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N-085 バルテスさんの選んだ次の漁場


 氏族の島の南に位置するこの島の周辺で、根魚釣りをして3日目になる。

 昼前にブラカの音が聞こえてきたので、昼食の準備をしようといていたライズが操船櫓から小屋の屋根に上がって周囲を確認している。


「商船がやってきたにゃ!」ライズが大声で知らせてくれた。

 俺達がこの海域で漁をしているのは、遠出をするには食料が心許ないという事で始めたものだ。

 商船がやってきたら、獲物を売って食料に換え、今度は遠出をする予定だ。

 竿を畳んで、帰り支度を始める。

 餌の小エビはまだ残っているけど、おかず釣りの餌にしても良いだろう。長持ちさせるための方法を後でエラルドさんに教えて貰おう。

 

 俺とリーザで帰り支度をする間に、サリーネ達は昼食の支度を始めた。

 3時間程で氏族の島に帰れるが、商船へ魚を持って行かねばならないからな。ご飯位は今作っておいた方が良いのかも知れない。


 釣り道具を仕舞うと、リーザが操船櫓に上って魔道機関を始動する。急いで船首に向かい、アンカーを引き上げて終了したことをリーザに片手を上げて合図した。

「白旗を上げるにゃ!」

 リーザの声に、直ぐに白旗が上がったのはライズが準備していたんだろうか?

 周囲の動力船を見ると、次々に白い旗が掲げられていく。


 ブオォォ……。今度のブラカはゴリアスさんの船だな。白の吹流しだから直ぐに分かるぞ。

 ブラカの合図は船団の準備ができたって事だろう。赤い吹流しをはためかせてバルトスさんの船が船団の先頭に位置すべくゆっくりと動き出した。

 その後ろに、1列になって動力船が続く。

 ゴリアスさんが小屋の屋根に上って黄色の旗で次に続く動力船に合図をしているようだ。

 やがて、俺の乗るカタマランも時計回りに大きく回頭しながら北に進みだした。

 船が動いているから、簡素な食事を3人で取る。揺れが少ないとはいえ、カマドを長時間使うのは危険だとビーチェさんに教えられたのだろう。俺も、その教えには同意できるからひそかに夕食に期待してしまう。

 食事が終わると、冷やしたココナッツを割りカップに注ぐ。サリーネ達がカップを持ってリーザと操船を交替しに操船櫓に上って行った。

 降りて来たリーザがカマドで自分の昼食を準備してるけど、ご飯にスープを掛けて漬物をのせているぞ。俺の座っているベンチの前にあるテーブルに乗せると、ココナッツジュースを持って俺の隣に腰を下ろした。

 スプーンで上品に食べてるけど、ネコマンマだよな。

 

「70匹は超えてるにゃ。トウハ氏族の島にこんなに近い場所で釣れるなんて思わなかったにゃ」

「だね。やはり東はあまり漁をしないだけあって、どこに行っても魚は豊富だ」

「操船櫓のテーブルはもうちょっと大きくしてほしいにゃ。今の大きさだと、お茶のカップがようやく置けるだけにゃ」


 まさか、操船櫓で食事をしようなんて考えてないよな?

 だけど、1人だけ食事が遅れるのも可哀想だ。それにテーブルがあれば海図だって広げられるだろう。一回り操船櫓を大きく作っておいた方が良いのかも知れないな。

 小屋の横幅の半分を使って操船櫓を作り、残り半分にカマドと言うか、台所を作る事になりそうだ。銛は操船楼の左端から屋根裏に入れられるようにしておけば良いだろう。

 このカタマランより一回り大きくなりそうだな。ザバンも屋根に引き上げる形になるが、アウトリガーでは無く、舷側にフロート付けたものにすれば視界の邪魔にはならないだろう。


 メモ用紙を取り出して、考えを纏めておく。

 そうだ。商船が来たら筆記用具を買って貰おうかな。字を練習しないといつまでたっても、この世界では文字が読めないからな。


 段々と氏族の島が近付いて来る。商船はすでに桟橋に横付けされたみたいだな。この船も1時間もすればいつもの場所に停泊できるだろう。


・・・ ◇ ・・・


 嫁さん達が背負いカゴに獲物を入れて商船に向かうと、男達が俺の船に集まって来る。

 カップ半分程のワインで予想以上の漁果を祝う。

「確かに南の島の周辺は良い漁場だ。素潜りでもかなりの漁果を望めるぞ」

「商船待ちをしながらなら問題なさそうだな。形は少し小さいが数が出る」


 これも、氏族会議の議題になるんだろうな。全ての船がいつでも出掛けるのでは直ぐに釣り切ってしまうだろう。

 漁場自体はそれ程大きくは無い。南の島の東西がどうなっているかだな。その辺りの話し合いはエラルドさん達に任せるとして、次はどこに行くんだ?


