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N-077 吹流しと白い旗


「金貨6枚だと? それで出来るのか」

 いつものように皆で集まって酒を飲んでいる時に、運搬船の注文を終えた事をエラルドさんに伝えた。


「そんなに安いのか? 金貨10枚近くになると思ってたんが」

「基本は小型船が2隻です。改造もあまりしませんからね。小さいけれど小屋に2部屋できますし、操船櫓も着きますから、それを見て操船櫓を作れば良いでしょう」


 簡単な改造でも今使っている動力船を使い易くすることはできそうだ。だが、人によっては、その改造費も次の動力船購入に使いたいかもしれない。その辺りの判断は各個人に任せよう。


「値段を長老に告げておく。それと、5日後にリードル漁に出るぞ。それが終われば、石運びを5日間だ。思った以上に桟橋が早くできそうだと長老が喜んでいたな」

 

 しばらくやっていなかったからな。だいぶ伸びているけど、どこまで伸ばすんだろう?


「もう少し伸ばして、先端を横にも伸ばすそうだ。小さな石塔を作って夜は灯りを点けると言っていたぞ」


 荷役に特化した桟橋にするのかな? となると横に伸ばすと言うよりは小さな広場を作るんじゃないか。確かに石はたくさんいるだろうな。石塔は灯台のミニュチュアみたいな感じかな。目印にするって事だろう。旗竿も竹では無く、きちんとしたものが欲しくなるな。


「それで話を戻すが、旗を作る事になった。長老も氏族会議の連中も納得してたぞ。作るのは、赤と白に黄色だ。これは氏族で用意すると言っていたから、お前達は旗竿用の竹を切って来い。銛の柄の太さで長さは1FM半(4.5m)だ。赤は救援要請、白は準備完了で、黄色は今のところ未定だが、漁の船団で決めても良いだろう」


 俺の提案通りって事だな。結構便利になるんじゃないか。


「それで、カイトには別命がある。吹流しの制作だ。明日にも世話役が布を取りに来るだろう。赤が1つに白が2つだ。余った布は貰っておけ」

「なら、カイトの旗竿は俺が取って来てやろう。ココナッツも近くの島には無くなってきたからな。ラスティと出掛けて来よう」


 準備の役割が次々と決まっていく。

 今回はカヌイの小母さんは同行しないようだ。サディさんとケルマさんが俺の船で子供達を世話すると言っていた。

 2人も嫁さんが増えてるから、少しはビーチェさんも楽になるんじゃないかな。

 そう言えばオリーさんが妊娠したと言ってたな。

 次のリードル漁は、またカヌイの小母さんがやって来るに違いない。


 翌日、世話役の届けてくれた布を使って吹流しを作る。カゴの縁のような直径45cm位の竹で編んだ輪を囲むように布を巻いて後ろをハサミ短冊に切る。切った場所から破れないように、二重に周囲を糸で縫って貰った。本来なら短冊部分も糸で縫って補強しておきたいが、破れたらまた作れば良いだろう。


「直ぐに破れそうにゃ。時間が掛かるかも知れないけど、もう一組作ってそれはひらひらのところも補強しておくにゃ」

「最初のも、出来る範囲で補強しといてくれないか。出掛けるまで3日は使えるから少しでも長く使えるようにしたいんだ」


 サリーネにそう伝えたんだけど、次の日には、ビーチェさんが手伝っていた。リーザとライズの手つきが見ていられなかったらしい。

 出発の前日には、真鍮の水がめを背負いカゴに入れ、両手にも1個ずつ持って水汲みに出掛ける。

 エラルドさんの船やラディオスさん達の分も汲んであげるから、それだけで午前中が終わってしまった。

 昼過ぎには背負いカゴに溢れるくらいのココナッツとバナナが届けられたけど、ラディオスさん達はどこまで出掛けたんだろう? 丸3日はいなかったぞ。

 

 出発の前夜、俺の船に皆が集まって食事を取る。

 エラルドさんが赤、白、黄色の旗を1式ずつ俺達に渡してくれた。サリーネが出来た吹流しをエラルドさんに渡しているけど、今回のリードル漁の指揮は何時も通りにグラストさんが執るらしい。

 

「俺はグラストの補助だから最後尾になるんだが、カイトの船と並んで行こう」

「旗竿は俺達は1本だけど、父さんは2本何だね。そのひらひらしたのを片方に付けるんだ」

 

 船団の数が多いから、真ん中と最後尾にも指揮者の補助を置くらしい。もう1人の補助者は誰なんだろうな?


「白の旗は竿に付けて置け。他の旗も小屋の出口近くに引っ掛けておけば問題ないだろう。笛の音がしたら旗を立てれば良い」

 サリーネに旗を渡すと、直ぐに竹竿に付けている。小屋の屋根に銛と一緒に差し込んでいるぞ。

「サリーネ。旗の竿には布を巻き付けておいてくれないか。色々入れているから出す時に迷わないですむ」

「分かったにゃ。余った布を巻いておくにゃ」


 そんな俺達のやり取りをラディオスさん達も感心して見ているから、帰ったら直ぐに同じことをするんじゃないかな。

 明日は早い。俺達は互いの健闘を祈ってお開きにした。


・・・ ◇ ・・・


 桟橋をあわただしく駆ける音で目が覚めた。

 小屋の小窓を開けると、ようやく東の空が明るくなり始めたところだ。

 今日はリードル漁の出発日だから、皆準備に忙しいのかな?

