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N-072 カガイの風習


 商船で新たなプラグを作ってもらったその日の夕方、ラディオスさん達の動力船が帰ってきた。

 サリーネ達が獲物の運搬を手伝いに行ったけど、かなりの数を突いてきたようだな。

 先に帰ってきたけど、今夜辺りやってきそうだから、今の内におかずを釣っておくか。


 夕食を終えて4人でお茶を飲んでいると、ラディオスさん達がやってきた。

 先に帰った事を詫びると、3人とも笑いながら首を振っている。


「あれを早く氏族の連中に見せたかったからな。やはり驚いていたろう?」

「グラストさんが絶句してたにゃ。カイトが詳しく説明したけど、長老様までやってきたにゃ」

「それも、凄いな。兄さん達もか?」

「来てました。ジッと耳を傾けてたところをみると、その内、ガルナックをし止めに行くような気もします」

「兄さんだからな。きっと出掛けるんじゃないか」


 リーザ達が酒器を運んで来たので俺達の宴会が始まる。

 ガルナックは俺一人で獲れたわけでは無い。ラディオスさん達3人がいなければ甲板に引き上げることも出来なかったろう。

 そう言う意味では、俺達がガルナックを獲ったと言えるんじゃないかな。


「かなりの高値で売れました。皆さんにもおすそ分けという事で……」

 俺の言葉に、サリーネが1本ずつ、酒のビンを渡している。

「かなり高そうだが、良いのか?」

「どうぞ持ち帰ってください。俺達だけでは引き上げられませんでしたからね。この島に帰った時は、10人以上で運んで行きました」

「あの大きさだからな。当分は話題に事欠かないぞ」

 

 ラスティさんも自分の事のように喜んでくれる。

 酒を飲みながら、バルテスさん達のカゴ漁の成果についても話をする。

 それも、気になっていたことなんだろう。色々と俺に質問を浴びせて来るが、その内、本人に聞くのが一番だと思うぞ。


「すると、今度は曳釣りって事なんだな。兄さん達は長老の御供ではしょうがないな」

「俺も参加させてもらうぞ」

 ベルーシさんの言葉に俺達は頷いたけど、今夜の氏族会議で参加する者達が決まるんじゃないかな。


「曳釣りの道具はあるのか?」

「一応揃えておいた。ラスティさんに教えて貰ったから、不足は無いと思うんだが……」


 少し、不安そうにベルーシさんがラディオスさんに答えているけど、初めての連中もいるんだよな。釣果に大きな差が出なければ良いんだけどね。


「ところで、石運びはどうなってるんだ?」

「帰って来てから聞いてない」


 漁の事ばかり考えてたけど、石運びもあるんだよな。すでに40mほど入り江に突き出しているけど、更に伸ばすんだろうな。

 大型の商船が来るんであれば、水深が欲しいからね。引き潮で3mは欲しいところだ。


「あれぐらいで良いと思うんだけどな」

「ああ、でも父さんの話だともう少し伸ばすって事らしいぞ」


 たぶん氏族の主要な桟橋って事になるんだろうな。次の代に誇れる工事としたいのだろう。あの桟橋を主要道路として、島の東西に道路を作り、その道路沿いに共用施設である倉庫や集会場、住居等を作っていくんだろう。

 それは俺達がこの島で氏族の繁栄を決意した証しでもある。

 何と言っても、龍神がトウハ氏族にこの島を授けてくれたんだからな。氏族神話がここから始まるんじゃないか?


 だいぶ夜もふけた頃、エラルドさんが帰って来て、俺達の席に顔を見せる。

 酒器を渡して、ワインを注ぐと美味そうに飲み干して、パイプを取り出した。


「曳釣りをしたいと言う者がだいぶ増えたな。素潜り、根魚釣りそれに曳釣りが俺達の漁になるようだ。カゴ漁は漁をする者を限定することに決まったぞ」

「俺達はカゴ漁ができないって事?」

「そうだ。素潜りを廃業した者達に限定するそうだ。ロデニル漁は俺達も可能だ。だが、サンゴの崖についてはカゴ漁限定となる」


 漁場が狭まったという事になるんだろうか? まあ、他の魚を突く分には問題が無いって事なんだろうけどね。

 

「そうなると、新たな漁場を探す事になりそうだな」

「それもあるから、曳釣りをして探すことをグラストが提案した。素潜りが出来て、曳釣りの仕掛けを持つ者が同行する。10日は漁をするぞ。バルテスとゴリアスは長老を部族会議に連れて行く事になるから同行は無理だ。嫁さんと子供達はカイトの船で良いだろう。俺の船にラディオスとベルーシ、グラストの船にラスティ達が同乗する。俺とビーチェはカイトに乗せて貰おう。他の動力船も2組の家族が乗るから昼夜を通して曳釣りが出きる」


 俺達は互いに顔を見合わせた。

 昼間来た連中も、知り合いを乗せて出漁するんだろうか?

