですよ。元々、ガルナックの数は少ないんじゃないですか? それと、今日気が付いたんですが、俺がガルナックを突いた場所では魚達が怯えて溝の奥に隠れてました。2YM(60cm)程のフルンネではガルナックにとっては餌でしかありません。魚が怯えているように見える場所。そんな場所にガルナックはいるに違いないと思ってるんですが」


「フルンネが怯えるだと?」

「俺が素潜りをしてた場所はのんびりと泳いでたな」

「俺達のところもそうだったぞ」


 男達が俺の言葉に興味を持ったようだ。

 よしよし、上手く流れが変わったぞ。


「カイトが、あのガルナックを突いた時はそうだったという事か?」

 確認するようにグラストさんが俺に問いかけてきた。

「そうです。周囲の魚が溝の奥に身を隠していました。ガルナックも溝に潜んでましたから、近付く獲物を待ってたのかも知れません」


「ふむ……。明日はそれを探してみるか。要するにフルンネが泳ぐ場所にはガルナックがいねえって事になる」

 エラルドさんと顔を見合わせてニヤリと笑ってる。

 漁はどうでも良いから、ガルナックを突きたいって事なんだろうか?

 

「フルンネを20も突けば、漁は十分だろう。明日は皆でガルナックを探してみねえか?」

 グラストさんの提案に俺達若者は一瞬互いに顔を見合わせてしまったが、直ぐに大きく頷いて互いの決意を確認する。


「トウハの銛に狙われたら最後って事になるんでしょうか?」

「ははは、そうだな。その通りって事を周囲に知らしめるのもおもしろそうだ」


正に、『トウハの銛に突けぬものなし』って事になるわけだ。カガイの席用に変な2の句を教えなければ良かったぞ。

あれ以来、グラストさん達が気にいって、その言葉を口にするんだよな。


「トウハの銛にってやつですね。全く、教えるんでは無かったと反省してます」

「何を言う。俺があの言葉を歌い上げた時は、会場に静寂が下りたぞ。その後は割れんばかりの拍手と喝采だ。俺達の長老は深く頷き、他の長老達はポカンと口を開けたままだった」


 バルテスさんが笑顔で俺の肩を叩いてる。

 確かに、決まった! って感じになったんだろうな。その後で、ガルナックを商船が買い込んで行ったから、今では他の氏族もトウハの銛の腕を疑う事は無くなったという事になる。


「全く、良い言葉だ。上の句はバルテス覚えているか?」

「覚えてます。『わが想い、飲み込みはなる、銀の魚、サンゴの海に今も育ちぬ』でした。それに答える者がおりませんでしたので、会場の中に足を踏み入れ、銛を持って答えた歌がカイトに教えて貰った下の句、『龍神に、導かれたる、我が氏族、トウハの銛に、突けぬものなし』です」


ははは……。俺達一同が高らかに声を上げて笑いあった。

 さぞかし痛快だったろう。

 なるほど、バルテスさん達がガルナックにこだわるわけだ。

 トウハ氏族の銛打ちたる者は、かくあるべきという事になったんだろうな。

今まで心の奥にそっと仕舞っていた自分達の銛の腕に対する誇りをカガイと言うネコ族の一大イベントで披露したからには、そんな自分の腕を実際に確認しておく必要があるって事になったって事だろう。

俺は十分にその腕がグラストさん達にはあると思ってるけど、グラストさん達には、やはり実際にそれを確認したいって事になるんだろうな。


「どうだ? 明日は横一列で少しずつ南に下がって、カイトの言う場所を探すってのは」

「おもしろそうだ。だが、誰が一番の銛を取る?」

「そりゃ、もちろんその場所を見付けた者だ。だが相手の大きさも半端じゃねえ。2つ目、3つ目と銛を打ち込んでいく。その順番を今から決めるぞ!」


 要するに共同で漁をするって事だな。

 中々おもしろそうだ。それにガルナックが最大の魚とも思えない。今後にも繋がりそうな漁の仕方だから俺も大賛成だぞ。



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