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N-007 エビは後ろにピョンと跳ねる


 10人を超える人達が後甲板に一度に集まると、足の踏み場もないくらいだ。

 それでも、明日の大漁を祈って食事と酒が回される。

 18歳がネコ族の成人らしいから、それ以下の子供達はヤシの実を割ってジュースを飲んでいる。俺達はワインなんだよな。ブドウ畑はどこにも見当たらないから、漁の獲物を売って手に入れているんだろう。ワイン2本で銀貨1枚と教えて貰ったが、滅多に飲まないところをみると、結構な値段になるらしい。

 バルテスさんの許嫁であるケルマさんは中々の美人だ。あんな美人をお嫁さんに出来るんだから、バルテスさんは頑張って漁をするんだろう。

 俺とラディオスさんで釣り上げた小型のカマルをビーチャさんが唐揚げにしてくれたんだが、中々の味だったぞ。ぶつ切りにした唐揚げは直ぐに皆のお腹に消えてしまった。


次の日。まだ朝日が昇らない内にザバンを下ろして漁の準備をする。一応、ロデナスという伊勢海老が今回の漁の対象ではあるのだが、大物がいればそれも突くつもりなんだろう。ザバンには銛も乗せてある。

 厚手のミトンにカゴ。タモ網に先の曲がった太い鉄棒を握り手の先に付けた金物を乗せれば準備は完了だ。

 朝食を済ませ、お茶を飲みながら日の出を待つ。


「よし、日が上った。ここから西に移動しながら漁をするぞ」

 エラルドさんの声で俺達は海に飛び込み、それぞれのザバンに乗り込む。

 俺のザバンに泳いできたのは、リーザちゃんだ。よいしょと引き上げると、彼女も水着を着ている。

 ザバンの後方に座ると、上だけ、ゆったりとしたシャツを羽織った。日差しが強いからな。それに麦わら帽子を被れば日焼けはあまりしないだろう。

 

「兄さん達は先に行ってるにゃ。私達も急がないと!」

 2人でパドルを漕いで船から100m程離れる。水中眼鏡を掛けて、タモ網と先の曲がった針金の点いた金具を持って海に飛び込んだ。

 シュノーケルを使って海中を覗きながら、水面近くを泳ぐと、直ぐに岩場を見付けた。小さなサンゴがあるが、あの大きさなら割れ目もあるだろう。

 息を整えて、一気に潜る。

 岩の近くに行って、割れ目を探りながらロデナスを探した。

 最初の1匹は直ぐに見付けたが、なるほど、丈夫な布のミトンが必要なわけだ。伊勢海老よりも、甲羅のとげとげがきつそうだぞ。

 先ずは、エラルドさんの教えに従って、ロデナスの後ろに網を置き、前方からカギ付き金具でちょこんと突いてみた。尻尾を丸めるようにして水をかき、網の中に納まった。

 意外と簡単だな。

 続いて次の割れ目に近付いて2匹目を手に入れた。

 3匹目は無理だな。息苦しさを感じる前に海面に浮上する。シュ! とシュノーケルの水を吹き上げ、新鮮な空気を吸いながら、リーザちゃんの乗るザバンを探すと、俺に気付いて手を振っている。近付いて来たザバンに、タモ網ごとロデナスを入れた。直ぐにリーザちゃんがミトンを付けてタモ網からロデナスを外すとザバンに作り付けの木箱に放り込んだ。どうやらイケスになっているらしい。その中にカゴを入れてるのだろう。

 リーザちゃんからタモ網を受け取り、再び海に潜るとロデナスを探し始める。


 そんな漁をしばらく続けていると、笛の音が何度か聞こえて来た。

「休憩にゃ。船に戻って体を休めるにゃ」

 いつの間にか、サングラスのようなものを掛けたリーザちゃんが俺に伝えてくれた。ザバンに這い上がるのはカヌーよりも簡単だ。舷側の浮きで安定感がある。

 漁船の舷側に垂らされた縄梯子を伝って甲板に上がる。ザバンはロープで繋がれているから勝手にどこかに行くことは無いだろう。

 最後に船に上がったリーザちゃんはザバンのいけすからロデナスを入れたカゴを運んできた。船のいけすに移し替えるらしい。


 長女のサディさんが渡してくれたお茶を頂く。この人達は生水を飲むことがないようだ。口の中が海水でしょっぱくなってるから、お茶が甘く感じるな。

 一服しながら、リーザちゃんのメガネを見せて貰うと、竹で作った枠に、色ガラスが樹液のようなもので接着されていた。ガラス工芸はそれなりに発達しているようだ。少し色が濃いけど、光の量を減衰できるなら立派にサングラスとして使えるな。

 

「少し西に移動するぞ。このまま漁が続けば大漁だ」

 パイプを手にしたエラルドさんの顔はにこやかだ。俺達はザバンで漁をしてるんだが、エラルドさんは漁船の周囲で漁をしているらしい。

 結構大きな漁船だから、素潜り漁にはあまり適してるとは言い難いが、それでも腕の良い漁師らしいから俺よりはたくさん獲ってるんだろうな。


 漁船が西に動き出すと、ザバンはロープで引かれて行く。

 再び船が泊まるまで、俺達は甲板でのんびりとタバコを楽しんだ。


バシャバシャと回っていた水車の回転が止まると直ぐにアンカーが投げ込まれる。再びロデナス漁が始まるのだ。

 日が傾き始めると漁が終わる。2艘の漁船が舷側を並べて泊まると、昼食兼夕食の準備が始まった。

 俺が釣竿を持ちだすと、皆の期待の籠った目が俺に向けられた。

 早々釣れるものでは無いと思うけどね。

 

