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N-076 バルテスさんの2人目のお嫁さん

 どうやら氏族会議はもめているらしい。それが新しい船なのか、旗なのか、それとも氏族の漁の方法を調整するためなのかは、俺達にはさっぱりだ。エラルドさんも夜遅くに帰って来るらしく、ビーチェさんも原因が分からないようだ。


 そんな日々が続いている時、新しい嫁さんを乗せてバルテスさん達が帰って来た。

 どうやら、上手く行ったようだな。船尾で入り江に泊まっている動力船をキョロキョロと眺めているのがどうやらそうらしい。


「帰って来たにゃ。ケルマ、仲良くするにゃ」

「分かってるにゃ。大丈夫、しっかり2人でバルテスを支えるにゃ」


 やがて、バルテスさんの動力船が近付いて来た。いつもの場所に動力船を泊めると、長老の手を取って桟橋に待つ世話人に届けている。

 その後は、2人目の嫁さんを連れてエラルドさんの船に向かったが、留守だからな。直ぐに俺の船にやってきたぞ。

 甲板に並んで俺達は出迎えたけど、新しい嫁さんはこの船が他の動力船と異なることに驚いているようだった。


「ナンタ氏族からきたイーデルにゃ。よろしくお願いするにゃ」

「私も元はナンタ氏族にゃ。ナンタ氏族なら私も安心にゃ」

 

 ビーチェさんがそう言って新しい嫁さんに挨拶している。その後は、ケルマさんとちびっ子にも挨拶しているぞ。

 嫁さん連中が小屋に入って、にゃーにゃーと賑やかにおしゃべりをしている。完全に女子会のノリだな。


 ベンチでバルテスさんとパイプを楽しんでいると、ラディオスさん達夫婦もやってきた。

「中にいるぞ。挨拶してこい」

 バルテスさんの言葉に頷いて2人が小屋に入って行ったが、直ぐにラディオスさんが出てきたぞ。何となく分かる気がするな。


 バルテスさんが持参したお酒をちびちびと飲んでいると、今度はゴリアスさんが2人目の嫁さんを連れてやってきた。

 バルテスさんの2人目の嫁さんは、ケルマさんに似たやせ形の茶髪の美人だった。

ゴリアスさんの嫁さんは、ぽっちゃりした黒い髪だ。サディさんに体形は似てないけど雰囲気は似ているな。

 サディさんのような美人ではないけど、可愛い感じのする女性だ。年上の女性を可愛いと表現するのは問題かもしれないけど、そんな表現がぴったりの嫁さんなんだよな。


「小屋でワイワイやってるぞ。挨拶をしてお前は出てこい」

「そうだな。ナディ行くぞ」


 ゴリアスさんに続いてナディさんが小屋に入って行った。たちまち賑やかさが増してきたぞ。

 直ぐに、ゴリアスさんが逃げだすようにして小屋から出てきたのをみて、笑いながらバルテスさんがカップを渡している。


 バルテスさん達から種族会議の話を聞いていると、エラルドさんがグラストさんを連れて俺達の船にやってきた。

 自分の船のように、小屋の入り口からベンチを運んで2人が座ったところで、バルテスさんが酒のカップを渡した。


「新しい嫁は小屋の中か。今は入る気がせんな。その内出てきたら挨拶するか」

「長老2人が感心していたぞ。種族会議は目的の半分以下だからな。本来の目的は嫁取りだ。ここしばらく、あのように氏族の誇りを歌い上げた者はいないと感心していたぞ」

「まあ、それも後で聞けばカイトの知恵だという事で、長老達も感心していたな。しばらくはカガイの席で語り継がれるに違ない」


 酒を飲みながら長老からの話を披露してくれたけど、それより問題は現状の長老会議にあるんじゃないか?


「その辺りの話は、嫁さん達を交えて聞きたいものですが、なぜにこれほど長老会議が伸びているんですか?」

 丁度良いから、疑問を2人にぶつけてみた。


「長老2人が帰ったところで、あっさりと決まった。曳釣りは雨季限定だ。バルテスの歌ではないが、トウハの誇りは銛にあるという事だな。船を停めての釣りには制限がない」

「船は、運搬船を先に作れと言っていたぞ。この船の小型版はその後だな。どちらかと言うとバルテス達に期待していたようだ。カイトにはカゴ漁の船を次に頼む事になりそうだな」


「やはり、カゴ漁は長老達も気にしているようだな」

「ああ、あれほどの漁だ。今までの暮らしがだいぶ楽になるに違いない」

 隣同士で呟いているバルテスさん達は、カゴ漁を教えたんだよな。カゴを引き上げた時の彼らの表情を思い浮かべているんだろう。


「まあ、そんなところだ。カイトには迷惑を掛けるが、これも氏族の為だと思ってあきらめてくれ」

 同情心の欠片もない表情でグラストさんが俺に言った。

 まあ、おもしろそうだから、最後まで面倒は見るつもりだ。


「分かりました。運搬船はこの船を作ったドワーフに頼むことも無いですから、次の商船が来たら早速依頼してみます。金貨6枚程度にはなりますが、それで構いませんか?」

「カイトの好きなように作ってくれ。俺達にはそんな船は想像もできんからな」

 グラストさんが急に真顔になって俺に頼んだ。力強く頷いてそれに答える。


「ところで、石運びはどうなったんだ? しばらくやってないぞ」

「畑の開墾をしていたら、石がかなり出て来たらしい。雨季の間はそれで対応するから、お前達が石を再び運ぶのはリードル漁が終わってからだ」

「と言っても、一か月も経たずにリードル漁があるぞ。銛は研いであるんだろうな?」


 エラルドさんの言葉に俺達は下を向く。素潜り用の銛はこの間研いだばかりだが、リードル用の銛はしばらく研いでいなかった。暇が出来れば酒盛りの習慣は少し自重しないといけないな。