 今までは1家族が1隻の動力船に乗っていたのだが、これからは複数の家族が便乗して漁をすることになるのだろうか? 漁の仕方によって人数を増減するという事は、今までは無かったかも知れない。だが、これからはそれが覆される可能性も出てきそうだ。


「とりあえず10隻で出漁する。最低でも4人必要だと言っておいたから、調整もいるだろう。明後日の出漁になるから、ラディオス達は十分に休んでおくんだぞ」

 そう言い残して帰って行ったけど、色々やることがありそうだな。

 明後日という事を聞いてラディオスさん達は喜んでいるけど、肝心の石運びの事は聞き洩らしてしまった。

 明日にでも、エラルドさんに聞いてみよう。


 翌日は、朝から水汲みだ。

 ラディオスさん達はベルーシさんの船で野生の果物を採りに出掛けた。

 嫁さん達は食料の買出しをしているから、俺が2隻分の水汲みをすることになる。

 雲行きが怪しいから、午前中にやっておこうとしてたんだけど、漁の期間が長いから、バルトスさんとラディオスさんの船からも水の保存容器である真鍮の水がめを借りてきて、水を貯える。

 雨季の最中だから、雨が降ればそれも使えるのだが、一応準備しておけば心強いからな。

 米や、根菜類は買い置きで十分らしいけど、新鮮な野菜や炭をサリーネ達が買い込んで来た。調味料と一緒に俺のタバコも買ってきてくれたのがありがたい。


「今夜から厄介になるにゃ。この船は大きいから色々便利にゃ」

 カゴを背負ったビーチェさんがエラルドさんと乗り込んできた。酒のビンを俺に見せてエラルドさんがパイプを楽しんでいた俺の隣に腰を下ろす。

 

「仕掛け作りを手伝ってやったらしいな。上手く釣れれば彼らが他の連中に仕掛け作りを教えるだろう。前回の曳釣り参加者以外の連中も多いようだ」

「問題は漁場です。前回同様、サンゴの崖の先に行こうと思ってるんですが」

 ベンチの下から取り出した海図をランタンの下に広げて、エラルドさんの意見をうかがう。


「漁場に着くまで3日と言うところか。曳き釣りをしながら昼夜で行けば2日位だな。後は漁場を東西に流すということになりそうだな」

「少し、東に向かってみようと思っています。素潜り漁の適地を探すのも、目的の1つにしたいもので」


「俺達も同行したいものだな……」

 バルテスさん達が嫁さんと子供を連れてやってきた。

 ビーチェさんが、嫁さんと子供達を小屋に案内して、新たなカップを2個テーブルに置いていく。

 小屋の壁近くにあったベンチをバルテスさんが運んでくる間に、エラルドさんが2つのカップに酒を注いでいる。


「次に同行すれば良い。部族会議はある意味氏族の将来をも左右する。今回選ばれた4人に入るのだから、自信を持って臨むのだぞ」

「一応、手ほどきは長老から受けたものの、本番で上手くやれるかは……」


 ん? バルテスさん達は長老の足代わりだと思ってたんだが、違うのだろうか。

 何か、儀式がある雰囲気だぞ。

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。エラルドさんがおもしろそうな表情で俺を見た。


「バルテス達が同行するのは、長老達の送迎ばかりではなく、もう1つの目的がある。他の氏族からの嫁選びだ。トウハ氏族からもバルテス達以外に3人の娘が同行するぞ」


 少し分ってきたぞ。俗に言う集団お見合いってわけだな。嫁さんを何人か持てるとエラルドさんが言ってたし、俺なんか3人もいるんだよな。


「その会合に出られることは嬉しいのだが、その場で行われるカガイが難問だ」

「カガイって、五、七、五、七、七……って、言葉の文字を決めて繋いでいく詩のようなものですか?」


 俺の話を聞いて、皆が驚いたような表情で俺を見つめる。


「そうだ。知っているのか? 我らネコ族の秘儀を……」

「俺が暮らしてたところでも、昔似たような風習がありましたから、名前まで一緒です」

「なら、教えてほしい。下の句をどのように繋いで行けば良いのだ?」


 バルテスさんが俺に聞いてくるのは分るけど、その場その場で臨機応変に繋いでいくものだぞ。ある意味、文才が必要だし、広い知識だって欲しいところだ。

 果たして、俺にだってできるかどうかわからない。

 だけど……。どのようにも使えて、自分のアピールができれば良いといい文句を持っていても良いような気もするな。


「どうでしょう。『竜神に、導かれたる、我が氏族。トウハの銛に、突けぬものなし』、五、七、五、七、七の文字数ですよ」

「待ってくれ、今書いてみるぞ……。本当だ。文字数が合ってるぞ」

「トウハ氏族の誇りと言うわけだな。なかなか面白い言葉だ。バルテス、これは! と言う時に使うんだぞ」


 エラルドさんも気に入ったようだ。バルテスさんは、メモを見ながらもごもごと口を動かしながら頷いている。

 先ほどよりも、表情が穏やかだな。少し安心したのだろう。

 

「カイト、お土産は何が良い?」

「上手く行ったら、細工用の小刀が欲しいです」

 そんな俺のリクエストに、背中をポンと叩いて応じてくれた。


「だが、カイトは良く我らのしきたりを知っていたな」

「語数を限った詩の話ですか? あれは一応俺も習っています」

 学校の国語の時間に散々教えられたぞ。この場合はたぶん長歌に該当するんだろう。俳句とは違うようだ。

 本来なら即興で作り上げるべきものだが、何にでも転用できる言葉なら、いざという時に困りはしないだろう。

 俺の隣でにんまりしてるラディオスさんも、まさか俺を頼りになんてことは無いだろうな。



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