 結局、夕食までに釣れたのは4匹の根魚だった。半身に開いて焼いたものが大皿に乗って提供される。

「カイトの腕は確かなようだな」

「まあ、それなりだ。どこで何を獲るかを理解すれば一人前なんだがな」


 ヤックルさんとエラルドさんが、焼いた半身を手で解しながら酒を飲んでいる。

 漁をする場所どころか、漁の仕方も季節も俺には理解できないぞ。

 やはり、1人で暮らすには無理がありそうだな。船を手に入れても、しばらくはエラルドさん達と行動していた方が良さそうだ。


「お前はどうなんだ?」

船尾でのんびりと釣りを始めた俺の隣で、俺の作った釣竿を出しているラディオスさんが聞いてきた。

「まだまだだな。暮らしが立てられないよ。だが、上の兄貴が嫁を貰うとなれば、この船を離れた方が良さそうだ。それでも、一緒に漁をしたいと思ってるんだ」


「後一か月足らずでリードルが取れる。魔石が2個手に入れば、俺は動力船を買うことにしてるんだ。最初は小さくても構わない。嫁を迎えて頑張れば、数年で更に上の動力船が買えるだろう」

「動力船って、どれ位の値段なんだ?」

「俺が買おうとしてるのは、金貨2枚ってところだな。横幅、8YM(ヤム:2.4m)長さ3FM(フェム:9m)ってところだな。家の大きさは長さの半分ってところだ。4人なら暮らせるから、親から離れた男が最初に手に入れる船になる」


 俺の持っている硬貨はこの世界で通用するんだろうか? 確か金貨が1枚あった筈だ。あれが使えれば銀貨も何枚かあったから、上手く行けばラディオスさんが船を離れる時に自分の船を持てるかもしれないな。

 獲物を売った金額の分け前の話も教えて貰ったから、貰った硬貨を持っている硬貨と比べてみよう。

 2人で数匹の根魚を釣りあげて、俺達は甲板に横になった。


 1日に2回潜ってロデナスを捕まえる。そんな日々が続いている。

 結構捕まえたと思ってるんだけど、この伊勢海老の値段はどれ位なんだろう?

 漁船のイケスは1m四方の大きなものだ。深さが結構あるらしく、そこにロデナスを入れたカゴを沈めているようだ。ロデナスは生きてなければ売り物にならないらしい。

 漁場まで3日掛けてやってきたのだが、3日間の漁をしたところで船は帰ることになった。

 3艘のザバンを引き上げて、一路氏族の住まう島に向かって走る。

 朝食は別々の船で取るが、夕食は一緒だ。どうやらそれも氏族間の習わしらしい。

 途中の島で、ココナッツの実を大量に仕入れる。

 ネコ族だけあって木登りは巧みだな。俺には無理だから落ちてきた実をひたすら拾い集めていた。

 島の連中へのお土産らしいが、未成熟だから、飲料水としても使えそうだ。早速、上部を切り取って貰い、船が進むのを眺めながら飲み始めた。


「バナナも途中で仕入れるにゃ。あちこちの島に色々食べ物があるにゃ」

 同じようにココナッツジュースを飲みながらリーザちゃんが教えてくれた。

 ということは、漁をしながら島巡りをすれば飢えることは無いって事なのか?

 不足するのは商船から購入すれば良いから、船を手に入れればそれなりに暮らせそうだ。

問題があるとすれば数か月続くという雨季だろう。オケがたちまち溢れるって言ってたから、集中豪雨どころの騒ぎじゃなさそうだ。

そんな雨が半日続いて1日晴れるというような天気が続くらしい。

現在は乾季らしいから、雨雲の欠片さえ空には見当たらない。それに、雨季だったら甲板に寝ることも出来ないしね。


昼夜兼行で船を進ませ、2日後に俺達は氏族の住む島に戻って来た。

島の桟橋に作られた大きなイケスにロデナスを入れたカゴを運ぶ。後は、左端の桟橋に旗を上げて商船が通り掛かるのを待っていれば良い。


「もうすぐ、リードル漁だ。お前も銛を持ってはいるが、リードルを獲るには問題があるな。約束通り銛を作ってやろう。とりあえず2本あれば十分に働けるぞ」

 エラルドさんの言葉に、ただ頷くばかりだった。

 商船はいつ来るか分からないから、その間はラディオスさんと一緒にザバンを使って釣りを楽しむ。

 カマスのようなカマルを釣ろうとしていたのだが、中々つれない。諦めて帰ろうとしたところで、突然釣れ出した。

 

「こりゃ、半分は開いて売れそうだぞ。ここなら俺とカイトで売り上げを分けられる。頑張ってくれよ」

「それなら、もっと釣らなくちゃならないね。ほとんど入れ食いだから、かなり期待できそうだ」


 やがて、入れ食い状態がぴたりと止まったどうやら群れは去ったみたいだな。

 船に戻って獲物を甲板で開くと、大きな平たいザルに並べる。これを小屋の屋根に干すのだそうだ。

 20匹程はリーザちゃんが岸辺に持って行く。今夜のおかずにするために焚き火で焼くみたいだな。


「だいぶ獲れたにゃ。明日も同じぐらい獲れれば銀貨2枚になるかも知れないにゃ」

 ビーチェさんが屋根に並んだカゴを見て呟いてるのを聞いて、ラディオスさんと顔を見合わせてニコリと頷いた。

 

 明くる朝も、早い内に船を出して釣りを始める。

 この釣りは、群れが来ない限り全く釣れないけど、一度群れがやって来ると、入れ食い状態になるな。ただし、その時間が短いのが問題だ。

 それでも昼前には、昨日と同じ位の数を獲ることが出来た。

 


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