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N-080 あのドワーフがやってきた


 大勢が商船に向かって歩いて行く。まだ石の桟橋は完成していないから木の桟橋なんだが、崩れないか心配になる程だ。

 そんな光景を見たサリーネは、商船で魔石を売るのを午後にしたみたいだな。

 魔石の値段は等級が同じならば均一だから、早く向かっても混んでるだけなんだんだけどね。


「商船に向かう時に、声を掛けてくれないか? 船の注文をしたいんだ」

「運搬船は頼んであるにゃ。今度は?」

「ロデニルを獲るカゴ漁の専門船さ。支援船は俺達で何とか改造したいけどね。後は、このカタマランより一回り小型の動力船の値段を聞きたいんだ」


 俺達の船でないことにちょっと不満そうな顔をしてるけど、直ぐに機嫌を直したって事は、次は自分達の番だと思っているに違いない。


「ラディオス兄さん達の船になるにゃ。オリーさんもこの船を気に入ってたし、サディ姉さんもそうにゃ」

「ラスティ兄さんだって欲しがってたにゃ。父さんはあきらめてたみたいだけど……」


 エラルドさん達は今までの動力船で十分だと思っているに違いない。不満があるとすればビーチェさんだろうけど、カマドの数を増やして操船楼を作ればきっと満足するんだろうな。


 4人で昼食を終えるころには、商船に向かう人達の姿がまばらになってきた。

 サリーネ達が背負いカゴを担いで俺は手ぶらなのも問題だけど、強い日差しを麦わら帽子で防ぎながら、桟橋を伝って商船へと出掛けた。


 商船に入ると、直ぐに見覚えのある人間族の商人に出会った。

 サリーネ達と別れて、商人に来店の目的を告げる。


「お久しぶりですね。あの動力船は人気ですよ。かなりの受注を受けています。今度も変わった構造であれば、彼も喜ぶでしょう」


 俺に笑いながら答えると、直ぐに2階の小さな小部屋に案内してくれた。

 お茶を飲みながら待っていると、あのドワーフの男が入って来る。直ぐに俺の手を握ったところを見ると、特許は上手く働いているのかな?


「あれから数隻を王都の貴族の連中に売ったぞ。物珍しさもあるのだろう、気前よく代金を払ってくれた」

「良かったですね。俺もタダで船を作って頂いたもので気になっていたんです」

「3隻目で代金は回収しておる。それに貴族の矜持もあるのだろう。ほとんどこちらの言い値を払ってくれたからな。ところで、今日は何の用だ?」


「実は……」と、小さなテーブルに3枚のラフなスケッチを広げた。

 スケッチを手に取って、食い入るようにドワーフが眺めている。

 用意されていたパイプ用の小さな火種を使って、彼と再び話ができるまでパイプを楽しむことにした。


「全く、ネコ族とも思えん工夫じゃな。何かを引き上げるつもりのようじゃが、似た船があるぞ。だが双胴船では無いな。これなら安定して引き上げられるじゃろう。ふむ……。3割引いてやろう。同じような目的の船が軍より出されておる。どうやって安定させるか悩んでおったが、お前に作ってやった船を参考にすれば良かったんじゃな」


 ドワーフの出した値段は、カゴ漁専用船が金貨7枚。支援船が金貨2枚だった。小型のカタマランは金貨10枚との事だったが、何隻か作る事を考えていると言ったら、1隻金貨11枚になったぞ。増えてしまったが、これは値引きの対象から外れてしまったという事だろう。

 最後に、今のカタマランに小屋からの出入りができるように頼んだら、タダでやってやると言ってくれた。


「でも、良いんですか? かなりの割引に思えますが」

「貴族からたんまり儲けているからな。お前達のように、命がけで金を稼いでいる連中に見返りをしてもバチは当たらんじゃろう」

 

 ニヤリと笑いながら、パイプにタバコを詰めている。

 パイプに火を点けてところで、部屋の扉を開いて、大声で商人を呼び出して契約書を作らせ始めた。

 契約書は読めないけれど、金額の数字だけは何とか読むことができる。

 先ほどドワーフが俺に告げた数字が書かれている事を確認して、金貨を9枚テーブルに並べた。


「契約書を読めん奴もいるが、俺達は嘘は言わんし、約束を違えることはせん。次のリードル漁までには曳いて来れるだろう。お前の船の修理は、明日俺が行くぞ」

「よろしくお願いします。今のところ、課題はそれだけなんです」


 そう言って、2人に握手をして商船を下りた。

 あのドワーフが直々にやって来るのは、自分が作った船の課題を自ら確認するためだろう。それは、次の船を作るためにも役立つはずだ。


 桟橋をのんびり歩いていると、少し太めの棒を切り出してきたラディオスさんとラスティさんに出会った。

 一緒に桟橋を歩いて、自分達の船に戻る。

 まさか、大型リードルを狙おうなんて考えてないよな。でも、そんな太くて長いのは、リードル漁位しか使わないと思うんだけどね。


その夜。いつものメンバーでワインを飲んでいる時、エラルドさんに2隻の船を発注した事を告げた。

「カゴ漁専用船とその支援船で金貨9枚でした。この船をタダで手に入れてますから、これは氏族にそのまま寄付します」

「ありがたい話だが、氏族会議での約束は半分だ。明日の夜のでも再度確認してくるが、氏族会議の決定には従うのだぞ」


 俺も氏族の一員である以上、氏族会議の決定には従うしかないか。その辺りはエラルドさんの判断に任せよう。


「この船に、商船のドワーフが明日やってきます。雨の時に濡れずに操船櫓に出入りできるようにするためですが、タダでやってくれるそうです。その時に、通常の動力船に操船櫓を作った時の値段を聞けますよ」

