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N-068 ガルナック

 この海域は、サンゴ礁がそれ程発達していないようだ。

 大きなテーブルサンゴやヒダのあるサンゴはあるのだが大きく育っていない。ある程度以上には育つことができないのか? 南の海域は見事なまでに育っているのだが……。

 奇妙に思いながらも海中を眺めながら進んで行くと、水温が変わっていることに気が付いた。

 最初に潜った場所に比べて少し高い気がするな。これが原因なんだろうか?

 サンゴは環境の変化に敏感だと聞いたことがある。海草も見なれない物が多いし、ちょっと気になる場所だ。

 とは言っても、魚影は濃い。

 手ごろな大きさのブラドがたくさんいるから、ハリオやフルンネが見つからなければ、ブラドを突く事になりそうだ。

 

 200mも移動したとき、海底の溝にフルンネの姿が見えた。60cmは超えているな。

 銛を手に、ゴムを伸ばして柄を掴むとフルンネの真上にダイブする。

 ジッとして溝に体を隠すようにしているフルンネの頭の後ろに銛先を伸ばして、柄を持った手を緩める。

 1mも距離が無いから、銛はフルンネの頭の後ろに命中した。

 柄を抜くと、パラロープを引っ張って獲物を溝から出して海面を目指す。

 俺が潜ったのをサリーネ達は見ていたのだろう。カタマランの影が水面に見える。

 カタマランの後方から接近して、リーザが投げるロープに獲物をエラから口にロープを通して、片手を上げる。

 後は船の3人がロープを手繰って甲板に引き上げてくれる筈だ。


 再びゴムボートに体を預けて、銛先をセットする。

 少し面倒だが、これ位の手間は苦ではない。終わったところで、海底の様子を見ながら次の獲物を探す。

 

 3匹目を突いたところで、ふと気が付いた。

 婚礼の航海に出掛けてハリオを突いた時にフルンネも突いたが、岩礁を元気に泳ぎ回っていた。

 だけど、この海域のフルンネは海底の溝に身を潜めている。まるで何かから逃れるようにだ。

 たぶんその何かが、ガルナックという事なんだろう。

 ブラドは何時ものようにサンゴの奥に隠れているが、フルンネはサンゴが小さいから隠れることができずに海底の溝に身を潜めているって事になるんだろうな。

 となれば、この近くにガルナックがいてもおかしくはない。俺の身長を超える魚って想像も出来ないんだけど、サメでなければ何とかなるんじゃないか。

 先ずは、見つけないとどうしようもないけどな。

 獲物を探しながら、ガルナックの姿を探す。大きなハタならば回遊はしないで自分の縄張りを持ってるに違いない。

 

 更に、2匹のフルンネを突いたところで、今日の漁は終了となる。

 都合5匹は、獲物の大きさに比べると少ない気がするな。明日は、普通の銛も持って行こう。その方が手返しが早そうだ。


 船団を組んで島の西に戻って船を泊める。

 アンカーを下ろして、甲板に戻ると、サリーネ達は夕食の準備を始めている。

 船尾のベンチに腰を下ろしてパイプを楽しんでいると、ライズがココナッツを鉈で割って渡してくれた。


「今日は、残念にゃ。明日は、普通の銛を持って行くにゃ!」

「ああ、そうするよ。やはり銛先が外れると一々取り付けるのに時間が掛かるからね」

 

 俺の言葉に頷いてるところを見ると、他の2人もそう思っていたんだろうな。リーザなんか小屋の屋根に上って、双眼鏡で周囲の連中を偵察してたみたいだから、俺の漁と他の連中の漁に違いがあるのに早くから気が付いたんじゃないかな。

 獲物に応じて銛を変えるのは俺にも理解は出来るんだけど、狙いはガルナックだからな。それでも普通の銛があれば心強いのは確かだ。明日は銛を3本持って行くことになりそうだぞ。


 夕食を取りながら、明日の漁について話し合う。話題はガルナックのひそむ場所だ。

「……というわけで、明日は今日の場所から少し東に移動したい」

「そっちにはラスティさんの船があったにゃ。私らがこの辺りで、ここがラディオス兄さん。こっちがラスティさんで、この辺りをベルーシさんの船が行ったり来たりしてたにゃ」


 リーザは、ただ屋根の上で様子をうかがっていたわけでは無さそうだ。カタマランの位置と僚船の位置を周囲の島との位置関係でしっかり把握している。


「それでも、俺が潜っていた場所の溝は東に延びている。ラスティさんの船とは少し位置が違うから、確かめてみる価値はあるぞ」

「東は段々浅くなってるにゃ。それなら西を探すべきにゃ」


 海図にも大まかな水深が記載されている。それを見ると、ラスティさんのいた直ぐ先は大きくサンゴ礁が発達しているらしい。サリーネの言う西は確かに深くなっているな。水深が8m近くありそうだぞ。それに、そちらの方角で漁をしていた船は皆無だ。