 俺達の仕草を見て、エラルドさん達が顔を見合わせる。全くしょうがない連中だと思っているに違いない。


 これは、お説教が始まるかも知れないと思っていたら、ビーチェさんが小屋から顔を出した。

「カイト、おかずを釣って来るにゃ。バルテスは果物を頼むにゃ。エラルド、グラストもいたにゃ。2人を紹介するにゃ」

 ビーチェさんがバルテスさん達の嫁さんを連れて出てきたところで俺達は、直ぐにビーチェさんの言い付けに従って行動に移した。


「父さんの説教は長いんだよ。グラストさんがいると更に長くなりそうだ」

「だけど、銛を研いでいなかった俺達に非があることも確かです。銛を研ぎながら酒を飲むのも良いかもしれない」

 そんな話をしながら桟橋の外れに座って釣りをする。バルテスさんの船が全速力で入り江を出て行ったぞ。ゴリアスさんも一緒みたいだな。


 その夜、入り江に停泊した動力船の何隻かがランタンの灯りの下で酒宴を開いたようだ。

 俺達の船が一番賑やかだったが、関係者だけでなく近所に停泊している動力船の連中も飛び入り参加していたからな。

 こんな時には甲板の広いこの船は便利だ。やはり小さいながらもカタマランが将来は増えるんじゃないかな。


「さて、カイトの指南があったとはいえ、良い嫁が来てくれたな。嫁3人のカイトも頑張ってるんだ。お前達も負けずに頑張らねばならないぞ」

 そんなエラルドさんの言葉で、俺達の酒宴がお開きになった。

 バルテスさん達が嫁さんとちびっ子を伴って帰っていくと、急に寂しくなるな。

 残った俺達で酒宴の片付けを行って眠るころには、下弦の月が上がっていたぞ。早く眠らないと朝になってしまいそうだ。


・・・ ◇ ・・・


 バルテスさん達と近くの漁場でブラドを突く。

 だいぶ晴れ間が多くなってきたから、もうすぐ雨季も上がるのだろう。

 リードル用の銛5本はしっかりと研ぎ直して油を引いてあるから、いつでもリードル漁に行けそうだ。

 遠出をしないで、リードル漁への出発の知らせを待つ状態が続いている。

 

「商船が来たにゃ!」

 小屋で昼寝を楽しんでいた俺に、リーザが知らせてくれた。

 サリーネ達が背負いカゴを引き出しているから、食料品を買出しに出掛けるのかな? それなら、俺も付いて行こう。運搬船の注文をしないといけない。

 俺も同行すると言ったら、サリーネが金貨を10枚渡してくれた。運搬船の注文だと分かってくれたみたいだな。

 ありがたく受け取って、一緒に商船に向かう。


 麦わら帽子を被っていればネコ族と思われるからな。女性は殆ど尻尾を出しているけど、男性は尻尾を出さない時もあるようだ。

 商船に乗って、店員に船の相談を持ち掛けると、直ぐに2階に案内された。サリーネ達とはここで別れて別行動になる。

 小さな部屋に案内されると、直ぐにドワーフがやってきた。前に注文を出したドワーフよりも若く感じるが、人間族の男と一緒にテーブル越しに座る。


「それで、小型か、それとも中型なのか?」

「ちょっと変わった船を作りたいんですが、可能ですか?」


 そう言ってショートパンツのポケットからメモ用紙を取り出した。説明文はサリーネが書いてくれたけど、間違っていないよな?

 俺からメモ用紙を奪うように受け取って覗き込んだ途端に、びっくりして俺の顔を覗き込む。


「向こうに泊めてある白い船をまねて作るのか? あれは、知り合いのドワーフの作だ。かなり凝っているぞ」

「あの船は俺の持ち物です。確かに凝りすぎました。金額もバカにはなりませんが、結構便利ですよ。その良いとこ取りをしたものがこれになります。たぶん半額程度に納まると思っていますが」


「小型船を2隻連結するって事だな。作るのは簡単だが、魔道機関の出力を合わせるのが難しいぞ」

「出力の調整レバーを2つ並べれば同時に調整できます。出力比の違いはレバーでも調整できるでしょうけど、舵でも調整できるでしょう。広い甲板と広い保冷庫にイケスを作ります。小屋は1つですが中を板壁で区切って2部屋を作ります」

「この部分で操船するのか……。まるで2階部分だな」


 メモをテーブルに広げて、改造点と通常の動力船に無い機能について説明を加える。

 操船楼の後ろに低い帆桁を付けて滑車で荷物の乗り下ろしが出来るようにすると言ったら、唸っていたぞ。


「概略は理解したつもりだ。魔道機関は2台使うんだな?」

「はい。他に問題は無いでしょうか?」

 しばらくメモを眺めていたが、最後に大きく息を吐いて俺の顔をジッと見た。

 

「問題なく作れる。値段は……、改造費を入れて金貨6枚と言うところだ。他の連中には売れそうもないから特注になるぞ」

「支払いは今しますか?」

「出来上がってからで良い。そうだな。次の浮き前には曳いて来れるだろう。仮契約の書類を作る。パイプを楽しみながら待っていれば良い」


 お茶が出て来たので、それを頂きながらパイプを使う。書類作りは人間族の仕事のようだ。

 俺は文字が読めないからな……。さてどうしようかと思っていたら、サリーネがカゴを背負って部屋に入ってきた。

 どうやら俺の事を心配して来てくれたようだ。

 書類の確認をサリーネにお願いして、問題が無いことが分かったところで書類にサインをする。

 これで、後は待っていれば良い。


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