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N-079 漁はほどほどが肝心

「カイト、あれを見てみろ!」

 ラディオスさんが指さした海面には、暗くて良く見えないけれど、何かがあるな……。あれって、リードルの渡りじゃないか?


「どういう理由かは分からんが、リードルの渡りは夜だ。海中が暗くなったので夜と勘違いしてるのかもしれんな」

「という事は、昼でも当たりが暗くなれば渡が始まるって事ですか? 今回は上手く動力船まで移動できましたが、場合によっては……」

「そうだ。島で夜を明かす事もあり得る。さすがはグラストだ。漁に専念することなく、何度も空を見上げていたに違いない」


 普段はのん兵衛なおじさんにしか見えないけど、さすがは筆頭と言われるだけの事はあるんだな。ちょっと見直してしまったぞ。


 あれほどの豪雨がパタリと止んで西の空はほんのりと茜色に染まっている。

 どうやら、夕暮れが終わるころのようだな。

 嫁さん連中が外に出て、少し遅めの夕食の準備を始めた。俺達は船尾のベンチでのんびりとタバコを楽しむ。


「今夜も渡りが続いてますね」

「ああ、明日もかなりの数が海底にいるだろう。だが、無理はするなよ」

 エラルドさんは、俺の問いかけに、何度も同じ言葉を繰り返す。

 たぶん、エラルドさんも若い時に散々同じ言葉を言われ続けたに違いない。リードル漁で忘れてはならない言葉なんだろうな。


 翌日は何事もなくリードル漁を続け、3日目には大型のリードルを獲る。

 2周り程大きなリードルを見て、その大きさに新しい嫁さん連中が驚いていた。

 リードル漁場で3日間の漁が終えると、翌日に俺達は漁場を離れて氏族の暮らす島へと動力船を走らせた。


「上位が3個に中位が5個それに低位が6個にゃ。中位を父さんに渡してきたにゃ」

「ありがとう。上位魔石は2個だけ残しておこう。たくさん獲れると思われたくないからね」


 とりあえず金銭的には困っていないからな。

 次の船を作る時にまとめて換金しても良さそうだ。時期外れに売り出せば、リードル漁で手にしたと思われないかも知れない。


 帰りはのんびりとちびっ子達の相手をしながら船旅を楽しむ。

 夕食時に皆が集まった時の話では、ラディオスさん達も20個近く手に入れて、その内の6個が中位魔石だったらしい。


「西のリードル漁場を長老は手放すことも視野に入れているようだ。基本は我等トウハ氏族の漁場なのは確かだが、リードル漁の期間だけ、オウミ氏族に開放するという事だ」

「監視の人達は?」

「彼らも、ロデニル漁で自立できるだろう。他の氏族が俺達の漁場で漁をする姿をジッと見ているのも可哀想だ」


 夕食後に集まった者達で、カップ半分程のワインを飲みながら語らうのがこの頃の日課になっている。

 

 多くは氏族会議の動向を教えて貰う事になるのだが、俺やラディオスさん達にとっては貴重な情報だ。

 バルテスさん達は、一応聴講ができる立場らしいが、あの小屋は狭いからな。桟橋作りの次は長老会議の集会場になりそうだぞ。


「今回から氏族に納める魔石が1個増えるのも、西の漁場を開放することに関係するんですか?」

「リードル漁の動力船を作るためだと言ってたぞ。それに運搬船となると、少しは増やさねばなるまい。だが、東の漁場で得られる魔石の数は西よりも遥かに多い。それ位で反対するトウハ氏族はおらんさ」

 

 エラルドさんの言葉に、ラディオスさんやゴリアスさん達も頷いている。氏族の結束力はかなり強そうだな。俺も慌てて頷いた。

 バルテスさんの新しい嫁さんイーデルさん、ゴリアスさんところのナディさんも昔からの知り合いのように気楽に話し合えるのも嬉しい限りだ。

 人柄が良いのがネコ族の特徴なんだろうか? 俺やサリーネ達とも分け隔てなく付き合ってくれる。

 だけど、更にバルトスさん達は嫁さんを貰うんだろうか? トウハ氏族の連中を見る限り嫁さんが3人は俺1人のような気がするんだけどな。


 だけど、次のリードル漁ではオリーさんが戦力外通知を受けることになりそうだ。家の嫁さん3人組が主力になるのかな?

 それに、西の漁場の監視をしないとなると、監視員としての貴重な現金収入が得られなくなるな。

 真珠貝を網ですくい取る方法について、一度相談した方が良いかな。

 リードル漁と同じ頻度と期間にすれば、乱獲にはならないんじゃないかな。


 明日は氏族の島に着くと言う晩に、それとなくエラルドさんに真珠貝の効率的な採取方法があることを話してみた。


「本当にできるのか? それなら長老会議に諮るまでも無いと思うが?」

「ですが、俺の考えている方法だと、漁場を荒らすことになります。頻度と期間を俺達のリードル漁に合せれば、大きく漁場を荒らす事にはならないと思うんですが……」


 そんな前置きをして、熊手とカゴを合わせたような器具を、メモ用紙に描いて見せた。

「これを投げ込んで動力船で曳くのか……。なるほど、漁場が荒れそうだな。だが、カイトの言うように期間を限るのであれば、漁場で長く漁ができる。最初のころにさらった場所には新たな真珠貝が生息しているかも知れんな」


「はい、俺もそう考えました。トウハ氏族の持つ動力船では、熊手の横幅も精々5YM(1.5m)程度になるでしょう。真珠貝の漁場は南北20MM(メム、6km)、東西40MM(12km)以上に広がっています。万遍なく1度さらうには200年以上掛かりますよ」


 数隻でさらっても、数十年は漁ができるんじゃないか?

