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N-083 氏族の島の周辺は禁漁区?


 俺達が氏族の島に戻って来ると、入り江にはあまり動力船が停泊していない。

 あちこちに船団を組んで出て行ったのだろう。俺達は近場だったから、彼等よりも早く帰ってこられたんだろうな。

 カタマランをいつもの場所に停泊させると、サリーネ達が獲物を担いで燻製小屋に向かった。生憎と、商船は停泊していなかったから、燻製用に世話役に渡すんだろう。

 ちょっと付加価値が上がるから、氏族の島を守る者達の貴重な生活費が得られる。


「420Dで売れたにゃ。1割を納めたから378Dにゃ」

「結構値が付いたね。こんな感じで漁が続けば良いんだけど」

「大丈夫にゃ。酒代に結構出てるけど、カイトの腕なら問題ないにゃ」

 確かに酒宴が多いことは確かなんだよな。頻度を減らすか、安い酒にしないといけないんだろうか?

「一か月に銀貨5枚あれば十分にゃ。後1回これ位稼げれば蓄えを増やせるにゃ」


 サリーネがそんな事を言ってるけど、エラルドさんから一か月銀貨3枚あれば暮らせると言ってたから、銀貨2枚分は酒代って事なんだろうな。

 でも、1回の出漁で銀貨2枚を目安にすれば、今のままの生活が維持できるって事になる。

 それ位なら何とかなるだろう。一か月に3回出漁するのを目安にしておけば良いか。


「もう、釣りはしないのかにゃ?」

「いや、釣りもやるよ。雨季は素潜りよりも釣りの方が良いしね。曳釣りは雨季限定だから、根魚釣りに行こうか?」


 曳釣りが雨季限定は痛いところだが、根魚釣りは季節を通してできる。嫁さん達も参加できるし、何といってもカタマランから直接漁ができるからな。

上手くシメノンの群れを見付ければ素潜り漁並みの報酬を期待できそうだ。

 ともあれ、次の漁は商船で食料を手に入れてからのようだ。

 10日程の食料はあるようだが、次に戻って来る時に商船がいるとは限らないからな。

 近場で釣ろうか? 入り江を出た場所では誰も漁をしていないんだよな。

 今までの漁は最低でも、1日は動力船を走らせている。

 龍神にから賜ったという事で、この島の近くで本格的な漁をしないのだろうが、その範囲を確認しておく必要もありそうだ。

 

 いつものように、夕食が終わるとあちこちから知り合いが集まって来る。

 男達は甲板で酒を飲み、女性達は小屋の中で、子供達と一緒におしゃべりを楽しんでいるようだ。

 俺達は、次の漁の話題で話がはずむ。


「ブラドは小さいものを数多く突くのがコツだ。それができればフルンネの中型の動きに追従できるぞ」

「カイトのようにグルリンが突ければ言う事も無いが、トウハ氏族のかつての名人の話では、グルリンが止まって見えたそうだ」

 

 ある意味、如何に先読みして銛の前に魚が横切るのを待つって事なんだろうが、止まって見えるってのも凄い話だな。

 たぶん一瞬のスキを見極めたって事なんだろう。ある意味トウハ氏族の伝説の銛打ちって事になるのかな。そんな境地にたどり着いてみたいものだ。


「1YM(30cm)程のブラドを突くんだな? よし、次は小さいのをたくさん突くぞ!」

 ラディオスさんとラスティさんが顔を見合わせて頷いている。


「なら、一回り小さい銛を作る事ですね。俺が最初に持っていた銛は、そんな大きさを対象としてます。大きい銛で練習するのが本筋なんでしょうけど、たぶん振り回している内に逃げられてしまいますよ」

「その名人については色々伝えられている。その1つが、今カイトが話した銛の長さだ。俺達の標準の銛の長さは8YM(2.4m)以上だが、名人が普段使っていた銛は6YM(1.8m)程だったらしい」

 

 俺の話に、グラストさんが名人の話を付け加えた。やはり一瞬を捉えるには銛の長さは短い方が良いって事だな。


「カイトの先が2つになった銛だな。確かに使い良さそうだ。銛は少し細身に商船で作って貰おう」

「おいおい、細身にしたら獲物が外れてしまうぞ。突けるだろうが、取り逃がす獲物も多そうだ」


 トウハ氏族の使う銛は返しの小さな銛だ。ある程度の大きさの魚を腕の力で突いて、魚体を貫通させるのが基本なんだろう。

 貫通できない場合は、魚が身を捻ったりして簡単に外れてしまう。

 その時は、更に突く事になるのだが、商品価値が下がってしまうらしい。魚体の傷を極力小さくして獲物を逃がさないという相反した要求が銛先の返しには要求されるんだよな。

 待てよ、こっちでは使っていないが、水中銃のもう1つのシャフトに付いてる銛先は返しが可動するんだったよな。

 