「タダってのも凄いな」

「何でも、この船と同じような船を貴族達に売ってかなり稼いでいるようです」


 そんな俺達の話を、エラルドさんがおもしろそうに聞いて納得しているぞ。

「遊ぶための船という事だろう。それならかなりの収入があったはずだ。カイトにみかえりをしたいのだろう」

 何か、ドワーフと同じような事を言っているな。この世界では義理がある程度機能しているって事なんだろうな。

 

 翌日。朝食を終えてのんびり4人でお茶を飲んでいると、3人のドワーフが訪ねて来た。

「確かに、入り口が外側だからのう。濡れるのも頷けるわい。だが、意外と簡単なことなんじゃ」


 そんな事を言いながら、一緒に来たドワーフ達に指示を出して作業を始めた。

どうやら、操船楼の左の足元の壁を切り抜いて小屋に繋げるらしい。小屋から5段ほどの梯子を使って操船櫓に潜り込む形になるようだ。


「精々2人で操船するならこれで十分じゃ」

 たぶん、貴族の船で同じ改造をしたんじゃないかな。でないと、こんなに簡単に出来ないだろうし、梯子を持ってこないだろう。


「じいさん。この操船楼を俺達の船に付けようと思ったら、どれ位の改造費になるんだい?」

「そうだな……。2千Dと言うところじゃろう。3千にはならん。……作るのか?」

「出来れば、何隻か作りたい」

「なら、船の種類と数を知らせに来い。双胴船を次のリードル漁前に曳いて来るから、その時に改造してやろう。1隻1日で出来るように、材料と職人を揃えて来るぞ」


 ドワーフの言葉に、バルテスさん達が笑みを浮かべた。

 リーザ達がココナッツのジュースで労を労い、美味しそうに飲み終えたドワーフ達は、荷物を纏めて帰って行った。

 直ぐに、リーザ達が小屋から上っているけど、問題なさそうだな。

 そんな光景を眺めてラディオスさん達も頷いているところを見ると、操船櫓を作るつもりなんだろう。オリーさん達も喜ぶんじゃないか。


 2日程休んでいると、エラルドさんから俺達に石運びの依頼がやってきた。

 まあ、5日間だからな。早めにやっておいた方が良いだろう。それに次の漁をどこで行うもゆっくり相談できる。

 石を運ぶのは目の前にある南の島だから、カタマランで全員纏めて移動できるし、ザバンを連結した台船ともう2艘のザバンを曳いていける。

 石運びの当日集まったのは、バルテスさんとゴリアスさん、ラディオスさんにラスティさん達だ。サディさんにケルマさん達はちびっ子の世話で残るらしい。総勢12人だから、かなりの数を運んでこれるんじゃないかな。


 俺達が南の島から石を運んでいるのに対して、エラルドさん達は島の開拓現場から石を誇んでいるらしい。

 結構大きな石がごろごろしてると聞いていたが、ドワーフの頼んで割って貰っていると話してくれた。

 ドワーフ3人で人工費が銀貨5枚らしいけど、俺達の暮らしから比べるとかなり単価が高い気がするな。それでも数日間でかなりの広さに散らばる大きな石を割ることができたと喜んでいた。

 ネコ族の人達は体格の良い人でも1m70cm程度だし、人間族よりは遥かに非力らしいから、大きな石を運ぶのは大変らしい。


 毎日、汗だくになりながら石を運んで砂浜に積みあげる。

 そんな事だから、夕食は何時もの倍ぐらいにご飯を食べる始末だ。サリーネ達が交代で、ビーチェさんと一緒に俺達の食事を作ってくれる。

 濃い味付けの食事は楽しみなのだが、この頃釣れる魚が減ってきたように思えるな。

 いつもカタマランを泊める場所でしか釣らないのが原因なんだろうか? とりあえず数匹は何とかなるんだが……。


 どうにか5日間の石運びを終えた夕食後、俺達は皆で冷えたワインを飲み始めた。そこにエラルドさん達がやってきたので、新しい動力船の話題になる。


「長老が感謝していたぞ。だが、これが最後で良い。おかげで何隻かの動力船の魔石も交換できるし、入り江の入り口に設ける灯台も作れると言っていた」

「操船楼が付けられると聞いて、かなりの連中が名乗りを上げた。ここにいる連中は全部だな」

 

 ニヤリと笑いながらグラストさんが呟く。

 ラディオスさん達が頭を掻いているけど、それだけ嫁さんを大切にしてるって事に違いない。


「問題は、カイトの提案だ。それが揉めに揉めてな……」

「カヌイの婆さんを呼び出す始末だ。全く長老連中の一存で良いもんを……」


 グイっとカップのワインを飲んで、グラストさんは手酌で酒を注いでいる。

 でも、それだけ龍神をトウハ氏族は敬っているという事なんだろう。

 暮らしに直結するなら長老会議が全てを取り仕切っているけど、漁場を荒らしそうな漁をするとなると、やはり神に仕える者達の意見も聞かなくてはならないようだ。



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