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N-008 俺に嫁さんだって?

 数日後に商船がやって来て、俺達の獲ったロデナスを買い取っていった。値段は重さではなく個数らしい。1匹12ドムということだ。全部で165匹というから、1,980D。トウハ氏族の分配方式だと、船長夫婦が半分で残りを他の子供達(俺も入るらしい)で分けることになるから、165Dになる。

 

「カイトの取り分だ」

 そう言って、穴の開いた銀貨1枚と穴の開いていない銅貨が6枚と穴開き銅貨が5枚渡してくれた。

「これもだ!」

 ラディオスさんが銅貨を6枚渡してくれた。これはカマルの開きを売った代金だな。

「リーザが魚を開くのを手伝てくれたから3人で山分けだ」

「そうですね。でないと次に手伝ってくれなくなりますよ。ありがとうございます」


 俺の言葉にエラルドさんが笑っている。

 さて、この硬貨と俺の財布にある硬貨は同じなんだろうか?

 リュックを開いて財布を取り出し、エラルドさんに貰った3種類の硬貨を調べてみた。

 驚いたことに全く同じ種類だ。刻印の位置まで一緒だぞ。となれば……。


「エラルドさん。この変わった銀貨と金貨はこちらでも使えるんでしょうか?」

 パイプを楽しんでいるエラルドさんに2種類の硬貨を見せた。

「ああ、使えるぞ。高額硬貨だから滅多にみられないが、穴の開いていない銀貨が1000D銀貨で金貨がその10倍の10,000D金貨だ。次のリードル漁は魔石が手に入る。魔石は最低でも銀貨5枚の値が付く。上手く行けばカイトも船が持てるぞ」


 エラルドさんの近くに座ってタバコに火を点ける。友人のバッグのポケットに封を開けたタバコを見付けたから、封を切っていない箱がもう1個ある。パイプはもう少し後でも良さそうだ。


「ラディオスさんが次の漁が上手く行けば船を買えると言ってましたが……」

「バルテスが嫁を貰えば、ラディオスも船を買わねばなるまい。不足分は親が穴埋めすることになるが、カイトも離れるとなると、この船も考えねばならんな」


 エラルドさんの話では、生涯同じ船を使う者は少ないそうだ。

 家族構成を考えながら、使う船の大きさを決めるのが一般的らしい。まあ、木造船であることから、耐用年数が補修して20年程度という事にも問題があるのだろう。

 新造船ならばそれなりの値段らしいが、乗り換える時には魔道機関を転用出来るから安く買えると教えてくれた。

「となれば、早速カイトの銛を作るか。次の出漁は、いよいよリードル漁だからな」

 身を乗り出して俺の肩を叩くと船を下りて出掛けて行った。


 と、そこにラディオスがやって来た。

「カイトも船を作れそうだな。となると、どんな船にするか考えておけよ。船の大きさはだいたい決まってるが、小屋の大きさや魔道機関の型、甲板とイケスの大きさなんかはある程度注文に応じてくれる。魔道機関の型を大きくすると値段が高くなるが、それ以外はほとんど変わらないからな」


 規格品ではないって事なんだろうか? と言われても直ぐには分からないな。

「ラディオスさんの考えを聞かせて貰って参考にしたいですね。それも次の漁次第です。稼ぎがなければ、このままか、ラディオスさんの船に厄介になることになりますよ」

「それだ。良いか、バルテス兄さんのところにはケルマさんがやって来る。サディ姉さんも嫁に貰いたいと言ってる俺の知り合いがいるんだ。となると残りはサリーネとリーザになるんだが……」


 ラディオスさんの船に乗るんじゃないのか? でないと可哀想だぞ。熱々カップルを毎日見ることになるんだからね。


「俺も、この機会に嫁を貰おうと思ってる。そうなると、カイトが頼りになるんだよな」

「それはおめでとうと言いたいんですが、船を作って更に嫁さんを貰うなんて、懐具合は大丈夫なんですか?」

「来るだけの嫁さんだから問題ないぞ。カイトの故郷は違ってるのか?」


 確かに、嫁入り道具なんて置く場所すらないのが船の生活だ。でも、結納金とか仕度金とかいらないんだろうか?


「最初の船はそういう船なんだ。新たに船を持つという事は、島での氏族会議に出る資格を得る事でもある。ようやく1人前という事が氏族間で認められるという事になるんだよな」


「エラルドさんが、この船も考えると言ってましたが……」

「俺達と同じような船にするって事だろうな。この船なら一家族10人以下なら暮らして行けるし、漁を教えることも出来る。だけど俺達がいなくなれば大きな船は必要ないさ」


 子育てに合わせて船を替えるんだ。エラルドさんとビーチャさんなら小さな船でも十分に暮らせるだろう。

 待てよ、船が小さいならザバンは必要ないんじゃないか? あれは広範囲に漁をするために動力船に積んでいるようなものだ。小型で取り回しが良ければザバンはいらないぞ。

 船については、ラディオスさんと何度も相談しなければならないな。

 船を買えば良いというわけでもないだろうし、暮らしに必要な物や、漁に必要な物だっていろいろある筈だ。


「で、今日は何を狙うんだ?」

「根魚を狙いますか。仕掛けを1つ流して置いて、カマルが接近すれば、そっちに切り替えましょう」

 ニコリとラディオスさんが頷いて腰を上げる。釣りをしながら色々教えて貰うのも良さそうだ。

 道具をザバンに放り込むと2人で入り江を漕ぎだした。

 