「まあ、2、3日は休むとしてもだ。次はどうするんだ?」

 グラストさんとエラルドさんは俺達を見て小さく笑っているぞ。おもしろそうなら、一緒に出掛けようって魂胆が見え見えだ。

 そんな問いを掛けられて、バルトスさん達が俺を見るのも問題だな。これはバルトスさん達への課題の1つと考えるのが筋だ。

 上手く誘導しないといけないな。


「あれだけ種族会議で大見得をきったのですから、やはりバルトスさんの銛をイーデルさんに見せるべきではないですか?」

「そうだな。でないと大ウソつきと思われかねん。となれば、ラディオス達がフルンネを突いた場所って事になるぞ」

「上手く行けばガルナックだ。今度は俺が突くぞ!」


 バルテスさんの言葉にゴリアスさんが応じているけど、ラディオスさんやラスティさんも顔を見合わせて頷き合っている。


「次のガルナックもお前等が突いたとなれば俺とエラルドの立つ瀬が無くなるな」

 グラストさんがおもしろそうにエラルドさんの肩を叩くと、酒ビンを手に取って注いでいる。同行する気満々だぞ。


「よし、出掛けるのは3日後。行程は往復で6日、漁は3日だ。3日後の朝に発つ。この場にいる者は全員参加で良いな。更に5隻位は可能だろう。父さん、今夜の氏族会議で参加の枠があると伝えて欲しい」

「分かった。お前らの仲間のベルーシも誘ってやれ。あのガルナックは大勢が見ている。またくじ引きになりそうだな」


 そう言って苦笑いを浮かべているけど、グラストさんは機嫌が良さそうだ。

 一応、一緒に行く事が決まってるから、ガルナックがいれば自分が一番だと思ってるのかな? だけど、見付けた者に銛を突く権利があるのは暗黙の了解だ。ひたすらガルナックを探すつもりなのかも知れないぞ。


「まあ、ガルナックは縄張りを作るから、それほどの数はいまい。だが、あれだけのガルナックがいなくなれば、次のガルナックがやって来てるかも知れんぞ」

「息子達の手に余るか……」


 何か、2人の世界に入ってるな。

 俺達は離れた場所でフルンネを突いていよう。大きなのは突いたんだから、小さくても嫁さん連中は文句は言わないだろうし……。

 

 桟橋を重そうにカゴを背負って嫁さん連中が帰って来るのが見える。

 俺達のささやかな酒宴はここでお開きだ。皆、自分の動力船に帰っていくんだけど、3日後に漁に出掛けると言ったら何て言われるかな?


「ご苦労さん。目的の品は買えたかい?」

「283Dになったにゃ。食料は20日分買って来たから、遠くまで漁に行けるにゃ。カイトのタバコとワインも2本買って来たにゃ」


 2本のビンとタバコの紙包みを2個渡してくれた。ありがたく頂いて小屋の棚に置いて来る。

 小屋の中にライズとリーザが背負いカゴの中身を空けて、空のカゴを担いで出掛けて行った。


「炭を買ってきて貰うにゃ。カイトに頼まれたメモ用紙と筆記用具も買って来たにゃ」

「ありがとう。暇な時に俺に字を教えてくれ。やはり覚えないと不便だからね」


 色々と買い込んで来たな。食料や、調味料に香辛料もあるぞ。麦わら帽子も4つある。そういえば、だいぶ痛んで来たからな。古いのは雨の日の傘代わりに丁度良いかも知れない。

 カマドに近い棚が食料の保管庫らしい。買い込んだものを分類しながら棚の中にあるカゴに入れて並べている。

 

「ちょっと、バルテス兄さんのところに行ってくるにゃ。イーデルさんが変わった料理を教えてくれるって言ってたにゃ」

 棚の整理が終わったところで、俺にそう言って出掛けて行ったぞ。

 変わった料理って何だろう? ちょっと気になるけど、直ぐに覚えられるものなんだろうか?

 夕暮れ近い空の下で甲板のベンチに座ってパイプを楽しむ。

 桟橋をリーザ達が歩いて来る。カゴを担いでいるのはライズだけだな。炭は高価だから、あまり買い込んでは来ないみたいだ。それに島で作ることができるから、出漁の都度買い込むのが習わしらしい。


「サリーネ姉さんは?」

「バルテスさんのところに変わった料理を教えて貰いに行ったよ」


 リーザの問いに答えると、甲板にカゴを置き去りにして、2人で出掛けて行った。

 炭は小屋の中の炭入れに入れとけば良いんだな。背負いカゴの中から炭の入ったカゴを取り出して小屋の床下にある炭入れに入れておく。背負いカゴは船首の小屋の前に置いて帆布で覆っておいた。

そんな事をしているといよいよ夕暮れだ。

ランタンの1つに灯りを点けておく。まさかバルテスさんのところで俺達の分まで料理を作って来る事は無いだろう。

漁は一段落してるから、今夜はゆっくり寝るだけだ。少しぐらい夕食が遅れても問題は無い。


パイプを楽しんでいると、嫁さん達が動力船伝いに帰って来た。

ニコニコしているところを見ると、ちゃんと覚えられたみたいだが……、いったい何を教えて貰ったんだろな?


それが分かったのは夕食の時だ。いつもより贅沢にバヌトスの唐揚げが出て来た時は嬉しかったが、スープの中に団子が入っていたのには驚いた。

米の粉をお湯で練って団子にしたものを、軽く焼いたみたいだ。塩味の効いたスープで食べると団子の甘味が引き立つ感じだ。

こんな団子を母さんも作ったんだよな。砂糖と醤油で作ったタレに付けて食べたっけ。米が主食のネコ族だから、他の氏族ではこんな食べ方もしてるみたいだ。


「米の団子だね。スープに良く合うよ」

「これなら昼食が簡単にゃ。半YL(ヤル:1.5ℓ)買い込んだから、次の漁には作ってあげられるにゃ」


 俺の感想を自分の事のようにサリーネが喜んでいる。

 確かに、簡単に作れるしスープで食べれば十分だ。ネコマンマより美味しく昼食になりそうだな。


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