「なるほどね。大きな魚って事だから、浅いところにはいないだろう。西を探してみるか……」

「それが良いにゃ」

 サリーネの言葉に他の2人も頷いている。

 明日こそは! だな。そんな思いを浮かべて4人でワインを飲む。酒器をカチンと互いの酒器と合わせて飲む。


 翌日。朝食を終えた俺達は昨日と同様にゆっくりと島を反時計周りに東に向かう。

 島が左手に見えたところで、サリーネは船団からゆっくりと南に離れて行く。昨日の溝を見付けて船足を止めた。

 船首に向かって行くと、ゴムボートを下ろして、短い銛を手に海に飛び込んだ。

 甲板の横からライズに銛を手渡してもらう。

 昨日と同じように、組紐のような糸をゴムボートのロープに輪に潜らせて銛先に結んだパラロープの紐をスナップで取り付けておく。

 ゴムボートに寝転ぶようにして乗り込むと、フィンを足に付けて水中眼鏡とシュノーケルを調整する。

 足にはナイフを取り付けてあるし、手にも手袋を付けた。

 先ずは、フルンネを突きながら様子をみよう。


 海中に入って、ゴムボートを押しながらカ海底の溝を探る。

 直ぐにフルンネを見付けたが昨日同様に、溝に挟まるようにして休んでいるようだ。

 フルンネの大きさも昨日とほとんど同じ、60cmに満たないものが多い。

 そんなフルンネを2匹突いたところでカタマランに戻って甲板から投げられたロープにエラを通して渡す。

 次の獲物を探しながら海底の溝を西にたどっていた時だ。

 少し溝の幅が広がった場所に盛り上がるように何かがうずくまっている。

 ゆっくりと近付いて姿を確かめると……、巨大なハタがジッと溝に潜んでいた。水深は10mには達していない。あれなら、リードルと同じに頭上から銛を打ちこめるんじゃないか?


 一旦、海面に浮上してゴムボートに乗せた銛と交換する。先端が打ちこんだ体内に残る、銛は大物突きには欠かせない得物だ。

 パラロープをほぐした紐は細いが丈夫だし、それに結ばれた組紐も他の氏族で大物用に使われているものらしい。

 後部がしっかりとゴムボートのロープを通していることを確認して、俺の様子を眺めているカタマランの3人に海を指差して、ガルネックがいることを教えてあげた。

 ちょっと驚いた様子だったが、手を振って俺を応援してくれているぞ。

 彼女達の期待に応えるためにも頑張らないとな。


 ゴムを最大限に引き延ばして柄を握ると、海底に向かってダイブした。

 力強くフィンで水をかいて、俺の速度を銛に乗せる。

 狙いはガルネックの首筋だ。頭は固そうだからな。通常のサイズなら刺さるかも知れないが、これだけデカイとな……、弾かれてしまいそうだ。


 ジッとして動かない相手だから、ギリギリまで銛先を魚体に近付けて左手を緩める。

 シュン! と手から伸びる銛が突き刺さると魚体が震えた。更に柄を握って力一杯銛を魚体の奥におくると、急いで海面に向かった。

 次の銛は返しの無い銛だ。ゴムを引いて、握り直すと呼吸を整えてダイブする。

 海底では、パラロープの紐を体に絡めてガルナックがもがいている。頭の後ろだから致命傷ではあるのだが、背骨には達していないらしい。

 それでも、1m近い大口を開けて周囲の岩に体を擦りつけるようにしてもがいているのは、銛とパラロープの紐を外そうとしているのだろうか?


 海底の溝を抜け出してもがいているから、ちょっと近づけないな。尾を叩き付けられたらいくら水中と言えどもただでは済みそうにない。

 それでも、ゆっくりと近付いて、エラ付近に銛を打ちこんだ。ビク! と魚体が震える。20cm近く銛が刺さっているのだが、動きにあまり変化がない。

 最初の銛の柄を回収しながら海面に浮上する。

 ゴムボートが揺れているのは下にいるガルナックがいまだに元気なせいなんだろう。2本の銛をゴムボートに乗せると、エラルドさんに貰った銛を掴んで海底にダイブした。


 かなり、動きが鈍くはなってる。魚体の周囲には銛の刺さった傷口から血が帯を引いている。そんな魚体を眺めながらゴムを引いて銛を握った。

 今度の狙いは頭部だ。上手く突き抜ければ絶命してくれるだろう。

 鈍くなっても、体に巻き付いた紐を引き千切ろうとしている。そんな動きでさらに紐が絡まり、魚体を締め付けているようだ。


 慎重に頭部を斜め上から狙いを付けて銛を打ちこんだ。

 ゴン! という音が聞こえ銛が弾かれる。やはり頭骨はかなりの強度だな。

 銛を引いて再びゴムを強く引いた。

 俺を敵と認識したらしく、大きな口を開いて盛んに威嚇してくる。

 俺に向かって大きく口を開いたその中に、銛先を突き込むようにして銛を斜め上に打ち込んだ。

 口を閉じてブル! っと体を震わせるとガルナックの動きが緩慢になっていく。銛先が脳まで達したのかも知れない。

 銛の柄を握ると海面を目指す。ところがいくらフィンで水をかいても、海面に達することができない。

 重量比で俺を上回っているって事なんだろうか? 一旦、銛を離して海面に浮上した。


 直ぐ近くまでカタマランが近付いている。

 ゴムボートが浮きになっているから、獲物が潮に流されることは無いはずだ。

 

「獲ったぞ! ロープを投げてくれ」

 俺の方をじっと見ていた3人に大声で頼むと、ロープを投げてくれた。

 ガルナックは海流に流されるように、海底の割れ目をから抜けて少し西に移動している。そのガルナックの口を開いて、ロープをエラから出してしっかりと結んだ。

口に差した銛を回収して海面に浮上すると、ゴムボートに銛を乗せてカタマランに向かった。



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