・・・ ◇ ・・・


数日後、エラルドさんが俺を呼ぶと、2本の銛を渡してくれた。

「これが俺達の銛だ。リードルは強力な毒槍を持つ。なるべく離れて処理するためにこんな形になったんだ」

「お手数をおかけします。でも、何故2本必要なんですか?」

「何も知らなかったんだな。リードルを獲るごとに岸の戻って焚き火でリードルを焼くためだ。焼いてその後に魔石を取り出す。時間が掛かるから、その間にもう1本の銛を使えば手返しが早くなる」


 焼き殺して取り出すんだったな。なるほどね。

 貰った銛は柄の部分だけで3mはある。その先に小指程の太さの鉄棒が50cmはあるぞ。先端は小さな返しが付いた1本物の銛だ。断面が親指程の大きさに広がっているのは、叩いて広げたんだろう。かなり鋭い銛先だ。


「震えが来ますね」

「漁が始まったら、毎日軽く研いで油を引いておけ。数年は使えるはずだ」

「ありがたく頂きます」


 頭を下げた俺を見て、小さな笑い声を上げている。

「まあ、気にするな。トウハ族なら18歳で親からその銛を貰うんだ。参加資格という事だな。上手く10個以上の魔石が取ることが出来たら、動力船を買ってサリーを連れて行け。リーザはまだ早いが後2年もしたらお前にやろう」


 それって、俺のお嫁さんにしろってことか?

 吃驚して口をポカンと開けてると、ビーチェさんがエラルドさんの後ろから俺に笑い掛けている。

「サリーなら、ちゃんとやっていけるにゃ。カイト1人だとちょっと心配にゃ」

 そんな事を言ってるけど、俺達の意見はどう反映されるんだろうか? サリーネさんに想い人がいたら困ったことになりそうだぞ。

「サリー達もまんざらでは無さそうだ。内気だから、あまり外で遊ぶ友人もいなかったからだろうな」


 安心したような表情は、もう決まったという事なんだろうか? 俺の意見がどこにもない気がするけど、エラルドさんの娘さん達は皆美人揃いだからな。バルテスさんの嫁さんであるケイマさんも美人だけど、決して負けることは無い容姿だからな。

 となると、ラディオスさんの相手が気になるぞ。今度釣りに行ったら聞き出してみよう。


 トウハ族の暮らす島に続々と動力船が集まって来る。

 桟橋では泊めきれずに入り江の中にまで停めている状況だ。

 長老の暮らすログハウスでは、リードル漁の最終確認をやっているようだが、それは各家の動力船を、拠点となる島のどの位置に置くかでもめているらしい。


「場所でかなりの差が出るんだ。前回の漁で獲物が少なかった船から場所を決めるんだが、同列がたくさんいるようだな」

「この船はどうなんですか?」

「親父は前回2番だったから、今回はあまり良い場所って事は無さそうだ。だが、海底にはたくさんのリードルがいる。リードルを獲って、島の焚き火に運ぶ距離が問題なんだよな」


 近くの島ではダメなんだろうか? ちょっと気になる漁だな。

 それでも、出発2日前には調整が取れたようで、あわただしく準備が始まる。

 食料や水はビーチェさん達女性陣が最終確認をしているし、ザバンの船底に穴が開いていないか、銛は良く研いであるか等の漁の道具はエラルドさんが取り仕切っている。


 出発の早朝。まだ真っ暗な中、リーザちゃん達が水を運んでくる。少しでも新鮮な真水を持って行くことが大事なんだろうな。俺も水筒に水を入れながら、水を入れた容器を運んであげた。取っての付いた真鍮のツボのような容器だが1個に6ℓは入りそうだ。


 何回も往復して、船底にある2つの水瓶みずがめを一杯にすると、最後に運搬容器に水を入れてきた。これだけでも1日分の水になるんじゃないか?

 東に5日の距離と言ってたからな。向こうでどれだけ漁をするかは分からないが、半月以上の漁になるんじゃないか。


朝日が見えると、次々に動力船が入り江を離れる。30隻は超えているようだ。船団を組んで真っ直ぐに東に向かって進んで行った。

俺達の乗った船は船団の後ろの方だ。まあ、早く行けば良い場所を獲れるというわけではないから問題はない。


「ところで、リードルのどこを狙えば良いんですか?」

 素朴な疑問をラディオスさんに投げてみた。

 あまりに素朴過ぎたのかもしれない。驚いたような顔で俺に顔を向けたからな。


「そうか。初めてだったな。リードルはこれ位の大きさの殻を持ってる巻貝だ。そこから体を出して海底を這っているんだが、狙うのは頭だ。巻貝の縁すれすれを狙えば、銛から外れることはない。それと、一番注意して貰いたいのは、絶対に海底に足を付けない事だ。泥に潜ってる奴もいるからな」


 巻貝の体を突き通したことは無いが、イカやタコは何度もある。かなり強く刺さないと突き通らないんだよな。

 かなり厳しい漁になりそうな気がするぞ。


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