 とは言え、環境を荒らすことも確かなんだよな。ここは、氏族の判断に任せれば良いだろう。


「分かった。長老会議に諮ってみよう。龍神が与えてくれた漁場だ。荒らすのは冒涜だと言うカイトの考えも理解したぞ」


 そこまでは考えていないんだけどね。

 エラルドさんがパシ! と俺の肩を叩いて呟いた言葉に、苦笑いを浮かべて小さく頷いた。

 そうなると、残りはロデニル漁の専用船なのだが、これは運搬船ができるのあれば比較的簡単になる。

 双胴船になるのは仕方がないのだが、1つの船の大きさを元の俺の船にすれば良い。2.7mの横幅があるから、2隻で5.4m。双胴船の間隔を2.4m取れば、合計で7.8mにもなる。

船体の長さを10.5mにして、通常ならば小屋を作る船首に甲板を作り船尾方向に小屋を設ける。

小屋の大きさは長さ6mで横幅が6m、部屋を左右に分ければ2家族が乗り込めるだろう。操船部は小屋の後部に作るが、魔道機関も後部に置くからその上に棚を作るような形で操船櫓になるだろう。小屋の奥行きが少し短くなるけど、それでも4m以上は確保できるはずだ。小屋の左右に90cmの通路を設ければ、ここにカゴを置いておくことができるだろう。屋根も使えば、20個近くカゴを持って移動できそうだ。

 船首の甲板はフラットにして左右の船から柱を建て、横梁で結ぶ。梁に滑車を付けて置けば引き上げが楽に出来そうだ。

 甲板の前部中央には、左右の船の間隔で1m程の切り欠きを作っておけば、更に引き上げ作業が容易になる。

 小型の動力船を介添え役に使えばカゴに繋いだロープの先の浮きを回収してカゴの引き上げ船までロープを運ぶのも楽に行えるだろう。

 小型の動力船も、甲板が船首にあった方が作業がし易そうだ。

 基本的にはこれで良いんじゃないかな。後は、俺達のカタマランを作ったドワーフの来訪を待つだけなんだが……。


 翌日の昼近くに氏族の暮らす島に着いた。

 やはりホッとするのは、俺にもこの島を故郷と考える同族意識が出てきたんだろうな。

 魔道機関を停止させた合図をサリーネから受けると、船首のアンカーを固定したロープを解いて海中に投げ入れた。

 既に停泊している、エラルドさんの船の舷側とカタマランの舷側をロープで結ぶ。

 それが終わったところ甲板に戻ってくると、サディさん達がちびっ子を抱えて俺達の船を出て行くところだった。

 互いに挨拶を交わしてカタマランを降りて行ったが、リーザ達が荷物を背負いカゴに入れて運んであげるようだ。

 やはり、自分達の家族が一番なんだろうな。

 そんな事を考えながら、ベンチに腰を下ろしてパイプを楽しむ。


「しばらくは漁は休みにゃ。石運びの次に出掛けるにゃ」

 隣に座ったサリーネがココナッツを割って俺に渡してくれた。自分でもココナッツジュースを飲みながら、次の話を俺にしてきた。


「役目だからな。5日は頑張らないとダメみたいだ。だけどずいぶんできてきたぞ」

「でも、この船を泊められないにゃ」

 

 ちょっと残念そうな顔をして呟いてるけど、それは仕方がないな。

 荷降ろしに特化した桟橋であって、俺達の停泊を考えると、桟橋に停泊できる数が限られているから氏族内で争いが起こりかねない。

 漁の獲物を荷降ろしするために一時的に船を止めることはあるだろうけど、それが終われば木造桟橋に移動しなければなるまい。

 それらの桟橋を石造りにするのは、時間が掛かるだろうし、あまりメリットもなさそうだ。

 どちらかと言えば入り江の入り口をきちんと整備した方が良いのかもしれないな。東西から張り出した岬が、天然の防波堤に見えるけど末端は岩礁だからな。

 皆、大きく離れて出入りしてるけど、出入りの目安があれば安心できると思うぞ。

 桟橋が一段落したら、エラルドさんに提案してみようか……。


 カタマランの水がめに残った水をオケに汲んでもらって、リードル漁専用の銛を研ぎなおす。

半年は出番が無いからな。丁寧に研いで、最後に唐揚げ用の油を布に染み込ませて塗りつけた。銛先をまとめて布で包み、全体を紐でからげるようにしてまとめておく。

かなりの重量になったけど、どうにか屋根裏に乗せることができたぞ。


 作業が終わってベンチで一服を楽しんでいると、入り江の西側から商船がやってきたのが見える。

 あの大型商船は、このカタマランを曳いてきた船かも知れないな。

 サリーネ達も買い出しに向かうだろうから、俺も一緒に出掛けてみよう。

 カゴ漁専用船と支援船の相談をしなければならないし、このカタマランの一回り小さな船の値段も確認しないといけないだろう。

 ちょっと氏族の運営に深入りしすぎてるかも知れないけど、これ位は手伝ってあげるべきだと思うな。



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