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N-086 次の筆頭は?

 次の出漁に付いて嫁さん達に話をしたら、目標をグラストさんに決められてしまった。4人でのんびり漁をして暮らそうなんて考えは、家の嫁さん達には無いらしい。


「父さんを超えないとダメにゃ。漁の成果で競うにゃ!」

「また、ガルナックを突くにゃ。そうすれば一番にゃ」


 ライズとリーザがハッパを掛ける光景を、サリーネが微笑みながら見ている。あの笑みの後ろが危険かも知れないな。


「今度もザバンは使えないのかにゃ?」

「そう言えば、そんな話は出なかったな。明日にでもまた集まるだろうから聞いとくよ」


 サリーネの指摘はもっともな話だ。素潜り漁のバックアップを行うザバンが使えるか否かで、獲物の数が違ってくるんじゃないか?

 前回はザバン無しだから、獲物を突くたびにカタマランに戻ったんだよな。

 それだけでもかなりの体力を使う事になるから、素潜りを行う回数だって減ってしまう。


「ザバンが使えるか否かで、獲物の数はかなり違ってきそうだな。あの時はガルナックの話でザバンは使うなって事になったんだけど……」

「たぶん父さん達は、それを確認したいんだと思うにゃ」


 単なる、自分達の楽しみだけではないって事だろうか? 氏族筆頭とそのライバルともなれば、他の漁師達の安全を第一に考える事も必要になるんだろうな。

 バルトスさん達も俺達の指導を通して、指導者になれるように努力しているんだろうが、2人ともちょっとおとなしい性格なんだよな。ともすれば、俺達の漁に名目的に参加する感じがしないでもない。

 だが、俺達義兄弟の長兄でもある。俺達がしっかり支えてあげればトウハ氏族の立派な重鎮になれるんじゃないかな?

 長老は、俺が将来の筆頭となることを望んでいるようだが、それは僭越というものだろう。どう考えても生粋のネコ族ではないからな。筆頭の補佐にでもなれれば十分な気がする。

 ある意味セカンドグループになるが、たまには船団を率いることもあるだろう。嫁さん達にはそんな立ち位置で我慢してもらおうかな。


 翌日は、皆で近くの島に果物を探しに出掛ける事になった。

 さすがにココナッツは無理だけど、野生のバナナやパイナップル、それにマンゴーのような果物なら、木登りの下手な俺にだって何とかなるだろう。

 東に半日程動力船を進めると2つほど少し大きな島がある。入り江もあるし、周辺はサンゴ礁だから、この辺りも良い漁場なんだろうが、トーハ氏族がこの島に訪れる目的は野生の果物の採取がほとんどだ。

 平坦な周囲2km程の2つの島は、果物が豊富に実っている。

 半日掛けて、背負いカゴ3つに山盛りにして、保冷庫にまで入っている位集めたのだが、皆に分ければ背負いカゴ1つ位になってしまいそうだ。

 いつもラディオスさん達が集めてくれるんだけど、たまには参加しないと仲間外れになりかねないからな。

 

 採れるだけ採っても、たくさんあるから他の連中がやってきても問題は無いだろう。

 夕暮れが迫る中、俺達は氏族の島へと動力船を進める。夜遅くには着くだろうから、明日にでも分配すれば良い。

 深夜に入り江に入り、俺達の停泊場所に動力船を泊めてゆっくりと休む。


 翌日、採取していた果物を嫁さん達がカタマランの甲板に広げて分配を始めた。邪魔をしないように、ラディオスさんを誘って釣りに出掛ける。


「カイトと同じような呼吸器ができたぞ。今度は海中を見ながら息継ぎができる」

「過信しないで下さいよ。海水を吸ったら大変ですから」

「分かってるさ。最初は何度か吸ってしまったからな。だけど今はだいじょうぶだ。吸う前に、竹管の中の海水を吹きだすことを覚えたからな」


 教えなくても使い方は分かったって事なんだろうな。ラスティさん達も直ぐに手に入れるんじゃないか? そうなると、俺のアドバンテージも少なくなる気がするぞ。


「足ヒレだっけ? あれは靴と言う物を扱っていたんでそれを改造して貰った。靴底にガムの板を張っただけなんだが、今度の漁で使ってみるつもりだ」

「結構便利ですよ。そうなると、俺もうかうかしてられませんね」


 俺の答えに、ラディオスさんが背中を叩いた。何を言ってるって感じだな。昔からの友人のように付き合えるのがありがたい。

 2人で20匹程釣り上げたところでカタマランの戻ると、どうやら分配は終わったようだ。

 持ち帰った保冷庫の中身を見たリーザが魚をさばいて皆に追加の分配をしている。今夜はおかずを1品増やせるだろう。


 嫁さん達がカゴを背負って帰っていくと、俺達4人が残る。サリーネ達が水汲みに出掛けたので、甲板で銛を研ぐことにした。

 銛は常に研いでおけと、エラルドさんが日頃から言っていたからな。


 前回と同じ銛を使う事で、銛を取り出すとひたすら研いでいく。と言っても、パイプを咥えながらだから、全霊を込めてとは言い難い。

 準備のほとんどが終わったところで軽めの昼食を取る。

 干し肉の入ったスープには米粉で作った団子が入っていた。魚が出て来なかったから、夕食は魚のスープかな?


