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N-071 ちょっとした宴会


「少なくとも我等トウハ氏族の名を高めることになることは確かじゃな。他の長老も聞きたかったようじゃが、血が騒ぐと言っておった」

 ははは……と長老が笑ってるぞ。

 さすがは銛で生活をしてきただけの事はある。釣りや、カゴを使う漁師はさぞかし肩身が狭いのかも知れないな。


「話は変わりますが、例のカゴ漁はどうなったんでしょうか?」

「大漁だぞ。お前達は1日で帰って来たが、連中は2日続けたらしい。水揚げは、320Dだから288Dを5つに分けて分配したらしい。1家族で57Dは少ないが、次は3家族で3日もやれば銀貨が手に入るだろう。根魚を釣れば更に増える」


 バルトスさん達も頷いているって事は、ちゃんと漁の仕方を教えることができたという事なんだろうな。


「彼らの漁の邪魔をすまい。ロデナス漁は彼等だけに、という事が氏族で決まったぞ。カイトならば他の漁で十分に家族を養えるじゃろう」

「それで、同じように彼らの船を2隻改装している。3隻で船団を組んで漁ができれば、彼らもマシな暮らしができる。これについてもカイトには感謝せんといかんな」


 氏族の暮らしが良くなるならそれに、越したことは無い。

 そうなると、いよいよ専用の船が欲しくなってくるな。早めに、このカタマランを作ってくれたドワーフと話をしたいものだ。


「それで、ワシらからの依頼じゃ。カゴ漁に特化した船を作って欲しい。やはり彼らの話を聞くと、今の船では色々とやり難いところがありそうじゃ」

「それは、俺も考えているところです。このカタマランは特許で手に入れたようなものですから、1隻作る予算は持っていますし……」

「半額をと思っておったが、全額我等が出すことにする。リードル漁は豊漁じゃ。この島に移り住んでから不漁と言う言葉をほとんど聞かぬ。彼らが共同で使える船を作ってくれ」


 どれだけ長老達は貯めこんでいるんだろう? 前の島の時代から延々と貯めこんで来たんだろうな。とりあえずは1隻という事になるんだろうが、そうなると既存型の動力船だって専用船に改造できる方法を考えるべ気なんじゃないかな。

 

「了解です。この船の小型版についても検討してましたから、同じようにこの船を作ったドワーフに俺の考えを伝えてみましょう」

 そんな俺の話に、長老が笑みを浮かべて頷いている。

 エラルドさん達は、この船の小型版と聞いて、俺に視線を向けた。


「小型版だと?」

「ええ、この船はかなりの速度が出せます。通常の動力船の2倍は出せるでしょう。そんな船を使って、漁に出掛ける時間を半分にすれば、1回の出漁期間が短くて済みます。結果的に今までより多くの獲物を手に出来ます」


 とは言え、欠点もある。高価になってしまうのだ。どうにか廉価版を作りたいんだけどね。

 漁を行う日数が増えれば当然収入も増える。それは彼らも理解はしているようだ。だが、商船の訪れる頻度はほぼ10日おき、それに間に合うように獲物を運ぶのだが、多くは世話役に渡して燻製にすることが多い。

 燻製にできる魚は良いが、ロデニルのように生きたままや生鮮状態でのみ売買される獲物だってあるのだ。


「確かに、動力船の速さは必要ではあるのう……。じゃが、全ての動力船をこの船のようにするわけにも行くまい。どうじゃ。船団に速度速い船を1隻用意すると言うのは?」

「獲物の運搬を専用に行う船、という事ですか?」

 

 思わず、長老に問いかけてしまった。他の男達も俺の言葉に長老に視線を移す。


「打てば響くのう。その通りじゃ。今でも船団はいくつかあるし、それを率いる優秀な漁師もいる。出漁先は分かっているのじゃ。それなら、その船団を回って氏族の島に獲物を運べば良い。問題は、その獲物の量をどのように分配するかじゃが、世話役を同行させて公正を測れば良い。獲物の重さで分けるのが良いじゃろうな」


 確か、そんな専用漁船を聞いたことがあるぞ。

 この世界で使うなら、大型の保冷庫を設けるだけで十分だろう。カゴ漁の専用船を作るよりも簡単に思える。


「この船の小型版を作るなら、それを作ってくれぬか? 先ずは1隻。使えるとなれば更に1隻を長老会議で作るつもりじゃ」


 漁の不得意な氏族の者達に、運搬船の操船を任せるという事なんだろうな。漁に従事する期間が増えれば当然獲物も増える。当然、氏族への上納金が増えることになるから、その資金を使って運搬船の運用資金とするという事だろう。

 中々考えている。俺も賛成できるな。


「分かりました。カタマランであれば、かなりの速度が出せます。長老様のご期待に応えられると思います」

「可能なんじゃな? ならばカイトへの我等からの依頼じゃ。カゴ漁の専用船と獲物の運搬船じゃ。カイトには迷惑かも知れぬが、運搬船の支払いは一時カイトにお願いする。時間が掛かるやも知れぬが、リードル漁の都度支払うつもりじゃ」


 氏族は平等という事なんだろうな。それ位はタダでも良いのだが、長老はそれを良しとしないようだ。

 ここは長老の考えに従っておこう。長老としても立場がある筈だからな。


「トウハ氏族は銛の腕だけを競っておる、と言う輩もネコ族の中には多いが、3年も経てばそれが間違いであることが分かるじゃろう。エラルド、良いネコ族を氏族に連れてきてくれた」

 長老は、そんな事を言って酒器を傾けている。

 機嫌よく微笑んでいるところを見ると、族長会議で先程の話を小耳に挟んだのだろう。言い返せなかったって事なんだろうか? その答えが形となって他の氏族に伝わった時、彼らはどのようにトウハ氏族を評価するのだろうか?