 身を起こして周りを見ると、すでに3人は起きて朝食の準備を始めたようだ。だいぶくたびれたTシャツにグルカショーツを身に着けて甲板に出る。

 チラリと扉の上を見たら、赤と白の布が巻き付いた竹竿があった。これが旗竿だな。

 どこに付けようと思って船尾から眺めると、操船楼へ上るハシゴが目についた。あそこで良いかも知れないな。長さは4.5mだから2か所も縛ればだいじょうぶだろう。


「起きて来たにゃ。もうすぐ朝食ができるにゃ」

 リーザが船尾のベンチに座った俺にお茶のカップを渡してくれた。

 まだ、日が登らないから涼しく感じるけど、日が登れば暑くなりそうだ。空には全く雲が無いぞ。

 雨季の低く垂れこめた雲は気が滅入るが、全くないのも考えものだな。麦わら帽子とサングラスが必携だな。

 簡素な朝食を終えると太陽が登って来た。

 お茶を皆で飲み終えると、出発の準備を始める。サリーネとリーゼが操船楼に上ると、俺は船首のアンカーを引き上げる。

 僚船と結んだロープはライズが解いている。片手を上げてサリーネに引き上げた事を知らせると、頷いてくれたから直ぐにカタマランが動きだすぞ。

 念のためにエラルドさんの船に繋いだロープが解かれていることを確認しながら、船尾の甲板に向かった。

 甲板では解いて来たロープをライズが纏めている。

 短いロープを受け取り、屋根裏から旗竿を取り出すと、操船楼のハシゴに旗竿を結わえつけた。


 朝風に白い旗がなびいている。

「恰好良いにゃ。でもエラルドさんのところの吹流しも恰好が良いにゃ」

 吹流しのひらひらがなびいているぞ。確かに恰好が良いな。


「ライズの父さんの船は赤の吹流しだ。何といってもトウハ氏族筆頭だからね」

「あれにゃ! ラスティ兄さんもあの飾りが付けられたら良いにゃ」


 ベンチの上に立ち上がって西に停泊しているグラストさんの船を見てるぞ。

 俺だって筆頭をこっそり狙ってるんだけどね。

 この聖痕を持つ以上、白か赤の吹流しを持てる身になれるよう、グラストさん達が俺を指導しているようにも思える。

 次の船には帆柱のような旗竿を着ける予定だから片方にだけ旗があると恰好がつかないような気がするぞ。

 カタマランがゆっくりと後退して、船溜まりを離れ始めた。最後尾だから、入り江の東に移動しているようだ。直ぐに出られると白い旗で示しているから、グラストさんにも分かるだろう。


 ベンチに腰を据えてパイプを楽しみながら周囲の動力船を眺めると、あわただしく出航するために旗を上げたり、入り江の出口付近に移動を始めたようだ。

 その中を、赤い吹流しをなびかせて、入り江の出口に向かったグラストさんの船が良く分かる。

 直ぐ近くに白い吹流しの船が見える。あの船が船団の中間付近を面倒を見るんだろう。どの船にも白い旗が掲げられている。

 数隻の船には白旗が無いが、双眼鏡でよく見ると屋根にカゴが乗せられていた。

 ロデニル漁の船のようだ。素潜りが出来ないのであれば、ロデニル漁に出るか、西のリードル漁場の監視という事になるんだろうな。


 やがて、ブラカの音が聞こえて来た。次のブラカの音が聞こえるまでに準備が終わらない動力船は赤い旗を上げなければならない。

 ジッと入り江に浮かんだ動力船を眺めたが赤い旗はどこにもない。

 2番目のブラカの音は、2度吹き鳴らされた。

 その音が終わると同時に、赤い吹流しをなびかせてグラストさんの動力船が入り江を出て行く。十分に間を取って2隻が横に並んで後に続く。


「俺達は最後だからね」

「分かってるにゃ。隣は父さんの船にゃ」

 操船楼に声を掛けたけど、言うまでも無かったようだな。

 段々と数が少なくなる動力船を見ながら、サリーネは動力船を入り江の出口に向かって進め始める。


 入り江に残っている白い旗の付いた動力船は、俺とエラルドさんだけになった。船を並べて入り江を出る。

 ビーチェさんの操船に合わせてサリーネが魔道機関の出力を加減しているのが分かる。あの動力船は魔道機関が強化してあるからな。他の船よりも速度が出るぞ。

 島を時計回りに回ると、前方を進む動力船の列が見えて来た。

 船団は前後を50m、僚船との距離を20m程に保ちながら一路北に向かって進む。


 2時間も進むとだいぶ暑くなってきた。

 カタマランは天幕で作る屋根が甲板の半分程まで掛かるようになっている。

船尾のベンチから、天幕の屋根が作る日陰に移動してゴザの座布団を敷いて座り込んだ。

 ライズが保冷庫で冷やした水筒のお茶をカップに入れて操船楼の2人に手渡している。最後は俺と2人でのんびりと冷たいお茶を楽しむ。

 空は真っ蒼だし、海はコバルトブルーに澄んでいる。

 朝が早いから何となく眠くなってくるな。とはいえ、操船楼ではサリーネ達が緊張しながら操船を行っているのだ。

 2人で朝寝なんかしていたら、後で海水を掛けられそうだぞ。

 船団の航跡を眺めながら、のんびりとパイプでも楽しもうかな。



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