 ベンチから立ち上がると、小屋に入って俺の持ち物が入った棚の蓋を開けて、リュックに入ったシャフトを探す。

 3分割のシャフトはネジで延長できるから小さく纏めておける。ごそごそと家探しして、目的の銛を探して小屋を出る。

 3人のちびっ子が俺のリュックを覗いていたけど手は出さないんだよな。ぽんぽんと頭をなでると、ニパって笑顔を俺に向けた。

 こんな子供がいるんだからバルトスさん達が頑張れるんだろうな。

 騒がしくおしゃべりしている嫁さん達に軽く頭を下げて小屋を出る。


 ベンチに座ると俺が持ってきた包みを皆が興味深く眺めている。

 早速、布包みを開いて中に入った部品を組み立てると、ラディオスさん達にそのシャフトを見せた。


「この銛先が使えるんじゃないですか? 返しが可動するんです。これを貫通させれば、外れることはありません」

「あの変わった銛を打つ仕掛けで使う奴だな。……なるほど、ここで押さえられた返しは打ち込んだ後に開くんだな」

「どれ見せてみろ……。なるほどな」


 グラストさん達まで、銛先のちょっとした仕掛けを確認して唸ってるぞ。


「仕掛けとしては単純だな。だが、これでは銛を外すときに傷口を広げないか?」

「銛先を抜けるようにしておけば良いでしょう。大物用と同じです。この場合は紐を付けずに柄から抜けるようにしておけば十分です」

「銛先の棒を1YM半(45cm)程にして7YM(2.1m)で作ってみるか」

「この銛先を借りていいか? ドワーフに見せれば、説明するより簡単だ」


 手元に戻ってきた銛を分解して布に包むと、ラディオスさんに手渡した。

 どんな銛ができるか分からないけど、海中で取り回しがしやすいものができるに違いない。


「それで、次はどこに出掛けるんだ?」

「この島の周りで根魚でも釣ろうと考えてたんですが……。誰も、釣りをしてませんね。素潜りもです」


 俺の言葉にグラストさんがエラルドさんにきつい目を向けた。

 エラルドさんがそんな表情を向けられる原因を考えていたようだったが、やがてポンっと手を打ったぞ。


「そう言えば、伝えてなかったな。氏族の島の4方向とも、島1つの距離を禁漁とするそうだ。もっとも入り江でおかずを獲るのは漁ではないから問題ないとしている。お前達の漁は1日以上動力船で移動していたから、この取り決めに特に問題は無かったのだが……」

「全く、ちゃんと伝えておけよ。……そういう事だから、一番近いのが南の島になるな。あの島の北側以外なら問題ない」


 たぶん龍神の住む場所で漁をするのは畏れ多いって事なんだろう。島1つの間隔を開けるのか……。それでも半日程度進めば問題ないって事になるな。南の島は2時間も掛からないぞ。


「なら南の島周辺で根魚釣りをします。結構岩が多い場所ですから、バヌトスも方が揃っているんじゃないかと」

「あそこは石運び以外は動力船が行かんからな。俺達も行ってみるか!」


 南の島は小さな砂浜が西にあるだけだ。岩だらけで水場は無いが、南岸にココナッツの木が10本以上茂っている。


「道具は揃ってるな。精々3日、商船がやってきたらすぐに戻れば良いだろう。明日の昼に出掛けるぞ」

 

 グラストさんの一方的な通告に皆が頷いている。そうなると、朝は忙しくなりそうだ。餌にする魚だって釣らなくちゃならないぞ。


 相談が終わったところで、嫁さん達を連れて皆が帰っていく。

 サリーネ達が俺達の酒宴の片付けに出て来たので、明日の昼に南の島周辺に釣りに出掛ける事を告げた。


「近場にゃ。釣れるかにゃ?」

「商船が来るまでの時間つぶしに近いんじゃないかな。だけど、あの島の周辺では誰も漁をしてないんだ」

「水深はあるにゃ。箱メガネで覗いたら、海底は石がかなり混じってたにゃ」


 サリーネ達の時間つぶしが参考になるな。箱メガネで海底を眺めていたらしい。

 他の動力船と違ってカタマランは水面から甲板までの高さが60cm程だ。身を乗り出せば箱メガネが使えるな。

 待てよ、そう言う場所を作っても良さそうだ。取り外しができる船尾の板を後ろに倒れるようにして、蝶番を海面から30cm程にしておけば良いんじゃないか? 大物を獲りこむ時にも役立ちそうだぞ。


「出掛けるのは昼になりそうだけど、準備はできるかな?」

「水汲みと野菜をを分けて貰えばだいじょうぶにゃ。小エビが手に入らないと困るから、カイトは餌をたくさん釣っておくにゃ」


 小エビは夜に水面近くに寄って来るんだったな。それまでは小魚の切り身って事なんだろう。10匹以上は必要だぞ。

 ちょっとした暇つぶしを考えてたんだけど、大事になってしまったな。

 明日は何隻の動力船が参加するんだろう?


 翌日は、朝から嫁さん連中が手分けして作業を始めたようだ。

 朝食を慌ただしく終えると、俺は釣竿を担いで入り江の岬に向かった。

 入り江の内側での小魚釣りは認められているから、あまり竿を出したことのない場所で釣りを始める。

 餌は、塩漬けにした魚の切り身なんだが、こんなものでだいじょうぶかと思うほど、古くなった奴だ。

 それでも、仕掛けを投入すると直ぐに当たりが出る。

 やはり、場所を変えればそれなりに釣れるみたいだな。木製の保冷庫は各辺が30cm程のものだが、2時間程で満杯になった。

 エラルドさん達に数匹ずつ分けても、俺達が使う餌には十分の量だ。

 形の良いものは、今晩の唐揚げになりそうだな。思わずごくりと唾を飲み込んだ。

 カタマランに戻ると、リーザ達が切り身にして小さなカゴに並べると木製の保冷庫に戻している。3匹ほど取り分けたのはおかず用に違いない。

 全ての準備が出来たところで、僚船と結んだロープを解きアンカーを引き上げた。

 


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