 午後はのんびりと過ごす。嫁さん達はお昼寝の最中だし。俺はあまり昼寝をする習慣が無かったから、風通しの良い船尾のベンチで麦わら帽子を被りながらパイプを楽しむ事にした。

 強い日差しを何とかすれば海を渡って吹く風は心地良いものだ。気温は高いんだろうけど蒸し暑くないから日本の夏よりも過ごしやすく感じる。

 ジッとしているのができない性分だから、メモ用紙を取り出して新しい船の改造点を纏めておく。

 まだまだ形としてイメージできない部分もあるが、この船より少し大きくなってしまうのは仕方がないのかもしれないな。


 日が傾いてきたころに、3人が起きて来た。伸びや大きなアクビをしているけど、夜も横になると直ぐに寝てしまうんだよな。やはりネコの習性がどこかに残っているのかも知れない。


「カイトも昼寝ができるように練習するにゃ」

 ライズがそんな事を言ってるけど、昼寝も練習がいるんだろうか? 

 そんな疑問を頭に乗せているとも知らずに、嫁さん達は手分けして夕食の準備を始めた。

 早く夕食を取らないと、皆が集まってきそうだな。


・・・ ◇ ・・・


 ランタンに灯りを灯し、お茶を飲んでいると夫婦連れで皆が集まって来る。嫁さん達は何時もの通り小屋の中で雑談を楽しむようだ。

 ちびっ子達も混じってるから子育ての話で盛り上がるのかな?


 俺達は、ワインを飲みながら明日の最終確認を行う。

 狙いはフルンネと言っているが、心の中にはガルネックの大きいのがいるに違いない。

 前回の俺の使った銛の話をしきりにせがむのはそんな心境があるからだろう。


「フルンネ自体は中型って事になりそうだな」

「俺達の通常の銛で十分だ。カイトに教えて貰ったガムを使う事で昔より突くのは容易になる」


「使う銛は……」

「カイトは何本か用意したんだろう?」

「一応3本は用意してあります。ガルナックも3本で何とかできましたから」


 見せてみろとは言わないようだ。それでも薄々使う銛の種別は分かったんじゃないかな? さすがに、突きだけを考えた止めを刺す銛までは考えつかないと思うだろうけどね。

 

「ところで、やはりザバンは使用禁止になるんでしょうか? 使わないと3割方漁果が少なくなってしまいます」

「そうだな……。一応解禁とするが、ガルナックがいたなら合図のブラカを吹く事で良いだろう。その時は急いで動力船に戻るんだぞ」


 ガルナックが縄張りを持つという事からの措置って事になるな。

 前のガルナックを仕留めているから、次のガルナックがいる可能性が高い。前にいたガルナックよりは小型になるんだろうが、それでも危険には違いない。

 だが、先ほどのグラストさんは、俺達に注意した後でエラルドさんと頷き合っていたぞ。それは俺達を使って広範囲にガルナックを探させようと言う魂胆に思えるのだが……。


 明日は出漁という事で、あまり遅くならない時刻に皆が帰って行った。

 漁の中で分かったことを、皆に簡単に説明して俺達も早寝をする。嫁さん連中は昼寝をしてるはずなんだけど、横になって数分で眠ってしまったぞ。

 ほんとに寝るのが大好きな種族だな。


 翌日。嫁さん達が、まだ暗い内に置き出して朝食の準備を始めた。俺も体を起こして、水を汲みに出掛ける。

 朝食とスープ、それにお茶を作るために水汲み用のポットの中身を使ってるから、5ℓ程入る容器は半分以下に水が減っている。

 背負いカゴに容器を入れて、桟橋に向かいながら途中の動力船からも容器を受けとり水場へと向かう。

 

 朝と言うより夜に近いような気がするけど、浜には結構人が出ている。出漁の待ち合わせをしているのだろうか? 浜で焚き火をしている者達もいるぞ。

 滝から竹の管で水を引いた水場にも、数人の男女が真鍮の容器に水を汲んでいた。竹の管は数本あるから、待っていても直ぐに順番がやって来る。

 急いでカタマランに戻りながら、エラルドさんとラディオスさんのところにも水の容器を置いてきた。


「ありがとうにゃ。もうすぐ、朝食にゃ!」

 ゴトっと小屋の扉近くに置いた水の容器の音を聞いたんだろう。サリーネが俺に振り返りながら礼を言ってくれた。


「これ位しかできないからね。のんびり3日掛けて漁場に向かうと言っていた」

「前と同じにゃ。のんびり行くなら問題ないにゃ」


 どうやら朝食ができたらしく、テーブルにご飯の皿とおかずの皿、それにスープの深皿が並べられる。

 入り江の中は波が静かではあるが、スープ皿のスープは半分程だ。足りない時にはお代わりをすれば良い。

 

 朝食を終えて、お茶を飲んでいると、だんだん空が明るくなってくる。

 ようやく朝になった気分だな。

 そんな中、ブラカの音が聞こえてきたが、聞きなれたバルテスさんのブラカとは異なるようだ。その音で何隻かの船が入り江の出口へと動力船を進めて行く。

 どうやら、俺達だけが出漁というわけでは無いらしい。

 数十隻の船がトウハ氏族にはあるんだから、いくつかの船団で漁をしているのは分かっていたが、今までは同じ日に他の船団が出掛けるという事は無かった気がするな。


「旗も吹流しも付けてなかったにゃ」

「まだまだ普及するのは時間が掛かるかも知れないね。使えば便利さが分かるんだけど」


 ライズの言葉に説明はしたけれど、俺達だけでも良いんじゃないかな。便利さが分かればやがて普及するだろうしね。新しい事を考えても、旧来のやり方で困らないならそれでも良いと思う。



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