 長老の笑みはそれを考えての事だろう。という事は、しっかりと先ほどの依頼を形にしなければならないって事だな。

 もうすぐ、ラディオスさん達も帰って来るし、バルトスさん達からも協力を取り付けておく必要がある。皆で酒を飲みながら話し合ってみよう。


 ガルナックの仕留め方は、皆の参考になったんだろうか?

 隣同士で、今度は俺が……、なんて話しているけど、簡単にし止める方法がないわけではない。俺は1人でし止めたが、2人で掛かれば銛をもっと打ち込めるだろう。銛漁は一人で行うと言ったしきたりは無いと思うんだけどな。

 さすがに、グラストさん達は、ガルナック漁は行わないと見たが、新しい船をエラルドさんや長老を交えて話し込んでいる。

 トウハ氏族が他の氏族と異なる漁業を始めるのは、それほど遠くないんじゃないかな。


「そうだ! バルテスとゴリアス、それにカイデルとザナウが長老達を部族会議に連れて行く事になった。10日もすれば出掛けるからカイトはラディオス達としばらくは漁を続ければ良い。俺やグラストも曳釣りなら同行するぞ」

「曳釣りですか……。新たな漁場を見付けますか?」


 俺の言葉に、エラルドさん達が顔を見合わせて頷いているぞ。

 (ほれ、俺の言った通りだろう)そんな感じに思えるな。


「俺達も良いか? バルの仕掛けに近いらしいが……」

「長老会議で船団の規模を決める。外に行きたいものはいるのか?」


 見知らぬ男達が片手を上げている。併せて3人だな。

「他にいなければお前達を連れて行く。仕掛けが変わっているから、明日にでももう一度カイトを訪ねた方が良いな。良形のシーブルさえ釣れるという話だ」


 エラルドさんの言葉に頷いているから、明日は詳しく説明する必要がありそうだ。

 プラグも簡単なものなら商船のドワーフなら作れるんじゃないか?

 上手い具合に商船が来てるから、サリーネに確認して貰おう。


            ・・・ ◇ ・・・


 翌日。起きた時には、入り江の動力船がかなり減っていた。朝早く、漁に出掛けたんだろう。飲み過ぎて頭が重いが、甲板に出て海水で顔を洗う。生温かい温度だが、それでも目が覚めることは確かだ。条件反射的なものもあるのかも知れないな。


「商船に何かを頼んでくるような話をしてたにゃ」

「ああ、そうだった。ちょっと待ってくれ」

 サリーネの言葉に、昨夜の話を思い出した。座っていたベンチの蓋を開けて、弓角を取り出す。これは向こうの世界から持ってきた物の1つだが、水牛の角だとお祖父ちゃんが言ってたな。


「これを作って欲しいんだ。5個もあれば良いんだが。それと、これは牛の角なんだけど、貝で作っても問題ないと言ってくれ」

「5個にゃ。直ぐに行ってくるにゃ」

 受け取った弓角を大事そうに持って、ピョンピョンと跳ねるように船を渡って桟橋を走っていく。上手く作れれば良いんだけどね。

 そんな俺のところにリーザが朝食を運んでくれた。どうやら俺が最後らしい。

 テーブルに並べて、最後にライズがお茶のカップを運んで俺の隣に腰を下ろした。


「父さんが感心してたにゃ。さすがはカイトだと言ってたにゃ」

 グラストさんが認めてくれたか……。グラストさん達は狙わないだろうな。あれは若者が自分の腕を試すために挑む位のものだろう。

 熱心に聞いていたバルトスさん達は挑むつもりなのかな? エラルドさんがそんな長男を頼もしそうに見ていたからね。


 そんな俺達のところに、数人の男達が集まってきた。どうやら曳釣りの話を聞きに来たようだ。

 仕掛けを取り出して、丁寧に説明する。

 表層を狙うヒコウキと中層を狙う潜航板、それにプラグと弓角を見せてあげた。


「だが、100FM(30m)も道糸を引き出して後ろの水車に絡まないか?」

「取り込む時は低速にすれば良いでしょう。それに、曳いている最中はこの船の両舷側にある竹竿を使うんです。船から距離を取れますが、上手く使わないと取り込みが面倒になりますよ」

 俺の船は洗濯バサミだが、ラディオスさん達は先端にフックを固定しているようだ。獲物が掛かったら竿を回してフックから外すと言っていたな。


 サリーネが帰ってきて、ドワーフの職人の答えを教えてくれた。

「1つ30Dで作ってくれると言ってたにゃ。5個は夕方に取りに行ってくるにゃ」

「俺達も買えるのか?」

「買えるにゃ。この形にゃ!」


 そう言って男達に見せたのはプラグだった。

 たぶん余分に作っているに違いない。釣れない場合は、小魚を餌にしても問題なさそうだ。



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